The Sun-Gild Wing ――神話として語り継がれる超古代文明のテクノロジー

「アンドラ、無事に脱出できたかな……」
 ソールは、グリフォンと空中で間合いを取りながら呟いた。
 先程、沿岸部から強烈な光が放たれた。あれはケートスの自爆装置が作動したものだ。自分でケートスに取り付けたからよく分かる。
《ソール、ボケッとするな!》
 フェンリルの怒鳴り声で我にかえったソールは、目の前に迫ってきたケラウノス光線をかろうじて回避した。が、翼の先が折れてしまった。
「ちっ!」
 すかさず修復する。
 アルカディアの空戦部隊でも、一、二を争う機体・グリフォンから放たれた光線はかなりやっかいだった。
《おい、気をつけろソール! あの機体の光線、今までにない破壊力だぞ!!》
「分かっているさ」
 ペガサスとグリフォン……この二機は、アルカディアの機体でもソールが良く知るものだった。
 ペガサスのハルペー光線は細い直線状のビーム兵器で、装甲は新兵器開発の実験で偶然できたメデューサ装甲だ。光線は強力だが攻撃範囲が広くない。むしろ注目に値するのは装甲で、ソールが知る限り世界一の強度だろう。
 対してグリフォンは機体全身でエネルギーを精製し、標的めがけて発射する。攻撃範囲は広い。それに、この機体にはもっとやっかいな機能があった。
《ん? 何だあいつ、攻撃やめたぞ》
「まずい……」
 ソールの嫌な予感は当たった。グリフォンはエネルギーを発生させ、それを充電するかのように光り始めた。
《おい、何だありゃ!》
 来る!
「よけろ、フェンリル、ヨルムンガンド!」
 ソールが叫んだ瞬間、これまでの数倍の範囲の光線が放たれた。フェニックスもニーズホッグもどうにか避けたが、光線が当たった大岩が吹き飛んだ。
《マジかよ……》
「グリフォンのケラウノス光線はエネルギーチャージの機能があるんだ! チャージ中に攻撃しないと!」
 ソールは叫んだもののそれは不可能に近かった。フェニックスとニーズホッグで挟撃しようとしても、グリフォンはあっさり射程範囲からすり抜けてしまう。間合いを取りながらエネルギーを溜め、撃ってくる。洗練された戦い方だ。
 やはりトップガンは伊達ではなかった。
《どうするんだよ、ソール!!》
「とにかく攻撃を仕掛けるぞ!!」
 右にフェニックス、左にニーズホッグがまわり両方向からテイルブレードショットとブリザードブレスで攻撃した。が、あっさりかわされた。
「もう一度だ!」
《ソール、すまん。もうブリザードブレスは撃てない》
 ヨルムンガンドからの冷静な声。撃てないだと?
《冷却装置がオーバーヒートを起こしたようだ》
「なんてことだ……」
 その刹那、グリフォンの放った光線が、ニーズホッグの左翼を根元からもぎとってしまった。
《しまった!》
「フェンリル、ヨルムンガンド!」
《わりいなソール、運がよかったらまた会おうぜ!》
 そう言って、ニーズホッグは漆黒の谷に落ちていってしまった。
「おい、返事しろ!」
《人の心配をしている場合か?》
 グリフォンに乗っているアーレスから通信が入った。
《まったく、派手に暴れやがって…死者が出なかったのが奇跡だ》
「俺は人を殺すつもりはない! アポロンの遺志を届けに行きたいだけだ!」
《のぼせ上がるんじゃねえ!!》
 いつも飄々としているアーレスが、珍しく真面目に怒鳴った。
「殺すつもりはなくとも戦闘機で戦えば甚大な被害が出ることもある。それに巻き込まれて死ぬ民間人もいるんだぞ!」
 ソールは黙った。
《とにかく機体を捨てて投降しろ。ゼウスたちには便宜を図ってやるから》
 すると、フェニックスは速度を上げて上昇した。
「ごめんだね!」
《おい!》
「ここまで来てあきらめられるか! 捕まえられるなら捕まえてみろ!」
《そこまで言うなら……!!》
 アーレスはグリフォンの速度を上げてフェニックスを追い始めた。
上昇し続けるフェニックスのコックピットの中でソールは頭を抱えていた。
「威勢よく啖呵を切ったが、どうするかな……」
 正直、勝算はゼロに等しい。これまでは付け焼き刃のチームプレーもあって何とか敵を退けてきたが、1対1ではまともに戦えない。
「アポロン…どうすればいい?」
 するとふとある考えが浮かんだ。
 今まで正規の軍人相手に立ち回れたのは、何故だ? 普通だったらとっくに撃墜されてあの世に行っているはずだ。
 フェニックスの機能のおかげか? 確かにサンギルドシステムのおかげで戦いで受けた損傷も瞬時に修復できた。あとコンピュータの中に敵の情報が入っていたのも大きい。でもそれだけでここまでやれたのか?
 自分が整備兵だったからというのが大きいのではないだろうか? 戦闘を専門にしないのでセオリー通りの戦いはしなかった。また、機体の性能をある程度把握していたから機体の一長一短を踏まえて戦った。
 このピンチでも、フェニックスの性能とグリフォンの性能から自分が勝つ方法を見出せるのではないか?
 その結論に到ったときソールは操縦桿を下に向け急降下し始めた。

