「今日は何をするんだー、」
今日、俺は、何故か夏休みなのに制服で
集めさせられている。
「ふっふん!今日は、最強プランを組んできました。」
急に恐怖心が巻き起こる。
「な・なんと今日は、風鈴の死ぬまでにしたいこと全部やっちゃおうスペシャルです!」「はっっ!?」
余りにも予想してないことに、色々な感情が起こる。
「例えば何があるんだ?」
「今からそれを発表します!まず、今着てるこの制服。そうです。制服で原宿デートして見たかったの!!まぁ相手は、しょうがなく涼太で、」
「おいしょうがなくって何だよ!!」
大声で笑い始める彼女。笑顔が太陽のように眩しい。
「2つ目!遊園地に行きます!お揃いのカチューシャ付けて沢山写真を撮ります!」
遊園地か。人混みは、苦手だがもう決まってしまっている気配がしたため、止めるのは諦める。
これで終わりかと思っていたその時、
「じゃあ3つ目。花火をします。」
花火。今年は何回も見たりしたりしたが、何故か飽きない。正直、期待していた自分もいた。
俺は、少しはにかみながら、頷いた。
「じゃあまずは遊園地からレッツゴー!」
彼女が力強く俺の手を引っ張る。何故か鼓動が高鳴る。こんな変な気持ちになったのは初めてだった。
「ジャーン着きました!
じゃあまずはカチューシャからね!」
周りは家族連れ、カップル、陽キャの集団だらけで、とても俺が入っていいのかと半信半疑で彼女に着いていく。今の俺は、前よりマシだと。自分に言い聞かせる。
「じゃあこれとこれペアでね!」
「えっ俺も付けんの!?」
「当たり前でしょ。はぁ、女心が分かってないな。」
まだ俺には課題が山積みのようだ。
カチューシャを買い、店を後にする。
「ねー。あそこで写真撮ろうよ!キャストさんにお願いしちゃおう!すみませんー写真お願いします!」
ドダバタ走る彼女に慌ててついて行く。
「ねー、涼太ポーズ固くない笑ウケるんだけど。」
「俺の精一杯だ。」
彼女がまた大声で笑い出す。写真苦手な俺的なりの精一杯のポーズだったが、恥ずかしい気持ちになった。写真を沢山撮り、遊園地を後にした。
アトラクションは、彼女の病気のことがあり、乗れないため早めに出た。
「はい!次は原宿へ!レッツゴー!」
また彼女の掛け声で電車に乗りこんだ。
「うわー人多いね。」夏休みのこともあり人が溢れかえっている。ここも初めて来たため、緊張が走る。
「じゃあまずはプリクラ撮ろう!」「マジかよ、、」
俺には拒否権がない。
「うわー!凄いね私もいうてあんまり撮ったことないんだ!嬉しい!!」
周りは女子ばかりで、店内は既に賑わっている。
「これ盛れるらしいよ!これで撮ろう!」
彼女に腕を引っ張られ、連れていかれる。その時、またさっき味わった変な感情が湧いてきた。
「うわー。このシール可愛いわ!お揃いにしよう!」
しようと誘う前に決定ボタンを押しているのには、
あえて触れないようにした。
それから、人生初のプリクラを撮った。
ポーズのぎこちなさは、またいじられたが彼女に教えてもらい、ようやく撮り終えた。
「うわー見て盛れすぎてる笑笑らくがきしようか」
彼女はスルスルと絵や文字を描き始めた。
センスがある彼女は絵や文字のセンスもあるらしい。
できたプリクラを見た時は感動した。
自分では、絶対書けないものがそこにはあった。
今まで見た事のない彼女の真剣な様子。
思わず笑ってしまい彼女が振り向く。
「何よー笑!」「何でもないって!」
彼女の姿が無心になって遊ぶ子供に見えたのは伏せて
おこう。
「じゃあ次はいちご飴食べたいなー」
俺でも知っている物だ。意外と食べ物には
疎くないのだ。
「はいじゃあ涼太はマスカット飴ね。」
「えっ俺もいちご飴が、」
「だから!!シェアすんの!したいの!」
今回のデート(仮)で俺の男力が皆無なことに改めて
気付かされた。
「えー美味しすぎ。なんでこんなに美味しいの!!」
大袈裟なと思って半信半疑で食べてみると想像以上の
美味しさだった。
「パリパリの飴の中にジューシーな果物。凄いな。」「何そんなにシェフみたいなコメントしてんのよ笑!
