誰もいない資料室で倉田課長と2人きりだった。
背の高い倉田課長が厳しい表情で私を見下ろした。

「何か俺に言いたい事があるのなら言って欲しい」

表情は厳しいけれど、私にかける声は優しい。

「何か悩んでいるのか?」

心配して声をかけてくれた事がわかって、胸が熱くなった。
厳しそうに見えて、実は倉田課長は優しい人だ。落ち込んでいるといつも声をかけてくれる。でも、私が特別だからじゃない。倉田課長は部下を大切にしているだけだ。私を心配するのも上司として。わかっているが、心配してくれた事が嬉しい。

「倉田課長、実は」と言いかけて、言葉を飲み込んだ。
倉田課長が好きだと、バカな事を言いそうになった。
絶対に言ってはいけないのに。

麻生(あそう)?」

黙った私をさらに心配するように倉田課長が見る。
絡まった視線が呼吸を苦しくさせる。言ってはいけない事を抱えているのはしんどい。

「すみません。倉田課長を避けていたのは、企画が浮かばないからです。実はプライベートな事で落ち込んでいて」
「プライベートな事?」
「失恋をしまして」

あははと陽気に笑ったつもりだったのに、ポロリと涙の雫が零れた。
告白する事も許されない、諦めるしかない恋の辛さに、痛い程胸が締め付けられる。