ペスカの戦術と、酷似した戦術を用いるのは、サムウェルであろう。
智将サムウェル。彼の本領は情報の収集と綿密な準備にこそ発揮する。神の洗脳により軍の半分を失っても、多くの兵を洗脳から解放し、国の治安維持に努めた。おかげで、グラスキルス王国は、モンスターの被害が少なかった。
来るべき未来を予測し、防衛を怠っていなかった。ペスカの設置した結界が、都市を超兵器から守った。
それでも、予測を超える事態が起こった。彼の得意とする罠を仕掛ける間もなく、対応に追われる事は、未だかつて無かった。
ミサイルが大陸中に降り注ぐと同時に、怒涛の勢いで一万の軍勢がグラスキルス王国の国境門に押寄せた。およそ千の兵が国境沿いを守っていたが、大軍を前に半刻も持たずに壊滅した。
グラスキルス王国の兵は、一歩も引かずに立ち向かった。しかし、どれだけ鍛えられた肉体も、研ぎ澄まされた剣や槍も、大軍の前には歯が立たない。魔法の防御結界は、魔法の雨に晒され脆くも崩れ去る。
それは一方的な虐殺に近かった。そして、一万を超える大国の兵が国境門を越え、侵攻を続けている。
勇敢に立ち向かった兵は、無駄死にだったのか? 否。貴重な半刻である。それは、サムウェルが城に戻るには充分な時間だった。
城に着いたサムウェルは、間諜部隊を指揮し各地の状況を、いち早く報告させる。そして、喉を枯らして命令を出し続けた。
「何だと! 国境が破られた? 急いで、西に回す予定だった兵達を、呼び戻せ!」
急く心を、サムウェルは必死に抑える。真っ先に飛び出した想いを堪え、必死に頭を回転させる。
「ミーアと通信を取れ! エルラフィアの状況を伝えろ!」
ミーア経由で繋がったエルラフィア王国との通信の先では、混乱が見て取れる様だった。都市の半数が壊滅すれば、仕方の無い事かも知れない。
サムウェルは、東方の事態をエルラフィア王国と共有すると、反攻作戦の検討に移った。
東西の両国に侵攻している魔道大国メルドマリューネ軍は約一万づつ。
それに対し、主力の大半を帝都で失ったエルラフィア王国の全軍は、今や壊滅した南部三国の援軍を含めて約六千。
そして悪い事に、戦争により多くの兵をうしなった東方三国では、約五千と残り兵力を搔き集めてもエルラフィア王国にすら及ばない。
圧倒的不利。芳しくない現状は、両国に共通している。兵力差を超える戦いが無くては、敗北は確実である。
「サムウェル殿。グラスキルスはどうするんです? 半数の兵では戦にもなるまい」
「クラウス殿、我等を甘く見ないで頂きたい。一万の兵如き、我等三将が集まれば蹴散らします。エルラフィア軍は、ペスカ殿の残した兵器を持って、メルドマリューネ軍を押し返して頂きたい」
「わかりました。今、残った兵を搔き集めています。メルドマリューネ軍を撤退させたとして、その先はどうするおつもりで? 守備に回る気は、毛頭無いのでしょう?」
「鍵は、ペスカ殿達です。あの方であれば、真っ直ぐメルドマリューネの王都に向かうでしょう。我等は、国境沿いから兵を押し返し、彼の者から注意を引く!」
「わかりました。ご武運を、サムウェル殿」
「そちらもご武運を。逐次情報を共有、ペスカ殿との通信回線も繋がせます」
「わかりました。こちらも準備を急ぎます。また後ほど」
エルラフィア王国との通信を終えたサムウェルは、モーリス達の進軍状況を確認すると再び怒声を上げる。
「ペスカ殿とエルラフィアの通信を急ぎ整えよ! 城に残った兵は兵站の準備! 北の山脈地帯に連絡を急げ! 直ぐに退去させるんだ! そこは戦場になる」
サムウェルは、広い机の上に広がる大きな地図を見つめた。
