妖精さん達と暮らそう

 皆さんは、四大元素ってご存知でしょうか? 世界を構築する概念である、火・風・水・土、この四つを指して四大元素と言います。

 何でこんな事を言ってるのか? 何故なら存在するんですよ、ちゃんと四種類の妖精さんは。でもね、この妖精さん達は役に立ったり立たなかったりです。当然ながら見た目はとっても可愛いですよ。

 火の妖精さんなら炎がメラメラした様子、水の妖精さんなら流れる水を模した様子、それをデフォルメさせた姿をで、ふわふわと飛び回っています。とっても癒されます。
 癒しパワーは、ゆるキャラなんて目じゃないです。それに、四大元素と言われるだけあって、特化した能力を持つこの子達は、物凄く力が強いんです。

 例えば火の妖精さんです。火と言えば、熱く燃え盛るイメージをすると思います。実際に火の妖精さんは、ひたすら燃やす事に情熱を傾け、消す事なんか考えて居ません。一歩間違えれば放火魔確定です。ブタ箱入りです。

「ねぇ、ちょっと暑いよ。少し抑えてくれない?」

 そんな事を言った日には、燃やすジャンキーな火の妖精は多分グレますね。自棄を起こして、色々燃やし尽くしますよ。私が都内の大規模住宅火災を食い止めている、と言っても過言では無いと思います。

 そもそも、日常的に火を使う事って有ります? 私の自宅は賃貸アパートで、台所はIHだし、ストーブ禁止だし、お風呂はガスだし。火を使うのは、キャンプ場に行った時くらいです。まぁ、キャンプ自体を私はあんまり行かないですけど。誘ってくれる友達も居ませんし……。
 
 そ、れ、は兎も角! 部屋に一人居てくれるだけで暖かいので、冬は重宝します。ファンヒーター要らずです。
 そんな火の妖精さんの有効的な活躍方法は、他に知りません。誰か他に良い活躍方法が思いついたら、教えてください。是非! 是非!

 火の妖精さんと比べ、活躍度が高いのが水の妖精さんです。この子は凄いです。でも、ちょっとツンデレ気味です。

 皆さん、美味し水を飲みたくなりませんか? 何処だか産地が良く分からない水じゃ無くて、美味しい水を。水の妖精さんが出してくれる水は、と~っても美味しいです。

「何この水、すっごく美味しい!」

 そうやってゴクゴク飲んでると、普段は澄ましている表情が凄く柔らかくなります。それを見た私は嬉しくなって、水の妖精さんを抱きしめたくなります。そしてビチャビチャになります。だってこの妖精さんって水ですし……。

 水は生活のあらゆる場面で使用します。お風呂、おトイレ、洗濯、料理、これが全て水の妖精さんが、出してくれるとしたらどう思います?
 私が払ってる水道料金は、基本料だけですね。エコって言うよりも、へそくりが貯まります。

 一番助かるのは何と言っても、火の妖精さんを静かにさせてくれる事です。「今日は何だか燃やしたい気分!」なんて言ってる火の妖精さんのやる気を、ジュっと消してくれます。
 なので、だいたい何時も部屋の中で、鬼ごっこしてます。勿論、鬼は水の妖精さんです。やっぱりフンって顔しながら、火の妖精さんを追いかけます。

 まぁ何だかんだで二人共、楽しそうなので良いんですけど。見てるだけなら癒されますし。二人の妖精さんが鬼ごっこしてるおかげで、私の部屋は蒸気が充満し、冬でも乾燥しらずです。
 でも夏は困ります! 夏に鬼ごっこされると、部屋の中がサウナになるんですよ。湿気やカビ所の騒ぎじゃ有りませんよ!

 そんな時に活躍するのが、偉い子その二の風の妖精さんです。窓さえ開けておけば、蒸し暑い蒸気を外に出して、涼しい風を室内に入れてくれるんです。まさに天然エアコンです。きっとマイナスイオンとか、沢山出してるんじゃないでしょうか?

 風の妖精さんの活躍は、その位かな? でも、部屋の温度管理に大活躍な風の妖精さんのおかげで、電気代は大幅な節約になっています。ありがとう、風の妖精さん。

「あんたの部屋って、何時来ても快適よね」
「そうでしょ?」
「エアコンが無いのに不思議よね」
「そ、そうでしょ……」

 ほら、裕子ちゃんのお墨付きです。

 後一人足り無くないって? わかってますよ。土の妖精さんでしょ! 土の妖精さんは、私の自宅内には居ません。むしろ、出禁です。

 当たり前かもしれませんけど、土の妖精は土の中に居るのが幸せみたいです。休みの日に近所の広場に行くと、ヒョコっと土の中から顔を出します。何かするって程では無いんですけど、一緒に遊びます。
 
 そう言えば、この間作った泥団子は宝石みたいに光ってました。裕子ちゃんに見せたら、「良い歳して馬鹿なの?」と言われました。

「そんな事を平気で言うから、裕子ちゃんの所に妖精さんが現れないんだよ」
 
 そんなこんなの四大元素の妖精さん達です。何だよ便利じゃん、文句言うなよって? 甘いですね! 妖精さん達に言う事を聞いて貰うのは、苦労するんですよ。

 絶対に放置をし過ぎてはいけません!

 放置し続けると、火の妖精さんは自棄を起こすし、水の妖精さんはデレが無くなってツンのみになるし、風の妖精さんは気ままに何処か行くし。土の妖精さんだって、二週間程遊びに行かなかったら、広場を全部砂場に変えてましたよ。

 単体で暴れ出したら、大火事に大洪水等。それを人は災害と呼ぶんです。もしタッグを組んで暴れ出したら、アワワ……。そんなの、人間に制御出来る訳が有りません。

 適度に構って、適度に放置。この加減が難しいとだけ言っておきましょう。
 今年も私は正月に帰省しました。千歳空港を出て一番最初にお迎えしてくれたのは、雪の妖精さんでした。東京では滅多に会う事が出来ない雪の妖精さんとの再会に、私の口元は思わず綻びます。

「久しぶりね。元気にしてた」

 声をかけると、雪の妖精さんは嬉しそうに、私の周りをクルクルと飛び回ります。優しく撫でると、雪の妖精さんは嬉しそうに破顔します。

「その笑顔、プライスレス!」
 
 まあ、叫びたくもなりますよ。この可愛い笑顔を見せてあげたい位です。
 私の実家が有る街は太平洋岸に面し、日本海や内陸部と比べ積雪量は少なめです。その代わりに氷都と呼ばれ、スケートが盛んです。二月初旬に行われる祭りで提供される、しばれ焼きは絶品です。絶対お勧めします。是非一度食べてみて下さい。

 ちなみにしばれ焼きとは、冬の寒い屋外でドラム缶を利用して作る、ジンギスカン料理です。痛い程に肌を突き刺す寒さの屋外で食べるジンギスカンは、身も心も温めてくれます。羊の肉が嫌いって人でも、その美味しさに頬を緩めるでしょう。
 冬期限定なので、知られざる故郷のB級グルメ。しかし、どのB級グルメにも引けを取らない、名物料理です。
 
 さて、今回の帰省で新たにお友達が増えました。雪の妖精さんと、とっても仲良しの妖精さん。なんんと氷の妖精さんです。

 なんて事も無い妖精さんだとお思いでしょう。まぁ凍らせる事が生きがいの妖精さんですし、その通りかもしれませんけど。氷の妖精さんの特筆すべき所は、なんと言ってもその体です。クリスタルの様な体はとても美しく、光が当たるとキラキラと輝きます。芸術品の様な妖精さんです。
 
