「一桜、おはよう!」
「あ……、お、おはよう」
僕は電車に乗り込む一桜の姿を見るなり彼女に挨拶をした。
僕はずっと、今日を楽しみにしてたんだ。
一桜に会いたくて、話したいことがたくさんあって。
……そんな僕に対して、一桜はどこかよそよそしさがあった。
「……一桜、どうかした?」
「えっ、あー、うん。私、冬李くんに謝らないといけなくて……」
謝らないといけないこと……?
僕がキョトンとしていると、一桜は申し訳なさそうに目を逸らした。
僕がどうしたらいいのか戸惑っていると、一桜は意を決したように僕の目を見つめる。
「先週の、金曜日のこと」
一桜の言葉に僕の心臓はドクンとはねた。
そのできごとを思い出しても、一桜が謝ることなんてひとつもない。
「一桜が謝ることなんて……」
「違うの!わ、私の友だちかごめんっていうのもあるけど、元は私が体調悪いって言わなかったら、冬李くんが、傷つかずにすんだのに……」
一桜は話しているうちにだんだんと涙声になっていて、手のひらを強く握りしめていた。
「……誰も、悪くないんじゃないかな」
「……え?」
「体調が悪くなるなんて普通のことだし、一桜の友だちも、一桜を守りたいだけだったんだと思うよ」
「……よ、よかっ、た……!」
一桜は大きな瞳を揺らし、泣いてしまっていた。
「え、一桜!?」
知らなかった。こんなに一桜が思い詰めていただなんて。
こんなことなら、もっと早く会いに行けばよかった。
「ほんとに、ありがとう……、冬李くん!」
一桜は涙を拭い、いつものように笑っていた。
……よかった。僕の好きな笑顔だ。
「……そういえばさ、髪切ったよね。似合ってるよ」
「ああ、ありがとう」
「ずっと思ってたんだけどね、冬李くんって目綺麗だよね。前は前髪で隠れがちだったから、見れるようになって嬉しい!」
自分が想像していたよりも褒めてくれるので照れくさくなり、思わず俯いてしまう。
「それに今日は冬李くんの方から挨拶してくれたよね!何かきっかけとかあったの?」
……ここで、特に何もないよ、って言ってしまうのは簡単なことだ。
でも、このチャンスを逃してしまえばきっと次は来ない。
だから、今言うんだ。
「一桜を、好きになったからだよ」
顔を上げ、まっすぐ一桜を見て伝えることができた。
ムードもへったくれもないような告白だけれど、僕はそれでもいいと思った。
大切なのはきっと、自分の想いを伝えることだから。
「……え?」
一桜は突然のできごとに戸惑っているようで、顔を赤くしたまま固まっていた。
「一桜……?」
「あ、ご、ごめ……。ま、さか冬李くんから告白されると思ってなくて……。冬李くんは、私のこと、嫌いなんだと思ってたから……」
一桜がそう勘違いしてしまったのは、間違いなく昔の僕の態度のせいだろう。
あの頃の僕はずっと何かに怯えていて、ろくに目も合わせられなかったんだから。
「嘘じゃないよ。僕は、一桜が好きだよ」
「……ごめん、冬李くんのこと嫌いじゃないんだけど……。私、好きとかそういうのよく分かんなくて……」
「それなら待つよ。一桜にとっての好きが見つかるまで、いつまでも」
狼狽える一桜に、「もちろん僕のこと嫌いになったらそれまででいいから」と付け足すと、「冬李くんのこと嫌いになることなんてないと思うけどな」と苦笑いをしつつも了承してくれた。
……ああ、今ならわかるよ。
七乃さんはあのとき、こんな気持ちだったんだね。
告白をしてから、僕と一桜の関係にあまり大きな変化はなかった。
しかし喜ばしいことに、一桜が毎日僕と同じ電車に乗って登校してくれるようになった。
もしかしたら六月の一件で友だちと気まずくなってしまったから、時間をずらしているのかもしれないと思い、どんな感じなのか聞いてみたら、特に気まずくなったりはしていなく、元と変わらないと聞き、安心した。
「おはよー!」
「おはよう」
「もう夏本番って感じ!日に日に暑くなってってるよね」
「もう七月下旬だしね」
そう、七月下旬。
……ということは、夏休みまであと少しということ!
今までは毎日純粋な気持ちで夏休みを心待ちにしていたけど、今年は違う。
……夏休みになると、一桜に会えなくなるな。
光くんからは一桜をデートに誘うように言われているが、なかなかタイミングをつかめないでいた。
「あと一週間で夏休みだし、ほんと待ちどうしいね!」
「え、あと一週間しかないの!?」
「そうだよー。友だちと遊ぶ予定もうそろそろ立てないと間に合わないかも」
「あ、のさ、ぼ、僕とも一緒に出かけない!?」
スマートに誘う予定だったのに、スマートとは程遠い誘い方になってしまった。
「うん!いいよ!どこ行く?」
「えっと、どこに、行こうか……」
せっかく誘えたというのに、プランまでは考えていなかった。
ほんと、自分がこういうのに不慣れすぎて恥ずかしい。
「あ!私行きたいとこあるんだけど、そこ行かない?」
「う、うん!そこに行こう!」
「やったー!じゃあ、後で細かいの連絡するね?」
一桜はにこにこしながら「楽しみだね!」なんて言っている。
僕も、浮かれずにはいられなかった。
「あ……、お、おはよう」
僕は電車に乗り込む一桜の姿を見るなり彼女に挨拶をした。
僕はずっと、今日を楽しみにしてたんだ。
一桜に会いたくて、話したいことがたくさんあって。
……そんな僕に対して、一桜はどこかよそよそしさがあった。
「……一桜、どうかした?」
「えっ、あー、うん。私、冬李くんに謝らないといけなくて……」
謝らないといけないこと……?
