決着がついた──僕の勝利という形で。
倒れ伏すレイアに杭打ちくんを突きつけて宣言すれば、レイアも息も絶え絶えながらそれを認めた。である以上、余人の意思の挟み込まれる余地もなく結果は確定したんだ。
「ふう、はあ、ぐっ……み、未来は」
「レイア、大丈夫?」
「だ、大丈夫……未来は、ソウくんの見た未来は覆せなかったね、結局」
杭打ちくんの杭で思い切り胴体をぶち抜いたんだ、穴だって空いてるし血だって出る、中身だって見えかねないくらいだ。
だけど荒く息を吐きつつ答えるレイアはそれなりに元気だ。迷宮攻略法・超再生能力がすでに発動していて、彼女の損なわれた肉体をすごい速度で回復させているんだよー。
なんならもう穴だって塞がりかねない。そんな感じでひとまず回復を待つレイアを前に、僕は杭打ちくんを野原に放り投げてその場に座り込んだ。
レイアもまた、ロングソードを手放し仰向けになっている。
「未来……僕が見た以上だったよ。覆しはできなかったけど、見られなかったその先をレイアは見せてくれた」
「本、当ー? 気を、遣って、適当言ってるー?」
「言わないよー……さすがだよ絆の英雄。この3年間でここまで傷つけられたこと、なかった」
「それはこっちのセリフ。なんならここまでやられた経験なんて生まれて初めてかもだよ」
二人して与えあった傷を見せ合い、笑う。そこにはもう、互いへの蟠りなんか影も形もない。
ああ……そうだ。ものの見事に未来を切り拓かれちゃったよー。レイアとの戦いを経て、シアンさんの言葉をもらって。僕は今、やっと過去を背負って前を向く覚悟ができた。
過去を悔やむばかりじゃなくて、そこから反省し。一からリスタートしようって思えたんだ。
深く息を吸って吐く。清々しい気分だ、やっと僕は僕に戻れた。
もちろん未来がすべて明るいわけじゃないだろうし、今後また、取り返しのつかないことをやらかして挫折してって可能性もあり得る。それは僕だけじゃなく誰もがそうだね。
そしてそうなった時、今度もまた立ち直れるかって言ったらその保証だって、どこにもないんだ。
だけど。それでも生きていく。
生まれた意味がなんであれ、生きてる価値があろうがなかろうが……心が折れていても、それでも生きているなら生きていく。
死ぬまでそれは続くんだ。いつか終わりを迎える時まで、価値も意味もなくったって、重い心を引きずってでも身体は明日に向かって歩く。
僕にとってはこの3年間がそうだったようにね。
そうしていつの日か、また立ち上がれる時だって来るかも知れない。僕にとって、今がまさしくそうであるように。
「もうちょっとだけでも、生きて歩いてみるよ、レイア」
「……」
「その果てにある何かが、どんなものであれ──終わりまで歩き続けることそのものが、かけがえのないものなのかもしれないから。それを教えてくれたのは君と、みんなだ」
「そっか。そうだね……何があろうとなかろうと、歩き続けることそのものに意味がある、か。そうだね、きっとそうだ」
満足気に瞳を閉じて笑う。レイアにならって僕もそうする。
風の音、草原が揺れる音。あと、冒険者達が駆け寄ってくる音。
そして何より、大切な仲間達の、声。
「ソウマくんっ!」
「やったでござるなあ、ソウマ殿ー!!」
「みんな……」
抱きついてくる新世界旅団のみんな。傷は塞がってきてるけど流した血はまだ乾いてないのに、汚れるよー?
でも誰も、そんなことお構いなしに僕を抱きしめて頭や背中をナデナデしてくれる。えへ、えへへ! 柔らかい、温かい、いい匂い!
あー、幸せだよー! こんなふうにして撫でてもらえるだけでも、生きてく甲斐があるかもねー!
そう考えると新世界旅団こそ僕のすべてかも! 初恋だらけの僕の新パーティ、サイコー!
「えへ、えへへ! えへへへへへ!!」
「なんかムカつくから完治したら思い切り殴るねソウくん。これ勝負とかじゃないから甘んじて殴られてねソウくん」
「なんでー!?」
怖いよー!?
いきなり白い目で僕を見て、とんでもないことを言い出したレイアにビックリだ。ウェルドナーさんに介抱されながらも、じっとりした目で僕を見てくる。
と、そんな僕の頭を胸に収めるように抱きしめてきたのがうちの団長、シアンさんだ! うひゃー、何これ天国!?
思わず顔を熱くしながら見上げると、何やら勝ち誇った顔をしてるよー? なになに、どしたのー?
「乱暴ですね絆の英雄。"私達新世界旅団の"ソウマくんにこれ以上の暴力は許しませんよ?」
「……へえ? 言うじゃない、貴族のご令嬢様が。ソウくんはたしかにそちらのメンバーらしいけど、でも私達の"特別な"間柄に割って入る資格もないよねえ?」
「こちらのセリフですよそれは? "昔の女"が旧交を温めるまでならともかく、今でも特別みたいに言うのはオススメしかねます」
「…………ほおーん? へぇー? ふぅーっん?」
な、なんなのー……?
僕を抱きしめたままシアンさんがレイアと笑い合ってるけど、なんだか怖いよー?
いろいろ含みがあるみたいだけど、相性悪かったりするのかなー?
首を傾げる僕を、さらに強く抱きしめるシアンさん。それにますます笑みを深くする怖いレイア。
周囲の冒険者達も苦笑いするやら口笛吹いてそっぽ向くやらしながらも──
こうして、冒険者史上に名を残すことになりそうな大冒険は幕を下ろしたのだった!