 氷の妖精さんを始めて見た時は、寒さも忘れて暫く見入ってしまいました。じっと見てる私の顔を氷の妖精さんが覗き込んだ時に、ふと我に返りました。
 私が撫でると、氷の妖精さんは嬉しそうにゆらゆらと揺れます。氷の妖精さんは、とても冷たいけれどスベスベでした。

 当然二人の妖精さんと遊びました。

 内地と違い実家の辺りでは、極太のつららが出来ます。子供の腕より太いつららは、自重に耐えきれず偶に降ってきます。なので軒下に居ると意外と危険なのです。
 
 その日は、落ちているつららを使って、氷の妖精さんがミニサイズの氷像を作ってくれました。氷の妖精さんは芸術的感性が高い様です。
 色々な動物の氷像が次々と並べられて行きます。負けじと、雪の妖精さんが雪像を量産して行きます。実家近くの公園は、ミニ雪まつり会場になりました。
 
 私もちゃんと作りました。でも、私ではせいぜい雪ウサギが精一杯で、しょげていると氷の妖精さんが頭を撫でて慰めてくれました。可愛いですねこの子。連れて帰りたい!

 妖精さん達と遊びまくった翌朝、もう一度公園に行くと人だかりが出来ていました。そりゃそうですよ。いきなり近所の公園がミニ雪まつり会場になっていればね。
 
 近所の人達が、驚きと歓声を上げます。子供達はホッケーもせずに、キャーキャーと奇声を上げてました。案外私の雪ウサギも子供達に人気があったみたいです。
 私が作った物が「可愛い~」って言われれば、嬉しくなりますね。ちゃんとスマホで写真を撮ったので、裕子ちゃん達に見せびらかせてあげよう。

「あなた達が作ったのが、大人気みたいだよ」

 私が声をかけると、妖精さん達が嬉しそうにはしゃぎ始めます。

「その位にして、他の広場にも行ってみない?」

 はしゃぎ過ぎて大雪になっても困るので、少し宥めて別の広場に行きます。私は妖精さん達と、氷像や雪像を作って遊びます。実は帰省中に三か所の公園を、ミニ雪まつり会場にしました。

「相変わらずせわしない子だべ。正月くらい家でゆっくりすれば良いっしょ」
 
 母に小言を言われましたけど、きっと仕方ない事なんです。妖精さん達と遊んでいるのは、とっても楽しいんですから。お子様だって? 余計なお世話ですよ!

 東京に戻った後で知ったんですが、私と妖精さん達がやらかした出来事が、地元ニュースに取り上げられたみたいです。

「あんたっしょ!」
「幸子ちゃん、なした?」
「はんかくさ、ニュースっしょ。したっけ、あんなん作んのはあんたしか居ないしょ」

 高校の友人から電話がかかって来た時は驚きました。ミニ雪まつり会場にした三か所の公園は、連日大賑わいで屋台も出たとか。幸子ちゃん、TV局に私の事をリークしないでね。お願いだよ!

 そんなこんなで忙しなく過ぎた私の帰省です。そして自宅のドアを開けると、沢山の妖精さん達がお出迎えしてくれました。
 わぁ~と一斉に私に群がって来る妖精さん達を見ると、家に帰って来たという安心感が溢れて来ます。

「ただいま」

 その一言だけで、妖精さん達はニコニコの笑顔で集まってくれます。私は幸せ者です。
 ただ、一つ予想外だったのが着いて来てしまった事です。何がって、氷の妖精さんがですよ。びっくりしましたよ。実際事件が起こりました。

 うっかり火の妖精さんが近寄って、氷の妖精さんが溶けかけたんです。私は氷の妖精さんを慌てて冷凍庫に放り込みました。
 現在、氷の妖精さんは冷凍庫で暮らしています。こっそり冷凍庫を開けると、氷の妖精さんはダンスをしています。
 相変わらず、クリスタルの様な美しい体をキラキラさせています。その様子を眺める事が、私の楽しみの一つになりました。
 私は週に一度位のペースで、アルバイトをしています。お金に困ってるとか、欲しい物が有るって訳では無いんです。私の目標は『出来る女』そして『幸せな結婚』ですから。今の内に、職場体験っぽい事をしても良いかな位に、考えたわけですよハハハ。

 因みにお勉強の妖精さんにスパルタされて合格した国家試験は、宅地建物取引主任者、行政書士、税理士の三つです。難易度高いのが混じって無いかって? そうですよ。苦労したんです。寝不足まっしぐらだったんですよ。

 税理士試験は、会計学二科目と、法人税法、消費税法、所得税法の税法三科目に挑戦しました。それを全て一発合格って凄くないですか? まぁ本当に凄いのは、出来の悪い私を指導してくれた、お勉強の妖精さんなんですけどね。

 せっかく超難関試験をクリアしたんだから、やってみよう職場体験! って事で、運良く応募していた、自宅近くの税理士事務所で面接、即採用に至りました。やったね。

 順風満帆じゃないですか。とうとう私の時代が来たかと思いました。はい、調子に乗るのはここまでです。知ってます。人生そんな甘くないって。でも良いじゃないですか、夢くらい見たって。
 
 税理士ってなんかカッコイイねとか、収入良さげだねとか、私だってその位は考えますよ。「御社はここを注意した方が良いですよ」なんて、さらっと言っちゃたりして。『これぞ出来る女!』でも、実際にはと~っても地味でした。

 ファイリング等の雑用から始まり、先輩職員の補助をして、空いた時間にパソコンへ向かって伝票入力の日々です。
 
「先輩職員が合格出来て無い税理士試験を、五科目私は合格してるんだぞ! もっと内容の濃い仕事よカモーン!」

 そんな愚痴を言っても仕方ありません。だって、仕事未経験の人間、それに週一のアルバイトに任せる仕事なんて、たかが知れてます。なので黙々と言われた事をこなしつつ、先輩職員の仕事ぶりを拝見させてもらいます。

 税理士事務所のお仕事は、ざっくり言うと申告のお手伝いと税務相談です。申告するには申告書を作らなければいけません。その為に、企業が一年間どの様な経営を行ってきたかを、まとめる必要が有るんです。それが年度決算、四半期決算、月次決算と言われる物です。

 企業によっては、税理士事務所へ全て丸投げする所もあれば、全て自社で決算を行い、申告書のチェックだけお願いする企業も有り、依頼形態は様々です。ですが、申告のお手伝いという所に変わりは有りません。

 多分誰でも慣れれば、基礎的な簿記の知識で、決算に関連した作業は出来るでしょう。大切なのは正確である事です。その為に、税務のスペシャリストで有る、税理士が居るのです。

 当然ながら、税計算は法律に基づいて計算が行われます。会計処理も会計基準と呼ばれる物が存在します。税法を逸脱した処理を行えば、税務調査が入った時に追徴課税をされるでしょう。しかも、税理士事務所が確認した申告にミスが有ったら、目も当てられません。実にシビアな仕事です。

 アルバイトを始めて気が付いたのは、仕事って楽じゃないって事です。知識だけでは分からない。実際に体験して始めて気が付いたシビアな現実です。「内容の濃い仕事カモーン」と調子に乗っていた私を、叱りつけたい気分になります。

 私は自分を要領が良いタイプと思った事は、一度も有りません。頭の回転も良くないです。そんな私が国立大学に通い、税理士試験に合格したのは、何度も言いますがお勉強の妖精さんのおかげなんです。