「おいおい、今度は何だよ」
 グリフォンを操っていたアーレスが呆れた様子で呟いた。高度を上げて逃げ切ると思っていたフェニックスが、突然、降下を始めたのだ。
「まあ、スピードはグリフォンの方が上のようだから、逃げても無駄だな」
 アーレスとしては旧友を撃墜するのは不本意である。が、ここまで来たらそれもやむを得ないと考えていた。フェニックスは崖の隙間のような場所に逃げ込んだ。
「無茶しやがるなあ」
 グリフォンも追走する。こんな狭い谷間を飛ぶのは正規の軍人でも困難だろう。その証拠にフェニックスは翼端を岩に引っかけている。
 グリフォンはフェニックスにぐんぐん迫る。射程に入ると、アーレスは前方の敵機に照準を合わせた。
「せめて痛みのないように一瞬で消し飛ばしてやるか」
 エネルギーをため始めたその時――フェニックスの尾・テイルブレードの全てが後方に向けて発射された。同時にフェニックスが急に減速したのだ。
「!!」
 危ない!! と思った瞬間にはグリフォンはフェニックスとブレードに激突していた。その衝撃は高速道路の衝突事故くらいではすまない。両機はぐしゃぐしゃにつぶれ、もみくちゃになるように地上に落下していく。
 すると今度は、フェニックスが光り出して破損した部分を自己修復していく。ある程度まで修復するとグリフォンを離れて飛び去っていった。
「あの野郎、これが狙いだったのか!」
 アーレスは追走しようとしたが、操縦桿が言うことをきかない。そのまま谷底に落ちていった。
「はあ、どうにか勝ったけど……たどり着けるかな」
 ソールは疲労困ぱいの口調でつぶやいた。
 奇抜な戦術でグリフォンを倒したのはよかったが、フェニックスの自己修復に相当なエネルギーを使ってしまった。ガイアの血もあまり残っていない。
 しかも間もなく日没だから、太陽エネルギーは吸収できなくなる。途中で墜落したらアポロンの遺志を伝える手段はなくなると言っていいだろう。
 そうこうしているうちにエネルギー残量がわずかであることを知らせる警報が鳴り始めた。
「まずい……」
 最後の最後にこのピンチとは。焦りを感じ始めたそのとき、小高い丘にある神殿が見えてきた。
「やった!」
 ソールは思わず叫んだ。と同時にフェニックスの飛行高度が下がっていく。操縦ではなく燃料切れによるものだった。
「もういいさ、ここまでよくやってくれたよ、フェニックス」
 どんどん高度が下がっていき、最後は神殿の前の広場に滑り込むように、ズザアっという大きな音を立てて胴体着陸した。
 ソールはコックピットを飛び出して一目散に神殿に走り始めた。

