1ヶ月後。スコラ・シャルロに入学した私は、元聖女という肩書を隠しながら、学生生活を続けた。
ジェニファーのせいで、私にはクラスに友達がいない。ジェニファーは、私の悪い噂を流しているからだ。
「ミレイアは、すぐ先生にチクる」
「ミレイアは、人の悪口を平気で言う」
「ミレイアは、暴力沙汰を起こして、シャルロに編入した」
などなど。
ジェニファーはよくもまあ、こんな大ウソを流せるものだ。私は生徒一人一人に、訂正してまわる気も起きない。
(面倒くさい)
ジェニファーは、エクセン王国の軍隊指揮官という立場を利用して、国家予算も使いまくりだった。
ブランド品を買いあさり、生徒たちにプレゼントし、自分の取り巻きにしていったのだ。
◇ ◇ ◇
「大切なお話があります」
ある朝、朝礼で、ヤギのようなアゴひげの理事長先生が口を開いた。
「1ヶ月後に、この学校で、『スコラ・シャルロ魔法競技会』を行います。出場できるのは、『聖女』を目指す『聖女コース』、『魔法使い』を目指す『魔法使いコース』、『僧侶』を目指す『僧侶コース』に所属する女子です」
うおおおっ……。
「今年もきたか!」
「やべぇ女の戦いが見れるぞ」
「弱肉強食の世界だ……」
生徒たちは噂をし始めた。スコラ・シャルロ魔法競技会は、シャルロ王国国民にとっても、大きなイベントだ。学生が名誉をかけて魔法と術を駆使して、懸命に戦うのだから。
(注 スコラ・シャルロには、勇者、聖女を目指すコースだけでなく、魔法使いや僧侶を目指すコースもある)
私、ミレイアも朝礼で理事長の話を聞いていた。私は「聖女コース」の女子だから、出場資格はある。
「戦いの模様は、魔導飛行水晶球により、シャルロ全土に放送されます」
スコラ・シャルロは超有名学校でもあるので、国民は興味津々だ。
「予選は出場女子生徒と、勇者コースの生徒がパートナーとなって、もう1組の生徒たちと闘います。1試合、2対2の構図になります」
ええっ? パートナー? そんなのいないよ!
「今年も厳選された4組の生徒が、立候補、推薦により、予選に選ばれます。自信のある生徒は、『勇者コース』所属のパートナーを見つけ、ぜひ、魔法競技会に出場してください」
うーん……。私はちょっと出場をあきらめそうになった。
理事長先生は話を続けた。
「では、今年の予選ルールですが」
生徒たちは、興味深そうに理事長先生を見た。
「サバイバル方式で行いたいと思います」
どよよっ……。
そんな騒ぎ声が周囲に響いた。サバイバル方式? 何だろう、それ。
「予選A組の2チーム……計4人は、シャルロ王国東部、リリシュタインの森に入り、2日間戦ってください。予選B組の2組のチームは、シャルロ西部、アルダマールの森に入っていただきます。ルールは……」
・聖女はどんな魔法、術を使っても構わない
・聖女のパートナーの勇者は、魔力模擬刀という模擬刀を携帯、使用する
(注 魔力模擬刀とは、刃の部分が鉄材ではなく、魔力の刃になっている。実際に体を斬らず、斬った部分に電撃が走る)
・聖女はどんな杖を使っても構わない
・森の中で2日間生活。その期間で相手を失神、まいったをさせれば、決勝進出
「ということです。では、参加希望者は先生に申し出ること。注意点としては、きちんとパートナーの勇者を見つけてから、申し出てくださいね」
理事長先生はそう言って、壇上を降りた。
……パートナー……男子……。
そんなのいるわけない!
◇ ◇ ◇
放課後の教室──。
私が魔法競技会の参加をあきらめて、寮へ帰り支度を始めていると、後ろから声が掛かった。
「よう」
横から男子の声がかかった。
ナギトだ。ナギトは隣のクラス。2年A組だ。
「ミレイア、お前、魔法競技会に出たいんだろ?」
「……出ない」
「は? 何でだよ? お前の術や魔法の実力だったら……」
「パートナーがいないからです」
「……お前なー、何でオレがここに来たか、想像つくだろーが」
私はハッとした。まさか、ナギトがパートナーになってくれるの? いやいやいや。なんで、こいつと組まなきゃいけないの? ナギトって何かうるさいし。
「オレと一緒に出ろよ。それしかねぇだろ。お前、優勝したら一躍、スコラ・シャルロの英雄だぜ! パートナーも賞賛される。つまりオレも、この学校一番の英雄になれるんだ!」
ナギトは目を輝かせて言った。
「そうなりゃ、メチャクチャかっこいいぞ。王様気分だ!」
こ、子どもっぽい……。学校で一番の英雄……王様気分って……。
(……ナギトには悪いけど、どう断ろうかな)
私はそう思ったものの、マデリーン校長の言葉が頭から振り払えなかった。
「ミレイア、あなたはこの学校の魔法競技会に出場なさい。世界に危機がおとずれるかもしれません。その時に備え、自分を高めるのです」
うむむ……校長先生の言葉なら、仕方ないのかな。
うー……もう、しょうがないっ!
