どうあれ体力的にはシアンさんは、次に打てる一手が最後ってところだろう。それ以上は精神論とかではどうにもできない、物理的に無理な話になってくる。
対するリンダ先輩は全然体力を消費しているわけでもない。まあいつものスタイルで戦っているんだとしたら当然だよね。
斬り掛かって跳ねてグルグル踊ってるの繰り返しで激しく身体を動かすわけだから少しは疲れたりしないかなー? と期待を持ってみたものの、息一つ切らしてないから参るねー。
レリエさんが歯噛みして呻いた。
「もう勝負は歴然じゃないの……! これ以上はシアンが危ないわよ!?」
「ま、次の打ち合いが最後ってところでござるかね。起死回生できなければシアンの負け、それ以外だとアホの勝ちと。分かりやすいでござるねー」
「サクラ! あんな子に負けちゃうなんてヤバいわよ、どうするの!?」
飄々と軽く喋るサクラさんにも噛みつく、レリエさんは祈るようにシアンさんの無事を祈っているものの、勝利については諦めているみたいだ。
僕も正直、これもう無理じゃない? って気はしている。例えシアンさんの起死回生の何か一手が炸裂したとして、それだけでリンダ先輩が戦闘不能に陥るとも思えないんだよね。
まあサクラさん的には、とにかくギリギリの状況の中で死線を越え、壁を超えてほしいんだろうけど……見てるこっちはひたすらハラハラするよー。
「うーん……本当ならもう止めたいところだけどー……シアンさんの目が、あと一撃だけって言ってるもんなー……」
「それにシアンにも意地ってもんがあるでござる。団長として、団員をああも愚弄されたでは黙って済ませられないのは当然のこと。その心意気も汲んでやってほしいでござるよ、あと一撃だけ」
「あと、一撃……」
ゴクリとつばを飲み、心配そうにシアンさんを見るレリエさん。僕もそれに倣い、彼女を見守る。
力はまだ拙くても、団長としての責任を果たそうとしてくれているんだ。今回で言えばあらぬ罪を着せられて弾劾されかけている、僕のために。
本当、レイアとよく似てるよ……彼女も団員に危害が及ぼされたら、誰よりも率先して立ち向かっていってたなー。
カリスマある人物ってのは、やっぱり似通うところがあるのかもしれないねー。
息も絶え絶えになって、それでも構えるシアンさんをリンダ先輩が冷たく見据えた。
そして鼻で笑い、嘲るように言葉を投げつける。
「どうした生徒会長、文武両道ではなかったのか? 冒険者を輩出してきた貴族の家系ではなかったのか? ええ?」
「くっ……!」
「貴族が遊び半分で、誇り高い冒険者の真似事をしているからこうなる。真の戦士、真の冒険者の前にはお遊戯なのだ! 貴様も、貴様のパーティーとやらも!」
「…………っ!!」
シアンさんのすべてを侮辱する言葉。真の戦士、真の冒険者とやらなら到底言わないだろう聞くに堪えない罵詈雑言の数々に、シアンさんが怒りに震えてブロードソードを握る手に力を込めた。
しかしやけに、貴族だっていうところをあげつらうね……僕のスラム出身なのもしつこく嫌ってるし、平民以外が冒険者をやることに否定的なんだろうか?
って言っても冒険者なんて、身分の関係なしにただ冒険を志ざせばいつでもどこでも誰でもなれるものってのが大原則だしなあ。
なんとなくコンプレックスめいたものを感じて首を傾げているうちに、リンダ先輩の言葉の刃は今度、こちらを向いてきた。
憎悪に染まる瞳で僕らを睨み、告げる。
「貴様を潰せば次は杭打ちだ! エセ調査戦隊のゴミに天誅を下し、オーランドを救出する! ヒノモト女もついでに叩き切ってくれるわ、偉そうに冒険者を語る悪女め!!」
「おめーじゃ無理でござる」
「最短で5年鍛えて、やっとこ一撃入れられるかどうかってとこかなー」
出来もしないことを吠える先輩にサクラさんがバッサリ。素質があろうが現時点で僕らを仕留めるなんて無理なもんは無理なので、僕としても具体的な長期展望をつぶやく程度に留める。
まあ小声なんで聞こえてないみたいだ、それ以前に極度に興奮してるみたいだしね。カッカしすぎだよー、これオーランドくんも苦労したのかなー、ちょっと同情ー。
「私は……負けない」
と、シアンさんが息を整えつつつぶやいた。相変わらず活きた目が爛々と輝き、リンダ先輩をまっすぐに見る。
放たれる威圧は勢いを弱めるどころかむしろ強さを増し、近くを通りかかったモンスター達が慌てて逃げ出すほどだ。危機的状況にあって、秘められた才能が今まさに開花しつつあるようにすら思える。
これを見込んでいたのかと、サクラさんの慧眼に感心するよー。でもやり方は行き当たりばったりで無茶苦茶すぎるから、二度目はさせたりしないけどねー。
ともあれ壁を超えつつある彼女が、気炎を吐いた。
「負けるわけには、いかない……! 私の夢、野望、そして大切な仲間達……! そのすべてをかけたこの戦いで、負けてなんていられるものかっ!!」
「いいやもう負けだっ!! この一撃でーっ!!」
リンダ先輩の、勝利を確信した咆哮。同時に再び突進を始め、大斬撃が繰り出される。
これを逸らすだけの体力がもう、シアンさんにはあるのかどうか……あったとしてもその後に何かしら手を打てなければジリ貧だ、どうあれ勝ち目はない。
どうする!?
