妖精さん達と暮らそう

 私の周りには妖精さんが居ます。妖精さんは、手のひらサイズのデフォルメされた様な二頭身の姿で、何時も私の周りをひらひらと飛んだり、ぽてぽてと歩いたりして着いて来ます。
 
 妖精さん達は周りの人に見えてません。何故か私しか見えない様です。前に家族や友人に妖精さんの事を話した事は有りますが、首をかしげるだけで理解はされませんでした。逆に変な事を言ってる様に心配され、私を精神科に連れていこうとしました。困った両親です。
 
 誰にも見えない、私しか見えない妖精さん達。別に誰にも理解されなくても良いのです。だってここに居るんだから、妖精さん達は。

 妖精さん達は可愛くて、賢くて、誰よりも勤勉で、誰よりも楽しい事が好きで、ずっと私の側に居てくれる、大切で愛おしい存在です。妖精さん達も私を好いてくれている様で、いつも私に寄り添ってくれます。

 だけど問題もあります。妖精さん達は言葉が喋れないんです。厳密には、妖精さんは口をモゴモゴしてるんですけど、それが言葉なのか何か私にはわからないんです。
 ただ、そんなのは些細な問題です。私の言葉は妖精さんに伝わるし、妖精さんの気持ちを私は感じる事が出来ます。多分ですけど、言葉とは違う別の方法で私達はコミュニケーションをしているのです。
 それが何かと問われるとわからないですが……。何だろう。テレパシー的な? きっとそんな感じだと思います。

 私が最初に妖精さんに出会ったのは、確か小学校低学年の頃だったと思います。私は北海道の製紙工場が盛んな街で生まれて育ちました。
 ある雪の降り始めた朝、学校に行く為に歩いていると、積もった雪の上にひらひらと舞う白い綿みたいな物を見つけました。よく見ると『手のひら位の小さい人形っぽい何か』が、躍る様に雪の上を飛び跳ねていたのです。

 私はすごく驚きました。だって、子供でもわかります。動物ではない、虫でもない、ましてや『人形サイズの人間』なんて、この世に存在するわけないんですから。
 でも、当時のわたしは純粋だったんです。そして、興味津々に飛び跳ねている子をじっと見つめました。暫く見つめていたら、その子が私が見ている事に気が付いて、私に近寄ってきました。その子は満面の笑みで私に笑かけて、ペコリと可愛くお辞儀をしました。そして私は、お辞儀を返してその子に言いました。

「ねぇ。あなたはだれさ? 触ってもいい?」

 その子は口をパクパクさせて何か言ってましたが、当時の私には理解出来ませんでした。でも笑顔で頷く様子を見て触って良いんだと思い、私はそっと手を伸ばしてみました。
 触ってみるとその子はとても冷たく、身体は雪の様に白く綺麗で、朝の光を浴びてキラキラと輝いていました。
 
 チョンチョンと私がその子を突くと、その子はくすぐったいのか、けらけらと笑いながら雪の上を転げまわります。その姿がとっても可愛くて、私は自然と微笑んでいました。私は何度もその子を突き、その度にその子は笑いながら雪の上を転げまわります。
 それが楽しくて。暫くの間はそうしていたと思います。やがてその子は私から少し離れて、ぴょんぴょんと飛び跳ねて私を見ていました。私は「着いて来て」って言ってるのかと感じました。

 その子は、新雪の上をふわふわと飛び跳ねて、時折私の方を振り向きます。私は、その後に続いて誰も踏んでいない新雪をザクザクと踏み、その子を追いかけました。
 でも、やっぱり不思議です。この子は誰なんだろう? その子の後ろ姿を追いながら、そんな事を考えてました。

「ねぇ。あなたはもしかして妖精さんかい?」

 何故そんな事を言ったのか、自分でもよくわかりません。ふと、口から出でいました。その時の私は、きょとんとした顔をしていたのかもしれません。でも、その子は優しく微笑むと、コクリと頷いてくれました。
 それから私は、学校の事など完全に忘れて、一日中妖精さんと遊びました。どの位の時間が経ったか分からないけど、気が付くと私は自宅近くの森の中に居ました。

 やがて日が沈みます。森の中ですから、当然ながら周囲には街灯が有りません。月の光は、木々に遮られて少ししか届きません。遊びなれた場所でさえ、昼間とは違う空間に様変わりします。辺りを見回すと妖精さんの姿は在りません。私は少し心細くなり呼びかけます。

「よ、妖精さん? どこさ? どこだべ?」

 多分怖くなっちゃったんだと思います。だから、その時の私は声が上擦ってたと思います。そりゃそうです。大の大人でさえ多少は怖さを感じると思いますし、ましてや私はまだ小さかったんです。

「ねぇ、妖精さん。で、出てきて遊ぶっしょ。ねぇ、ようせいさん」

 やっぱり反応は有りません。妖精さんは何処かに行ってしまったんです。取り残された私は、私はその場でうずくまり、じっと固まってしまいました。
 どの位そうしていたんでしょう。やがて遠くの方から声がします。

「お~い! しずく~! どこだべ~!」
「しずくちゃ~ん! どこだ~!」

 声は段々と大きくなります。声は一つじゃ有りません、沢山の人が近くまで来ている事がわかり、私は思わず立ち上がりました。

「おと~さ~ん! おか~さ~ん!」

 私は無事に、大人達に連れられて家に帰りました。お母さんとお父さんに物凄く怒られました。妖精さんの事を説明したら、馬鹿言うなと更に怒られました。でも、暗闇の中でぎゅって抱きしめられた事は、今でも忘れません。

 次の日、学校に行こうと外に出ると、妖精さんは私の事を待っていたかの様に、笑顔を浮かべて雪の上を飛び跳ねてます。

「昨日はどこ行ったっしょ」

 私はちょっと怒ってました。だって置いてけぼりにするんだもん。でも、そんな私に対して妖精さんは、少し首を傾げてにこっと笑います。
 その様子を見ていると、何だか怒っているのが馬鹿馬鹿しくなって来ます。そして私は、しゃがんで妖精さんの頭を撫でました。

「ごめんね。今日は遊べないのさ。昨日沢山怒られたっしょ。また今度遊ぶべさ」

 そう私が言うと妖精さんは首をコクリと傾げて、再び私の周りを跳ね回ります。あぁ、きっと伝わってないです。
 昨日は学校をさぼったから、今日は行かなきゃ怒られます。妖精さんの『一緒に遊びたい』って気持ちもわかります。私も同じです。私は少し悲しくなり、もう一度妖精さんの頭を撫でて言いました。

「したっけ、遊べないのさ。学校行くっしょ。今度またね」

 私の表情を読み取ったのか、妖精さんは私に飛び乗ってきました。そして、冷たい体を頬に摺り寄せてきます。妖精さんの身体はとても冷たかったけれど、不思議と私の心は温かくなっていました。

「もう、仕方ないね。学校まで一緒に行くべさ?」

 そして私は、妖精さんを手のひらに乗せて、突いたりお喋りしながら、学校へ向かいました。妖精さんは、手の上でキャッキャとはしゃいでいました。とっても楽しい時間です。でもそんな時間はあっという間に過ぎていきます。
 学校の前まで着くと、私は妖精さんを新雪の上に降ろします。妖精さんは悲しそうな表情を浮かべながらも、私に手を振ってくれました。私も少し悲しくなり、手を振り返して校内に入りました。

 教室に入ると、クラスメイトに昨日の事を心配されました。クラスメイトに妖精さんの事を話しましたが、誰も信じてはくれませんでした。それ以来、私は不思議な子と思われる様になりました。不思議じゃないし、普通だし!