 そしてここでも、登場しました。じゃん! お仕事の妖精さん。
 ただ、スーツ姿なのは『お仕事』だからなんでしょうか? 私のバイトが税理士事務所じゃなかったら、作業着だったりしたんでしょうか? でも、恰好なんて二の次って位に助けてくれる妖精さんでした。

「この資料、あのファイルに入れといて」

 先輩職員のぶっきら棒な指示に、「えっ! どのファイル?」とまごつく私に、お仕事の妖精さんは、ひらひらと飛んでファイルの所の場所を教えてくれます。
 パソコンに入力していると「この仕訳間違ってるよ」と優しく教えてくれます。他にも仕事の段取りやら何やら、色々と教えてくれます。社会経験の無い私にとって、とても有難い存在です。
 
 お仕事の妖精さんって位だから、仕事を代わりにしてくれないのかって? 甘々ですね。お砂糖盛り沢山です。この妖精さん、リアルに干渉する力は持ってません。

「あなたは、入力とか出来るの?」

 そう言うと、お仕事の妖精さんは小さい体をぴょんぴょん動かして、キーボードーを打ってくれました。キーボードの上でダンスをしているみたいで可愛かったです。
 でもね、実際には記録に残りませんでした。不思議ですね。でも良いんです。丁寧に仕事を教えてくれますし、右も左もわからない私には貴重な存在なんです。

 そんなお仕事の妖精さんは、アルバイトに向かう私に必ず着いて来てくれます。
 
「今日もよろしくね」

 お仕事の妖精さんを撫でると、笑顔でかっこよくポーズを決めてくれます。その笑顔だけで、やる気がムクムク湧いてきます。

 仕事に慣れ始めた頃です。ある先輩職員に言われました。

「君、凄いね。仕事は早いし正確だし。流石その年で税理試験に合格しただけ有るね」
「いや、まだまだ勉強させて頂いてます、ハハハ」

 褒められたのは嬉しいけど。言えない、全て妖精さんアドバイスですとは。
 税理士の先生からは、勧誘されました事もあります。

「君、大学卒業したら、うち来ない?」
「け、検討させて頂きます」

 先生に答えた時の私は、引き攣った笑顔だったと思います。だって税理士になって開業しても、私が新規顧客開拓を出来る筈が無いでしょ。そんな事を裕子ちゃんに相談したら、あっさりと流されました。

「あんた、ノリだけで生きてるよね。もう少し深く将来の事を考えなよ」
「美味しい物を食べる為に生きている様な、裕子ちゃんに言われたくないよ」
「馬鹿ね。私は美味しい物食べる為に、お金を稼ぐのよ。目的がはっきりしてるでしょ。あんたは、お嫁さんとかフワフワした事考えて無いで、具体的にどうするのか考えた方が良いのよ」
「やってるじゃない。国家試験も受かったし、バイトもしてるし」
「でも、税理士になるつもりは無いんでしょ?」

 私は返す言葉が有りませんでした。くそぅと思っている私に、お仕事の妖精さんが頬擦りしてくれます。

 そう。私にはこの子が居るんです。どんな仕事も、この子が居ればへっちゃらよ!

「これからも、相談に乗ってね」

 私がお仕事の妖精さんを撫でると、キラキラ笑顔でサムズアップしてくれました。

「仕事が出来ても、結婚は出来ないんだからね」

 裕子ちゃんに止めを刺されて、私は崩れ落ちます。何処かに恋愛の妖精さんは居ないでしょうか?
 私の知る妖精さんは、不可思議な力を使う子と、そうで無い子に分かれます。お料理やお掃除の妖精さんは、物理的な力でお料理やお掃除をします。お勉強やお仕事の妖精さんは、知識を教えてくれる存在です。
 妖精と言う存在自体がファンタジーな癖に、謎の力は使いません。ファンタジーなのは、その知識は何処からって所や、小さい体で大きな物を持ち上げる所です。
 逆に自然にまつわる、四大元素や雪、氷の妖精さんは、ファンタジー要素たっぷりです。まぁ自然なんて物を操る位ですから、謎パワーですよね。

 そんな謎パワーを使う妖精さんは、自然にまつわる妖精さんだけでは有りません。私はその子を予防医療の妖精さんと呼んでいます。
 
 予防医療の妖精さんは、別段治療をしてくれる訳では有りません。では何をしてくれるのか? 人の目に見えないウィルスや菌、特に人に有害な雑菌等を好んで食べている様です。
 曖昧な言い方ですか? 勘弁して下さい。謎パワーを使う妖精さんの実態が、私に解る筈無いんです。
 
「そう言えば最近、風邪ひかない様になったな」

 ふと、そう思った時の事でした。私の周りをフワフワ飛んでいる、見知らぬ妖精さんに気が付きました。白衣を着たその子は私の肩に乗っかって、口をモグモグとさせて飛んでいます。

「あなた、何してるの? 何か食べてるの?」

 私がその子に尋ねると、風邪のウィルスを食べていると教えてくれました。

「美味しいの?」

 もう一度尋ねると、とても良い笑顔で頷きました。どうやら、私が風邪を引きにくくなったのは、私の周囲に飛んでいる風邪ウィルスを、この子が食べつくしたかららしいです。
 この子曰く、風邪よりもインフルエンザウィルスの方が美味しいとか。私にとっては、どうでも良い情報ですけど。

 気になった私は伝手を頼り、細菌を研究している研究室で少々実験をしました。おっと、今へんな事考えませんでした? 失礼ですね! 私の友達は裕子ちゃんだけじゃ無いですよ。

 ゴホン。話しが逸れました。
 行ったのは、単純な実験です。アオカビを培養させたシャーレを見せたら、この子は興味を引くのか? そして実験にはなんと立ち会いが付きました。実験に立ち会ったのは、研究室を紹介してくれた私の友人と、一人の教授です。
 
 妖精さんは、目をキラキラさせながら二人を見ています。これから何が始まるかわかっているのでしょうか? 面倒事にならなきゃ良いけど……。そう思う私とは裏腹に、この子は凄い勢いでシャーレ内のカビを、食べつくしました。
 みるみるとシャーレから消えていくカビを見て、見ていた友人と教授が唖然としてました。私も青くなりました。そして直ぐに逃げました、当然です。
 医療大革命が起きる可能性が有るんですよ。五分と立たず捕まりましたけどね。ぐすん。

「何が起きたのか説明したまえ!」

 教授は興奮しています。友人も目を爛々と輝かせてます。私は後悔しました。実験するなら、家でこっそりすれば良かった。時すでに遅く、私は後ろ手に拘束されてます。何もここ迄しなくても……。

「絶対に秘密でお願いします。そもそも信じないと思いますよ」

 そして、私は妖精さんの事を説明しました。ですが、一笑に付されまし。それが自然な反応何でしょうけどね。

「本当の事なんです!」

 私は強く主張しますが、今度は激しい怒りが待ってました。良く顔を真っ赤にとか、筋を浮かべて等と言いますが、あの怒りの形相は赤鬼も真っ青ですね。

「まぁまぁ教授。実験の続きをすれば何かわかるんじゃないですか?」
「ふん、それもそうだ。続きをするぞ! 直ぐにだ! 急ぎたまえ!」

 興奮が収まらない教授を友人が宥めて、実験が続けられます。でもね、数時間で教授の興味は覚めたようです。恐らく妖精さんという見えない生命体の力に、利用価値は無いと考えたのでしょう。

「何というか、ダメだな」
「そうですね。これは期待外れですね」

 この子は人体に有害なカビ菌は食べますが、アオカビや酵母等の菌は食べませんでした。それと空中に浮遊しているウィルスは食べますが、一度体内に入ったウィルスは食べませんでした。
 これをうまく説明出来るかわからないですけど、『風邪等の病気を予防できる』が『風邪を治してくれるわけでは無い』って感じだと思います、はい。

 教授の興味も無くなるのは、仕方ないですね。友人にも冷たい視線を浴びせられました。
 
「期待させやがって、けっ!」

 なんと言う酷い罵声! 私が悪いんじゃ無いのに……。

 多分ですけど、この子の食べるか否かは、食べ易さでは無いかと思います。空中に浮遊しているウィルスは食べるけど、わざわざ人体の中に入ってまで食べたくない。
 食品の表面についたアオカビはほじって食べるけど、発酵食品の中にいる発酵菌を食べるのは面倒とか?