倒れ伏すレイアに杭打ちくんを突きつけて宣言すれば、レイアも息も絶え絶えながらそれを認めた。である以上、余人の意思の挟み込まれる余地もなく結果は確定したんだ。
「ふう、はあ、ぐっ……み、未来は」
「レイア、大丈夫?」
「だ、大丈夫……未来は、ソウくんの見た未来は覆せなかったね、結局」
杭打ちくんの杭で思い切り胴体をぶち抜いたんだ、穴だって空いてるし血だって出る、中身だって見えかねないくらいだ。
だけど荒く息を吐きつつ答えるレイアはそれなりに元気だ。迷宮攻略法・超再生能力がすでに発動していて、彼女の損なわれた肉体をすごい速度で回復させているんだよー。
なんならもう穴だって塞がりかねない。そんな感じでひとまず回復を待つレイアを前に、僕は杭打ちくんを野原に放り投げてその場に座り込んだ。
レイアもまた、ロングソードを手放し仰向けになっている。
「未来……僕が見た以上だったよ。覆しはできなかったけど、見られなかったその先をレイアは見せてくれた」
「本、当ー? 気を、遣って、適当言ってるー?」
「言わないよー……さすがだよ絆の英雄。この3年間でここまで傷つけられたこと、なかった」
「それはこっちのセリフ。なんならここまでやられた経験なんて生まれて初めてかもだよ」
二人して与えあった傷を見せ合い、笑う。そこにはもう、互いへの蟠りなんか影も形もない。
ああ……そうだ。ものの見事に未来を切り拓かれちゃったよー。レイアとの戦いを経て、シアンさんの言葉をもらって。僕は今、やっと過去を背負って前を向く覚悟ができた。
過去を悔やむばかりじゃなくて、そこから反省し。一からリスタートしようって思えたんだ。
深く息を吸って吐く。清々しい気分だ、やっと僕は僕に戻れた。
もちろん未来がすべて明るいわけじゃないだろうし、今後また、取り返しのつかないことをやらかして挫折してって可能性もあり得る。それは僕だけじゃなく誰もがそうだね。
そしてそうなった時、今度もまた立ち直れるかって言ったらその保証だって、どこにもないんだ。
だけど。それでも生きていく。
生まれた意味がなんであれ、生きてる価値があろうがなかろうが……心が折れていても、それでも生きているなら生きていく。
死ぬまでそれは続くんだ。いつか終わりを迎える時まで、価値も意味もなくったって、重い心を引きずってでも身体は明日に向かって歩く。
僕にとってはこの3年間がそうだったようにね。
そうしていつの日か、また立ち上がれる時だって来るかも知れない。僕にとって、今がまさしくそうであるように。
「もうちょっとだけでも、生きて歩いてみるよ、レイア」
「……」
「その果てにある何かが、どんなものであれ──終わりまで歩き続けることそのものが、かけがえのないものなのかもしれないから。それを教えてくれたのは君と、みんなだ」
「そっか。そうだね……何があろうとなかろうと、歩き続けることそのものに意味がある、か。そうだね、きっとそうだ」
満足気に瞳を閉じて笑う。レイアにならって僕もそうする。
風の音、草原が揺れる音。あと、冒険者達が駆け寄ってくる音。
そして何より、大切な仲間達の、声。
「ソウマくんっ!」
「やったでござるなあ、ソウマ殿ー!!」
「みんな……」
抱きついてくる新世界旅団のみんな。傷は塞がってきてるけど流した血はまだ乾いてないのに、汚れるよー?
でも誰も、そんなことお構いなしに僕を抱きしめて頭や背中をナデナデしてくれる。えへ、えへへ! 柔らかい、温かい、いい匂い!
あー、幸せだよー! こんなふうにして撫でてもらえるだけでも、生きてく甲斐があるかもねー!
そう考えると新世界旅団こそ僕のすべてかも! 初恋だらけの僕の新パーティ、サイコー!
「えへ、えへへ! えへへへへへ!!」
「なんかムカつくから完治したら思い切り殴るねソウくん。これ勝負とかじゃないから甘んじて殴られてねソウくん」
「なんでー!?」
怖いよー!?
いきなり白い目で僕を見て、とんでもないことを言い出したレイアにビックリだ。ウェルドナーさんに介抱されながらも、じっとりした目で僕を見てくる。
と、そんな僕の頭を胸に収めるように抱きしめてきたのがうちの団長、シアンさんだ! うひゃー、何これ天国!?
思わず顔を熱くしながら見上げると、何やら勝ち誇った顔をしてるよー? なになに、どしたのー?
「乱暴ですね絆の英雄。"私達新世界旅団の"ソウマくんにこれ以上の暴力は許しませんよ?」
「……へえ? 言うじゃない、貴族のご令嬢様が。ソウくんはたしかにそちらのメンバーらしいけど、でも私達の"特別な"間柄に割って入る資格もないよねえ?」
「こちらのセリフですよそれは? "昔の女"が旧交を温めるまでならともかく、今でも特別みたいに言うのはオススメしかねます」
「…………ほおーん? へぇー? ふぅーっん?」
な、なんなのー……?
僕を抱きしめたままシアンさんがレイアと笑い合ってるけど、なんだか怖いよー?
いろいろ含みがあるみたいだけど、相性悪かったりするのかなー?
首を傾げる僕を、さらに強く抱きしめるシアンさん。それにますます笑みを深くする怖いレイア。
周囲の冒険者達も苦笑いするやら口笛吹いてそっぽ向くやらしながらも──
こうして、冒険者史上に名を残すことになりそうな大冒険は幕を下ろしたのだった!