「ってて、ソールのヤツ、無茶苦茶しやがる……」
 アーレスは、戦闘不能になったグリフォンのコックピットから降りてつぶやいた。この台詞は今日、敵味方問わず何人がつぶやいたことだろう。
 フェニックスと激突した後に谷底に落ちたのだが、飛行高度が低かったので機体は致命傷を負わなかったのだ。
「それにしてもあいつ…本当に誰も殺さずにきたようだな」
 空戦では、フェニックスはかなりの高度で戦っていた。それが急に谷間に入り、グリフォンをおびき寄せて低空飛行をしたのだ。
 やろうと思えばもう少し高い位置で飛び、グリフォンを完全に撃墜することもできたはずだ。
「アポロン……お前は何をあいつに託したんだ?」
 今は天に昇った友に語るように、空を仰いでつぶやいた。
「アーレス」
 名前を呼ばれてはっとした。そばにペルセウスと1人の女性がいたのだ。女性は身体のどこかをいためているのか、ペルセウスが肩を貸してやっている。
「その娘、もしかして……」
「ああ、あの水陸兵器にいたんだ。いろいろと話を聞いて反省させられることがあってな」
 苦笑いするペルセウス。
「アーレス、僕は彼女と一緒に中央神殿に行く。ソールはもう着いている頃だろう、あいつの狙いを確かめる。お前はどうする?」
 言うまでもない、というように笑った後、アーレスは立ち上がった。

 中央神殿には警備兵がいた。当然、ソールはあっという間に取り押さえられて床にうつ伏せにされた。
「待て、話がある! お前らのボスに見せるものがあるんだ!」
「何言っている、この野郎!!」
 警備兵たちは、口々にソールに罵声を浴びせた。
「よう」
 右側から声がした。どこかで聞いたことがある声だ。
「ケルベロスが世話になったな」
 声の主は暗闇からぬっと現れた。左手に包帯を巻いているのは、けがをしているからか?
「ハーデスとか言ったな?」
 ソールは記憶を辿り続け、ようやくその名前を思い出した。
「まったく、お前には脱帽した」
 今度は左側から声がした。1組の男女が立っていた。女性は男性の肩につかまっている。やはり身体のどこかをけがしているのか……。
「地中海での激闘には感服したよ」
 地中海? ということはあの砲台と小型戦闘機に乗っていたのか?
 姿を現した2人――ポセイドンとアルテミスは向こうを見ろと促すように首を向けた。
すると、そこには玉座に座る大柄な男がいた。
「…あんたがゼウスか!」
「よくここまで辿り着いたな」
 ゼウスは椅子から立ち上がり、ソールの前に寄ってきた。
「しかし悪あがきもここまでだ、こいつを牢にぶち込んでおけ!」
「待て、あんたに見せるものがある! アポロンからのメッセージだ!!」
 ゼウスは、床に突っ伏しているソールの髪を掴んだ。
「信用できるか! 我がアルカディア軍をよくも壊滅させてくれたな!!」
「待ってください、ゼウス。話だけでも聴いてやりましょうよ」
 後ろから、別の聞き覚えのある声がした。ペルセウスにアーレス、そしてアンドラだった。
「お前ら生きていたのか」
 ゼウスがびっくりしたような顔で言った。かなりの激闘だったから、戦死したのかと思い込んでいたのだ。
「ソール、どうしたらいい?」
「俺の懐にパピルスメモリーがある。そいつをハードに読み込んでくれ」
ペルセウスはうつ伏せのソールの胸元からメモリーを取り、ハードに入れた。すると、映像が立ち上がった。今でいうビデオメッセージだ。

――フェニックスを開発している最中にこのメッセージを残している。未知の研究なので、突然、機械の爆発に巻き込まれて死ぬこともありえるからな――

 原因は違うが、爆発に巻き込まれることを予言していたかのようだ。

――アルカディアの諸賢へ。そちらを去った日から二度と戻らないと決めた。サンギルドシステムを造るまでは。その代わり、完成したら戻って祖国の繁栄に協力する。このエネルギーが完成すれば、ガイアの血を使わずに済む。だから、貧しい国から搾取するようなエネルギーのあり方を変えることができ、紛争の芽をつむことになる。他国に侵略せず自国を豊かにできるのだ。待っていてくれ――

