3年前の調査戦隊解散から今に至るまで、地獄だったと泣き叫ぶレイアの姿に僕は、激しく動揺する自分を自覚していた。
あれからの日々……こないだの話からするに、レイアはそれでもうまいこと生きてこれていたはずだ。海を渡って古代文明の資料室を発見して、その研究に注力して謎を解き明かした。
見事なまでに充実した日々に思える。その話を聞いて僕は、こんなことを考えること自体ふざけてるんだけどホッとしたのも事実だよ。
良かったって。レイアはたとえ一度すべてを奪われても、すぐにまた立ち上がることのできる本当の英雄だったって。奪った側が絶対にしちゃいけない考えなのはわかった上で、それでもそう思ってしまったんだよ。
なのに。
なのになんで、この3年を地獄だったと言うの、レイア……!?
「調査戦隊の仲間達が、エウリデ王国への対応をどうするかで分裂して、仲違いして……最後には空中分解しちゃった。それをただ、指を加えて眺めているだけだった、私……!! この3年、後悔ばかりだったのは私もだよっ!!」
「そんなことないだろ!? レイアも必死にみんなを繋ぎ止めようとしていたって、そう話を聞いてる!」
「しようとしていただけだよ!!」
剣戟が、苛烈さを増す。鬱屈した感情が温度を上げるのに比例して、攻撃の鋭さが、強さが、込められた気迫が! 強くなる……!
これは……この威力は、僕をも超える……!?
杭打ちくんが徐々に追いつかなくなる。今はまだ対応できているけど、少しずつ圧倒されていく。
この3年、僕はずっと戦ってきた。反対にレイアは研究に専念してきて、その分だけ実力だって開いているはずだ。なのに押されている。
気持ちで、負けかけている?
斬撃の猛攻に、マントがドンドン傷付けられていくのに焦りを感じる僕へ、レイアは叫びから一転、静かにつぶやくように告げた。
「実際はね、ソウくん。もう諦めてたんだよ、ソウくんが調査戦隊を黙って抜けた時点で。ああ、もう駄目だな、終わりだな──そう確信しちゃって、何もできなくなっちゃった」
「僕が……抜けた時点で」
「だってそうでしょ? リーダーのくせに、仲間のくせに、メンバーが抜けるかもって一大事を何も知らないままだった私達。あとになってどれだけ悔やんだって揉めたって全部手遅れだよ」
涙を流しながら、けれど何も色のない表情。完全なる虚無の顔をして、レイアは凄絶な言葉を放つ。
僕の離脱が、レイアに調査戦隊の存続そのものを諦めさせていた。いろいろ動いていたのも実のところ諦念が先に来ていて、本心からのものではなかった。
信じられないよ、そんなの。
レイアは絆の英雄だ。どんな時でも友愛を重んじ絆を信じ、だからこそ多くの人が、英傑達が彼女を慕ってついていく。金や名誉よりなお尊く輝く絆の集約者──それが彼女のはずだ。
鍔迫り合いの中、愕然と彼女を見る。絆を愛し絆に憧れた、そんな君に誰よりも憧れた。
なのに今では、君は君自身を否定するの? 僕の、せいで?
彼女は薄く笑う。
「"絆の英雄"? 笑わせるよ、何が……助けを求める声にも気づかずに、手遅れになってから騒ぐみんなを見ているしかできなかった分際でさあ。それでそこから先はもうだめ、何をしていてもずっと、あの頃の思い出と後悔が滲んでは染みて……っ!!」
「ち、違う。それは、僕がみんなに何も言わなかっただけで。 僕が悪いんだ! 僕が、誰にも何も言わなかったから」
「そうだよ! そこはそのとおりだっ!!」
震える声でつぶやけば、レイアは激高してさらにロングソードを奔らせる。駄目だ、杭打ちくんが間に合わない!
一閃、二閃。三閃目はどうにか杭打ちくんで払い除ける。けれど二撃も受けてしまった、マントの下、服が破ける。身体強化はしているけど、相手も武器強化しているからダメージは通ってしまった。
血が、滲む。
けれどその痛みやショックさえ気にならないほどの言葉が、彼女の口から発せられていた。
「ソウくん! 君の罪は卑劣な脅しに屈したことでも、その結果調査戦隊を解散させたことでもない!! ────仲間にせめて一言だって、相談しなかったことっ!!」
「!!」
「君さえ言ってくれていれば! せめて助けてくれの言葉さえあれば!! みんなで支えられた! 何か別の方法を考えることができたんだ!!」
調査戦隊と孤児院を秤にかけた。
そして孤児院を取り、調査戦隊を捨てた。
その結果、調査戦隊を解散へと導いてしまった──
それらすべてが問題ではない。
そもそも秤にかけざるを得なくなったこと、どちらかを選ばざるを得なくなったこと。
それらすべてを、誰にも何も相談しなかったこと……それこそが僕の唯一にして最大の過ちだと、レイアは叫ぶ。
「そんなに私は、私達は頼りなかった!? 仲間と思ってたのにそうじゃなかったの!? 君にとって調査戦隊は、信頼もできない間抜けの集まりだったの!?」
「れ、レイア……」
「答えろっ! ソウマ・グンダリーッ!!」
怒りと哀しみの嘆き。
込められた感情の大斬撃を、僕は今度こそ、袈裟懸けに直撃してしまった。
あれからの日々……こないだの話からするに、レイアはそれでもうまいこと生きてこれていたはずだ。海を渡って古代文明の資料室を発見して、その研究に注力して謎を解き明かした。
見事なまでに充実した日々に思える。その話を聞いて僕は、こんなことを考えること自体ふざけてるんだけどホッとしたのも事実だよ。
良かったって。レイアはたとえ一度すべてを奪われても、すぐにまた立ち上がることのできる本当の英雄だったって。奪った側が絶対にしちゃいけない考えなのはわかった上で、それでもそう思ってしまったんだよ。
なのに。
なのになんで、この3年を地獄だったと言うの、レイア……!?