シェフになったら?」
何故か直感で思った。なりたいと。
「実は亡き父が、シェフだったんだ。日本料理の。俺もシェフになろうかな。なんて笑。俺には無理か、。」
「えっめっちゃいいじゃん!シェフ、何か涼太に合うし!なったら食べさせてね料理!」
「うん!絶対一番に食べさせるわ笑笑」
実現できない現実を。今は、見たくない。
風鈴とずっとこうやって笑ってたい。その願いを願い
続ける。
「はぁーやっぱり地元の空気が1番だねー!」
「あーそうだな。やっぱ都会はすごいな。」
都会の人の混み具合に疲れて2人とも少しぐったりしている。
「じゃあ最後に!」「花火しますか。」
シャワーーーーパチパチパチ 花火の音が煌めき出す。
2人とも真剣に花火を見つめ微笑む。
「ねー。」彼女が口を開いた。
「うーん?」
「明日死ぬって言われたら何したい?」
俺は少しの間考えて答えを出した。
「風鈴と花火をしたい。」
彼女は何故かこちらを向かない。
でも、何故か悲しんでいる雰囲気を感じた。
俺がどうしようか迷っているその時彼女がこちらを
向いた。
「ありがとう」
赤くなった泣き目でこちらを微笑む。
その瞬間また変な感情になった。
この感情は一体何なのか。
その日は花火のように星が煌めいている。
そんな気がした。
「今日は、何だー」
もうこのセリフもだいぶお決まりに、なってきている。
何が起こるかわからない、こんな日々が楽しい。
素直にそう感じていた。
「今日はねー!!神社に行きます!」「神社、?」
彼女の衝撃的な発言にびっくりだ。理由はなんといっても、彼女が神社に行くような人だと思わないからだ。今までの様子を見ると、賑やかなところが好きなイメージがある。
「そう神社だよー!私がずっっと涼太を連れていきたかったとこ!」
「俺を連れていきたい、?なんて言う神社なのか?」「それは、行ってからの秘密!」
とりあえず、彼女の言うとおりについて行くことにした。何駅も乗り継いで着いたのは、のどかな風景が見られる場所だった。
「ここは恋愛の神様の神社なの!涼太が好きな人いるっていたからさ!その人の恋を私が応援してあげようと思って!」
「いや好きっていうか、、」
「もう、ごちゃごちゃ言ってないで行くよ!」
風鈴が階段を上りだす。俺も、置いていかれないようにと急いでついて行く。彼女が言っていたように、恋愛の神様がいることもあってかハートの装飾が施されている。辺りにはカップルや女子高生がチラホラ見受けられる。まずは参拝をすることにする。
ご縁があるようにと五円玉を投げ入れる。二礼二拍手をし、願い事を心の中で、伝える。俺は、自分の恋なんかより伝えたいことがあった。恋愛の神様に伝えるのは、とてもおかしいと思ったが俺の願いはこれしかなかった。
「彼女が、幸せに生きられますように。」と。
その後俺らは、一礼をし、参拝を終えた。
「ねーなんてお願いしたの?」
「それは教えられないよ。教えたら叶わないらしいからな。願い事。」
「えっーケチー」「それより、おみくじ引こうぜ」
「えっ絶対引くー!」
俺らはそれぞれ1つずつおみくじを購入し、一緒に開くことにした。
「じゃあいくよー。いっせーのーで」
紙を開くと赤文字で大吉と書かれていた。
「やったー!大吉だー!」
あれ?彼女の様子がおかしい。
「風鈴は、どうだったのか?」
横を見ると、黒文字で大きく、凶と書かれていた。
「えっ凶!?あはははは笑」
笑っていると彼女は拗ねた声で言った。
「もう、いいし!もう1回引く!」「はっ!?おみくじ何回も引くバカいるかよ。」「そんなの知りません。」
彼女は、むきになってそれから、5回引いたが、どれも凶やら吉やら散々な結果になり、結局諦めていた。
「あー、私どうしよう。5回も引いて、あんな結果は
やばいって、」
帰り道。彼女は、落ち込みながら話し出す。
俺は、ポケットを探り出し、神社で買ったものを彼女の前に差し出した。
「これあげるから、元気出せよ。」「えっ!?何これ」ハートの形の陶器のお守り。色がパステルでとてもお守りには見えないぐらい可愛い。日頃の感謝プラス彼女の期限を治すために購入したのだ。
「さっきの神社で買ったお守り。これ持っとけば、
大丈夫だろ。」
彼女は、そっぽを向く。
「おいなんだよ!」
「ふっふん。やりますな。ありがとう!」
彼女のほっぺたは、夏の暑さで赤らんでいた。