「当たりでしょ?」

 私が尋ねると、この子はクルリと回って、良い笑顔で頷きました。それだけじゃ無くて、人体に無害な菌は美味しくないけど、有害な菌はこの子にとって美味だそうです。

 微妙に役立たず? 妖精さんは、常に自分が楽しいと思う事に精一杯なんです。だから嫌な事や面倒な事は極力避けます。

「そうだ! あなたの名前は、予防医療の妖精さんね!」

 せっかくだから、かっこいい名前をプレゼントしてあげます。私の周りを飛び回るので、喜んでくれたのだと思います。
 そして予防医療の妖精さんは、今日も私の周りをフワフワと飛んでいます。口をモグモグと動かしながら。
「妖精って色々な種類が居るんでしょ? 癒しの妖精って居ないの?」

 ある時、裕子ちゃんに尋ねられました。浅はかですね、裕子ちゃん。全ての妖精さんが癒し効果を持っているんです。そうなんです。でも、癒し効果ナンバーワンの妖精さんを敢えて上げるとすれば、音楽の妖精さんでしょうね。
 
 音楽が趣味って方は多いと思います。私個人としては、大好きって程では有りません。なのに何故、私の前に現れたのでしょう?

 試験勉強で徹夜が続いて、些か不眠症気味になっていた私は、電気を消しても目を瞑っても眠気が訪れずにいました。
 その時、何処からかギターの音が聴こえて来ました。クラシックギター独特のナイロン弦から奏でられた音は、優しく私の耳に響きます。ふと音のする方向を見ると居ました、妖精さんがちっちゃいギターを抱えていたんです。

 私はギターの柔らかい音色に意識を失い、気が付いた時には朝でした。いや~、ぐっすりでした。目覚めもスッキリ!

 それから暫くの間、寝る頃に現れてギターを弾いて、私を眠らせてくれました。アルファー波でも出してるんでしょうか? しっかりと眠る事が出来ると、一日の活力が違います。「睡眠って大事だね」と実感させられました。

 ただね、ギターを弾き始めるといつも寝てしまう私に、不満でも有ったのでしょうか? 寝る前以外でも現れる様になりました。しかも集団でですよ!

 ピアノから始まり、バイオリン等の弦楽器、トランペット等の管楽器、ちゃんと打楽器も。小さい楽器を抱えた妖精さん達の集団です、フルオーケストラです。

 楽器が小さいからってバカにしてはいけません。この感動をどう伝えれば良いでしょう。コンサートホールで一流オーケストラの演奏を聴いた時にこそ、こんな感動を味わえるんでしょう。多分そんな感じです。

 安い木造ワンルームで、大音量の演奏を流したらどうなるって? 普通なら近所迷惑満載ですよね。でも、ご心配無用です。
 音楽の妖精さんも謎パワー満載でした。音楽の妖精さんが奏でた音は、どうやら私以外には聴こえないようです。実は裕子ちゃんで実験しました。

 演奏する音楽は、クラシックに限りません。ロック、ジャズ、ブルース、何れも名曲の数々を再現してくれます。ヒップホップまでやってくれた時は驚きました、この子達って何でも有りかってね。

 そもそもエレキギターの音って、何処から聴こえて来るのよって思いません? そして、私は考えました。『この子達はTVの音を、映画館並みの大迫力にしてくれるのでは無いか』と。『何十万もする音響システムを揃えなくても、この子達なら可能じゃ無いか』と。
 
 欲をかいた私が馬鹿でした。
 音楽の妖精さんは、TVの音を映画の迫力にはしてくれませんでした。何と言うか、デジタル、アナログ等音質に関係無く、作られた音を変化させる事は出来ない様です。裕子ちゃんの家に有るミニアンプでも試しましたが、結果は同じです。

 要するに音楽の妖精さんは、音を操る妖精さんじゃ無く、音楽を奏でる妖精さんという事です。
 まぁでもね。この子達が奏でる音楽は、すっごく癒されるんですよ。有名な曲を再現してくれますが、この子達のオリジナル曲は特に最高です。
 
 この子達のおかげで分かった事ですが、音楽はその場所、時間、雰囲気によって合った曲が変わります。例えば朝は元気が出る曲、寝る前は静かな曲みたいに。
 この子達は、的確に雰囲気に合った曲を奏でてくれます。ただでさえ美味しい、お料理の妖精さんが作った料理が、更に美味しく感じるんです。私の部屋が一瞬にして高級料理店に。いや、王室御用達に! って、私は何を言ってるんでしょう。
 勉強も捗ります。この子達の奏でる音を聴いていると、自然と集中出来るんです。助かります。

 音楽の妖精さんは、自分達の演奏を聴いてくれる時が一番嬉しそうにしてます。聴いたら直ぐに寝てしまう子守歌系は、演奏してくれる回数が減りました。
 お願いすれば子守歌系も演奏してくれるんですが、「だって直ぐ寝るんでしょ」と目で訴えられると頼み辛いです。

 前にバイトで疲れて帰って来た日、この子達の演奏を聴きながら寝てしまった時は、演奏を止めたこの子達にユサユサ揺さぶられて起こされました。ちゃんと聴いて欲しい時は、起こしてでも聴かせる。流石、プロ根性ですね。

 音楽聴き放題アプリも顔負けな、ありとあらゆる名曲を再現してくれる、音楽の妖精さん達。それは流行の音楽も同様です。「今年のヒット曲なんだよ、知らないの?」って顔されると、ちょっと悔しいです。
 
「悪かったわね。疎くてさ!」

 私が拗ねると、音楽を奏でてご機嫌を取ろうとする所は、カッコよさを感じてしまいます。

「あなた達どこでこの曲覚えたの?」

 私が訪ねても、笑顔で笑って誤魔化されます。教えてくれても良いと思うんですけど。
 今度この子達の一日を観察してみようかしら。でも、この子達って私が傍に居る時は、大抵演奏してるんだよね。謎の多い妖精さんです。
 
 そして今朝は、音楽の妖精さん達に起こされました。
 五月蠅い目覚まし時計のベルでは無く、爽やかな目覚めの音楽です。おかげで爽やかな朝を迎えられました。私は幸せ者です。
 今まで何種類かの妖精さん達を紹介しました。この子達が普段どうやって過ごしているか、気になりませんか? すっごく気になる? 仕方ありませんね。お教えしましょう。

 先ず、雪の妖精さん。
 この子は、雪が降らないと会う事は出来ません。たまに、東京でも雪が降る時は有るでしょ?そんな時に外に出ると、玄関の外で私を出待ちしてます。ヒューっと飛んできて、私にピトって張り付きます。可愛いでしょ?