 その日、私は授業が終わるのが待ち遠しかったです。授業が終わると、私はクラスメイトにさよならを言い、教室を飛び出し、廊下を走り、校門を出ました。きっと、妖精さんが待っている気がしたからです。
 そして、予想は当たりました。妖精さんは校門の横辺りで私を待っていてくれました。私はうれしくなって、妖精さんを手に乗せます。

「待っててくれたんかい? 一緒に遊ぶべさ?」

 妖精さんは私の手の上で体いっぱい使って、遊ぼうと言っている様な仕草をします。

「森に行くと心配されるっしょ。したっけ公園に行くべさ!」

 私の住んでいた街は冬になると公園に柵が張られ、それがスケートリンクになります。だけど、ほとんどがアイスホッケーをする男子達に占領されてしまいます。
 だから私と妖精さんは、出来るだけ積もった雪が踏み荒らされていない辺りで、追いかけっこをして遊びました。日が暮れるまでの楽しい時間は過ぎ、今度はちゃんと妖精さんにお別れをして家に戻ります。

 それから朝は妖精さんと一緒に登校し、帰りは妖精さんと遊ぶ。そんな毎日を私は繰り返しました。ちなみに、一度妖精さんを家の中に招待しようと試みましたが、妖精さんは温かい所が苦手なのか、家の中には入って来ませんでした。

 猛吹雪の日は外に出る事が出来ません。
 ある日、私が寂しく独り部屋で勉強をしていると、氷がびっしりと張った窓を叩く音が聞こえました。
 窓から外を覗き込むと、大量に増えた妖精さんが窓一面に張り付いていました。流石に私は、腰を抜かす程驚き叫び声を上げます。増えた妖精さん達は、驚く私をみてお腹を抱える様に笑っていました。

 やがて、春が来て雪が解けていきます。何時も私を迎える様に玄関で待ち構えている妖精さんは、段々と姿を現さなくなりました。

「あの子は、雪の妖精さんだったのかも知れないっしょ」

 あの妖精さんは、雪の降り始めと共に姿を現し、雪の終わりと共に去って行きました。だから、私は雪の妖精なんだと思います。
 雪の妖精さんが去った後、少し寂しかったです。だって毎日の様に遊んでいたんですもん。でも寂しい時間は一時でした。なぜなら、別の妖精さんが次々と私に集まる様になったからです。
 
 それから私は、妖精さん達に囲まれて成長しました。やがて高校を卒業した私は、東京の大学に合格し上京しました。私の所に集まって来た妖精さん達は、上京しても着いてきてくれました。おかげで、上京や初めての一人暮らしは、少しも寂しさを感じる事が有りませんでした。

 妖精さん達は、何時も賑やかに、そして可愛く私の周りを飛び跳ねています。一人暮らしの生活は、妖精さん達によって支えられ、疲れた時には癒しを与えてくれます。
 多分、私は世界一の幸せ者なんでしょう。私と妖精さん達の暮らしはこれからも続いて行きます。
 東京に上京してから、私は家事をまともにしていません。何故なら、妖精さん達がやってくれるからです。
 
 これは最初に説明しておかなきゃなりません。妖精さん達は、楽しい事が大好きなんです。そして、これが一番大切な事なんですが、妖精さんは年中遊んで暮らしている訳では無く、とても勤勉なのです。
 妖精さん達にはそれぞれ持っている役割の様な物が有り、日々頑張ってこなしています。そして、それぞれ持って居る役割を果たしている時が、妖精さん達にとって一番の至福の時間の様です。
 
 中でも特に勤勉なのは、お掃除の妖精さんです。私の暮らしているワンルームのアパートには、お掃除の妖精さんが三人暮らしています。ただ、何故なのかと聞きたいのが、この子達はメイド服を来ているんです。

 いや、可愛いですよ。ちっちゃいメイド服を着ている子達が、うろちょろしている様子を想像してみてください。鼻血が出そうになるでしょ? えっ、ならない? そりゃあ勿体ない。

話はそれましたが、お掃除の妖精さんって昼夜を問わずお部屋をピカピカにしてくれるのです。

 正直助かります。だって、私が寝ている間に部屋はピカピカにしてくれて、ゴミを出し忘れても妖精さんが捨ててくれるんです。おまけに、シャワーを浴びて浴室を出た瞬間に掃除が始まり、湯垢が綺麗に無くなっています。

 正直な所、私は一人暮らしを始めて、棚に埃が積もったのを見た事が有りません。もちろん掃除機は、両親が買ってくれました。ですが使ってません。
 楽です。助かります。一家に一台、いや一家に一人お掃除の妖精さんが居れば、どんなずぼらな家庭でも、お家がピカピカになると思います。

 でも私は、このまま妖精さんに任せて、家事の出来ない女になって良いのでしょうか? いや、良くない!
 そしてある休日の朝、私は決心してお掃除の妖精さんに言いました。

「私が掃除するよ。妖精さん達はたまには休んでて」

 そういった瞬間、お掃除の妖精さん達はつぶらな瞳に涙をいっぱいに浮かべて、私を見上げました。
 うわっ。泣きそうになってる。何故だろう、この凄い罪悪感は。取らないよ。あなた達の役割を取ったりしないからね。でもね、私の家事スキルもね。わかるでしょ?
  
「あのね、私が将来掃除が出来ない女になったら困るでしょ? だから私も掃除するよ」

 お掃除の妖精さん達は、首を傾げます。そして、三人が円陣を組み、何やら話を始めました。やがて、話し合いが終わった様で代表の一人が前に出ると、とても良い笑顔でサムズアップし、黙々と掃除を始めました。

 あれ? なんか伝わってない気がする! 私は妖精さん達をじっと見つめて、問い返します。

「たまには私も掃除するけど、良いよね?」

 妖精さん達は、可愛い手を胸の前で交差しバツを作ります。
 
「いや、何でよ。あなた達の役割を取ったりしないよ」

 妖精さんは首を傾げてから、ジェスチャーを交え口をパクパク動かしました。

 はい。伝わりました。何故だかはっきり理解しました。この子達は、私がお嫁に行っても着いて行くから、掃除は自分達に任せろと言ってたのです。
 あぁなんて安心感。これで一生掃除から解放されるのかしら。もういっその事、妖精さん達にお任せして、いやいや、それでは家事出来ない女まっしぐらです。

 彼氏が出来た時には、部屋を掃除してあげたりなんて、ウフフ。そう、挫けてはいけない。私は、心の中で呟きました。目指せ出来る女! 下心? 良いじゃない! どうせ恋って漢字には下に心が入っているんだから。

「あなた達の言い分はわかった。なら、掃除の仕方を教えて下さい」

 私は、掃除の妖精さん達に土下座を敢行しました。そして妖精さん達は、私の頭をポンポンと叩きます。

「わかってくれたの?」

 私が頭を上げ妖精さん達を見ると、妖精さん達は三人で仲良くサムズアップをしました。私は思わずガッツポーズをしました。きっと、いや、今度こそ伝わりました。
 三人の妖精さん達は一斉に腕を組んで、鼻息を荒くしています。これは『見守ってやるぜ!』って事よね。頑張るよ、期待に応えるよ! これで出来る女に一歩近づく!

