魔法に関してはペスカに適うとは考えられない。何せ、大量のモンスターを簡単に屠ってみせたのだから。それすら本気ではない。底が知れないとはこんな事を言うのだろう。
しかし、体術に関しては冬也に一日の長が有る。冬也はペスカの突いて『ゴン』と、重い一撃を見舞う。
「ま、さ、か、おにいたんてば」
「大丈夫、みねうちだ」
「頭突きにみねうちなんて無いし……」
そうして混浴を企むペスカを、事前に冬也は阻止した。しかし冬也は、巧みに部屋のドアの鍵を開けて、ベッドへ侵入するペスカを阻止出来なかった。
「ったく。どうやって入って来たんだ。しかもこんなでかいベッドなのに、引っ付いて来やがって。仕方ねぇやつだ」
起きがけの冬也は独りごちる。そして、しがみついて眠るペスカを、起こさないようにそっと引き剥がし、ベッドから降りカーテンを開ける。部屋から見える海には、水平線から顔を出す朝陽で、キラキラと輝いていた。
「綺麗だな。写真に残しておきたい風景だな」
「そうでしょ。朝陽が写る海が最高だよね」
冬也が振り向くと、ベッドの上でペスカが伸びをしていた。
「ペスカ、起きたのか」
「お兄ちゃん、良く眠れた?」
「あぁ。お前は?」
「お兄ちゃんおかげで、ぐっすりだよ」
「それで、今日はどうするんだ?」
「街へ繰り出すよ~! お楽しみにね!」
身支度を整え、二人は食堂に向かう。朝食で出された物は、普通にパンとスープ、サラダ等であった。
何も腕の良いシェフに無理を言い、エセ日本食を作らせる必要はない。冬也は、ルクスフィア伯爵邸での食事と比較し、出されたホテル風の朝食を堪能した。
「そう言えば、この絵って誰だ?」
「私だよ、お兄ちゃん」
「生まれ変わる前のやつか……」
「それがどうしたの?」
「いや、何。クラウスさんとシリウスさんは兎も角、この家のメイドさん達は、どうやってお前をペスカだって認識したのかなって思ってさ」
朝食を済ませた後、冬也は人物画を見つめていた。どうでも良い事が気になる時もあろう。何せその肖像画はホールに入ればどこからで見える様に、とても目立っていたのだから。
それに、何処に行ってもペスカがペスカ自身だと認識される事に、多少の違和感を感じていたのだろう。前世と容姿は違っているはずなのだ。「誰だね君は?」と言われてもおかしくは無い。
それが例のカードだけで証明出来るとは思えない。同様に、シリウスがペスカをマナで本物だと判断したのと同じ事を、皆が出来るとは思えない。
「多分シルビアが連絡してたんでしょ?」
「そうか、そんなんで済む事か?」
「細かい事を気にしてると剥げるよ」
「剥げねぇよ!」
冬也が納得したのかしていないのかはいざ知らず、二人は街を散策すべく屋敷を出る。その際に護衛に付こうとする兵士達へ、ペスカは留守を言い渡した。そして二人きりになると、ゆっくり歩いて街へと向かった。
昨日、馬車の中から街の様子は見ていた。実際に歩いてみると、新たな発見がある。ペスカ邸から出ると、高級そうな住宅街が立ち並ぶ。この辺りは上級貴族達の、別荘地帯になっているそうだ。
「こうやって見ると、豪華な建物ばっかりだけど、宮殿みたいなペスカの家見たら、ショボく感じるな」
「あれはこの国の王様が建てた物だし、まぁ私の趣味とは、少し違うんだけどね」
別荘地帯を抜けると、海に面した大きな広場が見えて来る。
円形状の広場を中心に道が併設され、幾つもの脇道へと繋がってた。広場は住民を始め、観光客の憩いの場でも有るのだろう。綺麗に刈られた芝生の上には、数個のベンチが有る。海を眺めながら、一息つくにはもってこいの場所かもしれない。
そして広場の中心には、美しい女神の様な像が立っていた。
「ペスカ。この世界でも、女神の信仰ってあるんだな」
