「フィアーナの言葉に従うのか?」
「従ったふりだけすれば良い」
「協議会の様子を見ただろう。神が考えるのは、所詮は自己の保身だけだ。世界の事など、誰も真剣に考えてはいない」
「そんな状況を変えようとしたのは、我らが同胞グレイラスだったというのに」
「グレイラスの意思は、我等が継ぐのだ」
「我等も数を増やした。フィアーナとて、我等の意見を無視は出来まい」
「いいや。先の協議会でも変わらぬ。フィアーナは独断で戦争の介入を決定した」
「このままフィアーナの独裁を許してはおけん」
「だが、どうする。どの様にフィアーナと対抗する? 我等は旗印を失ったのだぞ」
「それならば、ロメリアを担ぎ出せば良い。奴ならば、丁度いい神輿になってくれる」
フィアーナの命が下り神々の協議会が終わった後に、数十柱の神は天空の地から離れた場所に集まっていた。
当初は、グレイラスに唆された十数柱のみだった。彼等は、原初の神々の在り方や三法に不満を持った、新興の神と呼ばれる若い世代の神である。
そんな彼等は次第に数を増やし、今や一大勢力と呼んでも差し支えない程に拡大していった。
しかし彼等の意見は、協議会にて聞き入られる事は無かった。それは、フィアーナが神々の世界において、未だ権威を持っている証でもあろう。
ただ、これから台頭しようと考える若い神にとって、その存在は目の上のたん瘤でもあろう。
「ロメリアを担ぎ出すといっても、どうするのだ? 既にロメリアの神格は剥奪の対象となっている」
「そうだ。庇えば、我等にもその矛先が向く」
「それは、我に考えが有る」
「なんだ? 言ってみろ」
考えが有ると語る神に、注目が集まる。そして、その神は胸を張りながら、得意げに口を開く。
「我はグレイラスから聞いた事が有る」
「何をだ? 同胞は何を語ったのだ?」
「ロメリアがドラグスメリアも同時侵攻しているとな」
「何!」
「ドラグスメリアだと!」
「それは本当なのか?」
「しかし、どの様な方法でだ?」
「あの土地には、エンシェントドラゴンがいるのだぞ! 神に最も近く、神獣とまで呼ばれた守護者だ」
「我々とて、そう簡単に手が出せぬ」
「我々だけではない。原初の者達とて同じではないか」
「仮に、エンシェントドラゴンをどうにかした所で、ミュールが黙っておるまい」
「待て、話しは最後まで聞け! 良いか? 神の戦争介入はおかしいと思わんのか?」
「それは……」
「戦争を止めるだけなら、エンシェントドラゴンにやらせれば良い」
「確かに、そうだ」
「それとだ。最近の協議会にはミュールが参加していない」
「それも、おかしいな。ドラグスメリアから離れられない理由でも出来たか?」
若い神々は一気に騒ぎ出す。それもそのはず。混沌勢がここまで自由に動き回れたのも、悪感情を集める事が出来たのも、欲望のままに生きる人間の大陸だからであろう。
アンドロケイン大陸で、グレイラスは亜人を洗脳し戦争を嗾けた。しかし、それが通用したのは一部の亜人だけである。神の権能を持ってしても、アンドロケイン大陸中に戦争を広げる事は出来なかった。
ましてや、己の誇りをかけて戦いあっている魔獣には、グレイラスの権能は及びもしないだろう。
それに、四体存在するエンシェントドラゴンは、神の使いで世界の守護を任されている。それ程の存在だ。如何に若い神々が、フィアーナを筆頭とした原初の神々に不満を持とうとも、彼の神獣と真正面から事を構える気にはならない。
しかも、そのエンシェントドラゴンは、ドラグスメリアを根城としている。
だから、誰もロメリアが『ドラグスメリアを侵攻している』とは考えなかった。
「問題は、ラフィスフィア大陸だけに留まらないのだ」
「と、言うと?」
「既に一部とは言え同胞は、アンドロケイン大陸に戦争の火種を撒いた」
「あぁ、そうだな」
「ラフィスフィア大陸が存亡の危機に有る状況で、守護獣が動かない」
「それがロメリアの仕業だと言うのか?」
「そうだ。ロメリアは分霊体を用いて、エンシェントドラゴンを手中に収めようとしている」
「なんと!」
「思わなかったか? 如何に大地母神の子であったとして、同胞やアルキエル、それにメイロードまで。三柱も打倒したのだぞ!」
「しかも、異界の地ではロメリアを追い詰めたと聞いた。それも、おかしな話だ。有り得ん!」
「そうだ。仮にロメリアが己の神格を分けて、力が弱まっていたとしたら?」