 しかしこれが後で後悔になるとは、この時は思いませんでした。妖精さん達のお掃除は、決して謎パワーで行っているのでは有りません。出るは出るは良くわからない豆知識。流石は妖精さんだけあって、掃除方法はエコ満載でした。

 そりゃあ私だって、埃は棚の上から落として、最後に床を掃除する位は知ってますよ。でも妖精さん達は、もっとも~っと徹底してました。
 窓や桟の吹き方、埃の落とし方、床の吹き方、浴槽の洗い方、便器の掃除、何から何まで手を抜く事は有りません。

 食器棚やら何やらを色々動かして、端から私は汗だくになりました。そしてはたきを使い、粗方埃を落とした後は吹き上げです。
 でも、こんなのはまだまだ序盤に過ぎないんです。以前お掃除の妖精さん達にせがまれて買わされた、『重曹』を使って洗浄液を作ります。そして届かない天井を台を使って磨きます。妖精さん達は飛べるけど、私は飛べないからね。
 いつも棚で隠れている壁、棚の上から棚の中、窓や桟、勿論エアコンも、部屋中隅々まで丁寧に磨きあげて行きます。

 換気扇は小麦粉を振りかけてから暫く放置し、お湯で流します。お風呂場の湯垢は、これまたせがまれて買わされた『クエン酸』で洗浄液を作り、ひたすら磨き上げます。とにかく、石鹸カス等が一切残らない様に、徹底的に磨き上げるのです。
 勿論トイレも便器もピカピカに磨き上げました。「大掃除か!」と言いたくなる程の徹底ぶりに、私はへとへとになりながら思わず呟きました。

「これだけの事を小さい体で良く毎日やってたわね」

 掃除はこれだけでは終わりません。床のワックス掛けが待っています。

「こんなのいつ作ってるの?」
  
 私が妖精さん達に聞いたのは、妖精さん特製ワックスでした。何でも、柑橘類を煮詰めた液だそうで、これを使い徹底的に床を磨き上げます。床のワックス掛けが終わり、棚やらを元に戻しもう一度床の埃を取ってようやく終了です。

 確かにね。私はまだ二十歳だし、体力は有るつもりです。でもね……。
 
「したっけ、朝から始めてもう真っ暗じゃないしょや~!」
 
 お掃除妖精さん達に取って、掃除は楽しい事なのです。生きがいみたいなもんです。私が手を抜こうとすれば、涙目で訴えてきます。疲れて休もうとすれば、もっと遊ぼうと言わんばかりに私の周りを飛び回ります。
 今日は私と一緒に掃除が出来た事が凄く嬉しかった様で、何時もより元気に私の周りをクルクルと飛び回っていました。

 ごめんね、お掃除の妖精さん達。あなた達と一緒に掃除をするのは、年末に一度で充分だわ。私は心の中でそう呟き、日々の掃除を妖精さん達に任せる事に決めるのでした。
「料理! それは生きる糧を得るだけでは無く、アイデンティティーなのだよ!」

 ちょっと偉そうに叫んでしまいました。ごめんなさい。

 私は料理をした事が有りません。何故かは予想がつくかもしれませんね。その通りです。お料理の妖精さんが全てやってくれます。
 当然、上京した時にお鍋やフライパンに包丁を両親に買い与えられました。掃除機同様、私が使う事は有りません。誰が料理器具を使ってるかって? それは、お料理の妖精さん達です。

 お料理の妖精さんは十人程います。それで、コック服とか板前さんの服とか色々な料理人の服を着ています。可愛いは可愛いんだけど、どちらかと言えば職人さん? 頼もしい的な? 
 そもそも、何故そんなに居るのかって? 私が知る訳ないでしょ! 知らずに増えていたんだもん。いや、いやいや。あれ? そう言えば心当たりが有るかも!
 
 一人暮らしを始めた頃、意気込んで有名料理人の名がついたレシピ本を買いました。「フフン、私にかかればお料理なんて、楽勝よ!」そんな言を思うのは甘かった様です。超激甘でした。

 私はスーパーで材料を買い、いそいそと自宅へ戻ります。本のついでに、たまたま見つけた可愛いエプロンを装着します。ウキウキしながら『お料理開始だ!』っと思いましたが、私は実家で母の手伝いをした事が有りません。
 材料を切るにも、包丁の持ち方は? 微塵切りとか、小口切りとかって何? 少々ってどの位なの? そうなんです。料理のイロハをしらないんです。
 
 私はレシピ本を片手に崩れ落ちました。最初に買うのは、美味しそうな写真の上級者向けレシピ本じゃ無くて、初心者向けのハウツー本でした。ガクっ!
 そんな時です。お料理の妖精さんがポンっと現れました。料理の妖精さんは、あっという間に買って来た材料で、料理を作り上げました。
 
 わかります? その時の私の驚き。『妖精さんが料理!』そんな事では、妖精さんに慣れた私は驚きません。
 手のひらサイズのちびっ子が、自分より大きな包丁を巧みに使いこなし、何倍もの大きさの重いフライパンを軽々と振り回すのです。私は呆気にとられて、妖精さんの様子をただただ見つめるしか出来ませんでした。

 お料理の妖精さんが作った物は、何と表現すれば良いのか。もう絶品でした。
 語彙不足? 仕方無いでしょ! こんな美味しい物食べた事無いんですから! とは言え、元のレシピを作った有名料理人の料理も、食べた事は無いんですが。
 
 ちなみに、この時現れたお料理の妖精さんは、和食が得意な妖精さんだったみたいです。それで、何和食が続くから、偶にはパスタが食べたいな~と思い、スパゲッティーニを買って来たら、もう一人妖精さんが現れ、絶品パスタを作り上げました。
 中華が食べたいなと、中華調味料を買って来ると、また一人妖精さんが現れ、極旨の中華を作り上げました。そうして増えて行った、お料理の妖精さん総勢十名なんです。
 
 ここまでで、あれ? っと思った人は居ましたか? はい。材料や調味料は、ちゃんと私が買ってきます。仕送りと言う名のリアルマネーで。そうしないと、お料理の妖精さん達は、何処からか材料を調達して来ちゃうんですよ。

 犯罪ですよ。盗人ですよ。「犯人は妖精さんです!」って言って誰が信じてくれます? 私は逮捕されたく有りませんから。
 そんなまさか? って思ったら甘いですよ。人間の倫理観の外側で生きている妖精さん達には、所有権がどうのなんて関係有りませんから。
 実際に朝目覚めたら、買った覚えのない調味料や野菜が並んでた時には、流石に私も腰を抜かして大声で叫びました。
 
「あなた達。全部返してきなさ~い!」 

 妖精さん達は、コクリと頷いて、材料を元に戻していきました。聞き分けの良い子達で良かった。

 それ以降は、私が必ず食材を買ってきます。でも、何が心配なのかお料理の妖精さん達は、買物には必ず着いて来ます。そして、お料理の妖精さん達が指定した食材を選びます。
 指定した物以外を買おうとすると、お料理の妖精さん達はとても悔しそうな顔で泣くのです。
 ですが、お料理の妖精さん達がお気に召す食材が、必ずしも近くのスーパーに有る訳では有りません。時にはスーパーを何件も梯子させられて、へとへとになる事が有ります。

 お料理の妖精さん達は嬉しそうですけどね。私とお買い物するのがそんなに嬉しいんでしょうか? スーパー内を駆けずり回る子供達の様に、食材の上でクルクルと踊ります。

「ねぇ、もう疲れたよ。この野菜じゃ駄目なの?」

 私の体力を考えて妥協をする時の妖精さん達は、それはもう悔しそうな表情で泣き崩れます。まるで、甲子園の土を集めている高校球児の様です。

 お休みの日なら、ある程度付き合ってスーパー巡りをしますけどね。でもね、下手すると魚を買いに築地に、野菜を買いに全国各地にと、日本全国行脚させられそうで怖いです。

 ある時私は、大学で出来た友人を家に招待をしました。食べ歩きが趣味と豪語する彼女の舌が、妖精さんが作った料理にどう反応するか見てみたかったからです。
 招待した日は休日で、訪問時間をきっちり指定しました。何故かって当たり前でしょ! 妖精さんは他人に見えないから、包丁やフライパンが勝手に宙を飛んでいる様に見えるでしょ!
 それはファンタジーじゃ無くてホラーだよ。ポルターガイスト現象だよ。リアルに起きたら、普通怖がるでしょ!

