「ソウくん! オリジンホルダーとして、この世界に迷宮攻略法をもたらしてくれた君はまさしく歴史に残る偉人にほかならない!」
 
 高らかに叫ぶレイア。なんかいきなり僕を名指しで偉人と言い出したけど、こちらとしてはそんなバカなーって感じだよ。
 なんだけど彼女は完全に本気で言ってるし、周囲の冒険者達も僕を見ながら頷いたり、息を呑んだりしている。あっ、ウェルドナーさんだけ視線が厳しい! それはそれとして姪御を苦しめたのは許さん的な表情! 怖いよー!
 
「そんな君が勝つと宣言した以上、それは絶対のことかもしれない……今さっきもソウくん、未来を見てたでしょ」
「あ、分かった? やってみるもんだよね、意外とできちゃってさー」
「……はあ? 未来ぃっ!?」
 
 あっさりと先程の打ち合いの中、度々僕が披露した技術を暴いたレイアはさすがの一言だよ。他の冒険者達には当然見抜けることじゃないから、唐突に何を言い出すのかと唖然としてるー。
 正解! そう、僕はさっき、数秒先の未来を見た。無限エネルギーとやらの力のおかげかな、なんとなく見えたんだ。

 主にレイアの行動──回避先、およびそこからどう動くか。知らなかったことだけど未来ってのは常に変動しているみたいで、僕が"仮にこう動いたらどうなる? "って思い描くと、その通りの未来が瞬時に頭の中に湧いて出るんだ。
 僕が飛びかかって、レイアが攻撃してきて、それを避けて彼女に接近してジャブを放つ。それだけの間にも僕は好き放題未来を見たよ。

 幾千とまではいかないけど数十パターンの攻撃の軌道、それぞれにレイアがどう動くか。そしてそれに対してもまた数十の動きを仮定して、さらに未来を見る。
 たった一瞬のうちにとんでもない情報量を頭の中に叩き込まれた感じがして、正直フラフラしさえするもののこれは強力無比だよー。
 長時間ぶっ続けで使うと倒れそうだから使い所が肝心だけど、それでも必ず勝ちたい局面で使えばおそらく確定で勝てる能力だ。

 うん……これなら、たぶん。
 僕はレイアに告げる。
 
「新しい、第8の迷宮攻略法──"未来予知"なんてね。重力制御をも上回る難度だけど、そのうちレイアにも習得できるかも」
「うわー、サラリと私をタイトルホルダーじゃなくしてくれて、もう! ……やっぱり、ソウくんこそが最強だよ」
 
 迷宮攻略法をすべて修得した者をタイトルホルダーと言うなら、いままさに新たな迷宮攻略法が生まれたことでレイアは自動的にタイトルホルダーではなくなった。
 なんせ未来予知なんて今はまだできないだろうしねー。それを受けて彼女は苦笑いしつつも僕を讃え、しかし闘気をさらに迸らせた。
 まだ、戦う気だ!
 
「結果は見えてる。僕の未来予知が見通してみせる……それでもまだ、やるの?」
「当然! 予知ならそれをひっくり返すまで! 未知なるものを踏破してこその冒険者なら、私は君が見た未来さえ、踏破してみせるよ!」
 
 強気に笑い、構えるレイア。ロングソードが変わらず彼女の強化を受けて煌めき、鋭く僕へ切っ先を向けている。
 レイア、その表情に翳りはない。僕が予知する未来でさえも越えて見せると、雄々しく叫ぶその姿はまさしく英雄たるに相応しい気迫を備えている。
 
 変わらない、いや、それ以上だよ。
 僕が憧れた彼女は、尊敬し愛しさえした彼女は……かつてと変わらず、いやそれ以上に尊く気高い輝きをもって今、僕の前にいてくれる。
 
 僕がこの境地に至れたことといい、こうしてレイアの輝きをもう一度、見られたことといい……生きてみるもんだね。
 こんな光景にまた会えた、それだけでも僕はなんだか、生まれてきてよかったって思えるよ。

 だから、僕も構える。夕陽ももう沈む、日が暮れる。空は暗くなってきて、夜風もいよいよ吹いてきた。
 決着は近い。どうあれレイアは短期決戦を仕掛けてくるだろう。重力制御を封じられた上に未来を見る僕、無限エネルギーさえ自在に操る僕に彼女の打てる手は多くない。

 これまでにピリオドを打ち、これからをまた、歩き始めるための決闘。
 それが今、終わりを迎えようとしていた。
 
「レイア」
「何? ソウくん」
「改めて、ありがとう……君だけじゃない。こんな僕に関わってきてくれたすべてに、心からの感謝を」
 
 僕を僕たらしめてくれたすべてが、僕を今日まで生かしてくれた。僕一人ではきっと、もっと早い段階ですべてを終わらせていたと思うよ。
 だから、ありがとう。ただ、感謝だけを抱く。
 
「この勝負、どう決着しても互いに悔いはない! そうだろ!?」
「もちろん! 私達はともに、新たな未来を進むために今ここにすべてをかける! これまでのすべてを、この一撃に込めるよ──ソウマ・グンダリ!!」
「僕もだ──レイア・アールバド!!」
 
 そして、どんな形であれこの勝負にケリを着けるよ!
 昨日までを今日に追いつかせた今、そこから先の未来へ踏み込むために!!
 僕らはそして、最後の一撃を放つべく同じタイミングで踏み込んだ!