まるでさくらんぼのように。そんなふうに、ゆっくり歩いて帰っていたそんな時だった。
ザーーー
「えっ何この雨!!」
「なんだこれ。とりあえずそこのバス停に行こう。」
俺らは、手で頭を覆いながら走っていく。
「何だこの大雨は。天気雨か。」
「涼太。やばいかも。うちら今日帰れないかも。」
「えっなんでだよ」「電車が運休した。」
まさかの出来事に頭は混乱だらけだ。電車が止まり、他に交通手段と言えば、タクシーぐらいだ。でも、この距離だとタクシー代は凄いことになるだろう。なら、宿をとる方がいいのだが、こんなにのどかなところに来ていることもあって、宿はどうも見当たらない。
どうしよう。そう戸惑っているときだった。
「おい、そこのお嬢ちゃんと少年。ちょっと手伝ってくれないか?」「どうしたんですか?」
彼女がそう聞くと、50代前半らしきおじさんは車庫のシャッターが閉まらなくて困っていると伝えてきた。そのぐらいの手伝いなら、容易い事だ。すぐに、おじさんの家の前まで行き、車庫のシャッターを閉めた。
「本当に助かったよ。こんな年になると、筋力も落ちてしまらなくてよー。」
「いや大丈夫ですよ。全然。じゃあ失礼します。」
「いやいや、暇なんだったら大したもんじゃないがお茶でも飲んでけ。」「いやいや、そこまでは、、」
さすがに気の毒だと思っている矢先に、。
「えっ!ありがとうございます。もう外寒くて、助かります。」
「おい何言ってんだよ。遠慮というのは、お前は知らないのかよ。」
おじさんは声を上げ笑って、「遠慮などいらん。とりあえず上がってけ。」と言ってくれた。
俺と風鈴は、おじさんのご行為に感謝し、
上がらせてもらうことにした。
「きよー。お茶を入れてくれ。」
「あらどうしたんですか?」
家におじゃますると、おじさんの奥さんらしき、
きよさんという人が出てきた。
「この少年とお嬢ちゃんがよ。シャッター閉めるの手伝ってくれて。とりあえず店に案内すっから。お茶入れてくれ。」
「まぁ、すみませんね。ありがとうございます。すぐ入れますね。」
そう言うと、きよさんはすぐにキッチンに入っていった。
「じゃあちょっと着いてこい。」
玄関から入ってまっすぐ進むと、違う場所が見えてきた。「よし。ここに入れ。」「すみませんお邪魔します。」「お邪魔しますー!」
中に入ると、カウンター席が並んでおり、調理器具やら、刺身が入ったショーケースがあった。
「おじさん。寿司屋やられてるんですか?」
「うんそうだ。まぁ今は、こんな老いてしまったしな。予約でって感じだが。」
「えっ凄すぎます!涼太、シェフになりたいって言ってて!ねっ!」
「そうなのか?」
「あっはい。俺の父親も昔やってて。それで憧れてみたいな感じで。」
「ほんとか!!じゃあ少し後で握らせてやんよ。」
「えっ申し訳ないですよ。」
「涼太って言うのか?お前謙虚で良い奴だな。でもこういう時には、大人に甘えとけ。」
「そうだよー!やってみなよ!」
「えっ、。ありがとうございます。」
俺は深くお辞儀をした。なかなか、普通は、修行もせずには、立たせて貰えないだろう。こんないい機会はめったにない。感謝でいっぱいだ。
「すみませんー。遅くなって。お茶です。」
「ありがとうございます。」
俺たちは、2人でお礼を伝えた。
「ところで、なんであんなとこにいたのか?家に帰らないと雨やばいぞ。」
「実は、私たち遠くから来てて。電車で。でも、帰りの電車が全部運休になってて。」
彼女の話を聞きながら、焦りが走る。どうしよう。
今でも、考えている。
「そんなことなら泊まっていかれたらどうですか?布団もあるし。こんな田舎なら泊まるとこなんてないでしょう。」「いやーそれは」
そう言いかけたが、さっきのおじさんの言葉が頭をよぎった。それに、本当に泊まるところは見当たらなさそうだ。
「本当にいいんですか?」
そう言うときよさんは、ニコッと笑って、
「全然大丈夫ですよ。こんなに賑やかなのは久しぶりで私も嬉しいです。」「そうだな。泊まってけ!泊まってけ!」ときよさんもおじさんも言ってくれた。本当に、暖かい人でありがたすぎる。
「本当にありがとうございます!!」彼女は飛び跳ねながら感謝を伝えている。
「じゃあまずはお風呂に入ってきてください。寒いでしょうに。」ということでお風呂に行くことにした。
俺らは、順番でお風呂を借り、パジャマまで貸してもらった。本当にいたりつくせりだ。