 友人が訪ねて来た頃に丁度仕上がる様に、お料理の妖精さんが腕を振るいます。腕を振るった妖精さんは、フレンチが得意な妖精さんです。テーブル全体に所狭しと並ぶフルコース料理に、友人は目を見開きます。

「あんたが作ったの? マジで? 嘘でしょ?」

 私じゃ無く妖精さんだよと私は心の中で返答します。

「嘘! 何これ美味しい! こんなの初めて食べた! 超美味しい! あんた店だしなよ。大繁盛間違いないよ」

 いやいや無理だって。作ったの妖精さんだし。再び、心の中で返答します。

「どうやって作るの? 教えてよ!」

 私は慌てました。料理の作り方なんて、私は知りません。妖精さん達に料理を教わればって? 馬鹿な事を……。それは、板前やコックの修行になりますよ、間違いなくね。

 友人に妖精さんの事を話しても、信じないだろうと私は思ってます。ですが友人は料理の味に感動したのか、グイグイと質問をしてきます。私は仕方なく、妖精さんの料理姿を見せる事にしました。

「あのね、裕子ちゃん。何があっても絶対驚いたり、叫んだりしちゃ駄目だよ」
「な、なによ。何がよ。脅さないでよ」
「良いから、叫び声は上げない事。近所迷惑になるからね」

 私はそう言うと、妖精さんに合図を送ります。その後は多分想像以上です。裕子ちゃんは叫ぶどころか、悲鳴すら上げられずへたり込んでいました。
 本当に怖い事が有った時、人間は叫ぶ事さえ出来ない。そんな事例を見た気がします。おしっこ漏らされなくて良かった。

 そこからは裕子ちゃんに揺さぶられながら、妖精さんの事を全部説明させられました。現実にポルターガイスト現象もどきを見せられた彼女は、ちゃんと理解したのでしょうか? 少し怪しい気がしますが、それほど心配は無いでしょう。

 だって、決まって休日に私の家を訪ねて来るようになったんですもん。食材を両手いっぱいに抱えてね。
 今までは、アルバイトで溜めたお金を趣味の食べ歩きに使っていたそうです。食べる事に貪欲なんですね。それが、色々な食材を取り寄せる事に変わったようです。
 裕子ちゃんの神経が図太くて、良かったのか悪かったのかって感じですね。

 ラーメンが食べたいから豚骨を送ったと、裕子ちゃんからメッセージが届く時がありました。クリスマスに合わせる様に、丸鶏がクール便で送られてきた時は呆れましたけどね。でも彼女のおかげで、クリスマスが楽しく過ごせた事は感謝しなくてはなりません。
 
 裕子ちゃん曰く、「材料費だけで美味しい物が食べれるなら、最高じゃない!」だそうです。勿論、毎回私もご相伴に預かります。だって家主だし。

 材料が届くとお料理の妖精さん達は、張り切って料理をします。その割には、妖精さん達は裕子ちゃんと目を合わせようとしないんです。近付くこうともしません。
 何故でしょうね、嫌われてるんでしょうか? そんな訳ないか。だって、他の友人の周りでは結構ウロチョロしていますから。

 まぁ、いいですよ。どうせ裕子ちゃんには見えてないんでしょうし。

「裕子ちゃんって、よく食べるね! そんな細い体の何処に入って行くの?」
「あんたが食べなさ過ぎなのよ。勿体ないわよ、そんな凄い妖精が居るのに。妖精は私の所に来れば良いのに」
「あなた達、裕子ちゃんの所に行く?」

 私は裕子ちゃんの言葉をお料理の妖精さん達に伝えますが、お料理の妖精さん達は物凄い勢いで首を横に振ります。どうやら、嫌みたいです。
 
「なんでよ! 良いじゃない、いっぱい居るんでしょ?」

 私は裕子ちゃんの言葉を、更に妖精さん達に伝える事はしませんでした。だって既に捨てないでとばかり、お料理の妖精さん達は、私に縋り付いているのですから。これ以上何か言ったら、この子達は本泣きしますよ。

 私はお料理の妖精さん達を優しく撫でて、ご機嫌をとります。裕子ちゃんには駄目だと、はっきり断ります。そんな彼女は、どうせあんたの所に通うから良いかと、さばさばとしてました。私は妖精さんだけで無く、友人にも恵まれた様です。

 お料理の妖精さん達のおかげで、私が食事に困る事は有りません。多分一生です。一向に上達しない私の家事スキルは、半分諦め気味の今日この頃です。
 私は現在、某難関国立大学に通っています。頭良いねって? いや~照れるなぁ~!
 
 私は、塾に通った事が有りません。勿論、人間の家庭教師を雇った事は有りません。そして、大学は一発合格しました。
 まぁここまで言えば、お分りですよね。妖精さんに答えを教えて貰った? まさか! それではカンニングじゃ無いですか! 私はそんな事をしません。

 そもそも、妖精さんがカンニングに興味を示しません。って事は、カンニングしようとした事有るだろって? まぁ子供の頃に、ちょろっとお願いだけした事は有りますよ。

「なんも勉強しなくっても、テストの答えだけ教えてくれればいいべさ」

 そんな事を言うと決まって大粒の涙をぽろぽろと零しながら、首をフルフルと横に振るんです。それを見たら、カンニングさせろなんてお願いが出来る訳無いですよ。

 答えは、お勉強の妖精さんに、勉強を教えて貰ったです。

 お勉強の妖精さんとの出会いは、小学校の頃です。算数の宿題で頭を悩ませていた私の所に、ポンと現れたのがお勉強の妖精さんです。
 その子は、『先生が持っている謎の伸びる棒』で教科書を指して、私に『問題の答え』では無く、『解き方』を教えてくれました。それ以来、試験の度に現れては伊達メガネをキラッとさせて、私に勉強を教えて帰って行きます。
 お勉強の妖精さんの教え方は、しっかりとポイントを突いて教えてくれるので、とても解り易いです。おかげで私は、成績は小中高と常に成績は上位でした。
 
 学生の私にとって、恐らく一番役に立つ妖精さんが、お勉強の妖精さんだと思います。すごいですよ。勉強以外の事でも、知りたい事を尋ねたら、何でも教えてくれます。検索サイトも真っ青ですね。

 でも興味の無い事や専門的な事を、お勉強の妖精さんに尋ねてはいけませんよ。わかりませんか?

 例えば「リンゴについて教えて」と、お勉強の妖精さん尋ねたとしましょう。そうすると、リンゴの種類から育て方、果実に含まれる成分、料理方法等、事細かに教えてくれます。「そこまで聞いてないし」って適当に聞いた振りをすると、大泣きして訴えて来ます。
 それと小さい頃の話です。眠る前にお話をしてとせがんだら、話が終わるまで寝かせてくれませんでした。余計な事を言わなきゃ良かったってなりますよ。
 
 大抵の妖精さんは、妥協する事を嫌がります。だって妖精さんにとっては、楽しみを奪われるのと同じ事ですから。お勉強の妖精さんも同様です。
 私が理解するまで、お勉強の妖精さんは授業を止めません。どれだけ眠かろうと、瞼をこじ開けられます。痛さで目が覚めます。覚えの悪い私が、大学受験でどれだけ頑張ったか……。おかげで徹夜になれました……。いや、これって良いことなの?

 一度、お勉強の妖精さんが授業中に現れて私の肩に乗り、教師の説明を耳元で補足する事が有りました。流石に私は、お勉強の妖精さんに土下座をして止めてもらいました。
 だってそんな副音声要りませんよ、教師の説明が頭に入って来ないし。家に帰って理解出来なかった所を、お勉強の妖精さんに聞けば良いんです。
 
 私の成績は結果だけみれば、順調に見えるでしょうが、影では努力をして来たんです。
 そんな私は昨年調子に乗り、三つの国家資格に挑戦しました。お勉強の妖精さんによるスパルタ授業のおかげで、全て合格しました。他の妖精さん達の万全サポート付きです。

 正直大学の授業と三つの国家資格を、同時に進行するのは無理が有りました。大学の友人達からは、と呼ばれました。酷くないですか?
 
