ここは武闘家養成所「G&Sトライアード」本社。
ミランダとセバスチャンの話し合いは続く。
「『ミランダ武闘家養成所』所属武闘家──いや、我が『G&Sトライアード』以外の武闘家は、今後全員、廃業──辞めてもらうことになります」
セバスチャンの言葉に、ミランダは目を丸くした。
セバスチャンはとんでもないことを言い出したものだ。冗談なのか? 本気なのか?
「セバスチャン、あなた! 頭がおかしくなったの?」
ミランダはセバスチャンをにらみつけて怒鳴った。
「グランバーン王国の武闘家が、ほとんど消えてしまうことになるってこと?」
「その通り。今後、正式な『武闘家』は、我々、世界最大最高の武闘家養成所である、『G&Sトライアード』所属の武闘家のみになります」
「バカを言わないで!」
ミランダはバンと机を叩いた。
「誰からの命令なのよ!」
「『武闘家連盟会長』としての私、セバスチャンの決めたルールですよ、ミランダ先生」
セバスチャンは今、大変な、武闘家界をゆるがすようなことを言っている。
自分の武闘家養成所の選手以外、武闘家を名乗るな、という命令だ。
意味が分からなすぎる。
「説明をしなさい!」
ミランダは怒りをしずめようとしたがムリだった。
「納得できない! ジョークならジョークと言いなさい、セバスチャン!」
「ジョークではありませんよ。まず、『G&Sトライアード』以外の武闘家たちは、技術がなさすぎる。魔物が増えている昨今、武闘家がそんなことで、民間人を守れますかね?」
確かに──武闘家は本来、「人を守る」ことが仕事だ。
ミランダは今日のトーナメントの試合をすべて観戦した。
ゼントVSクオリファ、サユリVSドリューン、ローフェンVSグスターボ以外は、全員、見どころのない判定勝ち。確かにほとんどの選手が、消極的な闘い方だった。
技術的に、お粗末な選手は多かった。
しかし……。
「困るんですよねえ」
セバスチャンは、首を横に振りながら言った。
「武闘家として、心技体が追い付いていない選手が多すぎる。負けたけど、うちのクオリファは蹴りが素晴らしかったし、サユリもレベルが高かったでしょう」
「私のところの、ゼント・ラージェントは最高の選手よ!」
ミランダの問いに、セバスチャンは嬉しそうに、パンと手を打った。
「そうですね! ゼント・ラージェント君は素晴らしい! 我が『G&Sトライアード』に所属してくれれば、それなりの地位を差し上げられます」
「またしても、バカを言ってるわね」
ミランダは立ち上がろうかという勢いだ。この奇妙な決定をするセバスチャンから、世の中の武闘家を守らなければ! ミランダは使命感を感じた。
「教えなさい! 何が狙いなの?」
「さっきも言ったでしょう? 魔物が人間を襲うことが多くなってきているのです」
セバスチャンは、目の前の魔導鏡のスイッチを、遠隔魔導装置でONにした。
様々な魔物──火を吐くダークドラゴン、棍棒を持ったビッグトロール、素早い動きのワーウルフ、筋骨隆々のリザードマンの映像だ。
七年前から眠り続けているとされる、「魔王ギランダーク」。ダークドラゴンらは、その手下たちだ。
「人類は、これらの強力な魔物たちを、歴史上2、3回しか倒したことがありません」
セバスチャンは言った。
ゲルドンが魔王の四天王、闇騎士ガーロンド、闇魔導師グラッシュドーガを倒したことがあったが、それは人類の大快挙と言えたのだ……。
ただし、四天王は候補が魔族にたくさんおり、倒してもまた補充してくるらしい。また、攻撃力、凶暴性という意味では、ダークドラゴンやビッグトロールたちの方がやっかいな敵といえる。
「七年前から、『魔王ギランダーク』は世界のどこかで自らを封印させ、力をたくわえるために眠っている」
セバスチャンは言った。
魔王は眠っているが、手下の魔物たちは、人間を襲い続けている。
「しかし、魔王が目を覚ませば──本物の戦争になります」
「だからと言って! あなたの決定に関していえば、疑問だらけよ!」
「──その時に必要なのは、『真の武闘家』です。『自称武闘家』と『真の武闘家』を見分けるには、我が『G&Sトライアード』に所属していれば良い、ということ。他の武闘家は邪魔ですね。弱い武闘家が魔物に挑んで殺された場合、死体の処理の手間、賃金もかかります」
死体の処理? 手間? 賃金?