 次に相手を変えたメッセージが話された。

――技術の継承者へ。もし私が志半ばで倒れても研究を続けてくれ。サンギルドシステムはまだまだ進化できる。フェニックスは今のところ、ガイアの血とのハイブリッドだがさらに改良できる。ガイアの血が完全に要らなくなり、太陽エネルギーだけで動くようにできるはずだ。君に未来のエネルギーを託す――

「サンギルドシステム……?」
 ソールを除く全員が困惑した。そんなエネルギーは聞いたことがない。
「太陽の光をエネルギーに変えるのさ。フェニックスはそのエネルギーで飛行し、戦闘で破損しても自己修復できる」
「そうか、それで……」
 アーレスは合点がいったという表情をした。だからあんな特攻のような無茶をしては自己修復するという戦い方ができたのか……。
「アポロンは、本当はアルカディアのためにこの技術を開発したのさ。なのに、あんたらはアポロンを死に追いやってしまったんだ」
 ソールはゼウスを睨みつけるように言った。
「ばかな……あいつは、もう二度と戻らないと言っていたぞ」
「結局、あんたがアポロンの意図を組めなかっただけのことだ。一国の主が、その程度の先見性だったってことだ!!」
「うるさい!!」
 うつ伏せのまま減らず口を叩くソールに向かい、ゼウスは怒声を浴びせた。
「ゼウス、アポロンの遺志を組んでやりましょう」
 突然、ハーデスが言った。
「何だと?」
「私も賛成です」
 ポセイドンとアルテミスも言った。
「このままだとアポロンは浮かばれない。あいつの死を無駄にしないためにも……」
 ペルセウスとアーレスも、たたみかけるように言った。
「お前ら、分かっているのか? それは侵入してきたこいつを赦すことになるんだぞ」
 アレクサンドリアで爆発が起きて、サンギルドシステムの設計図などは全て吹き飛んだ。今、それがこの世に残っているとしたらフェニックスの機器とソールの頭脳の中のみだ。サンギルドシステムの研究を続けるということはソールを生かすということになる。
「そういうことだな」
 ソールは皮肉っぽく言った。
「言っておくが、俺だってアポロンを死においやったお前らを完全に赦すことはできないさ。だけど、あの人は未来のためにこのエネルギーを遺したんだ。だから協力してやってもいいんだぜ?」
 不敵な笑みを浮かべて複雑な心境を吐露した。
 「……」
 ゼウスは拳を握りしめ「勝手にしろ!」と吐き捨てて去って行った。
 とりあえずソールはアルカディアからお咎めを受けることはなかった。が、それにはいくつかの条件があった。
 まず、破壊した兵器たち全ての修復を手伝うこと。それから、サンギルドシステムをアルカディアのために使うことだ。
 早速、アルカディアに住み込み整備兵として働くことになった。同時にサンギルドシステムの解析にも取りかかった。しかし、想像以上に複雑でなかなか解析が進まない。
 ある程度、解析が一段落したのは一カ月だった。

「ソール、どうだ?」
 ペルセウスが整備工場を訪ねてきた。ペガサスはとっくに修復され、彼はいつもの任務に戻っている。
 そしてその横にはアンドラもいた。ちなみにあの日からアンドラはペルセウスと一緒に住むようになった。そのうち結婚するのだろうか。
「いやあ、ありがとうペルセウス」
「は?」
 ソールは、ペルセウスの肩を叩きながら言った。
「あのまま、アンドラを動く棺桶に乗せたくはなかったからな」
「まだ言っているの?」
 むくれるアンドラ。ケートスは大破してもうこの世にはない。が、あれだけボロボロであそこまで戦ったのだからマシな方だろう。
「それにしてもさすがソールだな。もうほとんどの機体が修復されたんだろう?」
「ああ、あとはフェニックスだけだ」
 あごを向けながら、ソールは眉をひそめた。
「どうした?」
「実は……」
 フェニックスもほとんどが修復している。サンギルドシステムも正常に作動しつつある。が、ソールは決断を迫られているという。
 それは、今より少量のガイアの血でハイブリッド分のエネルギーをまかなえるというプログラムを見つけたのだ。アポロンの遺言の通り、サンギルドシステムは進化する。
「やったじゃない、お師匠さんの理想に一歩近づくのね」
「ただな、追加分のガイアの血が足せなくなるんだ」
「え?」
 仮にガイアの血がなくなったら、もうフェニックスは空を飛べない。
「それに踏み切れなくてな……」
「もう、ソールらしくないわ!」
 アンドラが叱咤する。
「今のままでいいんだったらアレクサンドリアにずっといたはずよ。でも、あなたはそれで終わろうとしなかったから、ここにいるんでしょう?」
 ……そうだ、アンドラの言う通りだ。彼女は、エネルギーを搾取される地から来たのだから改良に踏み切るべきと主張した。
「よし!」
 ソールはアンドラに後押しされ、フェニックスのコックピットに登った。
「見ていてくれ、今からその回路を切断する」
 ソールはコックピットから銅線を引っ張り出してはさみを当てた。