 勿論用事がある時は一緒に遊ぶ事は出来ませんけど、道中は一緒にいます。とは言え、電車やバスの中には入って来ません。溶けてしまうんでしょうね。
 それと言わずもがな。往来で妖精さんとお話する時は、念みたいな感じで会話します。そうじゃないと、一人でぶつくさ独り言呟いているみたいで、変な子じゃないですか。
 流石に私も、その位わかる様に成長したんですよ。えぇ。子供の頃とは違います。

 次にお掃除の妖精さん。
 この子達は、言うまでも無いかもしれませんが、ず~と掃除をしています。二十四時間、年中無休。ブラック企業も泣いて逃げ出す仕事量じゃないかと思います。
 別に私が強制している訳では無いですよ。酷い想像は止めて下さい。

 この子達って疲れないのかしら。ふと思った私は、お掃除の妖精さん達を観察した事が有ります。
 どうやら、この子達には役割分担らしき物が有るみたいです。埃落とし班、床履き班、お風呂班、トイレ班みたいに。
 たまに自分の役割を終えて、横になって寝息を立てているお掃除の妖精さんを見かけます。ゆっくり休む事も必要です。人も妖精さんもね。でもね、『自分から休む』のと『人に言われて休む』のじゃ、全く違う反応をするんです。

「あなた達、たまにはお休みしたら?」

 面と向かってそんな事言ったら、涙をぽろぽろ零して思いっきり泣かれました。返ってすごい罪悪感です。だから仕方なく放置です。好きなだけ掃除して、好きな時に休めば良いんだわ。

 因みにお掃除の妖精さんは、掃除機の様な電化製品は使いません。使うのは箒とか雑巾とかです。なので私が用意したのは、ミニサイズの『コンパクト箒セット!』です。
 ホームセンターでせがまれて五つ程買いました。卓上用らしいのですが、手のひらサイズの妖精さんは、これで充分みたいです。

 それとミニサイズの雑巾を手縫いしました。サイズは十センチ角で作りました。三十個近く作りましたよ。お掃除の妖精さん達に感謝を込めて。手渡しした時に、ニッコリと微笑む嬉しそうな表情は忘れられません。

 お掃除の妖精さんは、私が居ない時に洗浄液を作り、せっせと掃除をします。夜中もお掃除をします。私はもう慣れましたけど。夜中にごそごそ音がしたら、お掃除の妖精さん達だなと思う様になりましたから。

 因みに定番ことGさん! 黒光りする悍ましいあいつは、お掃除の妖精さん達が退治してくれます。でも、退治したGさんをゴミ箱にそのまま捨てるのは、やめて欲しいです。開けた時にびっくりします。

 さて、次はお料理の妖精さんです。
 お料理して無い時には、何してんの? それは、私も不思議に思いました。

 どうやらこの子達は、有名洋食店や和食料理店等に赴き、レシピの研究をしてるみたいです。それ以外にも、魚河岸や農家に行って素材の目利き訓練をしている様です。TVの料理番組を熱心に見ている子もいます。
 一日の終わりには、皆で集まって情報共有している様です。勉強熱心と言うより、プロフェッショナルとはかくあるべきと、教えられている様です。

 道具の手入れも手を抜きません。上京の際に両親に持たされた道具を、綺麗に磨き上げます。特に包丁は念入りに砥ぎます。
 
「ごめんね。今度もっと凄い包丁を買ってあげるよ」

 私の言葉に、この子達は首を横に振ります。どうやら、両親が買ってくれた包丁に愛着が有る様です。なんか嬉しいですね。

 この子達は、創作料理にも余念が有りません。熱い料理バトルでも繰り広げられているのでしょうか? 複数の子が、バチバチと火花を散らせながら視線をぶつけ合い、出来上がった料理を持ってくる事が有ります。
 味見役が私で良いんでしょうか。私の微妙な表情を読み取って、勝敗が決まる様です。凄いですね。料理の腕を競い合って高めているんですよ。この熱いノリは見習いたくはありませんけどね。

 次はお勉強の妖精さん。
 この子はひたすら読書かネット検索をしています。
 
「あのね。勝手に図書館に行ったら駄目よ。読みたい本は私が借りてきてあげる」

 私はこの子に、言い聞かせた事が有ります。当たり前じゃないですか。『夜中にフワフワ浮かぶ本』それって何の都市伝説ですか!
 
 そのおかげで私はこの子を連れて、毎週図書館巡りをさせられる羽目になりました。難しい専門書から雑学本まで、借りるジャンルは問わない様です。但し、借りた本は何度も徹底的に読み返します。
 検討も怠りません。古い情報と新しい情報を選り分けて、考察を繰り返している様です。
 
 ネットの情報も同様に、ちゃんと選別している様です。
 ネットにはあらゆる情報が転がってますから、情報の新旧だけでは無く、正誤も含めて検討し情報収集する姿は、頭が下がる思いです。

 さて、そろそろ四大元素の妖精さんの日常です。この子達は、フリーダムです。

 火の妖精さんと水の妖精さんは、大抵鬼ごっこしてます。実はこの子達、結構仲良しさんです。遠目で見ているとラブラブカップルの様にも見えます。
 お風呂にお湯を溜める時は、タッグを組みます。お料理の妖精さんのお手伝いをする時も有ります。
 
 風の妖精さんは家中を飛び回ったり、日向でお昼寝したり自由気ままです。
 私が居ない時は、外にお出かけする事も有るみたいです。一見自由に見えて、一番空気の読める妖精さんです。だから、火と水の妖精さんがヒートアップして、湿気が溜まりかけると、さり気なく湿気を外に逃がしてくれます。

 なかなか会いに行けない土の妖精さんは、この間すっかりやさぐれてました。なので、ホームセンターで大きめのプランターと土を買ってきて、その中に埋めときました。プランターは、取りあえずベランダに放置です。
 私だって忙しい時は有るんですよ。公園に遊びに行く暇がない位に時間が無い時もね。ベランダに居てくれれば、毎日顔を合わせますから、それで笑顔になってくれるなら、良いんじゃないですか?

 次は氷の妖精さんの出番です。
 この子は、常に冷凍庫の中に居ます。冷凍庫の中で踊ってます。たまに寝てます。寝てる姿も可愛いです。
 
「氷作って、お願い」

 そうお願いすると、デフォルメキャラの氷を作ってくれます。飲み物に入れるのが勿体ない出来栄えです。氷を作るしか出来ない妖精さんですけど、良いんです。だって可愛いんだもん。

 さあ、今度はお仕事の妖精さん。
 この子が普段何をしているのか。私自身が一番疑問な妖精さんです。だって、私がアルバイトで困った時にポンと現れる妖精さんですよ。

 この子は、色々な企業や仕事の現場に行って、あらゆる分野のノウハウを研究しているそうです。
 凄いと思いません? この子が居れば、人生勝ち組間違いなしですよ。そうは言っても、そのノウハウを私が活かせなければ、意味は有りませんけど。

 予防医療の妖精さんは、敢えて言わなくても良いかな。
 だって、大抵私の周りを飛んで、お口をモグモグさせてるんですから。それこそ不思議要素満載ですが、この子はこれで良いんです。おかげで、私も風邪をひかなくなった訳ですし。

