一人先を行くシアンさんを、十分に距離を取って見守る僕とサクラさんとレリエさん。
 今は地下一階の通路をウロウロしている最中で、すでにモンスターとは何体か遭遇している。なんなら今も戦闘中だねー。
 
「きぴー! きぴ、きぴぴー!!」
「たぁーっ!!」
 
 角の生えたウサギ型モンスター、ホーンラビットを相手に華麗な剣が舞った。柄に華美な装飾の護拳を備えたブロードソードで、騎士団装備のレイピアよりは斬撃用途も想定している幅の刃が鋭く振るわれる。
 飛びかかる寸前のホーンラビットに先んじて接近して一閃目、角を切断して破壊力を封じつつ減速しつつ側面に回り込む。

「きぴ……!?」
「てぁーっ!!」

 混乱している敵の横っ面から二閃目、首を切り落とす。血を吹き出しながら倒れるホーンラビットから意識を逸らさずに目だけで周囲を確認するシアンさん。
 そうして敵がいないことを確認してそこでふうと息を吐いた。戦闘終了だねー、お疲れさまですー。

「……ふむ」
「杭打ち殿的に、今のはどんなもんでござった?」

 シアンさんの今しがたの戦いを見てちょっと、頭の中でいろいろ考えているとサクラさんが尋ねてきた。
 一応の師匠として、僕の意見も聞いておきたいとのことだ。こちらとしてもただレリエさんを守って眺めてるだけってのも味気ないし、せっかくなので思うところは都度言ってたりするねー。

 そしてそんな僕からしたら、今の戦闘で一番引っかかったのはやはり時間かな。
 敵を視認して 駆け出すのに3秒。接近するのに3秒かかり、一撃目から二撃目の体勢までに5秒。そしてトドメからここに至るまで3秒かかった。
 つまりは計13秒だね。これを早いと取るか遅いと取るかは人によるけど、僕としてはどうせならもうちょい効率よく動けそうな気はしたかなー。

 というかできることなら一撃目で仕留めたいところだよー。
 反撃させずに仕留めるつもりなら、反撃された時のことなんて考えて敵の無力化をしよう、なんて考える必要はないはずだし。
 やるにしても初撃の致命打が失敗した、返す刀で角を落として離脱するほうが理には適うと思う。今回は一匹だけだったから良かったものの、例えば二匹目がいた場合には今みたいな流れの攻撃だと1アクション分、後手に回ることになるしねー。
 
「……って感じでもうちょいって感じ。サクラさん的には?」
「んー、逆に及第点でござるねー。杭打ち殿とは逆で先に無力化してから倒すってやり方を堅実だと評価したいところでござるよ。なんせ拙者も同じ考え方するでござるしー」
「似た者師弟なのはいいね、お互いやりやすそう」
「でござろー? ござござー」
 
 師弟揃って安全を先に確保したがる質らしい、サクラさんの言葉に僕はなるほどと納得した。
 教える側と教わる側のスタンスが似てるのは一番良い。同じ方向を向いてるからどちらもやりやすいだろうし、何より師弟仲が良くなる。
 ただでさえ団長と副団長ってことで相性の良さが求められるわけだし、そういう意味でも抜群の組み合わせだね、この二人ー。

 シアンさんが再び迷宮を歩き始めた。付かず離れずで僕達も追う。
 熱心にシアンさんの動きを見学するレリエさんにもちょくちょく解説を挟みつつも、もっぱら僕とサクラさんの話題は互いの立ち回り方の特徴についてだ。
 
「杭打ち殿はとにかく狙えるなら本体を仕留めたい派で、拙者とシアンはなるべく確殺できる状況を作ってから本体を仕留めたい派、と。性格でござるねえ」
「……こないだの茶番、シミラ卿を押さえに行った僕をカットした時も杭打ちくんを狙ってたもんね、そういえば。アレは僕ならシミラ卿に構わず本体に仕掛けてたよ」
「シミラ卿も拙者へのフォローをした際には直接杭打ち殿を狙ってたでござるね。調査戦隊仕込みでござるか?」
「…………いや、どっちも素の性格」
 
 僕の場合はさっさと終わらせて次の敵を殺りたいから。シミラ卿の場合はたぶん、負けん気のキツさから。それぞれの性格的特徴ゆえに、僕らは仲間を助けるより先に敵を仕留めることを優先しがちだ。
 一方でサクラさんは分かりやすく安全志向なのと、あとなんだかんだ優しい人だからねー。仲間がピンチって時にはまずそちらにカットを入れてから反撃に加勢するみたいだ。
 
「どっちが良い悪いじゃないし、どっちもいることでむしろ幅が生まれてるところはある……そうなると、レリエさんはどっちかな? って思っちゃうわけだけど」
「え、私?」
「ござござ。たとえば味方が敵に襲われている時、レリエ殿は次のうちどちらを選ぶでござる? 間に入って攻撃を受けるか、襲っているところを背後から倒すか」

 僕とサクラさんにじーっと見られ、レリエさんが困ったように笑った。
 実際、割と大切な選択なんだけどねこれー。どちらのタイプか、あるいはまた別のタイプかによって彼女の鍛え方も大きく変わるし。

 どちらにせよ見守ることに変わりはないけど、どうせなら僕のほうを選んでほしいなーとは思う。
 若干だけ固唾を呑んで見守る僕を尻目に、レリエさんはおずおずと答えた。
 
「え、あ……そうね。私的には後者かしらね、基本的には」
「ほほー? ちなみに理由は?」
「防御したり身代わりになったところでジリ貧だもの、攻撃している間は隙だらけだし、それなら攻撃して倒したほうが結果的に、味方を助けることにつながるかもって思うから……」
「なるほど、なるほど……つまりは杭打ち殿タイプというわけでござるねー」
 
 やったー! 気が合う男女ってこれもう付き合ってるも同然なんじゃないでしょうか!? 15度目の初恋、セカンドチャンス来ちゃいますー!?
 まさかの2対2。これで形勢は互角だねー。などと別に張り合ってもないけどちょっとドヤ顔を浮かべる僕である。