 ジャキンッ

 という音がするとフェニックスが光り出した。
「何だ?」
「生まれ変わるのさ、フェニックスが」
 しばらくすると光が収まった。

――アポロンの死から続く壮絶な戦いはこうして幕を閉じた。が、ソールたちは、これがこれから続く激闘の序章だとはこのとき知る由もなかった。
名前
①所属国・地域②年齢③性格や強みなど

ソール
①アレクサンドリア→アルカディア②17歳③この物語の主人公。整備兵として、アルカディアの戦闘機の整備をしている。性格は温厚で争いや殺戮を好まず、人当たりも良い。が、自分の好きなことだけに熱中して興味のないことはやらない、場の空気を読まない、勝手に人の資料を見る、戦闘機を無断で改造するなど、周囲の人間を振り回すことも多い。機械工学の技術や知識に熟練し、その腕は一流だが、好きが高じて薄ら笑いを浮かべることも。その様子を周囲に気味悪がられたりする。アポロンからサンギルドシステムを受け継いだ唯一人の男。名前のモデルは「太陽」を意味するラテン語から。

アポロン
①アルカディア→アレクサンドリア②30歳③ソールの師匠。元はアルカディアのエネルギー担当相だったが、ガイアの血のあり方をめぐり首脳部と決別。アレクサンドリアに出向となって移住する。サンギルドシステムの開発者で、戦闘機フェニックスに導入する。争いを好まず、平和裏にエネルギー運用ができるよう研鑽を積んでいた。ソールにはたまに手を焼いていたが、一番の愛弟子としてかわいがっていた。モデルはギリシア神話の太陽神・アポロン。

ペルセウス
①アルカディア②20歳③アルカディア空軍のトップガンの一人。仁智勇を備えた武人の鑑。真面目で任務を忠実に遂行するが、敵であっても情けをかける一面がある。如何なる戦況においても冷静に判断して窮地を脱する精神力を持つ。ソールの兄貴分かつ保護者的な存在だが、暴走する彼に翻弄されることも多い苦労人。モデルはギリシア神話の英雄・ペルセウス。

アーレス
①アルカディア②23歳③アルカディア空軍のもう一人のトップガン。気さくな性格で、若い軍人からは兄貴分として慕われている。好戦的ではあるが、むやみに平和を乱すことはしない。最強の攻撃力を誇る戦闘機・グリフォンとの相性は抜群。モデルはギリシア神話の軍神・アーレス。

アンドラ
①不明(アフリカの小国)→アルカディア②19歳③グールヴェイグに所属していた女性。故国の惨状を打開すべく、ケートスに乗り込んで戦っていた。優しく女性らしい性格。しかし、信念を貫くために自分が犠牲になることをいとわない。愛機ケートスを大切にしていて、ソールが揶揄するたびに怒っていた。モデルはギリシア神話のエチオピアの王女・アンドロメダ姫。

ロキ
①ニブルヘイム②40歳③ゲリラ組織グールヴェイグのキャプテン。いつもヘラヘラとしているが、目が笑っておらず、何を考えているか分からない。一緒に行動していたソールも「信用できない」「うさんくさい男」と言っている。顔に大きな傷がある。物語が進むにつれ、その過去が明らかになる。モデルは北欧神話の悪神・ロキ。

