若い女の人が、明らかにこちらに向けて壁越しに声をかけてきている。ちょっとこれは想定外だ、なんだ、誰だろ? 知り合い? こんなところで?
 
『き、急になんだよ! 何がいるのか? モンスターか!?』
『ふふ、今にわかります』
『か、かいちょ〜……?』
『ふふふふふふ!』
 
 何やら向こうが騒がしい。最初二人だけかと思ってたけど最低四人はいるみたいだ。
 新人さんパーティーかな? というかどうであれ、壁からコンコン音が聞こえただけで僕だって気付けるようなものなんだろうか? なんか不気味ー。
 
「……………………」
 
 とはいえせっかく言ってもらったんだし、気にもなるしとりあえず杭打機を振りかぶる。
 ここの迷宮はちょっとそっと壁や床を壊した程度なら、時間経過で修復される不思議な仕組みをしてるからどこをどうぶっ壊しても遺恨が発生しないのが最高だよねー!
 
 遠慮なしに壁を、一息にぶち抜く!!
 
「────!!」
「うおおおおっ!? な、なんだ!?」
「か、壁が!?」
「ふふ……さすがですね」
 
 スドォォォォォォン! と轟音を立てて壁が崩れる。鉄の塊がまずヒットして、矢継ぎ早に飛び出た杭が直後にヒット。
 多段式の衝撃と破壊力は折り紙付きだ。迷宮の壁程度なら全然余裕でぶち抜ける。こんな風にねー。
 
 瓦礫と砂埃舞う中、壁に埋まった薬草を取り出してはい、収穫完了! これで概ね10束だから、後は帰って孤児院に届けに行くだけだねー。
 と、その前に例のパーティーさん達にお騒がせしたことを謝罪しないとね。普通、迷宮の壁がぶっ壊れてそこから人がぬっと出てくるなんて考えにくいもんねー。
 
「……おさわが──」
「杭打ち!? なんでこんなところに!?」
「!?」
 
 お騒がせしてごめーんね! みたいなことを言おうと思った矢先、聞き覚えのある声が聞こえて僕は帽子とマントの奥で密やかに目を剥き口を噤んだ。
 この声……! まさか、このパーティーって!?
 愕然とする思いで、僕は声の方を振り向く。そこには。
 
「貴様……野良犬め、また冒険者気取りで……!!」
「か、会長。杭打ちさんだってもしかして知ってたんですか!?」
「うふふ。どうかしら」
「………………………………っ!?」
 
 ああああ脳破壊パーティー再びいいいい!!
 
 視界に入る見覚えのあるハーレムパーティーに、僕の情緒はあえなくグチャグチャになってしまった。
 思わず叫び声をあげなかっただけでも褒めてほしいくらいだ。"杭打ち"状態だとあんまり声を出さなくなるってのが習慣づいていてよかった、本当に良かったよー!
 
 そう、僕が遭遇した壁の向かい側のパーティーってのが、まさかのゆかりの人達!
 僕の一度目の初恋のシアン生徒会長様! 3度目の初恋のリンダ剣術部長様! あと生徒会長副会長と会計の子。見たことない美人さんもいるね。
 そしてにっくきあんちくしょう! 僕の宿敵、10人いた初恋の子の実に8人も落としていったやべースケコマシ!!
 
 なんちゃってAランク冒険者、オーランド・グレイタスその人が自慢気に女の子達を侍らせちゃったりなんかしちゃってるのだー!!
 ああああ出会いたくなかったいろんな意味でええええ!!
 
「…………」
「お前……なんのつもりだこんな浅い階層をうろつきやがって。仮にも元・調査戦隊メンバーなのに何やってんだこんなところで!」
 
 早速噛み付いてきたよーやだよー怖いよー。
 調査戦隊メンバーだったことを当て擦った物言いをしてくるけど、彼の場合前から知ってたんだろうなって思う。だってオーランドくんの両親のグレイタス夫妻も元調査戦隊メンバーだったからねー。
 
 夫婦揃ってレジェンダリーセブン──すっかり当たり前みたいに使ってるけど本当に笑えるネーミングだ──ではないものの、戦闘要員の中でも上位30名くらいの中には入ってる程度にはお強い人達だ。今のシミラ卿くらいかな?
 気のいい夫妻なんだけど度を超えた親バカなのが珠の傷だって、他のメンバーにもからかわれてたんだけどねー。今となっては本当に珠の傷だから笑えないよー。
 
 息子の教育ちゃんとしてほしかった、切に。コネ使ってインチキAランクになんてしてちゃ駄目だよってほんと、今度出くわしたら説教しちゃうかもしれないねー。
 と、そんなことを考えてると前と同じでリンダ先輩が、オーランドくんに話しかけている。あっ、やな予感。
 
「オーランド、お前まであのような下らぬ噂を信じているのか? 調査戦隊メンバーなどと……スラムの野良犬が冒険者を騙っているだけでも腹立たしいというのに、よくもまあそんな嘘八百を並べたものだ」
「……………………」
「いや……そこは前からうちの親が、杭打ちとは同じパーティーだったって話してたからな。調査戦隊以前の話だと思ってたが……まさかマジに元メンバーなんてな。公的にはメンバー扱いされてないって話だが」
「当たり前だ。世界中の腕利きが結集した現代の神話集団・大迷宮深層調査戦隊。栄光に満ちた彼らとその道程に、スラムの犬が紛れ込んでいたなどと後世には残せるはずもない。国は正しい選択をしたよ」
「………………………………」
 
 ああああ的中したああああ!!
 どーしてそんな僕のこと毛嫌いするのおおおお!?
 
 相変わらずの心なさすぎる発言の数々に膝をつきそうになる。なんで? 僕なんかした? それなりに弁えて静かに生きてるのにー。
 うう、厄日だよー。っていうか昨日からなんか、厄日だよー。
 
 内心すっごいブロークンハート。僕の三度目の初恋は何度失恋したら終わりを迎えられるのかしら。え、もう死んでる? うっさいよー。
 なんてことを涙を呑んで思いつつ彼らを眺めてどんよりしていると、不意にそんな二人に声が投げかけられた。
 
「────いい加減にしてもらえますか? グレイタスくん、リンダ」
「あの……そんな言い方、そちらの方に失礼すぎると思いますが」
「!?」
 
 まさかの援軍。
 それは彼らの側にいる、美少女二人からの実績だった。