南北の縦長に続くグラスキルス王国の国土は、大きな山脈が幾つも有る。メルドマリューネへと繋がるのは、十キロ以上続く山脈に挟まれ、切り通った様な細い街道しか無い。
そこを大軍が通るには、縦に長く広がらざるを得ない。
少数で戦うには、絶好の場所である北部山脈沿いの街道を、サムウェルは戦場と定めた。
サムウェルやモーリス、ケーリアの様な、高い戦闘力を持った者で道を塞ぎ、山の上部に配置した兵が脇から狙い、相手の戦力を削っていく作戦である。
サムウェルには確信が有った。
例えどれだけの戦力を集めようと、三人が集まれば負けはしない。地の利を合わせれば、一万の軍勢は物の数では無い。
モーリス達が到着するまで足止めが出来れば、こちらの勝利だ。
サムウェルは副官を呼ぶと、地図上で作戦の説明をする。素早く説明を済ませると、副官に指揮権の簡易譲渡を行った。
「俺はこれから北へ向かう。モーリス達が到着するまでの辛抱だ。お前はエルラフィアやペスカ殿との連絡を密に取れ。俺にも報告を忘れるなよ」
「閣下は、どうなさるのですか? まさかお一人で?」
「馬鹿言うな。叱られたからな、無駄死にするなってよ。姑息な手を使わせて俺に叶う奴は、この世界にはいねぇよ」
サムウェルは口角を吊り上げて、薄笑いを浮かべる。
「いいか。一対一で俺達に勝てる奴はいねぇ。勝負はその先だ。確実に戦争を止める為には、メルドマリューネの領域で、どれだけ上手く立ち回るかが重要だ。三方向から攻めるんだ、連携は必須! 忘れんなよ!」
副官は敬礼をして、サムウェルを見送る。
死への旅路をする決意した者の背中では無い。自らの勝利を疑わない、堂々としたかつてのサムウェルの後ろ姿であった。
槍を手に馬に乗るサムウェル。馬を操りながら、ペスカ達に簡易的な連絡をする。
北方では、連絡を受けた住民達が大挙して避難を始める。一方で、メルドマリューネ軍が進軍を続ける。
だがここで、思いもよらぬ事が起きる。メルドマリューネ軍が、住民達の鼻先に迫る緊迫した状況下で、採掘の神が動いた。土砂崩れを起こし、メルドマリューネ軍の足止めを行う。
「フィアーナ様のご命令だし、この位はしないとな。感謝するんだぞ人間達よ」
土石流に巻き込まれまいと、メルドマリューネ軍は慌ただしく、行軍を止め隊列を立て直す。その様子を見ていた雨を司る男神が、腹を抱えて笑った。
「結構笑えるな。俺達もやろうぜ、なぁ雨の」
「風の。余りやり過ぎるなよ。フィアーナからは、戦を止めろと言われたが、制裁は禁じられている」
「わかってるって。どうせやるなら、道を潰しちまえば良いんだよ。戦争は止まるだろうが」
「言われてみればそうだな。おい採掘の、お前も手伝え。それに山の、何処かで見てるんだろ。この辺りの道を全部潰すぞ」
サムウェルの考えとは裏腹に、神々が遊びだす。暴風雨を降らせ、土砂崩れで更に道を潰し、地割れを作って大きな谷を作った。
戦地から避難する住人達を追いかける様に、土石流が迫る。その天変地異を間近で見た住人達は、恐れて逃げるスピードを上げる。
だが、メルドマリューネ軍は土石流を避ける様に後退をしたものの、侵攻を止める気配は無かった。
「なあ、あっちの人間達は、怯えて逃げてんのに、兵隊たちは諦めてねぇぞ」
「風の。あれは、もう人間じゃ無い。命令を受けて動く人形だ。受けた命令を遂行するまで、どんな悪路でも進むんだろうよ」
「雨の。あんなのが、人間の末路か? 気持ち悪いな」
「同感だ。滅ぼしてしまえば良いのに。何故、フィアーナは指示を出さないんだ」
「仕方ねぇよ、雨の。あれ以上に人間が好きな神はいねぇ」