「混血程度なら、ロメリアをやれるかもしれん。という事か?」
「そうだ。ロメリアの力は半減している。それが異界の地で、無様を晒した理由だ。本来であれば、混血如きに遅れは取らんだろう」
「確かに……な」
ペスカと冬也がグレイラスに勝利出来たのは、シグルドによって弱らされていたからである。そして、冬也がアルキエルに勝利出来たのは、彼が地上に影響が出ない様に極限まで神気を抑えていたから。
加えてメイロードである。彼女は、神気のほとんどをロメリアの復活に使っていた。実際の所、ペスカと冬也は真の意味で神とは対等に戦えてない。
それ故なのだろう、ペスカと冬也を侮っているのは。
ペスカは英雄の力を経て覚醒し、頂きに辿り着こうとしている。冬也の力は、浄化の力を得て神に届こうとしてるのを彼等は知らない。
「だから、我々はロメリアに助力する。それも秘密裏にな」
「秘密裏にといっても、どの様にする?」
「先ずは、アンドロケインに撒かれた火種を大きくする。これで、ラアルフィーネが動き辛くなる」
「それは良い考えだ」
「そして、ドラグスメリアで行われている、ロメリアの作戦に参加する。これで、ミュールの動きも更に抑制出来よう」
「おぉ、直ぐにやるべきだ!」
「しかし、本命のロメリアが神々によって討伐されるのは時間の問題だ」
「そうだ、そちらはどう対応するのだ?」
「ロメリアは原初の神々によって討伐されるのは、決定事項だ。それには我々も参加しなければならない」
「否! それでは、我々はまた旗印を失う事になる」
「いや。参加せねば、それこそ我々の破綻を意味するぞ!」
「だからだ。その前に、分霊体と本体の神格を交換するのだ」
「保険を掛けるという事か?」
「そうだ。事前に接触してな。実際の討伐戦では、我々はただ事態を見守るだけでいい」
辺りに拍手が巻き起こる。それだけ、その作戦が魅力的に見えたのだろう。そして自分達が、原初の神々に取って代わる光景を夢想したのであろう。
大きな拍手を得て自信を持ったのか、その神は言葉を続ける。
「我は、ここに宣言する! 我等は反フィアーナ同盟! 同胞諸君! 原初の神々を打ち滅ぼすまで、我等は止まらない! 我等は歩み続ける! そして世界に新な秩序を!」
「従ったふりだけすれば良い」
「協議会の様子を見ただろう。神が考えるのは、所詮は自己の保身だけだ。世界の事など、誰も真剣に考えてはいない」
「そんな状況を変えようとしたのは、我らが同胞グレイラスだったというのに」
「グレイラスの意思は、我等が継ぐのだ」
「我等も数を増やした。フィアーナとて、我等の意見を無視は出来まい」
「いいや。先の協議会でも変わらぬ。フィアーナは独断で戦争の介入を決定した」
「このままフィアーナの独裁を許してはおけん」
「だが、どうする。どの様にフィアーナと対抗する? 我等は旗印を失ったのだぞ」
「それならば、ロメリアを担ぎ出せば良い。奴ならば、丁度いい神輿になってくれる」
フィアーナの命が下り神々の協議会が終わった後に、数十柱の神は天空の地から離れた場所に集まっていた。
当初は、グレイラスに唆された十数柱のみだった。彼等は、原初の神々の在り方や三法に不満を持った、新興の神と呼ばれる若い世代の神である。
そんな彼等は次第に数を増やし、今や一大勢力と呼んでも差し支えない程に拡大していった。
しかし彼等の意見は、協議会にて聞き入られる事は無かった。それは、フィアーナが神々の世界において、未だ権威を持っている証でもあろう。
ただ、これから台頭しようと考える若い神にとって、その存在は目の上のたん瘤でもあろう。
「ロメリアを担ぎ出すといっても、どうするのだ? 既にロメリアの神格は剥奪の対象となっている」
「そうだ。庇えば、我等にもその矛先が向く」
「それは、我に考えが有る」
「なんだ? 言ってみろ」
考えが有ると語る神に、注目が集まる。そして、その神は胸を張りながら、得意げに口を開く。
「我はグレイラスから聞いた事が有る」
「何をだ? 同胞は何を語ったのだ?」
「ロメリアがドラグスメリアも同時侵攻しているとな」
「何!」
「ドラグスメリアだと!」
「それは本当なのか?」
「しかし、どの様な方法でだ?」
「あの土地には、エンシェントドラゴンがいるのだぞ! 神に最も近く、神獣とまで呼ばれた守護者だ」
「我々とて、そう簡単に手が出せぬ」
「我々だけではない。原初の者達とて同じではないか」