 でも、人間やれば出来るって事ですね。お勉強の妖精さんが幾ら私に教え込んでも、試験を受けるのは私ですからね。睡眠時間を削りひたすら勉強をし、何故そんなに『ストイック』って自分ながらに思いましたよ。

「まぁそんなこんなを乗り越えて、今の私が有るのだよ!」

 友人に語って聞かせましたが、当然理解はされませんでしたが。頭が良いくせに残念な子と言う扱いは、大学生になっても変わらない様です。でも裕子ちゃんだけは、お料理の妖精さん達の件以降、理解をしてくれる様になりました。

「あんたって、何時もやたらと必死だよね」

 ひたすら単位を取りまくり、おまけに国家試験を受けまくる私を、呆れた口調の裕子ちゃんが言った事が有ります。私はもっとのんびりとした、大学生活を期待していたんですが、何故こうなった。

「あんたは、何を目指してるの?」

 裕子ちゃん、私も知らないよ。何と無くノリでやって今に至る訳で。それに一度始めた事を投げ出そうとしても、お勉強の妖精さんは涙ながらに訴えて来んだよ。お勉強の妖精さんを宥めるには、勉強するしか無いのだよ。

「だからさ、あんたは謎の料理店を開いて、大儲けすれば良いんだよ」
「嫌だよ、そんなの。裕子ちゃん、私の夢はお嫁さんだよ」
「だったら、合コンに顔出したら。あんた割とガチな美形だから、イケルとおもうよ」
「フフフフ、言ったね裕子ちゃん。そして私をアホな子扱いする気ね」
「あんたは黙って笑ってりゃ良いのよ」
 
 結局合コンには行きませんでした。

 良いんですよ、フン! 学生の本分は勉強なんですから。今の内に頑張るのです。
 夢は大きく! 目指せ出来る女! そして幸せな結婚!
 そして私は、今日もお勉強の妖精さんから、スパルタ授業を受けます。冬休みにもかかわらず。
 この子達に教わってれば、大学は必要ないんじゃ……。それは、考えてはいけない事なのです。
 皆さんは、四大元素ってご存知でしょうか? 世界を構築する概念である、火・風・水・土、この四つを指して四大元素と言います。

 何でこんな事を言ってるのか? 何故なら存在するんですよ、ちゃんと四種類の妖精さんは。でもね、この妖精さん達は役に立ったり立たなかったりです。当然ながら見た目はとっても可愛いですよ。

 火の妖精さんなら炎がメラメラした様子、水の妖精さんなら流れる水を模した様子、それをデフォルメさせた姿をで、ふわふわと飛び回っています。とっても癒されます。
 癒しパワーは、ゆるキャラなんて目じゃないです。それに、四大元素と言われるだけあって、特化した能力を持つこの子達は、物凄く力が強いんです。

 例えば火の妖精さんです。火と言えば、熱く燃え盛るイメージをすると思います。実際に火の妖精さんは、ひたすら燃やす事に情熱を傾け、消す事なんか考えて居ません。一歩間違えれば放火魔確定です。ブタ箱入りです。

「ねぇ、ちょっと暑いよ。少し抑えてくれない?」

 そんな事を言った日には、燃やすジャンキーな火の妖精は多分グレますね。自棄を起こして、色々燃やし尽くしますよ。私が都内の大規模住宅火災を食い止めている、と言っても過言では無いと思います。

 そもそも、日常的に火を使う事って有ります? 私の自宅は賃貸アパートで、台所はIHだし、ストーブ禁止だし、お風呂はガスだし。火を使うのは、キャンプ場に行った時くらいです。まぁ、キャンプ自体を私はあんまり行かないですけど。誘ってくれる友達も居ませんし……。
 
 そ、れ、は兎も角! 部屋に一人居てくれるだけで暖かいので、冬は重宝します。ファンヒーター要らずです。
 そんな火の妖精さんの有効的な活躍方法は、他に知りません。誰か他に良い活躍方法が思いついたら、教えてください。是非! 是非!

 火の妖精さんと比べ、活躍度が高いのが水の妖精さんです。この子は凄いです。でも、ちょっとツンデレ気味です。

 皆さん、美味し水を飲みたくなりませんか? 何処だか産地が良く分からない水じゃ無くて、美味しい水を。水の妖精さんが出してくれる水は、と~っても美味しいです。

「何この水、すっごく美味しい!」

 そうやってゴクゴク飲んでると、普段は澄ましている表情が凄く柔らかくなります。それを見た私は嬉しくなって、水の妖精さんを抱きしめたくなります。そしてビチャビチャになります。だってこの妖精さんって水ですし……。

 水は生活のあらゆる場面で使用します。お風呂、おトイレ、洗濯、料理、これが全て水の妖精さんが、出してくれるとしたらどう思います?
 私が払ってる水道料金は、基本料だけですね。エコって言うよりも、へそくりが貯まります。

 一番助かるのは何と言っても、火の妖精さんを静かにさせてくれる事です。「今日は何だか燃やしたい気分!」なんて言ってる火の妖精さんのやる気を、ジュっと消してくれます。
 なので、だいたい何時も部屋の中で、鬼ごっこしてます。勿論、鬼は水の妖精さんです。やっぱりフンって顔しながら、火の妖精さんを追いかけます。

 まぁ何だかんだで二人共、楽しそうなので良いんですけど。見てるだけなら癒されますし。二人の妖精さんが鬼ごっこしてるおかげで、私の部屋は蒸気が充満し、冬でも乾燥しらずです。
 でも夏は困ります! 夏に鬼ごっこされると、部屋の中がサウナになるんですよ。湿気やカビ所の騒ぎじゃ有りませんよ!

 そんな時に活躍するのが、偉い子その二の風の妖精さんです。窓さえ開けておけば、蒸し暑い蒸気を外に出して、涼しい風を室内に入れてくれるんです。まさに天然エアコンです。きっとマイナスイオンとか、沢山出してるんじゃないでしょうか?

 風の妖精さんの活躍は、その位かな? でも、部屋の温度管理に大活躍な風の妖精さんのおかげで、電気代は大幅な節約になっています。ありがとう、風の妖精さん。

「あんたの部屋って、何時来ても快適よね」
「そうでしょ?」
「エアコンが無いのに不思議よね」
「そ、そうでしょ……」

 ほら、裕子ちゃんのお墨付きです。

 後一人足り無くないって? わかってますよ。土の妖精さんでしょ! 土の妖精さんは、私の自宅内には居ません。むしろ、出禁です。

 当たり前かもしれませんけど、土の妖精は土の中に居るのが幸せみたいです。休みの日に近所の広場に行くと、ヒョコっと土の中から顔を出します。何かするって程では無いんですけど、一緒に遊びます。
 
 そう言えば、この間作った泥団子は宝石みたいに光ってました。裕子ちゃんに見せたら、「良い歳して馬鹿なの?」と言われました。

「そんな事を平気で言うから、裕子ちゃんの所に妖精さんが現れないんだよ」
 
 そんなこんなの四大元素の妖精さん達です。何だよ便利じゃん、文句言うなよって? 甘いですね! 妖精さん達に言う事を聞いて貰うのは、苦労するんですよ。

 絶対に放置をし過ぎてはいけません!