「風の、取り敢えずはここまでだ。フィアーナの言う、人間の決着とやらを見届けよう。我等は、北の地でひと暴れして、ロメリアを引き摺り出すぞ」
「応よ、雨の。腕が鳴るぜ」
雨を司る神と風を司る神が姿を消す。その後を見届ける様に、採掘の神が山の神に対し、ポロリと零した。
「道を潰しても、余り意味が無かったのでは?」
「採掘の神よ。お主がそう言うと思って、地割れも作ったんじゃ」
「だが、雨と風の二柱が仰る通り、奴らは止まる気配が無い」
「採掘の神よ。戦を止める方法なんて、もとより一つしか無いじゃろ」
「すると、奴らはこのまま見逃すと言われるのか?」
「地響きで暫く奴らを足止めじゃ。その内、この国の兵士達が来るだろう。フィアーナの言う通り、人間の事は人間で解決すべきじゃ」
「それもそうだ。よし、足止めの協力をしよう」
北の山間部に到着したサムウェルは、変わり果てた光景に驚愕を露にする。山の所々が崩れ、兵を配置出来る場所がほとんど無い。城を出る前に立てた作戦が脆くも崩れ去り、サムウェルは頭を抱えた。
「くそっ、何だってんだよ。これは流石に神の仕業か? 山が崩れたら戦い辛いじゃねぇか!」
苛立つサムウェルは、素早く頭を切り替える。
土石流で足場が悪く、行軍には時間がかかる事は容易に想像がつく。サムウェルは侵攻してくる方向を予測し、足元に注意しながら罠を張り巡らせる。
同時に急いで城へ連絡し、モーリス達の行軍を急がせる様に指示を飛ばす。
神々の乱入により多少予定が崩れたが、やる事は変わらない。それは、メルドマリューネ軍を撃退する事だ。ただし、長期戦になる事は必至。土石流で有れた街道では、兵站が滞る可能性が高い。
サムウェルは尚も頭を巡らせる。
魔道大国メルドマリューネとの戦いは始まったばかり、未だ混迷を極める大陸に光は見えない。
智将サムウェル。彼の本領は情報の収集と綿密な準備にこそ発揮する。神の洗脳により軍の半分を失っても、多くの兵を洗脳から解放し、国の治安維持に努めた。おかげで、グラスキルス王国は、モンスターの被害が少なかった。
来るべき未来を予測し、防衛を怠っていなかった。ペスカの設置した結界が、都市を超兵器から守った。
それでも、予測を超える事態が起こった。彼の得意とする罠を仕掛ける間もなく、対応に追われる事は、未だかつて無かった。
ミサイルが大陸中に降り注ぐと同時に、怒涛の勢いで一万の軍勢がグラスキルス王国の国境門に押寄せた。およそ千の兵が国境沿いを守っていたが、大軍を前に半刻も持たずに壊滅した。
グラスキルス王国の兵は、一歩も引かずに立ち向かった。しかし、どれだけ鍛えられた肉体も、研ぎ澄まされた剣や槍も、大軍の前には歯が立たない。魔法の防御結界は、魔法の雨に晒され脆くも崩れ去る。
それは一方的な虐殺に近かった。そして、一万を超える大国の兵が国境門を越え、侵攻を続けている。
勇敢に立ち向かった兵は、無駄死にだったのか? 否。貴重な半刻である。それは、サムウェルが城に戻るには充分な時間だった。
城に着いたサムウェルは、間諜部隊を指揮し各地の状況を、いち早く報告させる。そして、喉を枯らして命令を出し続けた。
「何だと! 国境が破られた? 急いで、西に回す予定だった兵達を、呼び戻せ!」
急く心を、サムウェルは必死に抑える。真っ先に飛び出した想いを堪え、必死に頭を回転させる。
「ミーアと通信を取れ! エルラフィアの状況を伝えろ!」
ミーア経由で繋がったエルラフィア王国との通信の先では、混乱が見て取れる様だった。都市の半数が壊滅すれば、仕方の無い事かも知れない。