人間の命をまるでモノのように……コイツ──セバスチャンの頭の中はどうなっているのか?
ミランダは、セバスチャンは腕組みして見るしかなかった。
「それなら、所属養成所をやめた武闘家たちは、どこに行き、何をしたら良いわけ?」
「……さあ?」
セバスチャンは首を傾げた。
「そんなことは知らないなあ。実力のない武闘家たちが、どう野垂れ死にしようが、知ったこっちゃない」
「……あ、あなた!」
ミランダは再び、机をバン、と叩いた。
「武闘家たちにも人生があります。一人一人、生きているのよ!」
「いやいや……。この世界は実力がすべて。そうじゃありませんか? 実力がないものはカス、ゴミクズ同然!」
「カス? ゴミクズ? 信じられないことを言うわね! 武闘家というものは、実力だけでは語れない!」
ミランダは反論した。
「格闘を通し、力が弱い者たちに、勇気を与える! 指導する! 愛情を教えるのも、武闘家のつとめでしょう?」
「古いなあ。能力のある者、才能のある者以外、いらないんですね。勇気? 愛? そんな幻想、試合や戦争、路上の実戦で通用しますか?」
セバスチャンはクスクス笑っている。
この野郎……ミランダはセバスチャンの胸ぐらをつかんでやりたい、と思っていた。
「結局、我が『G&Sトライアード』に所属すればよろしいのです。100万ルピーを払って、初級クラスから学んでもらいますがね」
「プライドが高い武闘家たちが、そんなことを受け入れると思う?」
「受け入れた方が、得なのになあ。良い指導が受けられるんですよ」
セバスチャンは思っていた。
武闘家連盟会長? くだらん。私が欲しいのは、勇者、戦士、魔法使い、僧侶、そして武闘家などすべてのギルド系職業を統括する、「国王親衛隊長」の座だ!
そうすれば、グランバーン王に次ぐ、実質NO2の権力を持つことができる。
この世の「闘い」のほとんど──「戦争」すらも、支配する者となれるのだ。
その座は現在、父がついている──。
私がその座をいただく!
そのための準備段階に過ぎないのだ。
「サユリなど8名の武闘家を、我が『ミランダ武闘家養成所』から強奪したこと──忘れないわよ!」
ミランダはセバスチャンをにらみつけながら声を上げたが、セバスチャンは静かに言い返した。
「そんなことを思い出させないくらい、『G&Sトライアード』が、あなたたちの選手を粉砕してあげましょう」
「ゼント・ラージェントが、『G&Sトライアード』の選手なんて、怖れるほどでもないことを、証明するわ」
「ほほう? ゼント君がね……。ミランダ先生は、私たちの実力を疑っていると」
すると、セバスチャンはクスクス笑い始めた。
「……私は、トーナメントを見て、自分の血がたぎるのを感じて仕方なかったんですよ」
「……えっ?」
「よろしい。次の試合、私がミランダ先生のところのローフェン君と試合をしたい。私自身がトーナメントに出場しましょう」
「は? 何を言って……」
「私──セバスチャン自身が、ゲルドン杯格闘トーナメントに出場する! そう言っているのですよ。ローフェンの対戦相手は、悪いが退いてもらいましょう」
「ちょっと、何、わけのわからないことを……」
大勇者ゲルドンの秘書、そして「G&Sトライアード」の社長であるセバスチャン──ほ、本当に、自ら試合のリングに上がるというの?
