「最近までずっと、生きていたのね」
「……」
「人の都合で生み出され、人の都合で使われて……天罰のようにすべてを滅ぼしてもなお、人の都合からは逃げられずに何万年も。神は、生き続けさせられたのね。生命を弄ばれて、そうして死ねなかった、ずっと」
 
 跪いて懺悔するレリエさん。祈るように組んだ両手を、涙が何滴も垂れては濡らしていく。

 古代文明が健在だった数万年前から、ほんの10年前まで生き続けてきた──生かされ続けた神。
 滅ぼすものさえ失ってさまよい続けることとなった、あまりにも無惨で悲しい末路を迎えたその生物兵器の成れの果てが今、地平線の向こうに見える。

 そのことに、レリエさんはどうしようもない哀切と罪悪感を握りしめるしかできないみたいだった。
 咽びながら、許しを請うように謝り続ける。

「ごめんなさい……神様。私達かつての人間は、本当に愚かでした……!!」
「レリエさん……」
「無限なんてあるはずがないのに、目先の欲に走って……! そのひずみを、歪みをすべて生み出されただけの命に差し向けた! 神様も、ソウマくんも、私達のような愚かな人類がいなければこんな、こんな……!!」

 ……僕もかー。まあ僕もだよね、同じ名前をした計画の詳細を聞くにさ。
 数万年、エネルギーを奪われてじわじわ弱り殺された神と数万年、エネルギーを奪うために眠らされ続けた僕と。どちらも古代文明人の都合によって生み出されて数万年という時に翻弄されたのは一緒と言えるかもしれないね。

 でも、僕に関して言えばそんなに気にしないでほしかったりするよー。
 彼女の傍に跪いて、その身体を優しく抱きしめる。罪に震えるレリエさんに、僕は語りかけた。
 
「レリエさん、僕はそれでも生まれてきてよかったって今、思えてるよー?」
「…………」
「あの神は知らないけど、僕については気にしないでよ。あなた達がいなかったら生まれなかった以上、これまでがどうであれ僕はただ、ありがとうってだけなんだからさ」

 そもそも古代文明がなかったら、僕という命は今ここにいたかどうか。生まれていたかさえ怪しい。
 それを思うと、あんまり卑下されるのもちょっともんにょりっていうか……僕を思うならそれこそ気にしないで欲しいかなーって思うからねー。
 
「そうだよ、そこはソウくんの言う通りだよレリエさん」
「あ、レイア」
「古代文明の為したこと、その功罪……論ずるには今を生きる私達にはあまりにも情報が足りないけれど。少なくともソウくんを産んでくれたことについて、私はそれだけでかの文明を肯定できる」

 慰める僕の前に、他の冒険者達と一緒に塔内探検に出向いていたレイアがやって来た。見れば他の冒険者達も戻ってきてるから、一旦落ち着こうみたいな空気になったのかもねー。
 まあ、ここに至るまでいろいろありまくったからここいらで一度地上に戻り、改めて地下世界調査チームを組むってのは必要だと思うし。

 レリエさんに落ち着いてもらうためにも、ここはホームに戻るのがいいかも。
 それを考えるとちょうどいいタイミングでのフォローだよレイア。グッジョブ!
 
「……そう。そう、ね。はるかな過去を、その善悪さえ含めて、後世に委ねる。それこそがあの時代を生きた、私の使命なのかもしれません」
「加えてあなたなりの新しい生き方を、できるだけ納得の行く形で過ごすこともね」
「そうだよレリエさん。誰にだって、幸せを求める理由と権利があるんだからさ」

 二人がかりでの言葉に、少しは元気を取り戻してくれたみたいだ。レリエさんは軽く微笑みを覗かせて、涙に濡れた顔をハンカチで拭った。

 ふー……焦ったよー。美女はやっぱり笑顔が一番、だしねー。
 塔のエネルギーチャージなんかよりもよっぽど重要なミッションを成し遂げた達成感がある。レイアもどこか、ホッとしたように笑っている。

 そんなレイアが唐突に、大きな声で僕に呼びかけたのはその時だった。
 
「…………さて! じゃあソウくん、そろそろ本題に入ろうか!」
「……えっ。本題?」
「うん! ここまでずーっとぼかし続けてきた、ソウくんに残された秘密のことだよ!」

 今このタイミングでなんか言い出した! いやまあ、たしかにずいぶん待たせるなーって感じだったけどさ。
 僕に残された秘密──主に塔のエネルギーを充填できたこととか、ナントカ計画の真の目的とか、かな。そのへんについてはレイア自身、さっきなんらかの確証を得たみたいだったけど。

 いわゆる答え合わせ、今から言っちゃうのかなー?