「私は負けない、私は勝つ……お前に、絶対に勝つっ!!」
強く叫び意志を示す。
シアン・フォン・エーデルライトの最初の試練が今、訪れていた。
対するリンダ先輩は全然体力を消費しているわけでもない。まあいつものスタイルで戦っているんだとしたら当然だよね。
斬り掛かって跳ねてグルグル踊ってるの繰り返しで激しく身体を動かすわけだから少しは疲れたりしないかなー? と期待を持ってみたものの、息一つ切らしてないから参るねー。
レリエさんが歯噛みして呻いた。
「もう勝負は歴然じゃないの……! これ以上はシアンが危ないわよ!?」
「ま、次の打ち合いが最後ってところでござるかね。起死回生できなければシアンの負け、それ以外だとアホの勝ちと。分かりやすいでござるねー」
「サクラ! あんな子に負けちゃうなんてヤバいわよ、どうするの!?」
飄々と軽く喋るサクラさんにも噛みつく、レリエさんは祈るようにシアンさんの無事を祈っているものの、勝利については諦めているみたいだ。
僕も正直、これもう無理じゃない? って気はしている。例えシアンさんの起死回生の何か一手が炸裂したとして、それだけでリンダ先輩が戦闘不能に陥るとも思えないんだよね。
まあサクラさん的には、とにかくギリギリの状況の中で死線を越え、壁を超えてほしいんだろうけど……見てるこっちはひたすらハラハラするよー。
「うーん……本当ならもう止めたいところだけどー……シアンさんの目が、あと一撃だけって言ってるもんなー……」
「それにシアンにも意地ってもんがあるでござる。団長として、団員をああも愚弄されたでは黙って済ませられないのは当然のこと。その心意気も汲んでやってほしいでござるよ、あと一撃だけ」
「あと、一撃……」
ゴクリとつばを飲み、心配そうにシアンさんを見るレリエさん。僕もそれに倣い、彼女を見守る。
力はまだ拙くても、団長としての責任を果たそうとしてくれているんだ。今回で言えばあらぬ罪を着せられて弾劾されかけている、僕のために。
本当、レイアとよく似てるよ……彼女も団員に危害が及ぼされたら、誰よりも率先して立ち向かっていってたなー。
カリスマある人物ってのは、やっぱり似通うところがあるのかもしれないねー。
息も絶え絶えになって、それでも構えるシアンさんをリンダ先輩が冷たく見据えた。
そして鼻で笑い、嘲るように言葉を投げつける。
「どうした生徒会長、文武両道ではなかったのか? 冒険者を輩出してきた貴族の家系ではなかったのか? ええ?」
「くっ……!」
「貴族が遊び半分で、誇り高い冒険者の真似事をしているからこうなる。真の戦士、真の冒険者の前にはお遊戯なのだ! 貴様も、貴様のパーティーとやらも!」
「…………っ!!」
シアンさんのすべてを侮辱する言葉。真の戦士、真の冒険者とやらなら到底言わないだろう聞くに堪えない罵詈雑言の数々に、シアンさんが怒りに震えてブロードソードを握る手に力を込めた。
しかしやけに、貴族だっていうところをあげつらうね……僕のスラム出身なのもしつこく嫌ってるし、平民以外が冒険者をやることに否定的なんだろうか?
って言っても冒険者なんて、身分の関係なしにただ冒険を志ざせばいつでもどこでも誰でもなれるものってのが大原則だしなあ。
なんとなくコンプレックスめいたものを感じて首を傾げているうちに、リンダ先輩の言葉の刃は今度、こちらを向いてきた。
憎悪に染まる瞳で僕らを睨み、告げる。
「貴様を潰せば次は杭打ちだ! エセ調査戦隊のゴミに天誅を下し、オーランドを救出する! ヒノモト女もついでに叩き切ってくれるわ、偉そうに冒険者を語る悪女め!!」
「おめーじゃ無理でござる」
「最短で5年鍛えて、やっとこ一撃入れられるかどうかってとこかなー」
出来もしないことを吠える先輩にサクラさんがバッサリ。素質があろうが現時点で僕らを仕留めるなんて無理なもんは無理なので、僕としても具体的な長期展望をつぶやく程度に留める。
まあ小声なんで聞こえてないみたいだ、それ以前に極度に興奮してるみたいだしね。カッカしすぎだよー、これオーランドくんも苦労したのかなー、ちょっと同情ー。
「私は……負けない」
と、シアンさんが息を整えつつつぶやいた。相変わらず活きた目が爛々と輝き、リンダ先輩をまっすぐに見る。
放たれる威圧は勢いを弱めるどころかむしろ強さを増し、近くを通りかかったモンスター達が慌てて逃げ出すほどだ。危機的状況にあって、秘められた才能が今まさに開花しつつあるようにすら思える。
これを見込んでいたのかと、サクラさんの慧眼に感心するよー。でもやり方は行き当たりばったりで無茶苦茶すぎるから、二度目はさせたりしないけどねー。
ともあれ壁を超えつつある彼女が、気炎を吐いた。
「負けるわけには、いかない……! 私の夢、野望、そして大切な仲間達……! そのすべてをかけたこの戦いで、負けてなんていられるものかっ!!」
「いいやもう負けだっ!! この一撃でーっ!!」
リンダ先輩の、勝利を確信した咆哮。同時に再び突進を始め、大斬撃が繰り出される。
これを逸らすだけの体力がもう、シアンさんにはあるのかどうか……あったとしてもその後に何かしら手を打てなければジリ貧だ、どうあれ勝ち目はない。
どうする!?
「私は負けない、私は勝つ……お前に、絶対に勝つっ!!」
強く叫び意志を示す。
シアン・フォン・エーデルライトの最初の試練が今、訪れていた。