「じゃあ今日の夜ご飯は寿司にすっか。ちょっと涼太。握るの手伝ってくれ。」「はい。一郎さん。」
おじさんの名前を聞いてなかったので聞いたところ、柳 一郎さんという人とのことだった。名前がわからず困っていて、すぐさま聞いたのだ。
「じゃあまずはシャリを作る。これがなまた難しいと思うが見よう見まねでやってみろ!」
おじさんは、手に酢をつけ、寿司飯を15〜20gぐらい取って、わさびを魚の裏側につけて、酢飯を乗せ、縦を押さえて、上を押さえて、ひっくり返して握った。 さらに向きを変えて脇を抑えて握り返していた。なんでこんなにも分析できたのかはたぶん、父のおかげだろう。
幼少期に何回も見たこの景色。懐かしい。
俺は、おじさんがやったように寿司を握った。
「できました。」
一郎さんは、こちらを真剣な顔で見ている。それはそうだろう。一郎さんの寿司よりは、握るのが下手だ。そう自分で評価していた。そんな時だ。
「おい。涼太。お前才能あるぞ。初めてでこの出来は凄い。俺はお前を認める。立派な寿司職人になるだろう。」
「えっ、、本当ですか!?ありがとうございます。」
こんなに褒められて嬉しい気持ちが舞い上がる。
「凄い!涼太!やるじゃん!」
「凄いですね。涼太くん!」
風鈴ときよさんがカウンター越しにそう言ってくれた。プロがそう言ってくれたことで叶えれるかという不安のつぼみが花を咲き、叶える。そう変わっていた。
「じゃあいただきますー!」「いただきます。」
寿司を握り終え、頂くことにした。
「えっ美味しいよー!」「美味しいです。一郎さん。」「それは良かった。たくさん食べろよ。」
それから、たらふく寿司を堪能した。
「じゃあお座敷にお布団引いたんでどうぞ。」
きよさんがそう言ってくれて、お座敷に案内してもらった。きよさんと一郎さんにおやすみなさいの挨拶も告げ、俺らは、それぞれ布団に入ることにした。
「今日は、疲れたねー。でも、なんだかんだ楽しかったよね。」
「そうだな。俺の大吉と風鈴の凶がかけ合わさってたよ。」
「凶じゃないよー!」彼女は、まだ諦めてないらしい。「そろそろ諦めろよー。」
そう伝えたが、返事はかえってこない。
「おい寝たふりすんなよ。」静かにして彼女を見てみると、スースーと寝息が聞こえてきた。
「ぶっ なんだよ忙しいやつだな。」
どうやら彼女は疲れ果てて寝落ちしたらしく、思わず吹き出して笑ってしまった。
俺は彼女に「おやすみ」と伝え、目を閉じた。
虫の声が鳴り響く中で。
「おはようございます。」「おはようございますー!」
朝になり、布団を片付けキッチンに来た。
外を確認したが、昨日の雨が嘘だったかのような
快晴だ。
「おはようございます!朝ごはん作ったから良かったらどうぞ。」
「ありがとうございます。何から何まで。」
「うわー美味しそう!ありがとうございます!」
だし巻き玉子に、お味噌汁。炊きたてのご飯。どことなく母の手料理に似ていた。朝ごはんをたいらげ、一郎さんときよさんに別れを告げる時になった。
「本当にありがとうございました。」
「いや楽しかったよ!絶対にまた来いよ!」
「またおいでなさってください。」「来まーす!!」
彼女は、大きな声で笑いながら告げていた。
絶対に、二人でもう一度来たい。そう強く思った。
駅なら帰りと同じように電車に乗り、山江駅にたどり
着いた。
「うわー久々だー!」「いうほどだろ。」
声に出しては、そう言ったが、何故か久々感を感じる
自分もいた。
「ねー、花火しない?」
またかよーっとは思わなかった。何故なら、俺もそう思ったからだ。無言で彼女の目を見て、頷いた。
シャワーパチパチパチ この音を今年は何回聞くのだろうか。今まででたくさん花火をして、花火の良さをたくさん気づいてきてる。
「花火は自分たちでするのもなんかいいよな。」
「そうなんだよねーー!!」
暗闇の中。花火だけの光で照らされる彼女。
それを見て、何故か鼓動が高鳴る。なんなんだ。
この変な感覚は。
その日、見た空は、夏の大三角がとても綺麗に
光っていた。
夏休みは、ほぼ毎日風鈴と過ごした。
ただ全力に。花火のはっちゃけのように。
今日は、風鈴が、俺の家に初めて来る。普段誰も来ない部屋に人が来ることもあり、心が落ち着かない。
ピンポーン 「はーい」
母親がドアを開けると風鈴が入ってきた。