ミランダは驚いて、セバスチャンの顔を見るしかなかった。
セバスチャンはただ笑っているだけだった。
その目は、実業家セバスチャンではなく、武闘家セバスチャンの目になっていた。
恐ろしく鋭かった──。
ミランダとセバスチャンの話し合いは続く。
「『ミランダ武闘家養成所』所属武闘家──いや、我が『G&Sトライアード』以外の武闘家は、今後全員、廃業──辞めてもらうことになります」
セバスチャンの言葉に、ミランダは目を丸くした。
セバスチャンはとんでもないことを言い出したものだ。冗談なのか? 本気なのか?
「セバスチャン、あなた! 頭がおかしくなったの?」
ミランダはセバスチャンをにらみつけて怒鳴った。
「グランバーン王国の武闘家が、ほとんど消えてしまうことになるってこと?」
「その通り。今後、正式な『武闘家』は、我々、世界最大最高の武闘家養成所である、『G&Sトライアード』所属の武闘家のみになります」
「バカを言わないで!」
ミランダはバンと机を叩いた。
「誰からの命令なのよ!」
「『武闘家連盟会長』としての私、セバスチャンの決めたルールですよ、ミランダ先生」
セバスチャンは今、大変な、武闘家界をゆるがすようなことを言っている。
自分の武闘家養成所の選手以外、武闘家を名乗るな、という命令だ。
意味が分からなすぎる。
「説明をしなさい!」
ミランダは怒りをしずめようとしたがムリだった。
「納得できない! ジョークならジョークと言いなさい、セバスチャン!」
「ジョークではありませんよ。まず、『G&Sトライアード』以外の武闘家たちは、技術がなさすぎる。魔物が増えている昨今、武闘家がそんなことで、民間人を守れますかね?」
確かに──武闘家は本来、「人を守る」ことが仕事だ。
ミランダは今日のトーナメントの試合をすべて観戦した。
ゼントVSクオリファ、サユリVSドリューン、ローフェンVSグスターボ以外は、全員、見どころのない判定勝ち。確かにほとんどの選手が、消極的な闘い方だった。
技術的に、お粗末な選手は多かった。
しかし……。
「困るんですよねえ」
セバスチャンは、首を横に振りながら言った。
「武闘家として、心技体が追い付いていない選手が多すぎる。負けたけど、うちのクオリファは蹴りが素晴らしかったし、サユリもレベルが高かったでしょう」
「私のところの、ゼント・ラージェントは最高の選手よ!」
ミランダの問いに、セバスチャンは嬉しそうに、パンと手を打った。
「そうですね! ゼント・ラージェント君は素晴らしい! 我が『G&Sトライアード』に所属してくれれば、それなりの地位を差し上げられます」
「またしても、バカを言ってるわね」
ミランダは立ち上がろうかという勢いだ。この奇妙な決定をするセバスチャンから、世の中の武闘家を守らなければ! ミランダは使命感を感じた。
「教えなさい! 何が狙いなの?」
「さっきも言ったでしょう? 魔物が人間を襲うことが多くなってきているのです」
セバスチャンは、目の前の魔導鏡のスイッチを、遠隔魔導装置でONにした。
様々な魔物──火を吐くダークドラゴン、棍棒を持ったビッグトロール、素早い動きのワーウルフ、筋骨隆々のリザードマンの映像だ。
七年前から眠り続けているとされる、「魔王ギランダーク」。ダークドラゴンらは、その手下たちだ。
「人類は、これらの強力な魔物たちを、歴史上2、3回しか倒したことがありません」
セバスチャンは言った。
ゲルドンが魔王の四天王、闇騎士ガーロンド、闇魔導師グラッシュドーガを倒したことがあったが、それは人類の大快挙と言えたのだ……。
ただし、四天王は候補が魔族にたくさんおり、倒してもまた補充してくるらしい。また、攻撃力、凶暴性という意味では、ダークドラゴンやビッグトロールたちの方がやっかいな敵といえる。
「七年前から、『魔王ギランダーク』は世界のどこかで自らを封印させ、力をたくわえるために眠っている」
セバスチャンは言った。
魔王は眠っているが、手下の魔物たちは、人間を襲い続けている。
「しかし、魔王が目を覚ませば──本物の戦争になります」
「だからと言って! あなたの決定に関していえば、疑問だらけよ!」
「──その時に必要なのは、『真の武闘家』です。『自称武闘家』と『真の武闘家』を見分けるには、我が『G&Sトライアード』に所属していれば良い、ということ。他の武闘家は邪魔ですね。弱い武闘家が魔物に挑んで殺された場合、死体の処理の手間、賃金もかかります」
死体の処理? 手間? 賃金?