 放置し続けると、火の妖精さんは自棄を起こすし、水の妖精さんはデレが無くなってツンのみになるし、風の妖精さんは気ままに何処か行くし。土の妖精さんだって、二週間程遊びに行かなかったら、広場を全部砂場に変えてましたよ。

 単体で暴れ出したら、大火事に大洪水等。それを人は災害と呼ぶんです。もしタッグを組んで暴れ出したら、アワワ……。そんなの、人間に制御出来る訳が有りません。

 適度に構って、適度に放置。この加減が難しいとだけ言っておきましょう。
 今年も私は正月に帰省しました。千歳空港を出て一番最初にお迎えしてくれたのは、雪の妖精さんでした。東京では滅多に会う事が出来ない雪の妖精さんとの再会に、私の口元は思わず綻びます。

「久しぶりね。元気にしてた」

 声をかけると、雪の妖精さんは嬉しそうに、私の周りをクルクルと飛び回ります。優しく撫でると、雪の妖精さんは嬉しそうに破顔します。

「その笑顔、プライスレス!」
 
 まあ、叫びたくもなりますよ。この可愛い笑顔を見せてあげたい位です。
 私の実家が有る街は太平洋岸に面し、日本海や内陸部と比べ積雪量は少なめです。その代わりに氷都と呼ばれ、スケートが盛んです。二月初旬に行われる祭りで提供される、しばれ焼きは絶品です。絶対お勧めします。是非一度食べてみて下さい。

 ちなみにしばれ焼きとは、冬の寒い屋外でドラム缶を利用して作る、ジンギスカン料理です。痛い程に肌を突き刺す寒さの屋外で食べるジンギスカンは、身も心も温めてくれます。羊の肉が嫌いって人でも、その美味しさに頬を緩めるでしょう。
 冬期限定なので、知られざる故郷のB級グルメ。しかし、どのB級グルメにも引けを取らない、名物料理です。
 
 さて、今回の帰省で新たにお友達が増えました。雪の妖精さんと、とっても仲良しの妖精さん。なんんと氷の妖精さんです。

 なんて事も無い妖精さんだとお思いでしょう。まぁ凍らせる事が生きがいの妖精さんですし、その通りかもしれませんけど。氷の妖精さんの特筆すべき所は、なんと言ってもその体です。クリスタルの様な体はとても美しく、光が当たるとキラキラと輝きます。芸術品の様な妖精さんです。
 
 氷の妖精さんを始めて見た時は、寒さも忘れて暫く見入ってしまいました。じっと見てる私の顔を氷の妖精さんが覗き込んだ時に、ふと我に返りました。
 私が撫でると、氷の妖精さんは嬉しそうにゆらゆらと揺れます。氷の妖精さんは、とても冷たいけれどスベスベでした。

 当然二人の妖精さんと遊びました。

 内地と違い実家の辺りでは、極太のつららが出来ます。子供の腕より太いつららは、自重に耐えきれず偶に降ってきます。なので軒下に居ると意外と危険なのです。
 
 その日は、落ちているつららを使って、氷の妖精さんがミニサイズの氷像を作ってくれました。氷の妖精さんは芸術的感性が高い様です。
 色々な動物の氷像が次々と並べられて行きます。負けじと、雪の妖精さんが雪像を量産して行きます。実家近くの公園は、ミニ雪まつり会場になりました。
 
 私もちゃんと作りました。でも、私ではせいぜい雪ウサギが精一杯で、しょげていると氷の妖精さんが頭を撫でて慰めてくれました。可愛いですねこの子。連れて帰りたい!

 妖精さん達と遊びまくった翌朝、もう一度公園に行くと人だかりが出来ていました。そりゃそうですよ。いきなり近所の公園がミニ雪まつり会場になっていればね。
 
 近所の人達が、驚きと歓声を上げます。子供達はホッケーもせずに、キャーキャーと奇声を上げてました。案外私の雪ウサギも子供達に人気があったみたいです。
 私が作った物が「可愛い~」って言われれば、嬉しくなりますね。ちゃんとスマホで写真を撮ったので、裕子ちゃん達に見せびらかせてあげよう。

「あなた達が作ったのが、大人気みたいだよ」

 私が声をかけると、妖精さん達が嬉しそうにはしゃぎ始めます。

「その位にして、他の広場にも行ってみない?」

 はしゃぎ過ぎて大雪になっても困るので、少し宥めて別の広場に行きます。私は妖精さん達と、氷像や雪像を作って遊びます。実は帰省中に三か所の公園を、ミニ雪まつり会場にしました。

「相変わらずせわしない子だべ。正月くらい家でゆっくりすれば良いっしょ」
 
 母に小言を言われましたけど、きっと仕方ない事なんです。妖精さん達と遊んでいるのは、とっても楽しいんですから。お子様だって? 余計なお世話ですよ!

 東京に戻った後で知ったんですが、私と妖精さん達がやらかした出来事が、地元ニュースに取り上げられたみたいです。

「あんたっしょ!」
「幸子ちゃん、なした?」
「はんかくさ、ニュースっしょ。したっけ、あんなん作んのはあんたしか居ないしょ」

 高校の友人から電話がかかって来た時は驚きました。ミニ雪まつり会場にした三か所の公園は、連日大賑わいで屋台も出たとか。幸子ちゃん、TV局に私の事をリークしないでね。お願いだよ!

 そんなこんなで忙しなく過ぎた私の帰省です。そして自宅のドアを開けると、沢山の妖精さん達がお出迎えしてくれました。
 わぁ~と一斉に私に群がって来る妖精さん達を見ると、家に帰って来たという安心感が溢れて来ます。

「ただいま」

 その一言だけで、妖精さん達はニコニコの笑顔で集まってくれます。私は幸せ者です。
 ただ、一つ予想外だったのが着いて来てしまった事です。何がって、氷の妖精さんがですよ。びっくりしましたよ。実際事件が起こりました。

 うっかり火の妖精さんが近寄って、氷の妖精さんが溶けかけたんです。私は氷の妖精さんを慌てて冷凍庫に放り込みました。
 現在、氷の妖精さんは冷凍庫で暮らしています。こっそり冷凍庫を開けると、氷の妖精さんはダンスをしています。
 相変わらず、クリスタルの様な美しい体をキラキラさせています。その様子を眺める事が、私の楽しみの一つになりました。
 私は週に一度位のペースで、アルバイトをしています。お金に困ってるとか、欲しい物が有るって訳では無いんです。私の目標は『出来る女』そして『幸せな結婚』ですから。今の内に、職場体験っぽい事をしても良いかな位に、考えたわけですよハハハ。

 因みにお勉強の妖精さんにスパルタされて合格した国家試験は、宅地建物取引主任者、行政書士、税理士の三つです。難易度高いのが混じって無いかって? そうですよ。苦労したんです。寝不足まっしぐらだったんですよ。

 税理士試験は、会計学二科目と、法人税法、消費税法、所得税法の税法三科目に挑戦しました。それを全て一発合格って凄くないですか? まぁ本当に凄いのは、出来の悪い私を指導してくれた、お勉強の妖精さんなんですけどね。

 せっかく超難関試験をクリアしたんだから、やってみよう職場体験! って事で、運良く応募していた、自宅近くの税理士事務所で面接、即採用に至りました。やったね。

 順風満帆じゃないですか。とうとう私の時代が来たかと思いました。はい、調子に乗るのはここまでです。知ってます。人生そんな甘くないって。でも良いじゃないですか、夢くらい見たって。
 
 税理士ってなんかカッコイイねとか、収入良さげだねとか、私だってその位は考えますよ。「御社はここを注意した方が良いですよ」なんて、さらっと言っちゃたりして。『これぞ出来る女!』でも、実際にはと~っても地味でした。

 ファイリング等の雑用から始まり、先輩職員の補助をして、空いた時間にパソコンへ向かって伝票入力の日々です。
 
「先輩職員が合格出来て無い税理士試験を、五科目私は合格してるんだぞ! もっと内容の濃い仕事よカモーン!」

 そんな愚痴を言っても仕方ありません。だって、仕事未経験の人間、それに週一のアルバイトに任せる仕事なんて、たかが知れてます。なので黙々と言われた事をこなしつつ、先輩職員の仕事ぶりを拝見させてもらいます。

 税理士事務所のお仕事は、ざっくり言うと申告のお手伝いと税務相談です。申告するには申告書を作らなければいけません。その為に、企業が一年間どの様な経営を行ってきたかを、まとめる必要が有るんです。それが年度決算、四半期決算、月次決算と言われる物です。

