僕の相棒の杭打機、通称"杭打ちくん3号"は一見すると巨大な鉄の塊なんだけど、当たり前ながら内部には鉄の杭が仕込まれている。なんせ杭打機ですから。
装着する僕の右腕、ちょうどパンチの感覚で当てられるよう調整された位置に射出口があり、そこから杭を発射するのだ。
まずは一発。出入口から勢いよく飛び出た僕は右腕を振り上げた。こちらに背を向けるモンスターの後頭部に向け、思いっきり殴りかかる要領だ。
当然、杭打機のもっと言えば射出口だってそれに合わせて振り下ろされる。そう、これは別に僕が直接パンチする動作でなく、杭打機の射出口をやつの頭に叩きつけるためのものである。
「っ!!」
「ぐげがっ!?」
ドゴッ、と鈍い音を立てて後頭部に鉄の塊が叩き込まれる。大の男が10人がかりでもまともに持つことのできない馬鹿みたいな重量が、それなりの速度で直撃したんだからその威力は僕が言うのもなんだけど筋金入りだ。
すでにモンスターの頭部が凹み、内部に至るまでグチャグチャになった感触が伝わる。短い叫びをあげるのが非常に生々しくて嫌だ。
だけどまだ足りない、まだ致命傷じゃない。
こんな程度で仕留められるなら、今頃冒険者はみんなこの迷宮の最下層まで辿り着けてるよ。
さらにもう一手、必殺の追撃が必要なんだ。
「────っ!!」
だから僕は、右手に握る杭打機の取っ手──射出口の進行方向に動くレバーを、殴り抜ける勢いそのままに押し込んだ。
瞬間、飛び出る鉄。僕の背の丈よりも大きな杭打機と、ほぼ同じ長さの巨大な鉄杭が鋭い切っ先を剥き出しにしたのだ!
「ガボォア────ッ!?」
「な、なんだァ!?」
「え……い、いやぁぁぁぁぁぁっ!?」
鈍い音と、頭蓋が貫かれて砕かれ、中身を散々にかき混ぜてぶちまける音が響く。同時に襲われているんだろう冒険者達の、困惑と恐怖の叫びも。
目の前でいきなりモンスターの、頭が弾け飛んでザクロかひき肉かってことになったらそりゃあびびるよー。まして血も肉もぶっしゃあああーって言いながら撒き散らされているので、たぶんもろに真紅を頭から被っちゃってるだろうし。
かく言う僕のほうも、返り血とか脳漿とかが身体中にべったりだ。これだよこれ、こういうことになるから僕は帽子とマントを常時装着してるんだ。
別にオーランドくんはじめ同学のみなさんから正体を隠すためでは断じてないのだ。いや、最近はむしろそっちのがメインの用途になってることは否めないけど。腹黒ハーレムイケメンさんは難儀だなー。
目の前でミンチにしたモンスターよりも学園生活の闇のほうがずっと怖い。そう思いながら僕は、倒れゆくモンスターの背を蹴って飛んだ。空中高くで身を震わせて返り血やら肉片やらを払いながら、件の冒険者達の元へ着地する。
ズドン! ──と。杭打機の重量が重量だし大きな音を立ててしまうのは仕方ない。
周囲を見回して、さっき仕留めたモンスターの他に脅威がいないかを確認する。
いない、ヨシ。この確認を怠ると地味に命に関わるので、慣れた冒険者ほどしっかりやる作業だ。命あっての物種だからねー。
「……………………」
「あ、あんたは……杭打ち!?」
「?」
何やら名前を呼ばれて振り向く。同年代くらいの少年少女が3人と、10歳くらいの子供が2人そこにいた。
いやいやいやいや、ほかはともかく子供は何? なぜこんなところに? 連れてきちゃいけない場所だよさすがに、ここ地下86階なんですが?