「調査戦隊の仲間達が、エウリデ王国への対応をどうするかで分裂して、仲違いして……最後には空中分解しちゃった。それをただ、指を加えて眺めているだけだった、私……!! この3年、後悔ばかりだったのは私もだよっ!!」
「そんなことないだろ!? レイアも必死にみんなを繋ぎ止めようとしていたって、そう話を聞いてる!」
「しようとしていただけだよ!!」
剣戟が、苛烈さを増す。鬱屈した感情が温度を上げるのに比例して、攻撃の鋭さが、強さが、込められた気迫が! 強くなる……!
これは……この威力は、僕をも超える……!?
杭打ちくんが徐々に追いつかなくなる。今はまだ対応できているけど、少しずつ圧倒されていく。
この3年、僕はずっと戦ってきた。反対にレイアは研究に専念してきて、その分だけ実力だって開いているはずだ。なのに押されている。
気持ちで、負けかけている?
斬撃の猛攻に、マントがドンドン傷付けられていくのに焦りを感じる僕へ、レイアは叫びから一転、静かにつぶやくように告げた。
「実際はね、ソウくん。もう諦めてたんだよ、ソウくんが調査戦隊を黙って抜けた時点で。ああ、もう駄目だな、終わりだな──そう確信しちゃって、何もできなくなっちゃった」
「僕が……抜けた時点で」
「だってそうでしょ? リーダーのくせに、仲間のくせに、メンバーが抜けるかもって一大事を何も知らないままだった私達。あとになってどれだけ悔やんだって揉めたって全部手遅れだよ」
涙を流しながら、けれど何も色のない表情。完全なる虚無の顔をして、レイアは凄絶な言葉を放つ。
僕の離脱が、レイアに調査戦隊の存続そのものを諦めさせていた。いろいろ動いていたのも実のところ諦念が先に来ていて、本心からのものではなかった。
信じられないよ、そんなの。
レイアは絆の英雄だ。どんな時でも友愛を重んじ絆を信じ、だからこそ多くの人が、英傑達が彼女を慕ってついていく。金や名誉よりなお尊く輝く絆の集約者──それが彼女のはずだ。
鍔迫り合いの中、愕然と彼女を見る。絆を愛し絆に憧れた、そんな君に誰よりも憧れた。
なのに今では、君は君自身を否定するの? 僕の、せいで?
彼女は薄く笑う。
「"絆の英雄"? 笑わせるよ、何が……助けを求める声にも気づかずに、手遅れになってから騒ぐみんなを見ているしかできなかった分際でさあ。それでそこから先はもうだめ、何をしていてもずっと、あの頃の思い出と後悔が滲んでは染みて……っ!!」
「ち、違う。それは、僕がみんなに何も言わなかっただけで。 僕が悪いんだ! 僕が、誰にも何も言わなかったから」
「そうだよ! そこはそのとおりだっ!!」
震える声でつぶやけば、レイアは激高してさらにロングソードを奔らせる。駄目だ、杭打ちくんが間に合わない!
一閃、二閃。三閃目はどうにか杭打ちくんで払い除ける。けれど二撃も受けてしまった、マントの下、服が破ける。身体強化はしているけど、相手も武器強化しているからダメージは通ってしまった。
血が、滲む。
けれどその痛みやショックさえ気にならないほどの言葉が、彼女の口から発せられていた。
「ソウくん! 君の罪は卑劣な脅しに屈したことでも、その結果調査戦隊を解散させたことでもない!! ────仲間にせめて一言だって、相談しなかったことっ!!」
「!!」
「君さえ言ってくれていれば! せめて助けてくれの言葉さえあれば!! みんなで支えられた! 何か別の方法を考えることができたんだ!!」
調査戦隊と孤児院を秤にかけた。
そして孤児院を取り、調査戦隊を捨てた。
その結果、調査戦隊を解散へと導いてしまった──
それらすべてが問題ではない。
そもそも秤にかけざるを得なくなったこと、どちらかを選ばざるを得なくなったこと。
それらすべてを、誰にも何も相談しなかったこと……それこそが僕の唯一にして最大の過ちだと、レイアは叫ぶ。
「そんなに私は、私達は頼りなかった!? 仲間と思ってたのにそうじゃなかったの!? 君にとって調査戦隊は、信頼もできない間抜けの集まりだったの!?」
「れ、レイア……」
「答えろっ! ソウマ・グンダリーッ!!」
怒りと哀しみの嘆き。
込められた感情の大斬撃を、僕は今度こそ、袈裟懸けに直撃してしまった。