フェンリル
①ニブルヘイム②16歳③グールヴェイグのクルー。短気で好戦的。元は戦災孤児。ロキと知り合い、行動を共にする。モデルは北欧神話の狼・フェンリル。

ヨルムンガンド
①ニブルヘイム②19歳③グールヴェイグのクルー。フェンリルとは対照的な冷静な性格。元戦災孤児。モデルは北欧神話の大蛇・ヨルムンガンド。

ハーデス
①アルカディア②29歳③アルカディア陸軍の司令官。たたき上げの職人的な軍人。モデルはギリシア神話の冥界の神・ハーデス。

ポセイドン
①アルカディア②29歳③アルカディア海軍の司令官。軍人ながら政治的大局を見極める視点を持つ。モデルはギリシア神話の海の神・ポセイドン。

アルテミス
①アルカディア②16歳③アルカディア海軍の艦載機パイロット。凛とした性格だが、別に男っぽいわけではない。モデルはギリシア神話の月の女神・アルテミス。

ゼウス
①アルカディア②56歳③アルカディアの元首。厳格な性格だが、政治の難しさに日々苦悩している。自国の軍隊を壊滅寸前にまで追いやったソールを憎んでいる。モデルはギリシア神話の主神・ゼウス。
コードネーム
①メインパイロット②所属③装備④意匠⑤特徴


フェニックス
①ソール②アレクサンドリア→グールヴェイグ→アルカディア③アバリスの矢、テイルブレードショット④赤とオレンジの鷲。7本の尾がある⑤アポロンが開発した極秘の戦闘機。太陽光をエネルギーに換えるサンギルドシステムが搭載されており、損傷を受けても自己修復が可能。サンギルドシステムの進化と共に性能も向上していくことになる。モデルはエジプトの不死鳥・フェニックス。


ハーピー
①イカロスなど②アルカディア③アバリスの矢、アバリスの矢改良型、対地ミサイル④紫と銀の人面鳥⑤アルカディア空軍のメジャーな戦闘機。量産型。トップガンの操る機体ほどではないが、戦闘能力は高い。初めて空軍に導入されて以来、モデルチェンジを繰り返してきた。イカロスの乗った機体は、フェニックスと交戦の末に撃墜される。モデルはギリシア神話の怪鳥・ハーピー。


ケートス
①アンドラ②アフリカの小国→グールヴェイグ③アバリスの矢(旧式)、水圧砲、アバリスの矢改良型、自爆装置④緑と黒、くじらの頭にカバの胴体⑤水陸用の兵器。アフリカの小国が、アンドラのために旧式の部品をつきはぎして開発した。部品の多くは取り替えが困難になっている。攻撃力はそこそこあるが、機動力が低い。後にソールが自爆装置を組み込んだ。ソールは「動く棺桶」と揶揄する。モデルはギリシア神話のアンドロメダ姫を襲った海の怪物・ケートス。


ニーズホッグ
①フェンリル、ヨルムンガンド②ニブルヘイム→グールヴェイグ③アイスミサイル、ブリザードブレス④青を基調にした竜⑤反アスガルドゲリラ組織・グールヴェイグの主力戦闘機。初期は2人乗り。熱エネルギーでなく、冷却システムで氷や吹雪をつくって攻撃する。モデルは北欧神話の竜・ニーズホッグ。


ケルベロス
①ハーデス②アルカディア③アバリスの矢改良型、ブロンズ砲弾、ブレードホイール、サンギルドファングボム④紺色の三つ首犬⑤アルカディア陸軍の陸上兵器。三つ首から各種類の攻撃をする。暗い所でも、アイカメラがあるので有利に戦える。逆に、急に強い光にあたるとカメラが壊れる。モデルはギリシア神話の地獄の番犬・ケルベロス。


ヒュドラ
①ポセイドン②アルカディア③水圧砲、酸④緑の八つ首の蛇⑤地中海を防衛する水上兵器。小さな要塞とも言える。多くある砲身を各個撃破しても、次々に復活する。高熱を当てると砲身はつぶれる。分割すれば移動ができる。モデルはギリシア神話の海の怪物・ヒュドラ。


