──1週間後。

 大迷宮は地下86階に続くショートカット出入口前。煌めけよ光のレオンくん達やヤミくんヒカリちゃんと初めて会った日にも利用した、森の中の泉近くにある洞穴の前にて。
 僕ことソウマ・グンダリはじめ名だたる冒険者やその関係者のみなさんが勢揃いしていた。人数にして50人くらいいるかな、もっとか。
 すごい人数だよー。

「さて、と。3年ぶりのエウリデ大迷宮だね……もっともあの頃と違ってメンツは調査戦隊だけじゃないのが、面白くもあり悔しくもあり、かもだけど」

 僕の近くに立つ、絆の英雄レイア・アールバドが腕を組み、出入口を見据えてつぶやいた。遠い瞳はどこか今ではない、過去を思い返しているようにも見える。
 彼女にとっても僕にとっても、誰にとっても3年ぶりの本格攻略がこれから始まるんだ。どうしても、感傷めいた心地にはなるのかもしれない。

「地下88階層……私のような未熟者が出歩ける環境なのでしょうか、バーゼンハイム殿。今回の冒険だけは、なんとしても食らいついてでもみなさんに付いていきたいのですが」
「少なくとも80階層以降は環境的には地上と大差ない。ただしモンスターを除けばな」
「今回は事実上の非戦闘員がそれなりにいるけど、大船に乗ったつもりでいると良い。そちらのソウマやジンダイさんや俺達側の元調査戦隊メンバー等々、世界屈指のメンバーが勢揃いしているのだからな」
「ありがとうございます、バルディエートさん」

 うちの、新世界旅団の団長シアンさんがウェルドナーさんと話している。こないだ再会してからというもの、微妙に僕と距離を置いているおじさんだけど、さすがに無関係の僕の仲間に対しては紳士的に対応しているねー。
 カインさんもそっちにひっついて、新人で明らかに練度不足の身でありながらも迷宮深層に向かうことに不安げな団長を励ましている。

 普通なら中々、いきなり深層は地下88階層なんてありえない話だけど……今回ばかりは強いも弱いも立場の違いも関係なく、関係者がほぼ全員参加って形で冒険に臨む。
 何しろこれは歴史を変える冒険だからだ。レイアがはるか海の向こうから持ち帰ってきた、大迷宮攻略最後の鍵。古代文明人4人による開かずの扉突破を試みるための一大プロジェクトなんだから。

 そしてレイアの見立てではおそらく、その扉を突破した時点で古代文明のあった土地──すなわち地下に広がる本来の大地が見えてくるだろうってことだよ。
 そんなだからシアンさんはじめ、深層に行けるような実力はないけど冒険についていきたいって人が結構いるんだよー。
 たとえばそう、リューゼリア以外の戦慄の群狼の面々とかねー。

「ダハハハハァッ!! まさかエウリデに来て間ァ無しにこんなことになるたぁな! おうてめぇら、今日は冒険者の歴史が変わる日で、ここにいるオレ様達がその証人だァ!!」
「うおおおおおお姉御サイコオオオオオオ!!」
「いよっ、戦慄の冒険令嬢!」
「俺達が冒険者の歴史に名を残すンすね!?」
「おうともよ! 数万年の謎を解き明かし、そして実際に古代文明を発見するのさ……こいつぁまたとないチャンスだぜ! 腹ァ括って取りかかれよォ!!」

 雄叫びをあげるリューゼに、部下達も呼応して吠える。士気の高さはさすがにピカ一だ、さすがはカミナソールのクーデターを成さしめた立役者達なだけはある。
 彼らもまた冒険者なら、永年の謎であり冒険者の夢と野望である大迷宮の謎は解き明かしたくてたまらない性質なんだろう。だからこそこの機を逃すまいと全員参加、一歩だって退くものがという気構えでことに臨むつもりみたいだった。

 一方でそんなに迷宮そのものには興味がないっていうか、安全第一な人達もいる。立場柄当たり前なんだけどね、煌めけよ光の面々だ。
 自分達の実力を冷静に判断しているのは素晴らしいことだ。本来ならば不参加ってことにしときたかったんだろうけど、そこは彼らなりに別口の、冒険に同行するだけの理由があった。

「ぴぇぇぇぇ……! な、なんで私達までぇぇぇぇぇぇ」
「しゃーねーだろマナ、ヤミとヒカリは俺らのパーティメンバーなんだから」
「さすがに双子だけ英雄様方に引き渡してはい、私達はお留守番ーなんてのも冒険者としては、ねー」
「そ、それはそうでしゅけどぉぉぉ……ぐしゅぐしゅぅぅぅ」

 ぐずるマナちゃんをどうどうとなだめるレオンくんとノノさん。その口振りからは、自分達が仲間として引き取った双子を案じ、せめて近くにいてあげようって心が見て取れる。
 そう、彼らは今回の冒険に必要不可欠なファクターである双子、ヤミくんとヒカリちゃんの傍にいるために参加するんだ。危険を承知の上で、それでも仲間として見送るだけではいられないって思ったんだね。
 
 勇気ある決断だよ。身の程知らずという人もいるかもだけど、僕はあくまで仲間に寄り添おうとするその姿勢を尊重するし敬意を抱く。
 当の双子達も、そんな彼らに心からの信頼と感謝を抱いているみたいだ。安心しきった笑顔で、彼らのそばで笑い合っている。
 
 彼ら含めて非戦闘員達には指一本だって危険に触れさせないようにしないとね。
 僕は改めてそう思ったよー。