なんかいろいろ明らかになっていく僕の秘密ー。ええと神の力を横取りする能力があるらしいけど、ぜーんぜん自覚はないよー?
 首を傾げる僕だけど、周囲がこちらに向ける視線は概ね同情とか憐憫、あと畏怖とかが混じっている。

 気まずいよー。そんな風に可哀想なものを見る目を向けられても、別に実感がないんだからどうしようもないよー。
 でも僕を慮ってか新世界旅団の面々、美女の中の美女達が寄り添って頭を撫でたり抱きしめたりしてくれるからこれはこれで、むふー!
 最高だよー。素敵な感触、匂いとか手触りに内心大喜びしているのを隠していると、レイアはそんな僕をじーっと見つめたまま話を続けた。

「…………棺には神の無限エネルギーに接続して、それを少しずつ、本当にちょっぴりずつですが吸い取り、塔の膜の上に作られるだろう新天地に流し込むための管がありました」
「流し込む管、だと?」
「はい。海の水を少しずつポンプで汲み取り、砂漠に海そのものを移転させよう、みたいなイメージですね」

 訝しむベルアニーさんに例えてみせた彼女だけど、いまいちピンとこないっていうかー……
 海そのものを移転させるって途方もなさすぎるよー? 無理でしょそんなのーって思いもするんだけど、途方もないから数万年とかかったと言うと微妙に説得力があるから困るよねー。

 話を聞いていたモニカ教授が、愕然とレイアを見た。血の気が引いたような血色で、何か衝撃的な、恐ろしい事実に気づいたような顔をしている。
 なんだろ? 見上げる彼女はそのままレイアに問を投げた。

「その例えで言えば、ポンプにあたるのがその赤子……! 何の罪もない幼子を改造した上で仮死状態にして、半永久的に神を弱らせるための装置に仕立て上げたのか!?」
「……うん。そうだよ教授。その計画は何も知らない赤子を神殺しの贄にして数万年使い潰す、悪魔のようなものだったんだ」
「なんてことを考えるんだ……」
「人間のやることじゃねえ……」

 カインさんやレオンくんさえ呻く、"軍荼利・葬魔計画"の真髄。赤ん坊に神殺しの機能を埋め込んで、冷凍睡眠させて数万年利用し続けるという恐ろしい内容に、誰もが絶句して二の句を告げない様子だ。

 正直、人の心がないよねーそれ考えた科学者の人。
 ていうか女の人らしいけど、もしかしてその人自身が産んだ赤ん坊を利用したりしたのかな? 計画の名前もだけど、その人の名前もグンダリだし。
 だとしたらその人は僕にとって母親と言えるかもなんだけど、言いたくないかもなんだけどー。

 地下87階。上階と変わらない赤茶けた土塊の壁と床が広がる中を、モンスターを適宜感知しながらも進む。
 出てくるモンスターを概ね僕とレイアで仕留めながらも、合間合間に明かされていく、僕のルーツ。
 
「目論見は──おそらく成功しました。ポンプ役だった赤子が役割を終えて今、成長した姿をここに見せているのがその証拠とも言えましょう。残されていた葬魔計画の資料には、神の滅びをもって神殺しの赤子は解き放たれる、ともありました」
「ソウマくんが今ここにいることが、神殺しが果たされたことの証明なのかもしれないと。そういうことなのね……」
「しかし、無限エネルギーを枯渇させて殺すって矛盾ではござらんか? 枯渇しないからこその無限でござろう」

 ポンプこと僕が今ここにいる、それそのものが計画が成功に終わった証明なんだとレイアは見ているねー。
 たしかに、今の話を聞くにその可能性は大きい。神を殺すことでその赤ん坊が解放されるって計画なら、逆に言えばその赤ん坊がこうしてすくすく育っている時点で古代文明の神も滅んでいるはずだしね。

 他方でサクラさんが、そもそも無限エネルギーとか言ってるのにそれを殺せたりするのー? と疑問を呈している。
 うん、まあね……そこは気になってたよー。無限なのに殺せるんだ? みたいな。
 彼女にもレイアは頷いて答える。

「無限エネルギーと言ってもあくまで古代文明の尺度から見て無限に近かっただけで、実際には数万年もの間吸い取られ続けては、さすがに枯渇したのだと思われます。まあ、それを確認するためにも今、地底世界に向かってるんだけどね」
「数万年、その神はエネルギーを奪い取られ続けたんでござるか……そして同時に、その赤子は数万年もの間、モノ扱いされてきた、と……」
「覚えがないよー……」
「赤ん坊で、しかも冷凍睡眠中のことだったろうからねえ……」
 
 ひたすら憐れまれてるけど、ぜんぜん覚えがないから反応に困るよー。
 とはいえたしかに悲惨と言えば悲惨な境遇だとは自分でも思うし……どういう態度でいれば良いのかわかんないし、とりあえず笑顔を浮かべとこうかなー。