 企業によっては、税理士事務所へ全て丸投げする所もあれば、全て自社で決算を行い、申告書のチェックだけお願いする企業も有り、依頼形態は様々です。ですが、申告のお手伝いという所に変わりは有りません。

 多分誰でも慣れれば、基礎的な簿記の知識で、決算に関連した作業は出来るでしょう。大切なのは正確である事です。その為に、税務のスペシャリストで有る、税理士が居るのです。

 当然ながら、税計算は法律に基づいて計算が行われます。会計処理も会計基準と呼ばれる物が存在します。税法を逸脱した処理を行えば、税務調査が入った時に追徴課税をされるでしょう。しかも、税理士事務所が確認した申告にミスが有ったら、目も当てられません。実にシビアな仕事です。

 アルバイトを始めて気が付いたのは、仕事って楽じゃないって事です。知識だけでは分からない。実際に体験して始めて気が付いたシビアな現実です。「内容の濃い仕事カモーン」と調子に乗っていた私を、叱りつけたい気分になります。

 私は自分を要領が良いタイプと思った事は、一度も有りません。頭の回転も良くないです。そんな私が国立大学に通い、税理士試験に合格したのは、何度も言いますがお勉強の妖精さんのおかげなんです。

 そしてここでも、登場しました。じゃん! お仕事の妖精さん。
 ただ、スーツ姿なのは『お仕事』だからなんでしょうか? 私のバイトが税理士事務所じゃなかったら、作業着だったりしたんでしょうか? でも、恰好なんて二の次って位に助けてくれる妖精さんでした。

「この資料、あのファイルに入れといて」

 先輩職員のぶっきら棒な指示に、「えっ! どのファイル?」とまごつく私に、お仕事の妖精さんは、ひらひらと飛んでファイルの所の場所を教えてくれます。
 パソコンに入力していると「この仕訳間違ってるよ」と優しく教えてくれます。他にも仕事の段取りやら何やら、色々と教えてくれます。社会経験の無い私にとって、とても有難い存在です。
 
 お仕事の妖精さんって位だから、仕事を代わりにしてくれないのかって? 甘々ですね。お砂糖盛り沢山です。この妖精さん、リアルに干渉する力は持ってません。

「あなたは、入力とか出来るの?」

 そう言うと、お仕事の妖精さんは小さい体をぴょんぴょん動かして、キーボードーを打ってくれました。キーボードの上でダンスをしているみたいで可愛かったです。
 でもね、実際には記録に残りませんでした。不思議ですね。でも良いんです。丁寧に仕事を教えてくれますし、右も左もわからない私には貴重な存在なんです。

 そんなお仕事の妖精さんは、アルバイトに向かう私に必ず着いて来てくれます。
 
「今日もよろしくね」

 お仕事の妖精さんを撫でると、笑顔でかっこよくポーズを決めてくれます。その笑顔だけで、やる気がムクムク湧いてきます。

 仕事に慣れ始めた頃です。ある先輩職員に言われました。

「君、凄いね。仕事は早いし正確だし。流石その年で税理試験に合格しただけ有るね」
「いや、まだまだ勉強させて頂いてます、ハハハ」

 褒められたのは嬉しいけど。言えない、全て妖精さんアドバイスですとは。
 税理士の先生からは、勧誘されました事もあります。

「君、大学卒業したら、うち来ない?」
「け、検討させて頂きます」

 先生に答えた時の私は、引き攣った笑顔だったと思います。だって税理士になって開業しても、私が新規顧客開拓を出来る筈が無いでしょ。そんな事を裕子ちゃんに相談したら、あっさりと流されました。

「あんた、ノリだけで生きてるよね。もう少し深く将来の事を考えなよ」
「美味しい物を食べる為に生きている様な、裕子ちゃんに言われたくないよ」
「馬鹿ね。私は美味しい物食べる為に、お金を稼ぐのよ。目的がはっきりしてるでしょ。あんたは、お嫁さんとかフワフワした事考えて無いで、具体的にどうするのか考えた方が良いのよ」
「やってるじゃない。国家試験も受かったし、バイトもしてるし」
「でも、税理士になるつもりは無いんでしょ?」

 私は返す言葉が有りませんでした。くそぅと思っている私に、お仕事の妖精さんが頬擦りしてくれます。

 そう。私にはこの子が居るんです。どんな仕事も、この子が居ればへっちゃらよ!

「これからも、相談に乗ってね」

 私がお仕事の妖精さんを撫でると、キラキラ笑顔でサムズアップしてくれました。

「仕事が出来ても、結婚は出来ないんだからね」

 裕子ちゃんに止めを刺されて、私は崩れ落ちます。何処かに恋愛の妖精さんは居ないでしょうか?
 私の知る妖精さんは、不可思議な力を使う子と、そうで無い子に分かれます。お料理やお掃除の妖精さんは、物理的な力でお料理やお掃除をします。お勉強やお仕事の妖精さんは、知識を教えてくれる存在です。
 妖精と言う存在自体がファンタジーな癖に、謎の力は使いません。ファンタジーなのは、その知識は何処からって所や、小さい体で大きな物を持ち上げる所です。
 逆に自然にまつわる、四大元素や雪、氷の妖精さんは、ファンタジー要素たっぷりです。まぁ自然なんて物を操る位ですから、謎パワーですよね。

 そんな謎パワーを使う妖精さんは、自然にまつわる妖精さんだけでは有りません。私はその子を予防医療の妖精さんと呼んでいます。
 
 予防医療の妖精さんは、別段治療をしてくれる訳では有りません。では何をしてくれるのか? 人の目に見えないウィルスや菌、特に人に有害な雑菌等を好んで食べている様です。
 曖昧な言い方ですか? 勘弁して下さい。謎パワーを使う妖精さんの実態が、私に解る筈無いんです。
 
「そう言えば最近、風邪ひかない様になったな」

 ふと、そう思った時の事でした。私の周りをフワフワ飛んでいる、見知らぬ妖精さんに気が付きました。白衣を着たその子は私の肩に乗っかって、口をモグモグとさせて飛んでいます。

「あなた、何してるの? 何か食べてるの?」

 私がその子に尋ねると、風邪のウィルスを食べていると教えてくれました。

「美味しいの?」

 もう一度尋ねると、とても良い笑顔で頷きました。どうやら、私が風邪を引きにくくなったのは、私の周囲に飛んでいる風邪ウィルスを、この子が食べつくしたかららしいです。
 この子曰く、風邪よりもインフルエンザウィルスの方が美味しいとか。私にとっては、どうでも良い情報ですけど。

 気になった私は伝手を頼り、細菌を研究している研究室で少々実験をしました。おっと、今へんな事考えませんでした? 失礼ですね! 私の友達は裕子ちゃんだけじゃ無いですよ。

 ゴホン。話しが逸れました。
 行ったのは、単純な実験です。アオカビを培養させたシャーレを見せたら、この子は興味を引くのか? そして実験にはなんと立ち会いが付きました。実験に立ち会ったのは、研究室を紹介してくれた私の友人と、一人の教授です。
 
 妖精さんは、目をキラキラさせながら二人を見ています。これから何が始まるかわかっているのでしょうか? 面倒事にならなきゃ良いけど……。そう思う私とは裏腹に、この子は凄い勢いでシャーレ内のカビを、食べつくしました。
 みるみるとシャーレから消えていくカビを見て、見ていた友人と教授が唖然としてました。私も青くなりました。そして直ぐに逃げました、当然です。
 医療大革命が起きる可能性が有るんですよ。五分と立たず捕まりましたけどね。ぐすん。

「何が起きたのか説明したまえ!」

 教授は興奮しています。友人も目を爛々と輝かせてます。私は後悔しました。実験するなら、家でこっそりすれば良かった。時すでに遅く、私は後ろ手に拘束されてます。何もここ迄しなくても……。