「…………!!」
「ええっ!? お、ちょ、待って杭打ちさん!? なんかキレてる!?」
「ままま、待って! な、なんか誤解してる気がするの! はな、話し合いましょう!?」
「ひぃぃぃ……」
助けに入ったつもりが、児童虐待ないし誘拐の疑惑が出てきてしまった。年端も行かない子をこんな地獄に連れてきてこの人達、何をしようとしてたんだ。
警戒も露わに杭打ちくん3号を構える。レバーは内蔵してあるバネによって原点位置に戻り、それに伴い杭も引っ込められている。
僕の攻撃はつまるところこの繰り返しだ。殴って、ぶち抜いて、戻す。それだけ。でもこれでここまで来られたんだから、まあそんなに卑下するようなもんでもないとは思う。
互いに血と肉まみれの中、三人組はあからさまにうろたえて何やら叫んできた。
子供2人がキョトンとして、僕と彼らを繰り返し見てくるのを横に、少年が慌てて弁明する。
「こ、この子達は最初からこの辺をうろついてたんだ! 本当に!」
「たまたま、マジで偶然森に迷ってたら見つけちゃって出入口を!! こここ、好奇心からついここまで下りちゃったんだけど、そしたらその子達がモンスターに襲われてるの見ちゃって! つい、敵いもしないのに突っ込んじゃって!!」
「ぴぇぇぇぇぇぇ……!!」
「……………………?」
嘘をつくにしたってもうちょい現実味のある嘘をつくよね、普通? いやでも、そう思わせてのあえてぶっ飛んだ嘘をついたせんもあるのかな?
こんなとこにこんな小さな子が二人きりで、お散歩なんてそんなわけないじゃん。いくらなんでも現実味ないんだけど、とはいえ三人組のあまりに迫真の様子にちょっと戸惑う。必死さがガチだしマジ泣きしてる子までいるんだけど、どうなんだろう……?
「あのー、すみませーん。私達、この人達とは初対面です……」
「そちらのお兄さん達は本当のこと言ってるよ、えーっと杭打ち? さん。ひとまず話を聞いてもらっていいかな、この場にいる全員」
と、周囲を見ていた子供達が不意にそんなことを言う。幼げな顔立ちと背丈、瓜二つの姿なんだけどどこか、大人びた印象を受ける。
…………人間かどうかも怪しくなってきたなあ。僕は警戒を緩めないまま、とりあえず頷くことにした。
装着する僕の右腕、ちょうどパンチの感覚で当てられるよう調整された位置に射出口があり、そこから杭を発射するのだ。
まずは一発。出入口から勢いよく飛び出た僕は右腕を振り上げた。こちらに背を向けるモンスターの後頭部に向け、思いっきり殴りかかる要領だ。
当然、杭打機のもっと言えば射出口だってそれに合わせて振り下ろされる。そう、これは別に僕が直接パンチする動作でなく、杭打機の射出口をやつの頭に叩きつけるためのものである。
「っ!!」
「ぐげがっ!?」
ドゴッ、と鈍い音を立てて後頭部に鉄の塊が叩き込まれる。大の男が10人がかりでもまともに持つことのできない馬鹿みたいな重量が、それなりの速度で直撃したんだからその威力は僕が言うのもなんだけど筋金入りだ。
すでにモンスターの頭部が凹み、内部に至るまでグチャグチャになった感触が伝わる。短い叫びをあげるのが非常に生々しくて嫌だ。
だけどまだ足りない、まだ致命傷じゃない。
こんな程度で仕留められるなら、今頃冒険者はみんなこの迷宮の最下層まで辿り着けてるよ。
さらにもう一手、必殺の追撃が必要なんだ。
「────っ!!」
だから僕は、右手に握る杭打機の取っ手──射出口の進行方向に動くレバーを、殴り抜ける勢いそのままに押し込んだ。
瞬間、飛び出る鉄。僕の背の丈よりも大きな杭打機と、ほぼ同じ長さの巨大な鉄杭が鋭い切っ先を剥き出しにしたのだ!
