シアンさんの提唱するプロジェクト"ニューワールド・ブリゲイド"──あらゆる組織、あらゆる勢力から独立した冒険者達のための機構、新世界旅団構想。
たしかに胸を熱くするものを与えてくれた、その計画の展望について。けれど僕は即答やその場での明言を避け、ひとまず検討するとだけ答えてその日は帰ることにした。
正直、すごく面白そうだし楽しそうな話だと思う。実現すれば間違いなく歴史に名を残すだろうそのプロジェクトに、他ならぬ僕なんかを絶対必要条件としてくれていることも含めてあまりにも魅力的なお話だ。
でも、だからこそ……安易なその場の勢いやノリでなく、しっかり考えた末に僕自身の意志と言葉で、彼女の求めに応じるか否かの答えを示さなきゃいけないと思ったのだ。
ソウマ・グンダリとして。冒険者として。そして何より、かつて結果的に大迷宮深層調査戦隊を崩壊させるに至った原因として。
今一度、パーティーを組んで良いものなのか。それをしばらく考え抜きたいと思うわけだね。
「と、いうわけでリリーさんのご意見を聞きたいですー」
「新世界旅団構想ねえ……エーデルライト家の三女さん、ずいぶんと野心家なことにまずはびっくりだわ」
話を持ち帰っての夕方、冒険者ギルドにて。
冒険者としても人間としても厚く信頼を寄せているギルドの受付スタッフ、リリーさんにここだけの話として相談したところ、すぐさま面談用の個室に通されての今はじっくり相談タイムー。
曰く"ソウマくんが相談事をしてくるなんて珍しいから、こういう時こそ全力で対応させてもらう"とのことー。
あー惚れそう〜。僕を特別視してくれてるよねこれ! 絶対そうだよリリーさん、僕だからこんなにも手厚く対応してくれるんだよー!
心の中はまたしても新たな初恋の予感と青春の香りにご満悦なんだけど、実際問題シアンさんの構想についての話は割と重大事だ。何しろことと次第によっては今後の、僕の人生そのものに関わってくるからね。
なので僕が冒険者としてデビューして以来、ずーっとお世話になっている姉のような恋人にしたい人リリーさんに悩みを打ち明けたわけだ。
孤児院の院長先生と並んで僕にとっては家族同然の女の人は、しばらく考えた末に真剣極まる顔をして、僕にこう言うのだった。
「率直に言うわね。その構想、エーデルライトさんに確固たる信念があるというのなら受けてみてもいいとは思う」
「あの野望と野心の熱量は本物だよ、リリーさん。レイアにも劣らないくらい、目がギラついてる」
「ソウマくんにそこまで言わせるならなおのこと、ね……ただ、懸念事項がいくつもあるからそこは考えないといけないけれど」
そう言って、リリーさんは腕組みをして難しげに唸った。
シアンさんの野心、野望とそこにかける熱意は紛れもなく本物だ。どこまでも高みを目指し、そのためにはあらゆることをしてみせる覚悟と凄味が彼女には見受けられた。
思わずレイアを思い出して懐かしい気持ちになったくらいだよー。彼女今、どこで何してるのかなー。元気にしてるといいなー。
若干浸りかけるのを努めて抑えて、僕はリリーさんに問いかける。
懸念事項。いくつもあるというそれを、まずは一つ一つ確認していかないとね。
「懸念事項っていうと?」
「まずは何をおいても、エーデルライトさん自身の能力ね。言い方は悪いけど無能が大層な夢だけ抱いて、あなたを担ぎ上げようとしていないとも限らない。それって詐欺同然だもの、私としては認めるわけにはいかないわよね」
「能力、かー……カリスマ的な威圧はすでに備えてるみたいだよー? 僕やサクラさんにまで感知させるレベルの影響力を放つのって、結構なことだと思うけど」
戦闘力って面だと現状じゃあ夢のまた夢だ、それは分かり切っている。なんたってそもそもがオーランドくんのパーティーにくっついていた程度のものでしかないわけだしね。
ただ、それを差し引いても貴族としてのものだろうか、放つカリスマについては天賦のものだと言うしかない。
他者を魅了し圧倒するオーラや気迫ってのは、よほど強い意志を抱いた上で根底に才能がなければ身に纏えない類のものだ。そういう意味ではシアンさんは立派に天才の部類と言えるだろう。
僕もそうだしサクラさんだって今日のお話し中、彼女のそうしたオーラは感じ取れていた。自分で言うのもなんだけどこのレベルの冒険者にも感じ取らせるだけのものを放つって、相当なことなんだよね実のところ。
リリーさんもそれには頷き、そして答える。
「あなたやサクラ・ジンダイさんにも分かるほどのカリスマ……うーん、それはよろしいけれどもう一手何か欲しいところね。率直に言うと単純実力、戦闘力ね」
「そこは問題ないよ、それこそ僕なりサクラさんなりで鍛えていけばいいし。僕が卒業するまでには、最強とまではいかずとも調査戦隊下位に食い込める程度にはできると思うよ、たぶん」
「さらっと言うけどそれはそれですごいわね……」
戦闘力的な部分なんて今後、冒険者やってれば嫌でも身につくものだしね。僕やサクラさん、今後新世界旅団に参加するかもしれないベテラン達に教わっていけばきっと、シアンさんもたちまち強くなれるだろう。
そう、サクラさん。