「こんにちは!今日はすみません。お邪魔させてもらって。こちら大したものじゃないんですが、」
彼女のいつもと違う一面を見て驚いた。
「あらーありがとう。涼太、部屋に案内しなさい。」
「あっその前にお父さんに挨拶させてください。」
「ありがとう。喜ぶわ。」
和室に案内し、彼女は仏壇の前で手を合わせる。
静けさが続いた後、
「よしありがとう。部屋に行こう!」
そう彼女が言った。
「どーぞ」部屋に彼女が入る。
「そんなジロジロ見るなよ!」
「だって気になるじゃん笑笑」
「そんなことよりしようぜ。アルバム作り。」
今日は、夏休みの思い出をアルバムにまとめようと
彼女が言ったので家に集まった。
「待ってねージャン写真いっぱいでしょう!」
本当に夏休みだけなのかと思う枚数の写真だ。
改めて今年の夏が、今まででいちばん濃かったと
感じる。
「なんか懐かしく感じるなー。ほらみてこのスイカ割りとかそうめん流しとか。」「ほんとだな。笑笑」
彼女に指示されながら、アルバムを作っていく。
センスがない俺は彼女の言うとおりにした方がいいという賢明な判断をした。作り終えて1つスペースがあった。
「ここは何を貼るのか?」「まだ色んなとこに行くからその写真!」
俺はまだまだ彼女に、振り回されそうだ。
「後さ、ひとつお願いがあるの!図書館に行ってみたくて!」
確かに俺の家の近くには、意外と立派な市立図書館がある。何故かは分からなかったが、暇になってしまったし、行ってみることにした。
外に出ると、一気に熱風が押し寄せてくる。セミの鳴き声が、耳に突き刺さる。でも、今年の夏はたくさん出かけたせいか夏を少し特別に感じられている。たぶんそれは風鈴のおかげだ。
「うわぁー凄いね。涼太、静かにね!」
それはこっちのセリフだと言いたかったが一応、図書館だ。静かにしとこう。
「なんかここお母さんと来た覚えがあるなーって思ってたらやっぱりだ。私、幼い頃入院してた時、本しか見るのなくて。お母さんが借りてきてくれたんだけどわがままいって図書館に行きたいって言って。ここに連れてきてくれたんだ。」
そういうことだったのかと今、理解する。
「ねーなんかイベントしてるよ!行ってみようよ!」
イベントスペースに行くと沢山の人で賑わっている。夏休みはよく図書館では、イベントがされていると聞いたことがある。
「手紙を書こう!!だって。せっかくだし誰かに書こうよ。」
手紙か。もう何年も書いてないな。返事をする前に彼女は、係の人に伝え、氏名を書いている。ちなみに、勝手に俺の名前も。人が意外と多いこともあり、俺たちは少し離れた席に座ることになった。机について紙を渡される。
「こんにちは。今回は手紙を書こうというテーマでイベントをさせていただきます!机にある1枚の用紙に家族や友人、恋人だったり大切な人へのメッセージを書いてみてください。説明は以上です。なにか質問等あれば気楽にどうぞ!」
説明を聞き終わり手紙を書き始めてみる。書く相手は大体決まっていたがいざ書こうとすると難しい。イベントが終わり、風鈴と合流する。
「誰に書いたの?」「うーん。それは内緒だな。」
「えーお母さんとか?」
そんな話をしながら、再び来た道を戻る。
「ねー涼太。これ涼太への手紙。私が、死んだら見て欲しい。読んで欲しい。」
一時、俺は黙り込む。言葉を何も返さずに、受け取る。
作り笑顔を浮かべ彼女を見る。ただ彼女がいるだけで、帰り道さえも楽しい。そんな一時だった。
家に帰り、ゲームをしたり、アイスを食べたりとしていたらいつの間にか日が暮れていた。
「送ってくよ!」「ありがとう。ちょっとその前に。」彼女は「失礼します。」と小さな声で囁き、和室のドアを開けた。来た時と同じように仏壇の前に手を合わせた。
「お父さん。涼太シェフになっちゃいますよ!やばいですよね!見守ってあげてください。また来ます。お邪魔しました。」
彼女はそう言った。ありがとう。伝えてくれて。照れくさくて言えなかったけどそう心の中で強く思った。彼女を駅まで送り、家に帰ると何故か母がこちらを向いて微笑んだ。
「風鈴ちゃんって清水 風鈴ちゃんだわよね!お母さんびっくりしちゃった。」
「えっなんでお母さんが知ってるの、、?」
「もー、誤魔化さなくていいのよー!昔からの幼なじみでよく遊んでたふうちゃんでしょ。まさか二人が繋がってたなんて。もーびっくりしちゃったじゃない。」
「えっ、、」
