遥かな過去から未来、すなわち現在の僕らへ贈られていたプレゼント。少なくないだろう古代文明人達が、自分達の行く末よりもなお、未来へと遺産を遺すことを優先することで手に入った、情報資料室。
壮絶な覚悟とともに為されたんだろうその事業に、誰よりもまずレリエさんが反応した。凪いだ、静かな瞳と表情で、どこか悼むようにつぶやく。
「…………コールドスリープとは、逆の発想ね」
「レリエさん?」
「意味がなくとも価値はあるはずだと眠った私達と、価値がなかったとしても意味はあったはずだと眠らなかったその人達。ともに意識したのは遥かな未来、だというのにアプローチが決定的に異なっていた結果、私達は私達自身を遺し、彼らはそれまでに古代文明が積み重ねたものを、すべてとは言えないだろうけどある程度遺した」
意味と、価値。似て非なるものをそれぞれ、おそらくは滅亡迫る状況の中で追求して選択したレリエさん達と資料室の主達。
その結果前者は人が残り、命が遺り。後者は情報が残り、過去が遺った。どちらも等しく、偉大すぎるほどに偉大な業績だよー。
天を見上げて、古代文明からの生き残りたる彼女はさらに続けた。
もしかしたら同胞として、生きてこの時代で巡り合うかもしれなかった彼らを想い、静かに涙を一粒流す。
「一体どちらが正しかったか、それは分からないにしても……その人達は生き抜いたのね。自分達の時間の中で、自分達の力を尽くして。限りある生を、意味を残すことで輝かせようとした」
「そうして遥かな時を経て、偶然にもその玄室に私がたどり着けたんだ。いや苦労したよ、地下56階層、隠し扉に気付けなかったら一生たどりつけなかったね」
「す、すごい偶然……」
「悪運だけはすごいからさ、私! 調査戦隊が解散して直後、あんな発見だってするんだから筋金入りだよねー」
しんみりしすぎるのもどうかと思ったのか、レイアは努めて明るく笑った。レリエさんの感傷も分かるけれど、今はとりあえず説明させてほしいなーって感じかな。
実際、そんな形で保管されていた部屋を偶然、よりによって調査戦隊が解散したことで海を渡ったレイアが見つけたってのは運命的なものを感じざるを得ないよ。
まあ、そこまで言うと調査戦隊解散もまるで既定路線みたいになってしまいそうだからそれは違うけど。
アレは僕のせいだ。僕が引き金を引いた、僕の罪で僕の責任だ。だから、運命のせいにしちゃいけないよねー。
改めて自分に言い聞かせつつ、レイアの語る話に耳を傾ける。
「で、その資料室が見つかった国の政府と共同で研究を行ってきたんだよ、この3年。そして一つの結論が得られたのが、大体半年前になる」
「一つの、結論?」
「それこそが古代文明の中核、話の結論だよ。順を追って説明するね、ソウくん」
資料室が見つかった土地の政府とともに、古代文明の調査を行っていたらしいレイアの得た真実……結論とは、一体。
好奇心からついつい逸り気味になってしまう僕をやんわりと宥めながら、彼女は談話室の壁にもたれかかって一同を見回した。
誰もが固唾を飲んで見守っている、耳を澄ましているのを確認して、軽くふう、と息を吐く。
そしてレイアは、古代文明について語りだした。そもそもそれは何なのか、どういった姿だったのかというはじまりの部分から、話し始めたんだ。
「時間にして約4万年前。今では古代文明、一部ではメルトルーデシア神聖キングダムと呼ばれている文明が栄えていた世界があった。まあ、実際はそんな名前の国とか土地は存在してなくて……それどころか単一国家でさえなかったみたい」
「え────ないの!? メルトルーデシア神聖キングダム!?」
「えっ……ソウくん?」
いきなり話に水を差す形になって悪いけど、僕は盛大に叫んだ。
嘘でしょ、そもそも存在すらないの!? メルトルーデシア神聖キングダムって、架空の王国なのー!?
今まで生きてきて一番の衝撃だ。僕はてっきり、オカルト雑誌で書いてあったように古代文明はメルトルーデシア神聖キングダムという単一国家による超巨大国家が文明を築いていたとばかり思ってたんだけどー!?
「そ、そんな……あ、あんなにオカルト雑誌で連呼してたのに、メルトルーデシア、メルトルーデシアって! 嘘でしょそんな、信じてたのに!」
「信じてたの!? オカルト雑誌好きなんだ!?」
「ぼ……僕のロマン! 僕の夢が崩れたよー!!」
思わず椅子から崩れ落ちる。目眩がするよー……周囲の唖然とした空気も構わず僕は、受け入れがたい現実に咽び泣く。
まさか真実を語るって言ったその口から開口一番、僕の夢とかがぶっ壊されるとは思ってなかったよー!