セイレーン
①アルテミス、カリストー、セレネ②アルカディア③器官干渉音波④赤とピンクの人面鳥⑤ヒュドラと共に地中海を防衛する。戦闘機だが所属は海軍(艦載機)。実弾は使わず、音波で敵パイロットの三半規管を狂わせる。小ぶりな戦闘機。モデルはギリシア神話の海の魔女・セイレーン。アルテミス、カリストー、セレネで隊伍を組む。


ペガサス
①ペルセウス②アルカディア③アバリスの矢改良型、ハルペー光線④白を基調に赤と青のラインがある白馬⑤アルカディア空軍で1,2を争う戦闘機。メドゥーサ博士の開発した装甲でコーティングされている。防御力はアルカディアNo.1。メドゥーサ装甲は偶然できた代物で、そのとき爆発が起きてメドゥーサ博士も死んだので、世界唯一のものとなる。モデルはギリシア神話の天馬・ペガサス。


グリフォン
①アーレス②アルカディア③アバリスの矢改良型、ケラウノス光線④茶色を基調に金のライン。鷲の顔をしたライオン⑤ペガサスに比肩する戦闘機。エネルギーをためて撃つチャージショットができる。攻撃力と攻撃範囲はアルカディアNo.1。モデルはギリシア神話の幻獣・グリフォン。
「大変だ、陸地が…沈むぞ!!」
「助けて、誰か助けてくれえええええええ!!」


 かつて、北大西洋上に栄華を極めながら1日で海底に沈んだ大地があった。後世では、さまざまな憶測を呼んだ伝説の大陸と呼ばれている。さて、その大地はどのようにして滅んだのか……。

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「ソール!」
 ペガサスのコックピットにいたソールはアンドラの声の方に振り向いた。
「何しに来たんだ? 整備工場に」
「ごあいさつね、最近、顔を見せないから元気かなって気にかけてあげたんじゃないの」
「いや、俺が言いたいのはそういうことじゃなくて……」
 ソールはアンドラのやや大きくなった腹を指さした。あの後、ペルセウスとアンドラはすぐ結婚して子供を授かった。今は妊娠8カ月である。
「身重のあんたにこの工場は毒だぜ」
 工場内は暗くて通気性もよくない。加えて機械類が多くいつ倒れてくるかも分からないのだ。普通の人間でも体によくない上に危険なのに、妊婦となったらなおさらだ。
「ねえ、そう言えばさ、今度どこかに勉強に行くって聞いたわよ」
 人の話を聞いていないなと思いつつ、ソールはコックピットから降りてアンドラに駆け寄った。
「勉強じゃなくて研究だ研究。北大西洋にあるシバルバーに行ってくる」

 シバルバーとは北大西洋上にある島、およびそこにある国家の名称である。この大地は百年前、この世に存在していなかった。が、優れた科学技術により海を埋め立てて島にした。その結果、今で言うメキシコやグアテマラの地域にあったトゥランという国から膨大な数の人々が移住し、国家を形成したのだ。
「で、そんなところに何しに行くの?」
 地中海の見えるテラスでアンドラはケーキをつつきながら尋ねた。あとからペルセウスとも合流し、3人でのんびりとランチを楽しんでいる。以前の激闘が嘘のようだ。
「シバルバーは最新のテクノロジーを使っている。サンギルドシステムをさらに改良するためには、今の技量じゃ限界があると思うんだ」
「本当に1人で行くのか?」
 ペルセウスが眉をひそめながら言った。
「あのな、もう俺も子供じゃないんだ。海外だって1人で行けるさ」
 ソールがにらみ付ける。アーレスもペルセウスも何かと子供扱いをしてくる。正直に言うとかなり不服だ。
「よく言うよ。この前だってペガサスをおもちゃみたいに勝手に改造しようとしやがって……」
「は? あんなの改造のうちに入らないだろ?」
 ペルセウスは呆れた。勝手に改造とはペガサスの砲身を10本にしようとしたのだ。ソールにとっては、兵器だろうと身近な機械だろうとおもちゃのようなものなのだ。
「俺が言いたいのは、あのうさんくさいシバルバーに1人で行って無事に帰って来られるのかということだ」
「え? どういうこと?」
 よく考えてみろ、とペルセウスは懸念していることをアンドラに話した。たった百年前、何もなかった海上に島を造ったのだ。科学技術が進んだとは言え、そんなことをやってのける国はシバルバーしか聞いたことがない。
 しかも、何かしらの大量破壊兵器を秘密裏に開発しているという噂もある。裏が取れないが信憑性はかなり高いとアルカディアの首脳部でも話題になっているのだ。
「まあ、そんなことを心配しても仕方ないさ。何かあったら助けを呼ぶからよろしく」
 状況次第では連絡ができないかもしれないぞと注意をしても右から左だろう。しかし、脳天気なソールの台詞はペルセウスの危惧をぬぐうには足りなかった。

