俺はしぶしぶ、不良少年デリックの前に出た。この間、俺をいじめた少年の一人だ。
 ところが、デリックの後ろには、いつの間にか、もう一人、見覚えのある少年が立っていた。

(くっ!)

 仲間の背の高いバンダナ少年だ!

 リーダーのゼボールこそいないが、仲間を連れてきていたのか。

「おい、レジラー、見ろよ」

 デリックはクスクス笑って、バンダナ少年に言った。

「こいつ、この間の引きこもりだぜ」

 バンダナ少年はレジラーという名前らしい。くそ、このまま闘うとなると、2対1という構図になる。それでもやるのか!

「まさか、この親父を助けるつもりか? カッコいいねえ~!」
「ぐへっ!」
 
 レジラーは、道端に座り込んでいるブルビーノ親父を、足で小突いた。

「や、やめろ!」

 俺は叫んだ。

「なるほど、なるほど~、小デブ君、君は僕とケンカするってんだね? マジで」

 チョッキ少年のデリックはニヤニヤしながら、背中の(さや)から木刀を引き抜いた。

「──殴り倒してやらあ!」

 デリックはそう叫びながら、木刀を上段から振ってきた。
 ん? 遅い!

 俺はサッと右に()けた。

「チッ」

 不良少年のデリックは舌打ちした。

「生意気にも、()けやがって。じゃあ、本気でやるぜ?」

 今度はデリックの木刀、中段斬り! 木刀を中段に──俺の胴に向かって、横に振り回してきた!
 
 しかし、俺は木刀の動きをよく見ていた。

 ここだっ!

 俺は前蹴りを繰り出していた。俺の前蹴りの爪先が、デリックの木刀の刃先に当たり──。

 木刀は吹っ飛び、宙を舞った。

「な、なにいっ! てめええっ!」

 ガランッ

 木刀は、地面に落ちた。周囲の野次馬はシーンと静まり返っている。

「なめんなぁーっ!」

 彼は、あわてて殴りかかってきた。

 ──ここだ!

 ゲシイイッ

 俺はデリックの勢いを利用して、ヤツの太ももに下段蹴りを叩き込んでいた。

 太ももの外──ここを蹴ると相手は痛みをこらえることができず、動きが止まる!

「が、ぐ」

 デリックは案の定、足を止めた。──しかし、痛みをこらえて、ヨロヨロと向かってくる。

「こ、こんなのはまぐれだ……そうに決まってる」とつぶやきながら。
 
 俺は、ギチリと両手を構える。

「う、お」

 彼は瞬間的に、向かってくるのを中止した。冷や汗をかいている。俺から何らかの危機を察知(さっち)したのだろう。そう──、俺はカウンターパンチを狙っていた。

「何をやってるんだ、デリック!」

 横で見ている仲間のバンダナ少年、レジラーが声を上げる。

「ビビってんじゃねーぞ!」
「ビ、ビビってなんかいるもんか! ちっきしょおおー!」

 デリックは、「うおおおーっ!」と声を上げながら、右拳を振りかざしてきた。

 がら空き!

 ドゴオッ

 俺はデリックの右アゴに、右掌底(みぎしょうてい)を叩き込んでいた。掌底とは、手の平の下部で打つ打撃技だ。

 す、すげえ……自分で言うのもなんだが、どうしてこんな技が放てるんだ? これが……スキル?

「あ、ぐ、ぁ」

 デリックはそんな声とともに、地面に両ひざをついた。デリックはダウン状態だ。無理もない。アゴに掌底(しょうてい)を受けたのだ。

「う、うぉっ……やるねえ」
掌底(しょうてい)……つまり掌打(しょうだ)ってヤツだ……!」
「見事に当たったぞ」
 
 野次馬たちが声を上げた。

 普通の拳の打撃技より、頭に響いているはずだ!
 俺はデリックを倒した──!
 
 だが、休んでいるヒマはなかった。

「この野郎がああっ!」

 俺とデリックの勝負を見ていたレジラーが、声を上げ、俺の胴に組みついていた。