「みなさん、お忙しい中集まっていただき、ありがとうございます。この度ロックレイ領主代理として着任しました、デュカルト・バーセランと申します。見ての通りまだ子供ですので、みなさまのご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」
ふぅ。挨拶はこんなもんでいいかな?
「かぁー、さすが侯爵様のご子息だぜ。難しい言葉をいっぱい知ってんなぁ」
「ごべんたつって、どういう意味だ?」
「さぁ?」
ちょっと硬すぎたかな?
住民と、それにドワーフ族からも二十人ほどやって来たけど、それでも六、七十人ぐらいしかいない。
若い人はアレックスさんだけで、他は五、六十代のご夫婦ばかりだ。
お子さんはみんな独り立ちして、山を下りて別の町で暮らしているらしい。
普段は静かな山間の町だけど、今日はお祭り騒ぎだ。
魔導石の錬成が成功すれば、この町にの活気が戻って来るかもしれない。
そうあって欲しいと、僕は願っている。
「で、では、乾杯しましょう。かんぱーい!」
「「かんぱーい!!」」
僕はジュースだけど。
陛下から頂いた酒を振舞うのと同時に、領主代理として僕のお披露目式が行われた。
大々的に行ったのは、この二年間のストレスを発散してもらうため。
あと、僕みたいな子供が領主代理なんて、不安に思わないはずがない。
その不安を少しでも払拭できればと思ってね。
みんなの意見を聞いて、取り入れられるものがあればどんどん取り入れて行こう。
そう思って開いたんだけど――
「ゼザークの不正を簡単にあばいてしまうなんて、坊ちゃんは凄いわぁ」
「ハンスさんだってなかなか見つけられず、苦労なさっていたってのに」
「これまであいつが着服していた税も、ロックレイが払う必要もないって話じゃないか」
「王様ですら一目置いてるってことだろ? すげぇーなぁ」
ゼザークを追い出した。しかも爵位や財産全没収という形で。
それが町の人たちには、嬉しくてたまらないようだ。
「よぉ大将、飲んでっか?」
「はい組合長さん。ここはリンゴが名産なんですね」
「あ? なんだジュースかよ。飲むつったら酒だろ、酒ぇー」
乾杯してまだ十分も経ってないのに、もうデキあがってる!
「がははははは。飲めのめぇー。がははははははは」
あ、行っちゃった。何をしに来たんだろう。
「組合長って、実はお酒に弱いのかな?」
「いえ、組合長殿は乾杯前から飲んでおりましたから」
「え?」
フレドリクさんがいつもの真顔で答える。彼が手にしているのは僕と同じリンゴジュースだ。
「フレドリクさんは飲まないの?」
「はい。何かあった際にデュカルト様をお守りできない状況になってはいけませんので」
「そこまで気にしなくてもいいのに」
「いえ。半端な気持ちでデュカルト様の護衛を引き受けた訳ではありませんから」
真面目だなぁ。
「ほんっと、鉱山で働く者どもは、酒好きばかりじゃの」
「あ、魔女さん」
魔女さんもリンゴジュースだ。
「何か召し上がりますか?」
「レンチンしてくれるの?」
「いいですよ。ただこの『魔導レンジ』は、僕が調理方法を知っているものじゃないと、まともにレンチンできないんですが」
「その言い方だと、知らなくてもできるようじゃな?」
「まぁ……でも失敗しちゃうんですよ」
なんとなくこう調理するんじゃないかなぁっていうイメージが間違っていると、焦げたり、逆に火が通ってなかったり、クソマズだったりする。
「う……それは……」
「だから僕が知っている料理をレンシンしますね。どんなメニューがいいですか?」
「そ、そうじゃの。なら……肉、料理」
「肉ですか。今用意できるものだと、牛と鶏ですかね?」
ハンスさんに視線を送ると、彼はこくりと頷いた。
「じゃ鶏」
「わかりました。じゃ、取ってきますね」
と席を立ちあがると、ハンスさんが手で制した。
「孫に行かせましたので」
「あ、そうなんだ。じゃ、待ってますね」
ハンスさんのお孫さんは、チェリーチェさん。
不思議なことに、未だに彼女の姿を見たことがない。
ハンスさん曰く、足が速くて、落ち着きがなくて、人見知り……なんだって。
そういうもの、なのかな。
などと考えていると、ハンスさんが「鶏肉が届きました」と。
「え? い、いつの間に」
「一瞬前ですよ、デュカルト様」
「フレドリクさんは気づいたの!?」
「はい」
え、気づいてなかったのは僕だけ?
