『初めまして』なんて挨拶も出来るはずもなく、お互い揃って気まずいままにさっそく打ち合わせが始まってしまった。
 別室で2人きり。目の前に座る桐葉さんと仕事の話をしろだなんて、思ってもみない罰ゲームだ。
 元彼と言い、私はどうしてこう自分の首を自ら締めていくんだろう。

 仕方ない……と、気を取り直して彼をガン見。
 昨日はあまりよく見えなかったけれど、まともにちゃんと見ると目つきが悪い以外は至って普通。黒髪で顔はシュッとしていて、スーツでわかりづらいけど体格も中肉中背、私と並んでみると顔1つ分の差があるから、身長は180㎝近くはあるように思う。そして髭がないから実年齢よりかは少し若く見える。

 見た目は悪くないんだけどね、《《見た目は》》。

「まさかお前がここのマネージャーをしているとは。昨日の酔っ払いと同一人物とは、とても思えない格差だな」
「それはすみませんね」

 腕を組み、昨日と同様偉そうな態度と嫌味な発言に文句も1つも言いたいけれど、『ここは職場だから我慢!』と机の下でグッと拳を握って堪えながら、笑顔を取り繕うのが精一杯。

「では、まず式場の中をご案内します」
「案内は結構だ。来た時すでに確認してある」

 顔を引き攣らせながら1秒でも早く離れたい一心で話題を変えて提供するも、この男はそんな私を察する事なんてしない。