壮絶な覚悟とともに為されたんだろうその事業に、誰よりもまずレリエさんが反応した。凪いだ、静かな瞳と表情で、どこか悼むようにつぶやく。
「…………コールドスリープとは、逆の発想ね」
「レリエさん?」
「意味がなくとも価値はあるはずだと眠った私達と、価値がなかったとしても意味はあったはずだと眠らなかったその人達。ともに意識したのは遥かな未来、だというのにアプローチが決定的に異なっていた結果、私達は私達自身を遺し、彼らはそれまでに古代文明が積み重ねたものを、すべてとは言えないだろうけどある程度遺した」
意味と、価値。似て非なるものをそれぞれ、おそらくは滅亡迫る状況の中で追求して選択したレリエさん達と資料室の主達。
その結果前者は人が残り、命が遺り。後者は情報が残り、過去が遺った。どちらも等しく、偉大すぎるほどに偉大な業績だよー。
天を見上げて、古代文明からの生き残りたる彼女はさらに続けた。
もしかしたら同胞として、生きてこの時代で巡り合うかもしれなかった彼らを想い、静かに涙を一粒流す。
「一体どちらが正しかったか、それは分からないにしても……その人達は生き抜いたのね。自分達の時間の中で、自分達の力を尽くして。限りある生を、意味を残すことで輝かせようとした」
「そうして遥かな時を経て、偶然にもその玄室に私がたどり着けたんだ。いや苦労したよ、地下56階層、隠し扉に気付けなかったら一生たどりつけなかったね」
「す、すごい偶然……」
「悪運だけはすごいからさ、私! 調査戦隊が解散して直後、あんな発見だってするんだから筋金入りだよねー」
しんみりしすぎるのもどうかと思ったのか、レイアは努めて明るく笑った。レリエさんの感傷も分かるけれど、今はとりあえず説明させてほしいなーって感じかな。
実際、そんな形で保管されていた部屋を偶然、よりによって調査戦隊が解散したことで海を渡ったレイアが見つけたってのは運命的なものを感じざるを得ないよ。
まあ、そこまで言うと調査戦隊解散もまるで既定路線みたいになってしまいそうだからそれは違うけど。
アレは僕のせいだ。僕が引き金を引いた、僕の罪で僕の責任だ。だから、運命のせいにしちゃいけないよねー。
改めて自分に言い聞かせつつ、レイアの語る話に耳を傾ける。
「で、その資料室が見つかった国の政府と共同で研究を行ってきたんだよ、この3年。そして一つの結論が得られたのが、大体半年前になる」
「一つの、結論?」
「それこそが古代文明の中核、話の結論だよ。順を追って説明するね、ソウくん」
資料室が見つかった土地の政府とともに、古代文明の調査を行っていたらしいレイアの得た真実……結論とは、一体。
好奇心からついつい逸り気味になってしまう僕をやんわりと宥めながら、彼女は談話室の壁にもたれかかって一同を見回した。
誰もが固唾を飲んで見守っている、耳を澄ましているのを確認して、軽くふう、と息を吐く。
そしてレイアは、古代文明について語りだした。そもそもそれは何なのか、どういった姿だったのかというはじまりの部分から、話し始めたんだ。
「時間にして約4万年前。今では古代文明、一部ではメルトルーデシア神聖キングダムと呼ばれている文明が栄えていた世界があった。まあ、実際はそんな名前の国とか土地は存在してなくて……それどころか単一国家でさえなかったみたい」
「え────ないの!? メルトルーデシア神聖キングダム!?」
「えっ……ソウくん?」
いきなり話に水を差す形になって悪いけど、僕は盛大に叫んだ。
嘘でしょ、そもそも存在すらないの!? メルトルーデシア神聖キングダムって、架空の王国なのー!?
今まで生きてきて一番の衝撃だ。僕はてっきり、オカルト雑誌で書いてあったように古代文明はメルトルーデシア神聖キングダムという単一国家による超巨大国家が文明を築いていたとばかり思ってたんだけどー!?
「そ、そんな……あ、あんなにオカルト雑誌で連呼してたのに、メルトルーデシア、メルトルーデシアって! 嘘でしょそんな、信じてたのに!」
「信じてたの!? オカルト雑誌好きなんだ!?」
「ぼ……僕のロマン! 僕の夢が崩れたよー!!」
思わず椅子から崩れ落ちる。目眩がするよー……周囲の唖然とした空気も構わず僕は、受け入れがたい現実に咽び泣く。
まさか真実を語るって言ったその口から開口一番、僕の夢とかがぶっ壊されるとは思ってなかったよー!