「じゃ、じゃあ、ナギトをパートナーにして、候補者に立候補しましょう」
「おっ、本当か?」
ナギトは飛び上がって喜んだが、私はプイと横を向いてしまった。あーあ、承諾しちゃった。
「そうこなくちゃ!」
ナギトはうれしそうに言ったが、私はすぐに言葉を返した。
「で、でも、別にナギトのことが気に入って、パートナーにするわけじゃないんだからね! あくまでも、『しょうがなく』です!」
「お前、顔が真っ赤になってんぞ」
ナギトはクスクス笑いながら言った。
ハッ……。私は恥ずかしくて顔を隠した。
「なーんてウソだけど」とナギト。やられた。
「と、とにかくですね! 出場するからには、優勝しましょう! あ、でも、その前に出場者に選ばれないと……」
私が宣言すると、ナギトも大きくうなずいた。
「なーに? あんたたちも、魔法競技会に出場するの?」
ジェニファーがニヤニヤ笑いながら、近づいてきた。彼女の横には、勇者コースの秀才、ゲオルグがいた。やっぱり、ジェニファーも出場者候補か! しかも、パートナーはクセモノのゲオルグ!
「ミレイア、私があんたに負けるわけがない」
ジェニファーは言った。
「私は最強の杖──ゴルバルの杖を持っているんだから」
「……ふーん、ポイズンモンキーから逃げ出した、軍隊指揮官が何を言ってるの?」
「な! う、ぎ、ぎ」
ジェニファーは私をにらみつけた。
「私は候補に確実に選ばれるはずよ。優勝するのは私! あと、そのポイズンモンキーの話を皆に言いふらしたら、承知しないから!」
ジェニファーはプリプリ怒りながら、教室を出ていってしまった。
「やるしかねぇようだな」
ナギトは笑っている。
私はため息をついた。勝負ごとは、あんまり好きじゃないのになあ……。
ジェニファーのせいで、私にはクラスに友達がいない。ジェニファーは、私の悪い噂を流しているからだ。
「ミレイアは、すぐ先生にチクる」
「ミレイアは、人の悪口を平気で言う」
「ミレイアは、暴力沙汰を起こして、シャルロに編入した」
などなど。
ジェニファーはよくもまあ、こんな大ウソを流せるものだ。私は生徒一人一人に、訂正してまわる気も起きない。
(面倒くさい)
ジェニファーは、エクセン王国の軍隊指揮官という立場を利用して、国家予算も使いまくりだった。
ブランド品を買いあさり、生徒たちにプレゼントし、自分の取り巻きにしていったのだ。
◇ ◇ ◇
「大切なお話があります」
ある朝、朝礼で、ヤギのようなアゴひげの理事長先生が口を開いた。
「1ヶ月後に、この学校で、『スコラ・シャルロ魔法競技会』を行います。出場できるのは、『聖女』を目指す『聖女コース』、『魔法使い』を目指す『魔法使いコース』、『僧侶』を目指す『僧侶コース』に所属する女子です」
うおおおっ……。
「今年もきたか!」
「やべぇ女の戦いが見れるぞ」
「弱肉強食の世界だ……」
生徒たちは噂をし始めた。スコラ・シャルロ魔法競技会は、シャルロ王国国民にとっても、大きなイベントだ。学生が名誉をかけて魔法と術を駆使して、懸命に戦うのだから。
(注 スコラ・シャルロには、勇者、聖女を目指すコースだけでなく、魔法使いや僧侶を目指すコースもある)
私、ミレイアも朝礼で理事長の話を聞いていた。私は「聖女コース」の女子だから、出場資格はある。
「戦いの模様は、魔導飛行水晶球により、シャルロ全土に放送されます」
スコラ・シャルロは超有名学校でもあるので、国民は興味津々だ。
「予選は出場女子生徒と、勇者コースの生徒がパートナーとなって、もう1組の生徒たちと闘います。1試合、2対2の構図になります」
ええっ? パートナー? そんなのいないよ!
