エウリデ連合王国騎士団。エウリデ連合王国の武威を一手に担う、国最強の戦力……ってことになっている人達だ。
 白銀の鎧に剣、盾が夕暮れにも眩しい、威風堂々たる姿はたしかに国を代表するにふさわしい姿かもしれないね。姿だけは。
 
 でも実際の中身はといえばここ数年はなんともはや残念なもので、一言でいうとお貴族様のボンボンによる部活動みたいなものになっちゃってたりする。
 騎士団長とか一部の古株を除けば、迷宮攻略法を少しも体得してない冒険者達とドッコイという残念なレベルの集団だもの。例外である騎士団長なんかは、それこそSランク冒険者並に強いから組織内の実力の差がすごすぎるねー。
 
 で、そんな哀しい実情なのにボンボンさん達なもんだからそんなことにも気づかず、今みたいに市民に対してひたすら傲慢に振る舞うから好感度も低いという始末。
 もう君たち何が取り柄なんだよ~って言いたくなる集団、それが栄えあるエウリデ連合王国騎士団なのでした。
 
「その双子は、はるかな太古に失われた超古代文明の生き証人だ! ゆえ、国の所有物として研究機関に持ち帰り研究と実験の対象とする!」
「っざけんな!! 所有物だと、持ち帰るだと! この子達は物じゃねえ!」
「それに研究に実験!? 冗談じゃないわよ、この子達をどうする気!?」
「冒険者風情が気にすることか! いいから渡せ蛮族どもが、国に楯突くか!!」
「……………………」
 
 うわー、めっちゃバチバチしてるー。
 相変わらずなんのつもり? って言いたくなるくらい態度の終わってる騎士団のボンボン達に、ブチギレちゃって吼えに吼えるレオンくんとノノさん。
 マナちゃんに抱きしめられて庇われているヤミくんヒカリちゃんは可哀想に、身を寄せ合って震えて怯えている。レオン君も言ってたけど物扱いとか研究だの実験とか、そんなの言われたら無理もないよねー。
 
「引っ込めボンボンども! ここは迷宮都市だ、冒険者の町だぞコラァ!!」
「剣もまともに使えねーガキどもが、国の威を借りて粋がってんじゃねー!!」
「それにそこのレオンは貴族だぞおい! てめーら貴族でも冒険者だったら蛮族ってのか!? あぁっ!?」
「……………………」
 
 うーん蛮族。屯する冒険者達も冒険者達で、ヒートアップしてめちゃくちゃ喧嘩売ってる。
 でもたしかに、迷宮都市は冒険者の町だ。治安維持とかインフラ維持だって冒険者が行ってるし、騎士団なんてやる気のない駐在──でも騎士に珍しく人柄はトコトン良いから、冒険者達のみんなも愛してやまない名物騎士だ──が一人、たまに町中をうろついてるくらいかな。
 
 そんなだからこんな時にばかりノコノコやってきて好き勝手なことを言う騎士団なんて、そりゃー好かれる要素ないもんね。
 あとレオンくんの件については僕も同感だ。彼、名前からして貴族なのに蛮族扱いしちゃっていいんだろうかね、ボンボンくん達?
 にわかに気にしていると、騎士の集団の先頭、一際背丈の高い金髪のお坊ちゃんがあからさまな嘲笑を浮かべて言い放った。
 
「関係あるものか! 騎士団に逆らった時点で国の敵、反逆者だ!!」
「いい機会だ、貴様ら全員引っ捕らえて立場の違いを分からせてやろう! 無論、そこの古代民どもはこちらで持ち帰る!」
「んだテメェら! やるってかコラァ!!」
「上等だ偉そうにしやがって、国がどーしたこっちは冒険者だぞオラァァ!!」
「……………………」
 
 あー、これヤバいね、乱闘になるわー。
 極端な物言いをした騎士団ももちろんアレだけど、それを受けて真っ向から国相手に喧嘩するのも辞さない冒険者達も冒険者達だよー。
 
 一触即発の空気。こんなところで騎士団と冒険者がぶつかったら、まあ普通に冒険者が勝つだろうけど周辺被害が大変なことになる。何より国に対してマジで喧嘩を売ることになるのでややこしいことになっちゃうし。
 そうなると最終的に困るのは冒険者達、ひいては僕だ。エウリデって国も騎士団のお坊っちゃま達も心底どうでもいいけれど、さすがに割って入ったほうがいいかもねー。
 
「や、ヤミ……!」
「大丈夫。大丈夫だよ、ヒカリ……!」
「……………………!!」
 
 それに何より。
 あんなに健気で優しい双子に、寄る辺なく不安にしているだけの兄妹に。所有物として持ち帰るだの研究だの実験だの……
 
 絶対にかけていい言葉じゃないんだよね! 騎士団どもはさあ!!
 僕は、怒りに任せて腕を大きく振りかぶった!!
 
「舐めるなっ粗忽者どもっ!! 総員、かか────」
「────ッ!!」
 
 いよいよ衝突が始まりかけた瞬間、僕は行動に打って出た。ギルド前に群がる冒険者達の、少し後方に立って杭打ちくん3号を思い切り、地面に向けてぶっ放したのだ!
 
 ズドーン! どころじゃない。
 ズドォォォォォォンッ!! って轟音が響き渡り、局地的に大地さえ揺るぐ衝撃が一帯に広がる。本気で打ち込むと真面目にいろいろ大変な被害になるからある程度抑えたけれど、バッチシいい感じに音と振動を引き起こせたみたいだ。
 
「なっ……なんだぁっ!?」
「へぁあっ!? ……うおっ、杭打ちぃっ!?」
 
 突然の事態に騎士団連中も冒険者達もみな、体勢を崩してその場に伏せる。よーしよし、これでひとまず衝突は回避だよー。
 とっさに後ろを振り向いた何人かの冒険者が、僕に気づいて声を上げた。それに従うように段々、みんながこちらを見てくる。
 いやだなーこの注目感。どうせなら道行く学生の女の子達に見られたいなー。
 
「く、杭打ち!? 今のお前か!!」
「………………」
「……っ!? おい、みんな道開けろ! 杭打ちがキレてる、やべーぞ!」
  
 僕の様子に気づいた冒険者が大声で叫び、蜘蛛の子を散らすようにみんなが離れていく。
 たぶん、昔の僕を知っている人による叫びだろう。何人か顔を真っ青にして逃げ出していくしね。
 
 まあ、つまりはそういうことで。
 今しがたのボンボン達の物言いに、僕もそれなりに怒っているということでした。