「何言ってんの、お兄ちゃん。あれ私だよ」
冬也は首を傾げて、ペスカと像を何度も見比べる。
「はぁ? バカじゃねぇの?」
「本当だよ! 信じて無いの?」
「だって、あの像おっきいじゃん」
「お兄ちゃん。何処見て言った! 何処見て言った! 何処見て言った~!」
「いや、何処って身長に決まってんだろ!」
「当たり前だよ! 何度も言うけど、生まれ変わってんだよ!」
「そっか、お前もあんなにおっきくなると良いな」
「な、お兄ちゃんのバカ! 本人を目の前にして言うセリフじゃないよ!」
冬也の不要な発言で、ペスカはプリプリと頬を膨らませる。そんなペスカを宥めて、二人は再び街の散策を始めた。広場を抜け目抜通りに入る。
目抜き通りには、そこかしこに海鮮物を扱う商店や飲食店が立ち並び、開店直後の時間にも関わらず、多くの人で賑わっていた。
「せっかくだし、海鮮料理を味わおうよ。行くよ、お兄ちゃん」
「海鮮料理って言ってもさ、変な魚出てくるんじゃ無いよな」
「日本で見るような魚は無いよ。まぁ独特な色をしたり、ちょっとグロテスクだったりするけど、ちゃんと食べられるし美味しいよ」
「本当か? 嘘だったら、お仕置きな」
「なら、美味しかったら、今日は混浴だからね」
「しねーよ、馬鹿!」
二人は、取り合えず目に入った食堂へと、足を踏み入れる。そして、店員に案内されてテーブルにつくと、メニュー表を渡された。しかし表記された品は、冬也にでは全く想像がつかない。店員さんに聞くと、煮たり焼いたりする料理が多いらしい。
ただ、現地の物を食べるのが、旅の醍醐味であろう。冬也は、詳しいであろうペスカに注文を任せる事にした。
「なぁペスカ。基本は、日本の定食屋と変わらねぇのか?」
「味付けは、東南アジアに近い感じかな?」
「刺身みたいのは、無いのか?」
「基本、この辺では食べないね。必ず火を通すの。香辛料を使った料理も多いよ」
出てきた料理は、魚の煮付け、焼き魚、貝のスープ等、魚介尽くしの料理が並んでおり、見た目にも食欲がそそる料理であった。
「どう、お兄ちゃん?」
「魚の味自体は淡白だけど、独特な調味料使ってんな。香辛料やハーブで味付けしてるのか? 食えなくは無いな」
「これが、マーレの伝統料理だよ」
「そっか。地域でこんなに差が出るのか、面白れぇな」
食事を堪能すると、次は市場へと足を運ぶ。既に競りが終わった時間にも関わらず、人が行き交う活気に溢れる場所であった。
「ここが市場ね。時間帯によっては、マーレで最も人が集まる場所だよ」
「築地みたいなもんだな。ところでこの辺で獲れる魚は、見ること出来ねぇの?」
冬也の願いに応えようと、ペスカは市場関係者と交渉する。すると、今朝荷揚げしたばかりの魚を、見せてもらえる事になった。
市場関係者に連れて行かれた場所は、競りが終わった魚を各店に運搬する為の作業場であった。そこには、日本では見る事が出来ない、色鮮やかであったり、深海魚も真っ青な程に異様な形の魚が並んでいた。
「キモ! これ本当に魚か? 食えんのか?」
「何言ってんの? さっき食べたじゃない」
「ホントかよ! これを食ったの?」
「美味しいって言ってたし。見た目で判断しちゃいけないって、お兄ちゃんがいつも言ってるじゃない」
「別に旨いとは言ってねぇよ」
「それぞれの海で獲れる魚に、違いがあるでしょ? 地球とこの世界でも大きな違いはあるよ」
「なるほどな。ところでペスカ。この近海には、危ないのはいないのか? 例えば人を食べちゃう、ホオジロサメみたいなのとか?」
「いない事は無いけど、ほとんど見ないね」
二人の話を聞いていたのか、一人の男が話しかけてくる。その男によると、最近の海は少し事情が違う様だった。