「仮に、エンシェントドラゴンをどうにかした所で、ミュールが黙っておるまい」
「待て、話しは最後まで聞け! 良いか? 神の戦争介入はおかしいと思わんのか?」
「それは……」
「戦争を止めるだけなら、エンシェントドラゴンにやらせれば良い」
「確かに、そうだ」
「それとだ。最近の協議会にはミュールが参加していない」
「それも、おかしいな。ドラグスメリアから離れられない理由でも出来たか?」
若い神々は一気に騒ぎ出す。それもそのはず。混沌勢がここまで自由に動き回れたのも、悪感情を集める事が出来たのも、欲望のままに生きる人間の大陸だからであろう。
アンドロケイン大陸で、グレイラスは亜人を洗脳し戦争を嗾けた。しかし、それが通用したのは一部の亜人だけである。神の権能を持ってしても、アンドロケイン大陸中に戦争を広げる事は出来なかった。
ましてや、己の誇りをかけて戦いあっている魔獣には、グレイラスの権能は及びもしないだろう。
それに、四体存在するエンシェントドラゴンは、神の使いで世界の守護を任されている。それ程の存在だ。如何に若い神々が、フィアーナを筆頭とした原初の神々に不満を持とうとも、彼の神獣と真正面から事を構える気にはならない。
しかも、そのエンシェントドラゴンは、ドラグスメリアを根城としている。
だから、誰もロメリアが『ドラグスメリアを侵攻している』とは考えなかった。
「問題は、ラフィスフィア大陸だけに留まらないのだ」
「と、言うと?」
「既に一部とは言え同胞は、アンドロケイン大陸に戦争の火種を撒いた」
「あぁ、そうだな」
「ラフィスフィア大陸が存亡の危機に有る状況で、守護獣が動かない」
「それがロメリアの仕業だと言うのか?」
「そうだ。ロメリアは分霊体を用いて、エンシェントドラゴンを手中に収めようとしている」
「なんと!」
「思わなかったか? 如何に大地母神の子であったとして、同胞やアルキエル、それにメイロードまで。三柱も打倒したのだぞ!」
「しかも、異界の地ではロメリアを追い詰めたと聞いた。それも、おかしな話だ。有り得ん!」
「そうだ。仮にロメリアが己の神格を分けて、力が弱まっていたとしたら?」
「混血程度なら、ロメリアをやれるかもしれん。という事か?」
「そうだ。ロメリアの力は半減している。それが異界の地で、無様を晒した理由だ。本来であれば、混血如きに遅れは取らんだろう」
「確かに……な」
ペスカと冬也がグレイラスに勝利出来たのは、シグルドによって弱らされていたからである。そして、冬也がアルキエルに勝利出来たのは、彼が地上に影響が出ない様に極限まで神気を抑えていたから。
加えてメイロードである。彼女は、神気のほとんどをロメリアの復活に使っていた。実際の所、ペスカと冬也は真の意味で神とは対等に戦えてない。
それ故なのだろう、ペスカと冬也を侮っているのは。
ペスカは英雄の力を経て覚醒し、頂きに辿り着こうとしている。冬也の力は、浄化の力を得て神に届こうとしてるのを彼等は知らない。
「だから、我々はロメリアに助力する。それも秘密裏にな」
「秘密裏にといっても、どの様にする?」
「先ずは、アンドロケインに撒かれた火種を大きくする。これで、ラアルフィーネが動き辛くなる」
「それは良い考えだ」
「そして、ドラグスメリアで行われている、ロメリアの作戦に参加する。これで、ミュールの動きも更に抑制出来よう」
「おぉ、直ぐにやるべきだ!」
「しかし、本命のロメリアが神々によって討伐されるのは時間の問題だ」
「そうだ、そちらはどう対応するのだ?」
「ロメリアは原初の神々によって討伐されるのは、決定事項だ。それには我々も参加しなければならない」
「否! それでは、我々はまた旗印を失う事になる」
「いや。参加せねば、それこそ我々の破綻を意味するぞ!」
「だからだ。その前に、分霊体と本体の神格を交換するのだ」
「保険を掛けるという事か?」
「そうだ。事前に接触してな。実際の討伐戦では、我々はただ事態を見守るだけでいい」
辺りに拍手が巻き起こる。それだけ、その作戦が魅力的に見えたのだろう。そして自分達が、原初の神々に取って代わる光景を夢想したのであろう。
大きな拍手を得て自信を持ったのか、その神は言葉を続ける。
「我は、ここに宣言する! 我等は反フィアーナ同盟! 同胞諸君! 原初の神々を打ち滅ぼすまで、我等は止まらない! 我等は歩み続ける! そして世界に新な秩序を!」