 そして――ペルセウスの危惧をはるかに上回る惨劇が起こることとなる……。
 数日後。ソールはシバルバーに向かう旅客機にいた。ペルセウスとアンドラ、アーレス、ハーデスはアルカディア空港まで見送りに来てくれた。ポセイドンとアルテミスは、任務を離れられず断念したのだ。
 アルカディアに来て以来、対戦した相手とは良好な関係が続いている。アポロンの遺志を伝えたことと1人も死者を出さなかったことが奏功したのだ。
 ただし、ゼウスだけは今でも犬猿の仲である。目が合ったときも、お互いににらみつけてそっぽを向く。自国を混乱させたというだけでなく、厳格なゼウスにとってマイペースなソールは反りが合わないのだろう。
「気をつけていってこいよ」と皆に見送られて飛行機に搭乗した。離陸し、約3時間のフライトで眼下に陸地が見えてきた。
「あれがシバルバーか…」
 おかわりのフルーツドリンクを飲み干しながらつぶやいた。ひと目見て高度な科学技術が使われていることが分かった。
例えば高層ビルがいくつも建っている。夕暮れになる時間帯にはきらびやかな灯りが色とりどりに重なり、夕日と重なって美しい光景を映し出していた。
 一方、ソールは違和感を覚えた。何かが足りないのだ…。
(はて、何だろうな?)
 首をひねったものの答えは出なかった。まあいいか、と思ったそのとき、飛行機がガクン、と揺れた。
「おいおい、何だよ」
 気流の乱れかと思ったがとっさに違うと感じた。この場合、アナウンスで「気流の乱れがありますが飛行には影響がありません」と流すはずだがそれがない。しかも、キャビンアテンダントたちが右往左往している。
(コックピットで何かあったな)
 その直感に従い、シートベルトを外して駆けだした。

 コックピットに無断で入るとパイロットが青ざめていた。
「何があった!?」
 ソールが怒鳴ると壮年のパイロットがおろおろしながら答えた。
「自動操縦を解除した途端、警報が鳴り始めたんだ!」
「はあ?」
 詳しくは分からないが緊急事態であることは把握できた。ソールはコックピットに駆け寄り、コントロールパネルを見た。大きさは違うが戦闘機とあまり変わらない。
「たぶん、機体が上昇しすぎているんだ。操縦桿を前に倒して下降気味にしろ!」
 すると機体の揺れが少なくなり警報もやんだ。
「はあ、助かった…」
「おい、あんた機長だろ? 何であんなに慌てていたんだ?」
 ソールは睨んだ。飛行機の操縦を知っている自分がいたから良かったものの、もしいなければ墜落していたかもしれない。
「実は、離陸と着陸以外は自動操縦ばかりやっていて自動操縦を解除したのが初めてなんだ」
「何だって!?」
「上の世代はマニュアル操作で機体を飛ばしてきたんだけど、自分の世代はもう自動操縦が当たり前になっている。今回のようなトラブル自体が初めてのパイロットも少なくないんだ」
 その後、飛行機は無事にシバルバーの空港に着陸した。
 機長が今回のトラブルを管制塔に報告したのだろうか、外に大勢の空港関係者と野次馬がいた。が、ソールは相手にするのが煩わしいので見つからないようにさっさと降りて逃げた。