その後は勝手に家を飛び出していた。
「ちょっとー涼太どうしたのよー?」
全速力で走りながら、彼女に電話をする。
「今どこ?」
「今は電車待ちだよ!どうかした?」
「そこで待ってて。」
息を切らしながら彼女のとこまで駆け寄る。
「もーどうしたの?涼太。そんな息切らしてさ笑笑」
「ねー、風鈴は、ふうちゃんなの?」
一瞬沈黙が走る。
「はぁーやっと気づいてくれたか。」
彼女は、微笑みながらこちらを覗く。
「なんで言わなかったのかよ!!」
「だって涼太まーったく気づかないんだもん!!私のお母さんにも協力してもらって内緒にしてもらってさ。本人に気づいて欲しいのに、もう私ずっーとイライラしてたよ。早く気づけよ!バカって」
「おいそれは言いすぎだろ笑笑」
「最初っから、涼太目当てでこの高校来たし。追いかけてきてあげた感じだよね!」
「ねー。もっと生きられないのか、」
「うーん、それは難しい話だよね笑神様にお願いしないと笑」
無理なお願いをしているのは分かっている。
でも、俺は風鈴にもふうちゃんにも、生きて欲しいと
強く思った。
でも、自分は何も出来ない。
その自分の無力さがたまらなくきつい。
今日も。今日とて。山江駅に集合だ。
でも今日は少し違う。キャリーケースを持ち、新幹線に乗る。そう、旅行に行くのだ。
「涼太、今日も、私に任せてね!最高プランを用意したから!」「怖いけど、楽しみにしとくよ!」
「なんだその怖いって!!笑」
お決まりのようなこのくだり。
結構面白くて気に入りつつある。
「今日は、新幹線からの景色を沢山写真に収めます!そしてそして涼太の写真も!」「それは断る。事務所通してくれ」「なーんだそれ笑笑」
数分後。彼女は写真を撮っているのか?なわけない。
ぐっすりと眠りについている。無理もないだろう。
今日は、朝早くの新幹線だったから早起きをしたのだ。
それに、彼女は旅のしおりを作ってたらしく夜中まで起きてたそうな。ほんとに、馬鹿だなと思ってしまう。
彼女の手に握られたフィルムカメラ。手から取りだし
1枚の写真を撮る。「ぶっ」思わず吹き出してしまう写真。彼女が口を開けて寝ている。ほんとに子供みたいだなと思った。いい所でもあるのだが。
「ねー、涼太一緒にいてよ」「えっ、?」
どうやら彼女の寝言だったらしい。あまりにもはっきり聞こえたため、起きていたのかと思ってしまった。
彼女には聞こえないだろうけど俺は返答をした。
「あぁ。一緒にいるよ。」
そこから3時間新幹線に乗っていたが、彼女が起きることはなかった。
「あー最悪だよー!!なんで起こしてくれなかったの
よー!」
「だって気持ちよさそうに寝てたら起こすのが
可哀想だろう」
「まぁこれから楽しむか!よし着いてきてね」
切り替えが鬼のスピードだ。
「うわー凄いねこのヴィラ。」
そう今日は、一棟貸のヴィラに泊まることになっている。キッチン付きでふかふかのセミダブルベットが2つと、とても快適で良いヴィラだ。もちろんそんなヴィラを借りるお金がないはずだが、彼女のお父さん。俺からしたらおじさんが、このヴィラやホテルの経営者らしく無料で今回は貸してくれ、泊まれることになったのだ。本当にありがたい話だ。
「ねーみてベットもふかふかだよー!」
「おい!風呂に入ってない状態でベットに乗るなよ!」
「いいじゃん!私のベットなんだしー!もしかして一緒に寝る気でいたの?」「なわけあるか。」
荷物の整理を終え、彼女が突然声を上げた。
「じゃあ早速動きだします。」
着いて早々動くのと憂鬱になったが、
せっかくの旅行だ。彼女に指示に従うことにした。
「この近くに牧場があるらしいの!
だからそこに行きます!」
「いいな。久しぶりだな。」
「涼太行ったことあるの?」「あー小さい頃にな。家族で。父の病気が悪化する前に。」
「そうなんだ、」
やばい。俺が気持ちを沈ませてしまった。
「よし早速行こうぜ!」「そうだね!行こう行こう!」
「すごーい牛さんいっぱいだー!!」
牧場に着くと、綺麗な景色とたくさんの動物達がいた。自然を大いに感じれる。そんな場所だった。
「ねーソフトクリーム食べようよ!」「あっいいな。」
ソフトクリームを売店で買い、1口食べてみる。
「!?」「美味しすぎーー」
さすがは牧場のソフトクリームだ。2人で感動していると、彼女は話し出した。
「ずっーーとこの時間が続けばいいのに。」