「今年も厳選された4組の生徒が、立候補、推薦により、予選に選ばれます。自信のある生徒は、『勇者コース』所属のパートナーを見つけ、ぜひ、魔法競技会に出場してください」
うーん……。私はちょっと出場をあきらめそうになった。
理事長先生は話を続けた。
「では、今年の予選ルールですが」
生徒たちは、興味深そうに理事長先生を見た。
「サバイバル方式で行いたいと思います」
どよよっ……。
そんな騒ぎ声が周囲に響いた。サバイバル方式? 何だろう、それ。
「予選A組の2チーム……計4人は、シャルロ王国東部、リリシュタインの森に入り、2日間戦ってください。予選B組の2組のチームは、シャルロ西部、アルダマールの森に入っていただきます。ルールは……」
・聖女はどんな魔法、術を使っても構わない
・聖女のパートナーの勇者は、魔力模擬刀という模擬刀を携帯、使用する
(注 魔力模擬刀とは、刃の部分が鉄材ではなく、魔力の刃になっている。実際に体を斬らず、斬った部分に電撃が走る)
・聖女はどんな杖を使っても構わない
・森の中で2日間生活。その期間で相手を失神、まいったをさせれば、決勝進出
「ということです。では、参加希望者は先生に申し出ること。注意点としては、きちんとパートナーの勇者を見つけてから、申し出てくださいね」
理事長先生はそう言って、壇上を降りた。
……パートナー……男子……。
そんなのいるわけない!
◇ ◇ ◇
放課後の教室──。
私が魔法競技会の参加をあきらめて、寮へ帰り支度を始めていると、後ろから声が掛かった。
「よう」
横から男子の声がかかった。
ナギトだ。ナギトは隣のクラス。2年A組だ。
「ミレイア、お前、魔法競技会に出たいんだろ?」
「……出ない」
「は? 何でだよ? お前の術や魔法の実力だったら……」
「パートナーがいないからです」
「……お前なー、何でオレがここに来たか、想像つくだろーが」
私はハッとした。まさか、ナギトがパートナーになってくれるの? いやいやいや。なんで、こいつと組まなきゃいけないの? ナギトって何かうるさいし。
「オレと一緒に出ろよ。それしかねぇだろ。お前、優勝したら一躍、スコラ・シャルロの英雄だぜ! パートナーも賞賛される。つまりオレも、この学校一番の英雄になれるんだ!」
ナギトは目を輝かせて言った。
「そうなりゃ、メチャクチャかっこいいぞ。王様気分だ!」
こ、子どもっぽい……。学校で一番の英雄……王様気分って……。
(……ナギトには悪いけど、どう断ろうかな)
私はそう思ったものの、マデリーン校長の言葉が頭から振り払えなかった。
「ミレイア、あなたはこの学校の魔法競技会に出場なさい。世界に危機がおとずれるかもしれません。その時に備え、自分を高めるのです」
うむむ……校長先生の言葉なら、仕方ないのかな。
うー……もう、しょうがないっ!
「じゃ、じゃあ、ナギトをパートナーにして、候補者に立候補しましょう」
「おっ、本当か?」
ナギトは飛び上がって喜んだが、私はプイと横を向いてしまった。あーあ、承諾しちゃった。
「そうこなくちゃ!」
ナギトはうれしそうに言ったが、私はすぐに言葉を返した。
「で、でも、別にナギトのことが気に入って、パートナーにするわけじゃないんだからね! あくまでも、『しょうがなく』です!」
「お前、顔が真っ赤になってんぞ」
ナギトはクスクス笑いながら言った。
ハッ……。私は恥ずかしくて顔を隠した。
「なーんてウソだけど」とナギト。やられた。
「と、とにかくですね! 出場するからには、優勝しましょう! あ、でも、その前に出場者に選ばれないと……」
私が宣言すると、ナギトも大きくうなずいた。
「なーに? あんたたちも、魔法競技会に出場するの?」
ジェニファーがニヤニヤ笑いながら、近づいてきた。彼女の横には、勇者コースの秀才、ゲオルグがいた。やっぱり、ジェニファーも出場者候補か! しかも、パートナーはクセモノのゲオルグ!
「ミレイア、私があんたに負けるわけがない」
ジェニファーは言った。
「私は最強の杖──ゴルバルの杖を持っているんだから」
「……ふーん、ポイズンモンキーから逃げ出した、軍隊指揮官が何を言ってるの?」
「な! う、ぎ、ぎ」
ジェニファーは私をにらみつけた。
「私は候補に確実に選ばれるはずよ。優勝するのは私! あと、そのポイズンモンキーの話を皆に言いふらしたら、承知しないから!」
ジェニファーはプリプリ怒りながら、教室を出ていってしまった。
「やるしかねぇようだな」
ナギトは笑っている。
私はため息をついた。勝負ごとは、あんまり好きじゃないのになあ……。