「お二人さん、それがねぇ、最近現れるんだよ。ちょっとヤバイのがね。そのせいで、漁獲量が下がっているんだよ。湾内には被害は無いんだけど、湾外に出るとそいつに、襲われるらしいんだよ。漁船ごと沈めちまうらしいから危なくてね」
「それって、どんな奴?」
「それがよぉ。目撃証言が少なくて、はっきりしねぇんだけどよぉ。漁船の十倍はある化け物って、もっぱらの噂だよ」
「まっさか~。で、実際の被害は?」
「三日前に船を出したペータの奴が、未だに帰ってこねぇよ」
「それって、単に遭難しただけじゃない?」
「やたら霧の濃い日だったから、あり得るんだけどよぉ。流石に三日はねぇや。それにペータの腕は確かだ。仮に遭難したって、平気な面して帰って来やがるぜ」
話を聞き終わると、二人は散歩に戻る。停泊する漁船を眺めて、港伝いを散策し街中へと戻っていった。
立ち並ぶ建物が石造りなのは、やはり中世を思わせる。内陸部と異なるのは、衣服の生地であろうか。綿を主体に作られた服よりも、この街では麻の生地で作った服が主要の様である。
日本の港町や東南アジアの港町よりも、ヨーロッパの港町の方が印象に近い。ただし、食事に関しては東南アジアの味に近い。何だか不思議な感覚を思わせる、マーレの街を堪能し二人は帰宅の途に着く。
来た道を戻りながら、別荘地帯に差し掛かった時、訝し気な表情を浮かべた冬也が、徐に口を開いた。
「なぁペスカ。さっきのおっさんの話は、モンスターの件と関係あるんじゃねぇか?」
「気のせいじゃない? 大体、漁船の十倍って吹かし過ぎな気がするし。念の為、調査しても良いけど」
「でも話が本当なら、討伐が必要だろ? どうすんだ?」
「まぁ、何とかなるって」
「お前がそう言うなら、大丈夫なんだろうけど、油断はするなよ」
噂の件に一抹の不安を感じつつも、ペスカが言うなら大丈夫だろうと、たかをくくるっている冬也。端から、呑気そうに構えるペスカ。
そんな二人が、想定外の怪物に襲われる事になるとは、今の二人は予想もしていなかった。
しかし、体術に関しては冬也に一日の長が有る。冬也はペスカの突いて『ゴン』と、重い一撃を見舞う。
「ま、さ、か、おにいたんてば」
「大丈夫、みねうちだ」
「頭突きにみねうちなんて無いし……」
そうして混浴を企むペスカを、事前に冬也は阻止した。しかし冬也は、巧みに部屋のドアの鍵を開けて、ベッドへ侵入するペスカを阻止出来なかった。
「ったく。どうやって入って来たんだ。しかもこんなでかいベッドなのに、引っ付いて来やがって。仕方ねぇやつだ」
起きがけの冬也は独りごちる。そして、しがみついて眠るペスカを、起こさないようにそっと引き剥がし、ベッドから降りカーテンを開ける。部屋から見える海には、水平線から顔を出す朝陽で、キラキラと輝いていた。
「綺麗だな。写真に残しておきたい風景だな」
「そうでしょ。朝陽が写る海が最高だよね」
冬也が振り向くと、ベッドの上でペスカが伸びをしていた。
「ペスカ、起きたのか」
「お兄ちゃん、良く眠れた?」
「あぁ。お前は?」
「お兄ちゃんおかげで、ぐっすりだよ」
「それで、今日はどうするんだ?」
「街へ繰り出すよ~! お楽しみにね!」
身支度を整え、二人は食堂に向かう。朝食で出された物は、普通にパンとスープ、サラダ等であった。
何も腕の良いシェフに無理を言い、エセ日本食を作らせる必要はない。冬也は、ルクスフィア伯爵邸での食事と比較し、出されたホテル風の朝食を堪能した。
「そう言えば、この絵って誰だ?」
「私だよ、お兄ちゃん」
「生まれ変わる前のやつか……」
「それがどうしたの?」
「いや、何。クラウスさんとシリウスさんは兎も角、この家のメイドさん達は、どうやってお前をペスカだって認識したのかなって思ってさ」