そうだな。心の中でそう返事をした。
夜になり、花火をしようとしたが雨が降ってきてしまい、中止になった。暇になり、寝る準備に入る。
ベットがあるが、彼女は、布団の方がいいらしく、
布団を一緒に引くことにした。
「ねー枕投げでもする?」「する訳ない。ガキかよ。」
「はーい。ガキですー。」「もう布団入るぞ。」
2人で布団に入る。
「ねー、どうやったらこの時間が続くかな。」
「どう頑張っても、時間には抗えない。」
「はぁ、。 明日が怖いよ。死ぬまでのカウントダウンみたいに。明日、死ぬかもしれないって、、」
「俺がいるよ。」そう言い、彼女に手を差し伸べた。
彼女は、風鈴は、強く俺の手を握り返す。
「ありがとう、」彼女は、小さく呟いた。
「遅くなったー。」
走りながら彼女に話かける。
「まだ5分前だよ!私が早く着いただけ笑笑」
今日は、最後の夏休み。俺はどこに行くかわからない。とりあえず山江駅に集合した。
「じゃあまずは電車に乗ります。」
「わかった!」
今日は思いきって彼女の言うことに従ってみることにした。だいぶ電車に揺られて目的地に着いたらしい。
「降りるよー!」
駅からでて少し歩くと、海が見えてきた。
「海だ。」「何その薄い反応!?綺麗でしょう。ここ私が本当は最初に涼太を連れてきたかったところ。」
あっ、確かに最初、本当はイメチェン企画じゃなかっ
たはず。なぜか申し訳なくなり、「その時はごめん笑」と謝った。「あははは笑笑」
彼女は明るく元気に笑う。
「で、まずは何をするのか?」
「まずはもちろん腹ごしらえ!行くよー!」
はぁー。今日も振り回されそうだ。
「うわーどれにする?」
彼女がリサーチしてくれていた海鮮丼のお店に来た。「俺はもちろんいくら丼。」
「うわーそれも捨て難い。でもーサーモンも。」
「半分すればいいだろ。」
「えっ神!!成長したね!」「なんだよ笑笑」
結局いくら丼とサーモン丼を頼んだ。お店の人が運んできてくれたのを見るときらきらと魚が輝いている。
「えっすご」「やばーい!!!美味しそう!!」
お店の人は彼女の反応を見て笑っている。
「おい落ち着けって」「あーごめんなさい。笑」
見た目も綺麗だが味も負けていなかった。
シェフになりたいと思っている今は、こういうのも勉強になる。彩り、魚の切り方すみずみ見て学ぶ。
その後2人でシェアしてゆっくり食べ、店を出た。
「次はどこ行くのか?」「海だよー!」
潮風が吹く海。夏を強く感じる。
はぁー。自分の悩みもすごく小さく感じる。
「ねー、私幸せだわ。」「俺も今世が1番かもな。」
そう感じさせてくれたのはきっと彼女のおかげだ。
ぼっとー海を眺めたていると、バシャ
一体何が起こったか分からなかったがどうも彼女が水をかけてきたらしい。「やったなー」と水をかける。
それからはびしょびしょになりながら水を掛け合い遊んでいた。そんなことをしている内にすっかり暗くなってきている。その時だった。
ヒューーバンバン
「えっっ!?」「えっ風鈴、知ってたか?」
「知らないよーえーすごい綺麗。」
花火を2人でじっと見つめる。まさか花火大会があるのを知らずに行き被るとは相当な運だ。
「ねー、」「なんだ?」
「私って花火みたいな人生じゃない?」
「あーそうだな。」「花火に改名しようかな?笑」
「似合わないからやめとけ笑」
「おいなんって言った!!」
「でも、来世の名前決めとこうぜ見つけやすいように笑」
「やっぱり私は花火だね!!笑 涼太は?」
どうやら彼女はこの名前を譲らないようだ。
「うーんやっぱり涼平とか?呼びやすくね普通に」
「普通にやめなさい笑1文字変わっただけじゃんおもんな笑」
キラキラ目を輝かせて、笑う彼女に知らずとカメラを向ける。この笑顔を残したい。
アルバムの最後に貼るために俺はシャッターをきる。
「涼太おはよう!」「おはよう!」
今日は始業式で学校が始まる日だ。イメチェンしてから友達もでき、二学期は楽しめそうなそんな予感がした。
「涼太ってさ、最初話しにくかったんだけど、なんか変わったよね」「そうそう特に最近」
そうか?と自分で思いながらも彼女と過ごしてから少し自分が明るくなった気がする。
「ねー涼太、恋してんじゃない?笑」
1人の女子がそう言う。「いやー違うよ笑」
絶対にありえないと否定する。みんなと笑い合う。
そんな日常がとても楽しい。さっき言ってた恋。
この感情はまさか、、?恋?