 音楽の妖精さんは、お料理の妖精さんに近い日常を送ってる様です。
 CDショップやら、コンサートやら、ライブやら、録音スタジオやら、世界各地を飛び回り、あらゆるジャンルの音楽を吸収して帰って来ます。
 帰って来たら練習をするようです。練習は私の居ない時にこっそりとしている様です。それで、私の前でいざ本番らしいです。

 健気ですね。でも、演奏を聴いてくれるのが、嬉しいんでしょうね。演奏にはなるべく拍手で答える様にしてます。その時の笑顔は、やりきったと言うか満足と言うか、とてもいい笑顔をしてくれます。
 
 これが、今まで紹介した妖精さん達の日常です。
 大抵引き籠っているのが、お掃除、お勉強、火、水、氷の妖精さん。ほとんど外出してるのが、お料理、お仕事、土、音楽の妖精さん。雪の妖精さんは期間限定なので置いといて、フリーダムな風の妖精さんの行動はいまいち掴めません。予防医療の妖精さんも謎行動が多いですね。

 それぞれの妖精さんは、他の妖精さんの邪魔はしません。追いかけっこする火と水の妖精さんは、お勉強の妖精さんの読書を邪魔しません。お勉強の妖精さんは、お掃除の妖精さんの邪魔にならない様に読書します。
 ちゃんと、家の中でも住み分けが出来ていますし、協力もし合います。

 賢く可愛い妖精さん達。わいわい賑やかな妖精さん達との暮らし、いつかあなたも体験出来るといいですね。
 私が住むアパートはペット可です。そうは言っても、今までペットを飼った事は有りませんけど。
 一度は飼ってみたいなとは思いますよ。だけど、命を預かるにはそれなりの覚悟みたいなのが必要なんです。もっとも、家には人には見えないファンタジー生物が、所狭しと走り回ってますけどね。

「あんたさぁ、犬と猫ならどっちが好き?」
「私は、犬より猫の方が好きかな」
「そっか、良かった。じゃあ、明日あんたのアパートに行くね!」

 ある日突然、大学で裕子ちゃんに呼び止められました。そして、さっぱりわからない質問をされて、去っていきました。そして翌日、裕子ちゃんから襲撃を喰らいました。ええ、あれは襲撃ですよ。

 変なキャリーバックを持ってる時に気が付けば良かったんです。そして、鍵をかけて居留守を使えば良かったんです。
 裕子ちゃんったら、勝手知ったる私の自宅を、わが物顔でずかずかと上がってきます。そして、ドカッとキャリーバックを下ろします。
 中に何が入っているのか、覗き込もうとした時に可愛い鳴き声がしました。子猫が三匹居ました。

「きゃ~、かわい~い。何この子達、可愛いね~」
「そうでしょ~。どう?」
「どうって、何が?」
「この子達よ?」
「だから、何が?」
「感の悪い子ね。引き取ってって言ってんの!」
「はぁ?」
「だってあんた、猫が好きって言ってたじゃない!」
「うん、まぁね」
「それと、このアパートはペット可でしょ? お隣さん、犬飼ってるみたいだし」
「うん、確かにね」
「じゃあ、決まりだね。どの子にする? 三匹引き取ってくれても良いよ!」

 決まりの意味がわからないです。そもそも裕子ちゃんは、何処から子猫を三匹も連れて来たんでしょう?

「私だって大学とか、バイトとか色々忙しいんだよ。子猫の世話なんて出来る訳ないっしょ!」
「あんたの家、色々変なのが居るんでしょ? そいつらに世話させれば良いじゃない! 早く選んでよ。どの子? 全員?」

 なんて強引なんでしょう。だから妖精さんは裕子ちゃんに近付かないんだよ。

 でも、「世話って言われてもどうしよう」なんて思いながら子猫達を見ると、何やら視線を彷徨わせてます。何を目で追っているのでしょうか? 私が視線の先を見ると、そこには追いかけっこしてる火と水の妖精さんがいました。

「君達、見えてるの?」
「「「みゃ~!」」」

 声を揃えて、あら可愛い。でもさ、君たちが何を言っているかわからないんだよ。ただ何となくですけど、この子猫達には妖精さんが見えている気がします。

 動物には妖精さんが見えるのかって? まさか。動物に妖精さんが見えているなら、予防医療の妖精さんを引き連れている私は、常に犬から吠えられ捲りですよ。
 気が付くと子猫達は、キャリーバックから出てとことこ歩いて、座布団に座る私の膝によじ登って来ます。

 やばい、可愛い。そんな上目遣いで見つめないで。

「なんか、あんたの事気に入ったみたいね。じゃあ、よろしく~!」
「ちょっと~! 裕子ちゃ~ん!」

 強引にってより、子猫達を置き去りにして、裕子ちゃんは帰りました。どうすんのよ。むしろどうしよう……。子猫の世話なんてやった事ないし、飼育方法は知らないし。お勉強の妖精さんに聞いてみようか。いやいや、私が留守にしている時はどうしたら……。

 でもね、そんな悩みはあっさりと解決しちゃいました。あぁ、なんてご都合主義なの。どこからともなく新たな妖精さんが現れました。
 
 名付けて、飼育の妖精さん!

 子猫の躾けから餌やり、子猫達のお世話をしっかりとしてくれます。もちろん、遊び相手もしてくれます。なので、安心して出掛けられます。
 私が用意したのは、トイレと猫砂、猫用ベッド、爪とぎ器くらいでしょうか。流石に餌は定期的に買いにいきます。
 それと、この子にはちっちゃいエプロンをプレゼントしました。もちろん、私が縫ったんですよ。ホントだよ!
 
 後から聞いたんですが、子猫達は雑種だそうです。そりゃそうですね、裕子ちゃんがブリーダーな訳ありませんし。
 裕子ちゃんの実家で飼ってた雑種の猫ちゃんが、何処かでこさえて来た子猫だそうで、父猫は知らないそうです。

 この子達の体は全体的に黒めで、縞が入ってます。何て言うんですか? キジトラ? と~っても可愛いですよ。
 女の子二匹と男の子一匹です。ちゃんと名前もつけました。女の子はミィとペチで、男の子はモグです。正直、私は見た目で区別がつかないので、首輪を色分けしてます。

 ピンクの首輪はミィ。みぃみぃ泣くからミィです! ちょっと甘えっこで、私の足にすり寄ってきます。
 オレンジの首輪はペチ。私の膝によじ登れず、ぺちぺちと足を叩いて来るのでペチと名付けました。この子も甘えん坊で、私に体を預けて寝てる時があります。
 青色の首輪はモグ。食欲旺盛でモグモグ食べるからモグ! 好奇心旺盛なやんちゃ坊主。飼育の妖精さんを追い回す事が多いです。
 
 普段は大抵、三匹でじゃれ合ってるか、飼育の妖精さんにじゃれついてるかして、仲良く遊んでます。私にもじゃれて来ます。何ででしょうね。私は特にこれといった世話をしてないんですが、妙に懐かれてるみたいです。
 
 それと、日向ぼっこして寝てる三匹を枕にして寝る飼育の妖精さんは、一見の価値有りです。可愛いです。癒されます。キャーってなります。

 また面白いのが、たまに子猫と妖精さん達がぐるぐる輪になって家の中を歩いたりするんです。
 モグの抜け毛をお掃除の妖精さんが拾い集め、その後をミィが追いかけて、ミィの抜け毛をお掃除の妖精さんが後ろから拾い集める。
 更にそれをペチが追いかけて、ペチを飼育の妖精さんが追いかけ、飼育の妖精さんをモグが追いかける。
 