朝食を済ませた後、冬也は人物画を見つめていた。どうでも良い事が気になる時もあろう。何せその肖像画はホールに入ればどこからで見える様に、とても目立っていたのだから。
それに、何処に行ってもペスカがペスカ自身だと認識される事に、多少の違和感を感じていたのだろう。前世と容姿は違っているはずなのだ。「誰だね君は?」と言われてもおかしくは無い。
それが例のカードだけで証明出来るとは思えない。同様に、シリウスがペスカをマナで本物だと判断したのと同じ事を、皆が出来るとは思えない。
「多分シルビアが連絡してたんでしょ?」
「そうか、そんなんで済む事か?」
「細かい事を気にしてると剥げるよ」
「剥げねぇよ!」
冬也が納得したのかしていないのかはいざ知らず、二人は街を散策すべく屋敷を出る。その際に護衛に付こうとする兵士達へ、ペスカは留守を言い渡した。そして二人きりになると、ゆっくり歩いて街へと向かった。
昨日、馬車の中から街の様子は見ていた。実際に歩いてみると、新たな発見がある。ペスカ邸から出ると、高級そうな住宅街が立ち並ぶ。この辺りは上級貴族達の、別荘地帯になっているそうだ。
「こうやって見ると、豪華な建物ばっかりだけど、宮殿みたいなペスカの家見たら、ショボく感じるな」
「あれはこの国の王様が建てた物だし、まぁ私の趣味とは、少し違うんだけどね」
別荘地帯を抜けると、海に面した大きな広場が見えて来る。
円形状の広場を中心に道が併設され、幾つもの脇道へと繋がってた。広場は住民を始め、観光客の憩いの場でも有るのだろう。綺麗に刈られた芝生の上には、数個のベンチが有る。海を眺めながら、一息つくにはもってこいの場所かもしれない。
そして広場の中心には、美しい女神の様な像が立っていた。
「ペスカ。この世界でも、女神の信仰ってあるんだな」
「何言ってんの、お兄ちゃん。あれ私だよ」
冬也は首を傾げて、ペスカと像を何度も見比べる。
「はぁ? バカじゃねぇの?」
「本当だよ! 信じて無いの?」
「だって、あの像おっきいじゃん」
「お兄ちゃん。何処見て言った! 何処見て言った! 何処見て言った~!」
「いや、何処って身長に決まってんだろ!」
「当たり前だよ! 何度も言うけど、生まれ変わってんだよ!」
「そっか、お前もあんなにおっきくなると良いな」
「な、お兄ちゃんのバカ! 本人を目の前にして言うセリフじゃないよ!」
冬也の不要な発言で、ペスカはプリプリと頬を膨らませる。そんなペスカを宥めて、二人は再び街の散策を始めた。広場を抜け目抜通りに入る。
目抜き通りには、そこかしこに海鮮物を扱う商店や飲食店が立ち並び、開店直後の時間にも関わらず、多くの人で賑わっていた。
「せっかくだし、海鮮料理を味わおうよ。行くよ、お兄ちゃん」
「海鮮料理って言ってもさ、変な魚出てくるんじゃ無いよな」
「日本で見るような魚は無いよ。まぁ独特な色をしたり、ちょっとグロテスクだったりするけど、ちゃんと食べられるし美味しいよ」
「本当か? 嘘だったら、お仕置きな」
「なら、美味しかったら、今日は混浴だからね」
「しねーよ、馬鹿!」
二人は、取り合えず目に入った食堂へと、足を踏み入れる。そして、店員に案内されてテーブルにつくと、メニュー表を渡された。しかし表記された品は、冬也にでは全く想像がつかない。店員さんに聞くと、煮たり焼いたりする料理が多いらしい。
ただ、現地の物を食べるのが、旅の醍醐味であろう。冬也は、詳しいであろうペスカに注文を任せる事にした。
「なぁペスカ。基本は、日本の定食屋と変わらねぇのか?」
「味付けは、東南アジアに近い感じかな?」
「刺身みたいのは、無いのか?」
「基本、この辺では食べないね。必ず火を通すの。香辛料を使った料理も多いよ」
出てきた料理は、魚の煮付け、焼き魚、貝のスープ等、魚介尽くしの料理が並んでおり、見た目にも食欲がそそる料理であった。