サムウェルは、東方の事態をエルラフィア王国と共有すると、反攻作戦の検討に移った。
東西の両国に侵攻している魔道大国メルドマリューネ軍は約一万づつ。
それに対し、主力の大半を帝都で失ったエルラフィア王国の全軍は、今や壊滅した南部三国の援軍を含めて約六千。
そして悪い事に、戦争により多くの兵をうしなった東方三国では、約五千と残り兵力を搔き集めてもエルラフィア王国にすら及ばない。
圧倒的不利。芳しくない現状は、両国に共通している。兵力差を超える戦いが無くては、敗北は確実である。
「サムウェル殿。グラスキルスはどうするんです? 半数の兵では戦にもなるまい」
「クラウス殿、我等を甘く見ないで頂きたい。一万の兵如き、我等三将が集まれば蹴散らします。エルラフィア軍は、ペスカ殿の残した兵器を持って、メルドマリューネ軍を押し返して頂きたい」
「わかりました。今、残った兵を搔き集めています。メルドマリューネ軍を撤退させたとして、その先はどうするおつもりで? 守備に回る気は、毛頭無いのでしょう?」
「鍵は、ペスカ殿達です。あの方であれば、真っ直ぐメルドマリューネの王都に向かうでしょう。我等は、国境沿いから兵を押し返し、彼の者から注意を引く!」
「わかりました。ご武運を、サムウェル殿」
「そちらもご武運を。逐次情報を共有、ペスカ殿との通信回線も繋がせます」
「わかりました。こちらも準備を急ぎます。また後ほど」
エルラフィア王国との通信を終えたサムウェルは、モーリス達の進軍状況を確認すると再び怒声を上げる。
「ペスカ殿とエルラフィアの通信を急ぎ整えよ! 城に残った兵は兵站の準備! 北の山脈地帯に連絡を急げ! 直ぐに退去させるんだ! そこは戦場になる」
サムウェルは、広い机の上に広がる大きな地図を見つめた。
南北の縦長に続くグラスキルス王国の国土は、大きな山脈が幾つも有る。メルドマリューネへと繋がるのは、十キロ以上続く山脈に挟まれ、切り通った様な細い街道しか無い。
そこを大軍が通るには、縦に長く広がらざるを得ない。
少数で戦うには、絶好の場所である北部山脈沿いの街道を、サムウェルは戦場と定めた。
サムウェルやモーリス、ケーリアの様な、高い戦闘力を持った者で道を塞ぎ、山の上部に配置した兵が脇から狙い、相手の戦力を削っていく作戦である。
サムウェルには確信が有った。
例えどれだけの戦力を集めようと、三人が集まれば負けはしない。地の利を合わせれば、一万の軍勢は物の数では無い。
モーリス達が到着するまで足止めが出来れば、こちらの勝利だ。
サムウェルは副官を呼ぶと、地図上で作戦の説明をする。素早く説明を済ませると、副官に指揮権の簡易譲渡を行った。
「俺はこれから北へ向かう。モーリス達が到着するまでの辛抱だ。お前はエルラフィアやペスカ殿との連絡を密に取れ。俺にも報告を忘れるなよ」
「閣下は、どうなさるのですか? まさかお一人で?」
「馬鹿言うな。叱られたからな、無駄死にするなってよ。姑息な手を使わせて俺に叶う奴は、この世界にはいねぇよ」
サムウェルは口角を吊り上げて、薄笑いを浮かべる。
「いいか。一対一で俺達に勝てる奴はいねぇ。勝負はその先だ。確実に戦争を止める為には、メルドマリューネの領域で、どれだけ上手く立ち回るかが重要だ。三方向から攻めるんだ、連携は必須! 忘れんなよ!」
副官は敬礼をして、サムウェルを見送る。
死への旅路をする決意した者の背中では無い。自らの勝利を疑わない、堂々としたかつてのサムウェルの後ろ姿であった。
槍を手に馬に乗るサムウェル。馬を操りながら、ペスカ達に簡易的な連絡をする。