 一度この光景を動画を残そうと試みたんですが、妖精さんが映像記録に残らない様で、スマホで撮った動画は、ただ子猫が歩いているだけの動画になりました。グスン。

 他の妖精さん達も、子猫達に好意的な様です。火、水、風の三妖精タッグで、子猫たちがストレスにならない空調管理してくれます。子猫達のトイレ後は、お掃除の妖精さんがすかさず処理してくれます。たまに、お料理の妖精さんが、餌を作っている様です。
 
 子猫のせいで、ワンルームのアパートがぐっと狭くなった気がしますが、今更仕方有りません。元々、妖精さん達がわんさか居る部屋ですから、ほんと今更感がたっぷりです。幸いな事に時給が高めのバイトしてますし、多少の出費も痛くありません。

 そんなこんなで、家族が増えました。益々賑やかになる私の自宅は、今後どうなっていくのでしょう。
 妖精と言えば定番はお花の妖精さんじゃないでしょうか?
 愛らしい姿、背中の羽をパタパタと花の周りを飛び回り人を癒す。そんな姿を妄想します。

 王道中の王道な、お花の妖精さん。あれっそう言えば、今まで見た事無いかもしれない。
 ただね、そろそろ定員オーバー気味な気がするんですよ。六畳のワンルームに、妖精さん達と子猫三匹ですよ。もう良いんじゃ無い?

 そんな時に限って出会いが訪れるものです。

 寒いし新しいコートが欲しいなと、休日にショッピングモールへ行った時の事です。たまたま私は、ガーデニングショップに立ち寄りました。冬にもこんなに咲いてる花があるんだなんて、私は呑気に花々を眺めていました。

 冬の花と言えば定番のパンジーやビオラから、オキザリス、シクラメン、クリスマスローズ等、様々な花が所狭しと並んでいます。見ているだけで、潤いを与えてくれます。寄せ植えも見つけました。綺麗ですね~! 売り物っぽいけど値段をチラッと、うわっ高っ!
 流石に学生の私が手に出来る値段では無かったですが、ポット苗自体はそれ程高くありません。
 
「お花か~。いいな~」

 そんな事を呟いた時の事でした。私はお花の間に潜む影を見つけます。そして目が合いました。小さく可憐な妖精さんです。少し逞しさが有るお掃除やお料理の妖精さんより、雪や氷の妖精さんに近い感じです。
 そんでもって実物は想像以上に可愛い。羽はありませんけど、それが何だって言うんです。可愛いは正義です!

 目が合った瞬間、私の鼻先でひらひらと舞い始めました。可愛い妖精さんに懐かれると悪い気はしません。
 でも、この子ず~と私にひらひらと着いて来ます。私は尋ねました。

「あなた、お花の妖精さんでしょ? お花と一緒に居なくていいの?」

 お花の妖精さんはにこっと笑って、手招きして飛んでいきます。数ある花の中から、特定のポット苗に止まりました。
 
「もしかして、お勧めを教えてくれてるの?」

 お花の妖精さんは、笑顔で頷きます。

「でもな~。手入れとか面倒だし~」

 そう呟きチラッとお花の妖精さんを見ると、何だかボディーランゲージで私に訴えかけようとしてます。あ~、何となくわかった。この子、着いて来る気だ。「花の手入れは任せて」って言ってるんだ。

 どうしよう……。

 私が暫く考えながら、じっとお花の妖精さんを見つめていると、段々と目を潤ませていきます。あ~泣きそうになってる。

「もう、仕方ないな~。うちに来るのね? いらっしゃい。それでお勧めは?」

 あんな可愛い子を泣かせては、女が廃るってもんですよ。お花の妖精さんは、嬉しそうにお勧めのポット苗を見繕っていきます。
 
 せっかくだから、白いプラスチックのフラワーポットと吊り下げ用のフックを、数点一緒に買いました。
 園芸用の腐葉土はどうするの? そんなの適当に選びます。うちには取って置きの妖精さんが居るんですから。土に関してはプロフェッショナルの、土の妖精さんにお任せしましょう。
 だけど、結構な荷物になりました。今日の目的であるコートは、園芸用品に化けました。グスン。

 園芸用品を持って、電車に乗ろうと思ったんですが土が重くて。こんな時こそ貸しを返してもらおうと、裕子ちゃんに電話しました。暇なんですかあの人、車で直ぐに駆け付けてくれました。

「何あんた、ガーデニング始めるの?」
「うん。ちょっと訳が有って」
「また、なんか変なのがくっ着いて来たとかそんな感じか。馬鹿ね」
「馬鹿じゃないよ。可愛いお花の妖精さんだよ」
「それは良いから、何買ったのよ」

 そう言って裕子ちゃんは私の荷物を見ます。しげしげと見つめた後、徐に失礼な事を言いました。

「地味ね。あんたとそっくり!」

 ねぇ、酷いと思いません?

「それだけじゃ駄目よ。せっかくだから、もっと飾りつけなきゃ! 豪華に行くわよ」

 あぁ、裕子ちゃんに電話した私が悪いのでしょうか? 裕子ちゃんが借りた車でホームセンターに連れて行かれます。
 ウッドデッッキにラティスにワイヤー等、色々買わされてやっと自宅に辿り着きました。

 その後も大変でした。
 ベランダにウッドデッキを敷いて、ラティスをベランダの支柱に取り付ける。フラワーポットに花を植えて、吊り下げフックでラティスに飾り付けていきます。裕子ちゃんも手伝ってくれたので、作業は小一時間程で終わりました。けど、もうへとへとです。

 作業が気になるのか、モグやミィがウロチョロするし。お掃除の妖精さん達は、舞い散る土埃を片付ける為に忙しなく動き回るし。
 おまけに新しい仲間に興味津々な火、水、風の妖精さんが、お花の妖精さんに纏わりつくし。そこに裕子ちゃんが近付くと、蜘蛛の子を散らしたように逃げ回るし。そんなこんなで、私の自宅はお祭り騒ぎになってました。

 完成したのは白で統一された、小さいベランダガーデン。出来栄えには大満足です。お花の妖精さんも大喜びです。ベランダガーデンをクルクルと飛び回っています。

 お掃除の妖精さんも心なしか嬉しそうです。お掃除の場所が増えたのがそんなに嬉しいのでしょうか……。
 
 ラティスをよじ登ろうとするモグを抱えて、私は室内に戻ります。その間、水の妖精さんがお花に水をあげてくれました。

 でも、ふと私は気が付きました。

 お花の植え付けをしたのは私、ラティスを組み立てたのは裕子ちゃんと私です。お花に水をあげたのは水の妖精さん、土に栄養を与えてくれるのは、土の妖精さんです。
 お花の妖精さんってポット苗を選んだだけで、何もしてなく無い?