「どう、お兄ちゃん?」
「魚の味自体は淡白だけど、独特な調味料使ってんな。香辛料やハーブで味付けしてるのか? 食えなくは無いな」
「これが、マーレの伝統料理だよ」
「そっか。地域でこんなに差が出るのか、面白れぇな」
食事を堪能すると、次は市場へと足を運ぶ。既に競りが終わった時間にも関わらず、人が行き交う活気に溢れる場所であった。
「ここが市場ね。時間帯によっては、マーレで最も人が集まる場所だよ」
「築地みたいなもんだな。ところでこの辺で獲れる魚は、見ること出来ねぇの?」
冬也の願いに応えようと、ペスカは市場関係者と交渉する。すると、今朝荷揚げしたばかりの魚を、見せてもらえる事になった。
市場関係者に連れて行かれた場所は、競りが終わった魚を各店に運搬する為の作業場であった。そこには、日本では見る事が出来ない、色鮮やかであったり、深海魚も真っ青な程に異様な形の魚が並んでいた。
「キモ! これ本当に魚か? 食えんのか?」
「何言ってんの? さっき食べたじゃない」
「ホントかよ! これを食ったの?」
「美味しいって言ってたし。見た目で判断しちゃいけないって、お兄ちゃんがいつも言ってるじゃない」
「別に旨いとは言ってねぇよ」
「それぞれの海で獲れる魚に、違いがあるでしょ? 地球とこの世界でも大きな違いはあるよ」
「なるほどな。ところでペスカ。この近海には、危ないのはいないのか? 例えば人を食べちゃう、ホオジロサメみたいなのとか?」
「いない事は無いけど、ほとんど見ないね」
二人の話を聞いていたのか、一人の男が話しかけてくる。その男によると、最近の海は少し事情が違う様だった。
「お二人さん、それがねぇ、最近現れるんだよ。ちょっとヤバイのがね。そのせいで、漁獲量が下がっているんだよ。湾内には被害は無いんだけど、湾外に出るとそいつに、襲われるらしいんだよ。漁船ごと沈めちまうらしいから危なくてね」
「それって、どんな奴?」
「それがよぉ。目撃証言が少なくて、はっきりしねぇんだけどよぉ。漁船の十倍はある化け物って、もっぱらの噂だよ」
「まっさか~。で、実際の被害は?」
「三日前に船を出したペータの奴が、未だに帰ってこねぇよ」
「それって、単に遭難しただけじゃない?」
「やたら霧の濃い日だったから、あり得るんだけどよぉ。流石に三日はねぇや。それにペータの腕は確かだ。仮に遭難したって、平気な面して帰って来やがるぜ」
話を聞き終わると、二人は散歩に戻る。停泊する漁船を眺めて、港伝いを散策し街中へと戻っていった。
立ち並ぶ建物が石造りなのは、やはり中世を思わせる。内陸部と異なるのは、衣服の生地であろうか。綿を主体に作られた服よりも、この街では麻の生地で作った服が主要の様である。
日本の港町や東南アジアの港町よりも、ヨーロッパの港町の方が印象に近い。ただし、食事に関しては東南アジアの味に近い。何だか不思議な感覚を思わせる、マーレの街を堪能し二人は帰宅の途に着く。
来た道を戻りながら、別荘地帯に差し掛かった時、訝し気な表情を浮かべた冬也が、徐に口を開いた。
「なぁペスカ。さっきのおっさんの話は、モンスターの件と関係あるんじゃねぇか?」
「気のせいじゃない? 大体、漁船の十倍って吹かし過ぎな気がするし。念の為、調査しても良いけど」
「でも話が本当なら、討伐が必要だろ? どうすんだ?」
「まぁ、何とかなるって」
「お前がそう言うなら、大丈夫なんだろうけど、油断はするなよ」
噂の件に一抹の不安を感じつつも、ペスカが言うなら大丈夫だろうと、たかをくくるっている冬也。端から、呑気そうに構えるペスカ。
そんな二人が、想定外の怪物に襲われる事になるとは、今の二人は予想もしていなかった。