北方では、連絡を受けた住民達が大挙して避難を始める。一方で、メルドマリューネ軍が進軍を続ける。
だがここで、思いもよらぬ事が起きる。メルドマリューネ軍が、住民達の鼻先に迫る緊迫した状況下で、採掘の神が動いた。土砂崩れを起こし、メルドマリューネ軍の足止めを行う。
「フィアーナ様のご命令だし、この位はしないとな。感謝するんだぞ人間達よ」
土石流に巻き込まれまいと、メルドマリューネ軍は慌ただしく、行軍を止め隊列を立て直す。その様子を見ていた雨を司る男神が、腹を抱えて笑った。
「結構笑えるな。俺達もやろうぜ、なぁ雨の」
「風の。余りやり過ぎるなよ。フィアーナからは、戦を止めろと言われたが、制裁は禁じられている」
「わかってるって。どうせやるなら、道を潰しちまえば良いんだよ。戦争は止まるだろうが」
「言われてみればそうだな。おい採掘の、お前も手伝え。それに山の、何処かで見てるんだろ。この辺りの道を全部潰すぞ」
サムウェルの考えとは裏腹に、神々が遊びだす。暴風雨を降らせ、土砂崩れで更に道を潰し、地割れを作って大きな谷を作った。
戦地から避難する住人達を追いかける様に、土石流が迫る。その天変地異を間近で見た住人達は、恐れて逃げるスピードを上げる。
だが、メルドマリューネ軍は土石流を避ける様に後退をしたものの、侵攻を止める気配は無かった。
「なあ、あっちの人間達は、怯えて逃げてんのに、兵隊たちは諦めてねぇぞ」
「風の。あれは、もう人間じゃ無い。命令を受けて動く人形だ。受けた命令を遂行するまで、どんな悪路でも進むんだろうよ」
「雨の。あんなのが、人間の末路か? 気持ち悪いな」
「同感だ。滅ぼしてしまえば良いのに。何故、フィアーナは指示を出さないんだ」
「仕方ねぇよ、雨の。あれ以上に人間が好きな神はいねぇ」
「風の、取り敢えずはここまでだ。フィアーナの言う、人間の決着とやらを見届けよう。我等は、北の地でひと暴れして、ロメリアを引き摺り出すぞ」
「応よ、雨の。腕が鳴るぜ」
雨を司る神と風を司る神が姿を消す。その後を見届ける様に、採掘の神が山の神に対し、ポロリと零した。
「道を潰しても、余り意味が無かったのでは?」
「採掘の神よ。お主がそう言うと思って、地割れも作ったんじゃ」
「だが、雨と風の二柱が仰る通り、奴らは止まる気配が無い」
「採掘の神よ。戦を止める方法なんて、もとより一つしか無いじゃろ」
「すると、奴らはこのまま見逃すと言われるのか?」
「地響きで暫く奴らを足止めじゃ。その内、この国の兵士達が来るだろう。フィアーナの言う通り、人間の事は人間で解決すべきじゃ」
「それもそうだ。よし、足止めの協力をしよう」
北の山間部に到着したサムウェルは、変わり果てた光景に驚愕を露にする。山の所々が崩れ、兵を配置出来る場所がほとんど無い。城を出る前に立てた作戦が脆くも崩れ去り、サムウェルは頭を抱えた。
「くそっ、何だってんだよ。これは流石に神の仕業か? 山が崩れたら戦い辛いじゃねぇか!」
苛立つサムウェルは、素早く頭を切り替える。
土石流で足場が悪く、行軍には時間がかかる事は容易に想像がつく。サムウェルは侵攻してくる方向を予測し、足元に注意しながら罠を張り巡らせる。
同時に急いで城へ連絡し、モーリス達の行軍を急がせる様に指示を飛ばす。
神々の乱入により多少予定が崩れたが、やる事は変わらない。それは、メルドマリューネ軍を撃退する事だ。ただし、長期戦になる事は必至。土石流で有れた街道では、兵站が滞る可能性が高い。
サムウェルは尚も頭を巡らせる。
魔道大国メルドマリューネとの戦いは始まったばかり、未だ混迷を極める大陸に光は見えない。