恋の事を考えると、頭がボッーとして授業も頭に入ってこなかった。ずっと風鈴のことを考えてしまう。
何でなんだろう。風鈴といると楽しくて、落ち着いていられて、居心地がいい。でもそんなことは考えたことなかった。いざ考えると難しく、よく分からない。
そこで、俺はネットで調べてみることにした。
「人のことをずっと考えてしまうと。」
検索結果は、恋ですと。
「はぁー。やっぱりか。どうしよう。」
俺の日常がより忙しくなる。そんな気がした。
その日はその事ばかり考えてしまいあまり
眠れなかった。
そこで俺はあることを決意した。
深夜の12時。俺は、風鈴との約束を破ってしまう。
机の引き出しから、封筒を取り出す。
丸文字で涼太へと書いてある手紙。風鈴がくれた、多分彼女からの遺書になる予定だったものだ。
俺は、それを今読むことにした。
彼女の死に向き合うために。
「涼太へ
まずはこの手紙を読んでくれてありがとう。実は、この手紙、図書館で書いたのとは違うの。おばさんに協力してもらって入れ替えたんだ。幼なじみふうちゃんとしての気持ちも書くためにね。まぁ、遺書として渡したけど、涼太のことだから私が死ぬ前に読んじゃうだろうな。幼なじみなめないでください。だいたい分かります笑 涼太。思い出を一緒に作ってくれてありがとう。沢山振り回してごめんね。少しは、反省してます笑 そして、私の夢を応援してくれてありがとう。初めて応援してもらえたから。私にはなんにもないし。どうせ無理な夢だからって。みんなまずは病気を治そうって。それもありがたいし、真っ当な事だとは分かってる。でも、。でも私が欲しかったのは涼太みたいな言葉でした。叶わない夢でも。応援してくれて私に希望をくれてありがとう。涼太の夢は今世で叶えてください。シェフ絶対なってね。天国まで美味しい料理届けてね。味見のプロだから、涼太を1人前に鍛え上げるね笑
そして、りょうくんへ
気づくの遅かったね。そこだけは、未だに許してません。でも、会えて嬉しかった。会えただけで、嬉しかった。そう思ってたはずなのに。君と過ごすだびにもっと生きて一緒に過ごしたい。そう思ってしまう私がいます。もっと出来ることなら、一緒に過ごしたかった。出来れば恋人同士で。手を繋いで。ハグをして。お互いを見つめあって。もっと一緒に過ごしたかったな、、。生きたいなぁ、、。もっと長く。欲は言わないから30歳まで。来世は、私を好きになってくれますか?私を見つけてくれますか?君が他の子見てるなんて嫌だよ。私だけ見ててよ。本当に大好きでした。きっと世界で1番大好きです。これからもずっと。今までありがとう。
風鈴、ふうちゃんより」
俺は、泣き崩れた。たぶん今までで1番泣いた。
現実を見たくない。生きて欲しい。
そう願うだけだった。
俺は、白紙で図書館から持って帰ってきたレターセットを取りだしペンを握った。
その日は、漆黒のように空がくすんでいる。
そんな気がした。
その夏の後、1人で流しそうめんをした。
スイカ割りも。川遊びも。花火も。海にも行った。
でも何か足りなかった。
ピンポーン 「はいこんにちは、どうぞ」
「すみません挨拶してもいいですか?」
「どうぞ。喜ぶわ。」和室に通してもらう。
仏壇の前で手を合わせる。「遅れてごめんね。涼太。」
学校から帰ってる途中彼は、。彼は、車にはねられた。
症状は脳死。
彼は、。涼太は、。意識が無くなってしまったのだ。
生きているけど意識は無い。私は、その事に向き合えず、引きこもりになっていた。
そんな時、涼太のお母さん、おばさんから、電話を受けた。見て欲しいものがあるのと。
涼太は、最後にメッセージを残していた。
心臓移植をすること。
涼太のお母さんがその伝言を見て、
彼は心臓を他の人に授けた。そして私にも伝言を。
「風鈴へ
手紙先に読んでごめんな。それ読んで思った事なんか今書き出してる状態。変だよな笑でも、風鈴だけあんなに背負うのはな。いくら何でも可哀想だから。俺も書くよ。俺の願いはただ1つ。風鈴に今世も生きて欲しい。あきらめずに。もちろん大変なことっていうのは分かってる。だから直で言える自信ないから一応手紙に書いてるし。でも、自分の目標を強く持って叶えて欲しい。風鈴なら、センスあるしスタイリスト絶対なれるだろう。絶対叶えろ。まぁもう1つ願いがあるとすれば、ちゃんと告白して風鈴と付き合いたい。俺、勇気でなかったわ。もし、言ってこの関係が壊れたらと思うと、風鈴とは関われない。そう思って閉じ込めた。だから、いつか絶対に伝える。俺に初めて生きる希望をくれたから。君ならどこだって駆け抜けられるよ。自分を信じて突き進め。どんな大きい壁でも乗り越えられる君なら。生きてくれ。お願いだから、、ただそれだけ。 涼太より」
最後の字が滲んでいる。涙のあとがある。
私はその手紙を読んで泣き崩れた。自分が、。自分が先に死ねばこんなのは味あわなくてすんだ。
涼太は生きれる命なのに。なんで、。なんで、。
私は神様を何度も恨んだ。
絶望して引きこもって。でも、私は決めた。
彼の最後の願い。生きることを。
それは相当大変な事だった。たくさんの病院を受診して何度もオペを受け、心臓移植をやっとして今生きている。
涼太みたいな誰かが繋げてくれた命を私は受け取った。
だからね、。涼太。私生きるね。