私は恐れていた現実を目にして、ああ、私たちは本当に取り返しのつかない状況を引き起こしてしまったのだと思った。私は私の罪を忘れないため、ここに今起きた事の経緯を簡単に記しておく。

 きっかけは半年前のことだった。私と同級生の円香と達也と望、アンチ青春同好会の面々は色んなことにそれぞれ憎しみと嫌悪と怒りと絶望を抱えていた。そこにあの男がやってきた。その日は暑かった。なのに男は不気味な笑みを浮かべ、黒づくめのトレンチコートを着ていた。
「皆さんの悪意で、あいつらに呪いをかけてやりましょう」
 そう言って男はよくわからない銀色の卵形の何かを内ポケットから四つ取り出して見せてきた。
「この卵に向かって呪いたい相手の名前を四回ささやきなさい。そうすれば、微弱な呪いを相手にかけることができるのです」
 その場で手を挙げて質問をしたのは私だった。
「微弱な呪いって何ですか?」
 男はこう答えた。
「微弱は微弱です。例えば、転ばないようなところで転びやすくなるとかでしょうか」
「そいつはいい」
 達也は男から卵を一つ受け取った。
「そのくらいの呪いなら、アイツらにかけてやりたいな」
 円香もそれを一つ受け取った。
「じゃあ、僕も」
 望も一個受け取った。残る一個は私が受け取ったので私の物となった。手元の卵が全て無くなった男は怪しげな笑みを浮かべた。
「皆さん、それじゃあ良い日々を」
 男はどこかへと去っていった。それから男を見ることは無かった。

 私たち、アンチ青春同好会はもらった卵にそれぞれ呪いたい相手の名前をささやき続けた。私の場合は憎き彰に対する呪いをずっとかけ続けていた。
 彰は私の初恋の相手である。だが、彼は私をあざ笑い、恋人の真美や仲間たちと一緒に私のことをシカトした。また、彼らは悪ふざけを繰り返し、自分たちの言動がさも青春かのように豪遊していた。私はそれが憎かった。許せなかった。だから微弱な呪いをかけ続けた。効果は本当にあったようだった。呪いをかけるようになってから彰は転びやすくなった。また、ちょっとしたケガを定期的にするようになった。これはいい気味だと思った私は呪い続けた。
 呪い続ける一方で私にはこのまま呪いをかけ続けていたら、彰はいつか死んでしまうのではないかと思った。だが、そこで冷静になれない程の憎しみが私にはあった。

 呪いを繰り返しかけるようになってからおおよそ半年が経ったある日の朝。突然卵の中から何かが聞こえた。
「憎い!」
 卵は確かに一言そう言った。私は急に怖くなった。理由は説明できないが、とにかく怖くなってしまった。私は普段持ち歩いていた卵を置いて家を出た。学校に着くと、校庭に大勢の人がごった返していた。嫌な予感がした。私は人の群れをかき分けて群衆が見ていたものを見た。そこには頭から大量の血を流して大の字になって倒れている彰がいた。
「ああああああああ!」
 私は取り返しのつかないことをしたのだと気づいた。私は、彰を呪い殺した。