「絶対に秘密でお願いします。そもそも信じないと思いますよ」

 そして、私は妖精さんの事を説明しました。ですが、一笑に付されまし。それが自然な反応何でしょうけどね。

「本当の事なんです!」

 私は強く主張しますが、今度は激しい怒りが待ってました。良く顔を真っ赤にとか、筋を浮かべて等と言いますが、あの怒りの形相は赤鬼も真っ青ですね。

「まぁまぁ教授。実験の続きをすれば何かわかるんじゃないですか?」
「ふん、それもそうだ。続きをするぞ! 直ぐにだ! 急ぎたまえ!」

 興奮が収まらない教授を友人が宥めて、実験が続けられます。でもね、数時間で教授の興味は覚めたようです。恐らく妖精さんという見えない生命体の力に、利用価値は無いと考えたのでしょう。

「何というか、ダメだな」
「そうですね。これは期待外れですね」

 この子は人体に有害なカビ菌は食べますが、アオカビや酵母等の菌は食べませんでした。それと空中に浮遊しているウィルスは食べますが、一度体内に入ったウィルスは食べませんでした。
 これをうまく説明出来るかわからないですけど、『風邪等の病気を予防できる』が『風邪を治してくれるわけでは無い』って感じだと思います、はい。

 教授の興味も無くなるのは、仕方ないですね。友人にも冷たい視線を浴びせられました。
 
「期待させやがって、けっ!」

 なんと言う酷い罵声! 私が悪いんじゃ無いのに……。

 多分ですけど、この子の食べるか否かは、食べ易さでは無いかと思います。空中に浮遊しているウィルスは食べるけど、わざわざ人体の中に入ってまで食べたくない。
 食品の表面についたアオカビはほじって食べるけど、発酵食品の中にいる発酵菌を食べるのは面倒とか?

「当たりでしょ?」

 私が尋ねると、この子はクルリと回って、良い笑顔で頷きました。それだけじゃ無くて、人体に無害な菌は美味しくないけど、有害な菌はこの子にとって美味だそうです。

 微妙に役立たず? 妖精さんは、常に自分が楽しいと思う事に精一杯なんです。だから嫌な事や面倒な事は極力避けます。

「そうだ! あなたの名前は、予防医療の妖精さんね!」

 せっかくだから、かっこいい名前をプレゼントしてあげます。私の周りを飛び回るので、喜んでくれたのだと思います。
 そして予防医療の妖精さんは、今日も私の周りをフワフワと飛んでいます。口をモグモグと動かしながら。
「妖精って色々な種類が居るんでしょ? 癒しの妖精って居ないの?」

 ある時、裕子ちゃんに尋ねられました。浅はかですね、裕子ちゃん。全ての妖精さんが癒し効果を持っているんです。そうなんです。でも、癒し効果ナンバーワンの妖精さんを敢えて上げるとすれば、音楽の妖精さんでしょうね。
 
 音楽が趣味って方は多いと思います。私個人としては、大好きって程では有りません。なのに何故、私の前に現れたのでしょう?

 試験勉強で徹夜が続いて、些か不眠症気味になっていた私は、電気を消しても目を瞑っても眠気が訪れずにいました。
 その時、何処からかギターの音が聴こえて来ました。クラシックギター独特のナイロン弦から奏でられた音は、優しく私の耳に響きます。ふと音のする方向を見ると居ました、妖精さんがちっちゃいギターを抱えていたんです。

 私はギターの柔らかい音色に意識を失い、気が付いた時には朝でした。いや~、ぐっすりでした。目覚めもスッキリ!

 それから暫くの間、寝る頃に現れてギターを弾いて、私を眠らせてくれました。アルファー波でも出してるんでしょうか? しっかりと眠る事が出来ると、一日の活力が違います。「睡眠って大事だね」と実感させられました。

 ただね、ギターを弾き始めるといつも寝てしまう私に、不満でも有ったのでしょうか? 寝る前以外でも現れる様になりました。しかも集団でですよ!

 ピアノから始まり、バイオリン等の弦楽器、トランペット等の管楽器、ちゃんと打楽器も。小さい楽器を抱えた妖精さん達の集団です、フルオーケストラです。

 楽器が小さいからってバカにしてはいけません。この感動をどう伝えれば良いでしょう。コンサートホールで一流オーケストラの演奏を聴いた時にこそ、こんな感動を味わえるんでしょう。多分そんな感じです。

 安い木造ワンルームで、大音量の演奏を流したらどうなるって? 普通なら近所迷惑満載ですよね。でも、ご心配無用です。
 音楽の妖精さんも謎パワー満載でした。音楽の妖精さんが奏でた音は、どうやら私以外には聴こえないようです。実は裕子ちゃんで実験しました。

 演奏する音楽は、クラシックに限りません。ロック、ジャズ、ブルース、何れも名曲の数々を再現してくれます。ヒップホップまでやってくれた時は驚きました、この子達って何でも有りかってね。

 そもそもエレキギターの音って、何処から聴こえて来るのよって思いません? そして、私は考えました。『この子達はTVの音を、映画館並みの大迫力にしてくれるのでは無いか』と。『何十万もする音響システムを揃えなくても、この子達なら可能じゃ無いか』と。
 
 欲をかいた私が馬鹿でした。
 音楽の妖精さんは、TVの音を映画の迫力にはしてくれませんでした。何と言うか、デジタル、アナログ等音質に関係無く、作られた音を変化させる事は出来ない様です。裕子ちゃんの家に有るミニアンプでも試しましたが、結果は同じです。

 要するに音楽の妖精さんは、音を操る妖精さんじゃ無く、音楽を奏でる妖精さんという事です。
 まぁでもね。この子達が奏でる音楽は、すっごく癒されるんですよ。有名な曲を再現してくれますが、この子達のオリジナル曲は特に最高です。
 
 この子達のおかげで分かった事ですが、音楽はその場所、時間、雰囲気によって合った曲が変わります。例えば朝は元気が出る曲、寝る前は静かな曲みたいに。
 この子達は、的確に雰囲気に合った曲を奏でてくれます。ただでさえ美味しい、お料理の妖精さんが作った料理が、更に美味しく感じるんです。私の部屋が一瞬にして高級料理店に。いや、王室御用達に! って、私は何を言ってるんでしょう。
 勉強も捗ります。この子達の奏でる音を聴いていると、自然と集中出来るんです。助かります。

 音楽の妖精さんは、自分達の演奏を聴いてくれる時が一番嬉しそうにしてます。聴いたら直ぐに寝てしまう子守歌系は、演奏してくれる回数が減りました。
 お願いすれば子守歌系も演奏してくれるんですが、「だって直ぐ寝るんでしょ」と目で訴えられると頼み辛いです。

 前にバイトで疲れて帰って来た日、この子達の演奏を聴きながら寝てしまった時は、演奏を止めたこの子達にユサユサ揺さぶられて起こされました。ちゃんと聴いて欲しい時は、起こしてでも聴かせる。流石、プロ根性ですね。

 音楽聴き放題アプリも顔負けな、ありとあらゆる名曲を再現してくれる、音楽の妖精さん達。それは流行の音楽も同様です。「今年のヒット曲なんだよ、知らないの?」って顔されると、ちょっと悔しいです。
 
「悪かったわね。疎くてさ!」

 私が拗ねると、音楽を奏でてご機嫌を取ろうとする所は、カッコよさを感じてしまいます。

「あなた達どこでこの曲覚えたの?」

 私が訪ねても、笑顔で笑って誤魔化されます。教えてくれても良いと思うんですけど。
 今度この子達の一日を観察してみようかしら。でも、この子達って私が傍に居る時は、大抵演奏してるんだよね。謎の多い妖精さんです。
 
 そして今朝は、音楽の妖精さん達に起こされました。
 五月蠅い目覚まし時計のベルでは無く、爽やかな目覚めの音楽です。おかげで爽やかな朝を迎えられました。私は幸せ者です。