魔女さんを見ると、驚いた顔をしている。
ってことは僕はおかしくないってことだよね?
よかった。
さて、鶏肉料理といえば、やっぱりこれでしょう!
「じゃ、唐揚げを作りますね」
「からあ、げ? なんじゃそれは」
「鶏肉を塩水につけ込んだ後、粉をまぶして油で揚げるだけなんです」
海水ぐらいしょっぱいものに漬けた方がいいから、塩は結構用意しておく。
片栗粉を作るためのじゃがいもと水も用意。水は塩水用と別々にしてっと。
それと油を注いだ鉄鍋を用意して、全ての材料と一緒に魔導レンジへ投入!
「レンチンっと」
スタートボタンを押し、次の瞬間には唐揚げが完成!
「お好みでレモン汁をかけてもいいですし、あ、このマヨネーズもいいですよ」
マヨネージはしょうゆと違って、魔導レンジで調理するのは簡単だった。
卵の黄身と塩、酢、植物性の油が材料だっていうのは、テレビで見たこともあって知っていたから。
「美味しそうじゃのぉ~。いただきまぁっす」
「あ、熱いから気を付けてくださいね」
「あっつっ。はふ、はふ……んん~、肉汁がじゅわぁっと出て、美味しいぃ」
「お、いいもん食ってんじゃねえか。俺らにも分けてくれ」
ニオイに釣られて、大きなジョッキを手にしたドワーフ族のみなさんがやってきた。
「おぉ、こりゃうめぇなっ。油で揚げたってのに、肉が柔らけぇ」
「こっちのもソレ頼むっ」
「おぉ、こりゃいいな。酒のつまみにピッタリだぜ」
どんどん唐揚げがなくなっていく。
魔女さんが慌てて唐揚げを別皿にとって、それを抱え込んだ。
「ハンスさん。鶏肉の追加、頼めますか?」
「はい。孫に捌かせましょう」
そう言ってから三分もすると、部位ごとに切り分けられた鶏肉がテーブルの上に並べられていた。
チェリーチェさん本人はどこにもいないし。本当にそんな人いるの!?
ふぅ。挨拶はこんなもんでいいかな?
「かぁー、さすが侯爵様のご子息だぜ。難しい言葉をいっぱい知ってんなぁ」
「ごべんたつって、どういう意味だ?」
「さぁ?」
ちょっと硬すぎたかな?
住民と、それにドワーフ族からも二十人ほどやって来たけど、それでも六、七十人ぐらいしかいない。
若い人はアレックスさんだけで、他は五、六十代のご夫婦ばかりだ。
お子さんはみんな独り立ちして、山を下りて別の町で暮らしているらしい。
普段は静かな山間の町だけど、今日はお祭り騒ぎだ。
魔導石の錬成が成功すれば、この町にの活気が戻って来るかもしれない。
そうあって欲しいと、僕は願っている。
「で、では、乾杯しましょう。かんぱーい!」
「「かんぱーい!!」」
僕はジュースだけど。
陛下から頂いた酒を振舞うのと同時に、領主代理として僕のお披露目式が行われた。
大々的に行ったのは、この二年間のストレスを発散してもらうため。
あと、僕みたいな子供が領主代理なんて、不安に思わないはずがない。
その不安を少しでも払拭できればと思ってね。
みんなの意見を聞いて、取り入れられるものがあればどんどん取り入れて行こう。
そう思って開いたんだけど――
「ゼザークの不正を簡単にあばいてしまうなんて、坊ちゃんは凄いわぁ」
「ハンスさんだってなかなか見つけられず、苦労なさっていたってのに」
「これまであいつが着服していた税も、ロックレイが払う必要もないって話じゃないか」
「王様ですら一目置いてるってことだろ? すげぇーなぁ」
ゼザークを追い出した。しかも爵位や財産全没収という形で。
それが町の人たちには、嬉しくてたまらないようだ。
「よぉ大将、飲んでっか?」
「はい組合長さん。ここはリンゴが名産なんですね」
「あ? なんだジュースかよ。飲むつったら酒だろ、酒ぇー」
乾杯してまだ十分も経ってないのに、もうデキあがってる!
