「まずはモンスターの正体から話すよ。ソウくんの正体とも割と、密接に絡んでくる話だからね」
「えっ……それって、どういう? もしかして僕もモンスターの一種でしたとか、頼むからそうだとしても嘘をついてほしいんだけどー……」

 僕の正体と、あとモンスターの謎。そのへんを歩きながら語り始めるレイア。
 周辺を警戒しながら進む僕らも、聞き耳を立てて彼女の言葉を待ち望んでいる。

 地下86階から88階までは、実のところそんなに距離があるわけでもない。今回使用したショートカットの出入り口が87階へと下りる道のすぐそばにあるし、87階はほぼ一本道で迷うこともなく進めるからねー。
 そして地下88階に至っては……これは辿り着いてからで良いかな。いろいろ驚くべき構造をしてるのだ。それはその時の話だね。

 ともあれレイアの話だけど、前置きにやけに不穏なことを聞かされる。
 僕とモンスターのルーツに関連性があるってなんだよー。まさかと思うけど、実は僕もモンスターでしたとかやめてよー?
 
「ソウくんは人間だよ、間違いなくねー。ただ……」
「た、ただ?」
「……そうだね。言うなれば君は、古代文明人の"本当の意味での最後の希望の光"。そして"最期に遺してしまった最悪の罪の象徴"ってことになるかな」
「えぇ……?」

 希望はともかく最悪の罪はひどいよー! っていうかマジで意味わかんないしー。
 僕の存在そのものがなんか、古代文明にとって意味ありげな感じみたいだけど……なんかイヤーな気分になるねー。

 思わずうへー! って苦い食べ物を口にした時みたいに渋い顔をすると、レイアはフフッと笑って僕の頭をポンポンと叩いた。
 まるで慰めるようにしてから、続けて明るめの声色で語る。
 
「ま、とりあえずモンスターについてから聞いてよ。私がなぜ、さっきあの生物群を指して"天使"と呼んだのかをね」
「天使……古代文明を滅ぼした神が生み出した、手駒の総称だったよね、たしか?」

 一週間前の話を思い返しつつも確認する。
 たしか……古代文明を滅ぼした人造生物、神と呼ばれた化物が暴走した際、生み出した手駒とかなんとかかんとか言ってた気がするー。

 それが実はモンスターのことを指していたって言うんなら、またなんともあべこべというか、すごい末路ですねって感じ。
 天使とモンスターって正反対に近い存在だと思うし。まあ、そもそもただの手作り化物に神なんて名前をつけた時点でどうにも、名付けた古代文明の趣味があんまりよろしくなかった印象は受けるけどもねー。
 
「そう。つまりはモンスターは元々神が生み出したモノ達なんだ。無限のエネルギーによって作られた有限生命体。何かを食らうことも生み出すこともなく、ただ生命を殺すだけの殺戮兵器。ヒトに作られたモノが自力で創り上げた、極めて不完全ながら"新たなるヒト"の姿とも言えるかもしれないね」
「それにしては我々とはずいぶん異なるな。神とやらの美的感覚は、どうにもズレたものらしい」

 ベルアニーさんが呆れた調子で嗤う。たしかに、ただ殺すしかしないような化物ジュニア達を天使だの、新たなるヒトだの言うのは良いけど……
 デザイン的なところも含めて、どうにもそのあり方が今いる僕らとはかけ離れてるからなあ。なんとも言えないよ。
 
「本来、モンスター達はこの世にはすでにないはずだった。古代文明がすでに滅んで、残った人類がはるか天空に新たに作られた新天地へと移った以上……仮に数万年の時を経て発生していたとしても、それは地下世界のみでの話のはずだったの。神が塔に侵入できない以上、子飼いの天使達も上に上がれるわけがなかったからね」
「……んん? それにしては何故か、大迷宮やら世界各地の迷宮に発生しているでござるな。モンスター、普通に冒険者達の敵でござるよ?」
「うん。そこなんだよジンダイさん。実はここで関係していくのが誰を隠そう、ソウくんなんだ」

 歩きながら僕に向く、みんなの視線。
 いつもなら注目浴びちゃったえへへー! ってなるところだけど、話題が話題だけにむしろ不安だよー。

 なんで僕? 僕なんかしちゃった? 特に心当たりないけどー。
 困惑しきりの僕に、レイアもまた視線を向けて──
 
「ソウくん──いいえ。ソウマ・グンダリが生まれたきっかけである、古代文明人によるラスト・プロジェクト"軍荼利・葬魔計画"。それによっておそらく神は滅び、そして天使達はモンスターとして迷宮内に現れることになったの」

 ──そして、決定的な真実を言い放った。
 古代文明人のラスト・プロジェクト。なんかよくわかんないけど、それが僕のルーツの核心みたいだった。