「ガボォア────ッ!?」
「な、なんだァ!?」
「え……い、いやぁぁぁぁぁぁっ!?」
鈍い音と、頭蓋が貫かれて砕かれ、中身を散々にかき混ぜてぶちまける音が響く。同時に襲われているんだろう冒険者達の、困惑と恐怖の叫びも。
目の前でいきなりモンスターの、頭が弾け飛んでザクロかひき肉かってことになったらそりゃあびびるよー。まして血も肉もぶっしゃあああーって言いながら撒き散らされているので、たぶんもろに真紅を頭から被っちゃってるだろうし。
かく言う僕のほうも、返り血とか脳漿とかが身体中にべったりだ。これだよこれ、こういうことになるから僕は帽子とマントを常時装着してるんだ。
別にオーランドくんはじめ同学のみなさんから正体を隠すためでは断じてないのだ。いや、最近はむしろそっちのがメインの用途になってることは否めないけど。腹黒ハーレムイケメンさんは難儀だなー。
目の前でミンチにしたモンスターよりも学園生活の闇のほうがずっと怖い。そう思いながら僕は、倒れゆくモンスターの背を蹴って飛んだ。空中高くで身を震わせて返り血やら肉片やらを払いながら、件の冒険者達の元へ着地する。
ズドン! ──と。杭打機の重量が重量だし大きな音を立ててしまうのは仕方ない。
周囲を見回して、さっき仕留めたモンスターの他に脅威がいないかを確認する。
いない、ヨシ。この確認を怠ると地味に命に関わるので、慣れた冒険者ほどしっかりやる作業だ。命あっての物種だからねー。
「……………………」
「あ、あんたは……杭打ち!?」
「?」
何やら名前を呼ばれて振り向く。同年代くらいの少年少女が3人と、10歳くらいの子供が2人そこにいた。
いやいやいやいや、ほかはともかく子供は何? なぜこんなところに? 連れてきちゃいけない場所だよさすがに、ここ地下86階なんですが?
「…………!!」
「ええっ!? お、ちょ、待って杭打ちさん!? なんかキレてる!?」
「ままま、待って! な、なんか誤解してる気がするの! はな、話し合いましょう!?」
「ひぃぃぃ……」
助けに入ったつもりが、児童虐待ないし誘拐の疑惑が出てきてしまった。年端も行かない子をこんな地獄に連れてきてこの人達、何をしようとしてたんだ。
警戒も露わに杭打ちくん3号を構える。レバーは内蔵してあるバネによって原点位置に戻り、それに伴い杭も引っ込められている。
僕の攻撃はつまるところこの繰り返しだ。殴って、ぶち抜いて、戻す。それだけ。でもこれでここまで来られたんだから、まあそんなに卑下するようなもんでもないとは思う。
互いに血と肉まみれの中、三人組はあからさまにうろたえて何やら叫んできた。
子供2人がキョトンとして、僕と彼らを繰り返し見てくるのを横に、少年が慌てて弁明する。
「こ、この子達は最初からこの辺をうろついてたんだ! 本当に!」
「たまたま、マジで偶然森に迷ってたら見つけちゃって出入口を!! こここ、好奇心からついここまで下りちゃったんだけど、そしたらその子達がモンスターに襲われてるの見ちゃって! つい、敵いもしないのに突っ込んじゃって!!」
「ぴぇぇぇぇぇぇ……!!」
「……………………?」
嘘をつくにしたってもうちょい現実味のある嘘をつくよね、普通? いやでも、そう思わせてのあえてぶっ飛んだ嘘をついたせんもあるのかな?
こんなとこにこんな小さな子が二人きりで、お散歩なんてそんなわけないじゃん。いくらなんでも現実味ないんだけど、とはいえ三人組のあまりに迫真の様子にちょっと戸惑う。必死さがガチだしマジ泣きしてる子までいるんだけど、どうなんだろう……?
「あのー、すみませーん。私達、この人達とは初対面です……」
「そちらのお兄さん達は本当のこと言ってるよ、えーっと杭打ち? さん。ひとまず話を聞いてもらっていいかな、この場にいる全員」
と、周囲を見ていた子供達が不意にそんなことを言う。幼げな顔立ちと背丈、瓜二つの姿なんだけどどこか、大人びた印象を受ける。
…………人間かどうかも怪しくなってきたなあ。僕は警戒を緩めないまま、とりあえず頷くことにした。