「がははははは。飲めのめぇー。がははははははは」
あ、行っちゃった。何をしに来たんだろう。
「組合長って、実はお酒に弱いのかな?」
「いえ、組合長殿は乾杯前から飲んでおりましたから」
「え?」
フレドリクさんがいつもの真顔で答える。彼が手にしているのは僕と同じリンゴジュースだ。
「フレドリクさんは飲まないの?」
「はい。何かあった際にデュカルト様をお守りできない状況になってはいけませんので」
「そこまで気にしなくてもいいのに」
「いえ。半端な気持ちでデュカルト様の護衛を引き受けた訳ではありませんから」
真面目だなぁ。
「ほんっと、鉱山で働く者どもは、酒好きばかりじゃの」
「あ、魔女さん」
魔女さんもリンゴジュースだ。
「何か召し上がりますか?」
「レンチンしてくれるの?」
「いいですよ。ただこの『魔導レンジ』は、僕が調理方法を知っているものじゃないと、まともにレンチンできないんですが」
「その言い方だと、知らなくてもできるようじゃな?」
「まぁ……でも失敗しちゃうんですよ」
なんとなくこう調理するんじゃないかなぁっていうイメージが間違っていると、焦げたり、逆に火が通ってなかったり、クソマズだったりする。
「う……それは……」
「だから僕が知っている料理をレンシンしますね。どんなメニューがいいですか?」
「そ、そうじゃの。なら……肉、料理」
「肉ですか。今用意できるものだと、牛と鶏ですかね?」
ハンスさんに視線を送ると、彼はこくりと頷いた。
「じゃ鶏」
「わかりました。じゃ、取ってきますね」
と席を立ちあがると、ハンスさんが手で制した。
「孫に行かせましたので」
「あ、そうなんだ。じゃ、待ってますね」
ハンスさんのお孫さんは、チェリーチェさん。
不思議なことに、未だに彼女の姿を見たことがない。
ハンスさん曰く、足が速くて、落ち着きがなくて、人見知り……なんだって。
そういうもの、なのかな。
などと考えていると、ハンスさんが「鶏肉が届きました」と。
「え? い、いつの間に」
「一瞬前ですよ、デュカルト様」
「フレドリクさんは気づいたの!?」
「はい」
え、気づいてなかったのは僕だけ?
魔女さんを見ると、驚いた顔をしている。
ってことは僕はおかしくないってことだよね?
よかった。
さて、鶏肉料理といえば、やっぱりこれでしょう!
「じゃ、唐揚げを作りますね」
「からあ、げ? なんじゃそれは」
「鶏肉を塩水につけ込んだ後、粉をまぶして油で揚げるだけなんです」
海水ぐらいしょっぱいものに漬けた方がいいから、塩は結構用意しておく。
片栗粉を作るためのじゃがいもと水も用意。水は塩水用と別々にしてっと。
それと油を注いだ鉄鍋を用意して、全ての材料と一緒に魔導レンジへ投入!
「レンチンっと」
スタートボタンを押し、次の瞬間には唐揚げが完成!
「お好みでレモン汁をかけてもいいですし、あ、このマヨネーズもいいですよ」
マヨネージはしょうゆと違って、魔導レンジで調理するのは簡単だった。
卵の黄身と塩、酢、植物性の油が材料だっていうのは、テレビで見たこともあって知っていたから。
「美味しそうじゃのぉ~。いただきまぁっす」
「あ、熱いから気を付けてくださいね」
「あっつっ。はふ、はふ……んん~、肉汁がじゅわぁっと出て、美味しいぃ」
「お、いいもん食ってんじゃねえか。俺らにも分けてくれ」
ニオイに釣られて、大きなジョッキを手にしたドワーフ族のみなさんがやってきた。
「おぉ、こりゃうめぇなっ。油で揚げたってのに、肉が柔らけぇ」
「こっちのもソレ頼むっ」
「おぉ、こりゃいいな。酒のつまみにピッタリだぜ」
どんどん唐揚げがなくなっていく。
魔女さんが慌てて唐揚げを別皿にとって、それを抱え込んだ。
「ハンスさん。鶏肉の追加、頼めますか?」
「はい。孫に捌かせましょう」
そう言ってから三分もすると、部位ごとに切り分けられた鶏肉がテーブルの上に並べられていた。
チェリーチェさん本人はどこにもいないし。本当にそんな人いるの!?