人間の命をまるでモノのように……コイツ──セバスチャンの頭の中はどうなっているのか?
ミランダは、セバスチャンは腕組みして見るしかなかった。
「それなら、所属養成所をやめた武闘家たちは、どこに行き、何をしたら良いわけ?」
「……さあ?」
セバスチャンは首を傾げた。
「そんなことは知らないなあ。実力のない武闘家たちが、どう野垂れ死にしようが、知ったこっちゃない」
「……あ、あなた!」
ミランダは再び、机をバン、と叩いた。
「武闘家たちにも人生があります。一人一人、生きているのよ!」
「いやいや……。この世界は実力がすべて。そうじゃありませんか? 実力がないものはカス、ゴミクズ同然!」
「カス? ゴミクズ? 信じられないことを言うわね! 武闘家というものは、実力だけでは語れない!」
ミランダは反論した。
「格闘を通し、力が弱い者たちに、勇気を与える! 指導する! 愛情を教えるのも、武闘家のつとめでしょう?」
「古いなあ。能力のある者、才能のある者以外、いらないんですね。勇気? 愛? そんな幻想、試合や戦争、路上の実戦で通用しますか?」
セバスチャンはクスクス笑っている。
この野郎……ミランダはセバスチャンの胸ぐらをつかんでやりたい、と思っていた。
「結局、我が『G&Sトライアード』に所属すればよろしいのです。100万ルピーを払って、初級クラスから学んでもらいますがね」
「プライドが高い武闘家たちが、そんなことを受け入れると思う?」
「受け入れた方が、得なのになあ。良い指導が受けられるんですよ」
セバスチャンは思っていた。
武闘家連盟会長? くだらん。私が欲しいのは、勇者、戦士、魔法使い、僧侶、そして武闘家などすべてのギルド系職業を統括する、「国王親衛隊長」の座だ!
そうすれば、グランバーン王に次ぐ、実質NO2の権力を持つことができる。
この世の「闘い」のほとんど──「戦争」すらも、支配する者となれるのだ。
その座は現在、父がついている──。
私がその座をいただく!
そのための準備段階に過ぎないのだ。
「サユリなど8名の武闘家を、我が『ミランダ武闘家養成所』から強奪したこと──忘れないわよ!」
ミランダはセバスチャンをにらみつけながら声を上げたが、セバスチャンは静かに言い返した。
「そんなことを思い出させないくらい、『G&Sトライアード』が、あなたたちの選手を粉砕してあげましょう」
「ゼント・ラージェントが、『G&Sトライアード』の選手なんて、怖れるほどでもないことを、証明するわ」
「ほほう? ゼント君がね……。ミランダ先生は、私たちの実力を疑っていると」
すると、セバスチャンはクスクス笑い始めた。
「……私は、トーナメントを見て、自分の血がたぎるのを感じて仕方なかったんですよ」
「……えっ?」
「よろしい。次の試合、私がミランダ先生のところのローフェン君と試合をしたい。私自身がトーナメントに出場しましょう」
「は? 何を言って……」
「私──セバスチャン自身が、ゲルドン杯格闘トーナメントに出場する! そう言っているのですよ。ローフェンの対戦相手は、悪いが退いてもらいましょう」
「ちょっと、何、わけのわからないことを……」
大勇者ゲルドンの秘書、そして「G&Sトライアード」の社長であるセバスチャン──ほ、本当に、自ら試合のリングに上がるというの?
ミランダは驚いて、セバスチャンの顔を見るしかなかった。
セバスチャンはただ笑っているだけだった。
その目は、実業家セバスチャンではなく、武闘家セバスチャンの目になっていた。
恐ろしく鋭かった──。