僕がキョトンとしていると、一桜は申し訳なさそうに目を逸らした。
僕がどうしたらいいのか戸惑っていると、一桜は意を決したように僕の目を見つめる。
「先週の、金曜日のこと」
一桜の言葉に僕の心臓はドクンとはねた。
そのできごとを思い出しても、一桜が謝ることなんてひとつもない。
「一桜が謝ることなんて……」
「違うの!わ、私の友だちかごめんっていうのもあるけど、元は私が体調悪いって言わなかったら、冬李くんが、傷つかずにすんだのに……」
一桜は話しているうちにだんだんと涙声になっていて、手のひらを強く握りしめていた。
「……誰も、悪くないんじゃないかな」
「……え?」
「体調が悪くなるなんて普通のことだし、一桜の友だちも、一桜を守りたいだけだったんだと思うよ」
「……よ、よかっ、た……!」
一桜は大きな瞳を揺らし、泣いてしまっていた。
「え、一桜!?」
知らなかった。こんなに一桜が思い詰めていただなんて。
こんなことなら、もっと早く会いに行けばよかった。
「ほんとに、ありがとう……、冬李くん!」
一桜は涙を拭い、いつものように笑っていた。
……よかった。僕の好きな笑顔だ。
「……そういえばさ、髪切ったよね。似合ってるよ」
「ああ、ありがとう」
「ずっと思ってたんだけどね、冬李くんって目綺麗だよね。前は前髪で隠れがちだったから、見れるようになって嬉しい!」
自分が想像していたよりも褒めてくれるので照れくさくなり、思わず俯いてしまう。
「それに今日は冬李くんの方から挨拶してくれたよね!何かきっかけとかあったの?」
……ここで、特に何もないよ、って言ってしまうのは簡単なことだ。
でも、このチャンスを逃してしまえばきっと次は来ない。
だから、今言うんだ。
「一桜を、好きになったからだよ」
顔を上げ、まっすぐ一桜を見て伝えることができた。
ムードもへったくれもないような告白だけれど、僕はそれでもいいと思った。
大切なのはきっと、自分の想いを伝えることだから。
「……え?」
一桜は突然のできごとに戸惑っているようで、顔を赤くしたまま固まっていた。
「一桜……?」
「あ、ご、ごめ……。ま、さか冬李くんから告白されると思ってなくて……。冬李くんは、私のこと、嫌いなんだと思ってたから……」
一桜がそう勘違いしてしまったのは、間違いなく昔の僕の態度のせいだろう。
あの頃の僕はずっと何かに怯えていて、ろくに目も合わせられなかったんだから。
「嘘じゃないよ。僕は、一桜が好きだよ」
「……ごめん、冬李くんのこと嫌いじゃないんだけど……。私、好きとかそういうのよく分かんなくて……」
「それなら待つよ。一桜にとっての好きが見つかるまで、いつまでも」
狼狽える一桜に、「もちろん僕のこと嫌いになったらそれまででいいから」と付け足すと、「冬李くんのこと嫌いになることなんてないと思うけどな」と苦笑いをしつつも了承してくれた。
……ああ、今ならわかるよ。
七乃さんはあのとき、こんな気持ちだったんだね。
告白をしてから、僕と一桜の関係にあまり大きな変化はなかった。
しかし喜ばしいことに、一桜が毎日僕と同じ電車に乗って登校してくれるようになった。
もしかしたら六月の一件で友だちと気まずくなってしまったから、時間をずらしているのかもしれないと思い、どんな感じなのか聞いてみたら、特に気まずくなったりはしていなく、元と変わらないと聞き、安心した。
「おはよー!」
「おはよう」
「もう夏本番って感じ!日に日に暑くなってってるよね」
「もう七月下旬だしね」
そう、七月下旬。
……ということは、夏休みまであと少しということ!
今までは毎日純粋な気持ちで夏休みを心待ちにしていたけど、今年は違う。
……夏休みになると、一桜に会えなくなるな。
光くんからは一桜をデートに誘うように言われているが、なかなかタイミングをつかめないでいた。
「あと一週間で夏休みだし、ほんと待ちどうしいね!」
「え、あと一週間しかないの!?」
「そうだよー。友だちと遊ぶ予定もうそろそろ立てないと間に合わないかも」
「あ、のさ、ぼ、僕とも一緒に出かけない!?」
スマートに誘う予定だったのに、スマートとは程遠い誘い方になってしまった。
「うん!いいよ!どこ行く?」
「えっと、どこに、行こうか……」
せっかく誘えたというのに、プランまでは考えていなかった。
ほんと、自分がこういうのに不慣れすぎて恥ずかしい。
「あ!私行きたいとこあるんだけど、そこ行かない?」
「う、うん!そこに行こう!」
「やったー!じゃあ、後で細かいの連絡するね?」
一桜はにこにこしながら「楽しみだね!」なんて言っている。
僕も、浮かれずにはいられなかった。