 ガーデニングを少しでもやった事が有る人は、知ってると思います。花の苗は、植え付けた所に根を伸ばしていき、生育していくものです。
 いくら初心者が育成し易いビオラでも、ポット苗を一株程度植え付けた所で、一日でフラワーポットいっぱいには成長しません。

 でも、ファンタジーはそこに有りました。

 翌朝目覚めてベランダを見ると、フラワーポットいっぱいに花々広がっています。
 土の妖精さんが与えた肥料が良かったのか……。まさか、肥料だけでこんな育ち方しませんよ。

 原因はこの子。お花の妖精さんです。どうやら、お花の妖精さんが本気を出して、育成を速めた様です。様子を見に来た裕子ちゃんは、呆れた口調で言いました。

「やっぱりね」

 お花の妖精さんは、こまめに花がら摘みや摘心をやって、花の状態を維持してくれます。
 それはもう、嬉しそうに花の手入れをしています。水の妖精さんは、フンって顔をしながらもお尻をフリフリして、花に水をあげてます。
 土の妖精さんからは、「自分が潜っているプランターにも花を植えろ」と、催促されました。根が邪魔にならないでしょうか? その内、花苗を買ってきてプランターにも植えてあげましょう。

 そんなこんなで、私の自宅に仲間が増えました。おまけに緑溢れるベランダになりました。どんどん豪華で、賑やかになっていく私の自宅です。
 節分です。豆まきしたり、歳の数だけ豆を食べたり、一年の無病息災を願うイベントです。最近では恵方巻きも流行り始めましたね。
 
「豆まきにはあまり興味が無いのですが、せっかくなので恵方巻きを作って貰おう!」
 って事で、たまには私も本気出します。レッツ海鮮巻き! そしてやって来ました築地場外市場です! そして何故か一緒に居る、裕子ちゃんです。
 
 裕子ちゃんって私の事好きなの? いや違うな。目当ては海鮮巻きだな! この食欲魔人め!
 なんたって今回目利きをするのは、その道のプロ、お料理の妖精さんですよ! 裕子ちゃんが食いつかないはず無いですよ。

「私も行くわよ」
「何でさ」
「良いから行くの」
「はぁ、もう。仕方ないね」

 そうなんです。仕方なく連れて来ました。今日の裕子ちゃんは、荷物持ちを兼ねてます。

 流石は築地です、観光名所です。沢山の人で溢れかえってます。と~ても賑やかです。朝早くやって来たかいが有るってもんです。

「マグロ! 大トロが食べたい!」
「裕子ちゃん、馬鹿なの?」
「何がよ! 築地でしょ?」
「築地だね」
「ならマグロじゃない!」
 
 いや、意味が分かりませんが。それに、そんな高い物を買える訳が無いでしょ!
 ちなみに、何時も裕子ちゃんが食材を用意してくれるので、今日は私の奢りです。お料理の妖精さんには、私の予算を伝えて有ります。す~ごく、す~ごく頑張りました!
 アルバイトとへそくりで溜めたお小遣いから一万円。これが今日の予算です。倹約家の私ですが、たまには贅沢するんです。

 私もマグロが食べたい。確かにそう思いますよ。お料理の妖精さんは、単に食材を見繕うのでは有りません。素材の良し悪しや、作る料理をちゃんと想定して、食材を選んでいきます。

 そして買ったのはマグロの中トロ、車海老、穴子、かんぴょう、飛び子、出汁用の昆布に鰹節と煮干し、そして海苔です。歩き回りましたし、そこそこ荷物になりました。
 せっかくなので、場外市場で昼食を取った後、電車に乗って自宅へ戻ります。

 定番のだし巻き卵は、出汁から手作りです。当然、すし酢から煮切り醤油まで、お料理の妖精さんが作ります。

「君達って、本当に色々と作れるよね。凄いね」

 そう言うと、お料理の妖精さんは腕を組んで鼻をフンってさせてました。うん、頼もしいです。なんか、職人さんって感じです。
 ペチ達用にも何か作って貰う様に、頼んでおきます。だって、可哀そうじゃないですか。

 お料理の妖精さんが手際よく料理をしている中、私は妖精さん達を集合させます。

「あなた達、節分って知ってる?」

 妖精さん達は、一斉に頷きます。まあ、知らない筈が無いんですよ。物知りなお勉強の妖精さんが居ますし。
 
「鬼役と豆を投げる役を決めて、みんなで豆を投げっこしよう!」

 妖精さん達は一斉に話し合いを始めました。輪になってゴニョゴニョと暫く話し合っていました。

 結局、四大元素の妖精さんが鬼に決まった様です。
 豆を投げる役は、お勉強、お仕事、音楽、お花、予防医療の妖精さん、飼育の妖精さんもペチ達の世話を忘れてやる気みたいです。
 氷の妖精さんは、冷凍庫から出れないので不参加です。お掃除の妖精さんは、後片付けを楽しみにしている様です。
 
「あんたって、いつもこんな馬鹿な事してるの?」

 妖精さんが見えない裕子ちゃんには、わかるまい。この妖精さん達のウキウキした笑顔、これだけで元気になれるのだよ!
 ついでに買って来た豆を持って、妖精さん達は今か今かと待ち焦がれています。

 本当は豆をまくのは夜なんでしょうけど、あんまり待たせちゃ悪いので豆まき開始! 飛び交う豆、飛び回る妖精さん達。一緒にはしゃぐ、ミィ、ペチ、モグ。狭いワンルームは、一気にお祭り騒ぎになります。

 妖精さんが見えてない裕子ちゃんには、ポルターガイストに見えるのでしょうが、流石になれた様で気にも留めてません。むしろお料理の様子を凝視してました。

 火、水、風、土の妖精さんがワンルームを所狭しと飛び回ります。お勉強の妖精さんと、お仕事、お花、予防医療の妖精さんが、ひらひらと舞い豆を投げます。
 飼育の妖精さんは、ペチ達の事を気にかけつつも、楽しそうに豆を投げてます。音楽の妖精さん達は、豆を投げずに音楽を奏で始めます。
 氷の妖精さんは、冷凍庫の隙間からみんなの様子を見て、クルクルと踊ってます。床に落ちた豆をペチ達が食べない様に、お掃除の妖精さんが即回収です。
 飛び交う妖精さん達を追いかけ、ペチ達がジャンプします。
 なんでしょこのファンシーな空間! 可愛さ満点です! おぅ、鼻血でそう……。

 ひとしきり豆まきを堪能し、ペチ達が疲れ切った所で豆まきは終了です。妖精さん達は、大満足の笑みを浮かべています。良かった、良かった。

 豆まきが終わる頃、丁度海鮮巻きが出来上がります。
 うゎあ! なんて豪華な海鮮巻き!
 なんたって食材に超お金をかけた上に、お料理の妖精さんが本気を出した海鮮巻きですよ。見た目だけで、意識が持ってかれそう!

 裕子ちゃんは待ちきれずに、目をぎらつかせてます。私も待ちきれません。いざ実食です!

「「うぉいうぉい、うぉいし~い!」」
 
 頑張って築地まで行ったかいが有った!

 穴子はふっくらと炊かれ、口の中でほぐれます。流石の目利き、中トロは脂の乗りが最高です。プリプリの車海老は舌を喜ばせ、飛び子のプチプチした食感は、良いアクセントとなってます。だし巻き玉子やかんぴょうは主張し過ぎず、各素材の味を引き立てます。
 
 因みに裕子ちゃんは、頬張りながらポロポロと涙を零していました。ペチ達も夢中で、特製猫ごはんを頬張ってます。
 
「幸せだ~!」 
「うぉ~!」

 二人で思わず叫んでしまいました。近所の方々すみません。美味しすぎる海鮮巻きが悪いのです。

「そう言えば、恵方を向いて無く無い?」
「あ~! でも食べちゃったね。先に言おうよ裕子ちゃん!」
「仕方ないでしょ! これを食べる為に今日一日あんたに付き合ったんだから」

 そんなこんなで夜が更けていきました。最高の節分、この調子で福がやって来ると良いな。あれ? もう福がやって来てるのでは? ハハハ……。