しれっと言ったけど、彼女もシアンさんが提唱する新世界旅団の話に僕同様、乗っかるつもりでいるのだ。
たしかに胸を熱くするものを与えてくれた、その計画の展望について。けれど僕は即答やその場での明言を避け、ひとまず検討するとだけ答えてその日は帰ることにした。
正直、すごく面白そうだし楽しそうな話だと思う。実現すれば間違いなく歴史に名を残すだろうそのプロジェクトに、他ならぬ僕なんかを絶対必要条件としてくれていることも含めてあまりにも魅力的なお話だ。
でも、だからこそ……安易なその場の勢いやノリでなく、しっかり考えた末に僕自身の意志と言葉で、彼女の求めに応じるか否かの答えを示さなきゃいけないと思ったのだ。
ソウマ・グンダリとして。冒険者として。そして何より、かつて結果的に大迷宮深層調査戦隊を崩壊させるに至った原因として。
今一度、パーティーを組んで良いものなのか。それをしばらく考え抜きたいと思うわけだね。
「と、いうわけでリリーさんのご意見を聞きたいですー」
「新世界旅団構想ねえ……エーデルライト家の三女さん、ずいぶんと野心家なことにまずはびっくりだわ」
話を持ち帰っての夕方、冒険者ギルドにて。
冒険者としても人間としても厚く信頼を寄せているギルドの受付スタッフ、リリーさんにここだけの話として相談したところ、すぐさま面談用の個室に通されての今はじっくり相談タイムー。
曰く"ソウマくんが相談事をしてくるなんて珍しいから、こういう時こそ全力で対応させてもらう"とのことー。
あー惚れそう〜。僕を特別視してくれてるよねこれ! 絶対そうだよリリーさん、僕だからこんなにも手厚く対応してくれるんだよー!
心の中はまたしても新たな初恋の予感と青春の香りにご満悦なんだけど、実際問題シアンさんの構想についての話は割と重大事だ。何しろことと次第によっては今後の、僕の人生そのものに関わってくるからね。
なので僕が冒険者としてデビューして以来、ずーっとお世話になっている姉のような恋人にしたい人リリーさんに悩みを打ち明けたわけだ。
孤児院の院長先生と並んで僕にとっては家族同然の女の人は、しばらく考えた末に真剣極まる顔をして、僕にこう言うのだった。
「率直に言うわね。その構想、エーデルライトさんに確固たる信念があるというのなら受けてみてもいいとは思う」
「あの野望と野心の熱量は本物だよ、リリーさん。レイアにも劣らないくらい、目がギラついてる」
「ソウマくんにそこまで言わせるならなおのこと、ね……ただ、懸念事項がいくつもあるからそこは考えないといけないけれど」
そう言って、リリーさんは腕組みをして難しげに唸った。
シアンさんの野心、野望とそこにかける熱意は紛れもなく本物だ。どこまでも高みを目指し、そのためにはあらゆることをしてみせる覚悟と凄味が彼女には見受けられた。
思わずレイアを思い出して懐かしい気持ちになったくらいだよー。彼女今、どこで何してるのかなー。元気にしてるといいなー。
若干浸りかけるのを努めて抑えて、僕はリリーさんに問いかける。
懸念事項。いくつもあるというそれを、まずは一つ一つ確認していかないとね。
「懸念事項っていうと?」
「まずは何をおいても、エーデルライトさん自身の能力ね。言い方は悪いけど無能が大層な夢だけ抱いて、あなたを担ぎ上げようとしていないとも限らない。それって詐欺同然だもの、私としては認めるわけにはいかないわよね」
「能力、かー……カリスマ的な威圧はすでに備えてるみたいだよー? 僕やサクラさんにまで感知させるレベルの影響力を放つのって、結構なことだと思うけど」
戦闘力って面だと現状じゃあ夢のまた夢だ、それは分かり切っている。なんたってそもそもがオーランドくんのパーティーにくっついていた程度のものでしかないわけだしね。
ただ、それを差し引いても貴族としてのものだろうか、放つカリスマについては天賦のものだと言うしかない。
他者を魅了し圧倒するオーラや気迫ってのは、よほど強い意志を抱いた上で根底に才能がなければ身に纏えない類のものだ。そういう意味ではシアンさんは立派に天才の部類と言えるだろう。
僕もそうだしサクラさんだって今日のお話し中、彼女のそうしたオーラは感じ取れていた。自分で言うのもなんだけどこのレベルの冒険者にも感じ取らせるだけのものを放つって、相当なことなんだよね実のところ。
リリーさんもそれには頷き、そして答える。
「あなたやサクラ・ジンダイさんにも分かるほどのカリスマ……うーん、それはよろしいけれどもう一手何か欲しいところね。率直に言うと単純実力、戦闘力ね」
「そこは問題ないよ、それこそ僕なりサクラさんなりで鍛えていけばいいし。僕が卒業するまでには、最強とまではいかずとも調査戦隊下位に食い込める程度にはできると思うよ、たぶん」
「さらっと言うけどそれはそれですごいわね……」
戦闘力的な部分なんて今後、冒険者やってれば嫌でも身につくものだしね。僕やサクラさん、今後新世界旅団に参加するかもしれないベテラン達に教わっていけばきっと、シアンさんもたちまち強くなれるだろう。
そう、サクラさん。
しれっと言ったけど、彼女もシアンさんが提唱する新世界旅団の話に僕同様、乗っかるつもりでいるのだ。