突然現れたレジェンダリーセブンが一角、ウェルドナーさんとその部下達によって次々、王城の者達が捕縛されていく。
 衛兵も、貴族も王族もお構いなしだよー……これってまさか、革命とかクーデターとかってやつ? 思ってたよりも過剰な動きに、思わず僕もビビっちゃうよー。

 と、そんなウェルドナーさんのすぐ近くにまた一人、知り合いが現れた。巨大な槍を振るって貴族達を軽く吹き飛ばしていく、まるで縦横無尽の嵐。
 先日会ったカイン・ロンディ・バルディエートさんその人が、王城制圧がされていく中で再び姿を見せていたんだ。

「やあ、我が友。数日ぶりだね?」
「カインさんも……」
「結局来たの? 二人とも。住民の避難はどうなったの?」
「万事恙無く。ベルアニーさん率いる冒険者ギルドともうまく連携できましたよ」

 レイアが呆れたような素振りで二人に問いを投げ、そしてウェルドナーさんとカインさんはそれにしれっと答えを返す。至って自然なやり取りで、そこにさしたる感情はない。
 本当に、レイアさえ想定してない動きをこの2人がしていたならば彼女はもっと怒っているだろう。

 つまりはこれ、少なくとも流れとしてはそこまで予定を外しているわけでもないってことになるんじゃないかな。
 最初からこの3人は、エウリデに戻るとなった時点でこの現状に近い絵を描いていたんだ……エウリデ王族および貴族を確保して、事実上国政を掌握する絵を。
 
「ぐううっ離せっ! 愚か者め、余を誰だと心得ている!?」
「お山の大将。そして不倶戴天の敵……ってところかね? 少なくともアンタを敬うなんぞする気は一つもない」
「右に同じ。敬われるには徳ってものが、あまりに足りてなかったよあなた方は」

 ウェルドナーさんの鞭に拘束されたままそれから逃れようと身を捩らせ、エウリデ王が叫ぶ。己の権威権勢の一切通じない武力の前になすすべのない姿は、いっそ哀しみさえ感じさせるものだよー。
 そんな彼に、カインさんも相応に冷たい。貴族であるはずの彼をしてさえ、今のエウリデはもはや忠義を捧げるに値しないってことか。

「…………どうにも複雑ですね、貴族としては」
「騎士としても複雑だ。主君だった方の、終わりをこうして見ることになるとは」

 一方でシアンさんやシミラ卿の表情はすごく複雑そうだよー。そりゃそうか、自分達や自分達の家が王と仰いでいた男が今、思い切り追い詰められてるんだもんね。
 でも止めたりはしないあたり、二人も納得というか区切りはつけてるんだろう。冒険者として、あるいは処刑寸前まで貶められた元騎士団長として……彼女らにとってもエウリデ王は、許せるラインを超えたって考えても良いのかも知れない。
 
 レイアが今や囚われとなった王を見下ろし、静かに告げた。
 
「ラストシーン・ギールティ・エウリデ……あなたには今後、民に主権を譲るための法整備を整えていってもらいます。長い年月をかけてゆっくりと、民達に権利意識を浸透させていくのです。広く国民が参加できる議会もじき、作ってください」
「……バカな、民主主義だと!? ふざけるな、愚民どもになぜこの国を、余のエウリデをくれてやらねばならん!? やつらはあくまで余の所有物なのだぞッ!」

 まさかの宣言に叫ぶエウリデ王の、気持ちを今回ばかりは僕も理解するよ。シアンさんもサクラさんもシミラ卿も、リューゼさえも目を丸くしてレイアを見ている。もちろん僕もだ。

 民主主義──王族貴族だけでなく、あまねく一般市民まで含めたあらゆる民に平等に政治参画権を与える国制度、だったかな。
 たしかそれこそリューゼがクーデターに参加したカミナソールが今や民主制国家として動き出しているはずだよー。エウリデもあの国同様、王国民すべてに政治に参加するチャンスを与える国にさせようって言うの?

「あなたが名君なればまだしも、愚にもつかない無能であればこそです。民主主義にも問題はありましょうが、少なくともあなたやあなたの子孫に揃ってひれ伏すよりははるかにマシだと信じます」
「あんた曰くの愚民よりも愚かなんだよ、あんたらは。認めるんだな」
「…………バカなァァァァァァッ!?」

 断末魔じみた叫びも、こうなると誰一人としてまともに相手するものはいない。
 ラストシーン・ギールティ・エウリデ。その名はおそらく歴史に残るだろうね。連合王国だったエウリデの、主権を国民に譲渡する動きを示した王として。

 あるいはエウリデ王国における最後の王としてさえ、語られるようになるかも知れない。
 それが名君として語られるのか、あるいは暴君としてか。そこは知らないし後世の歴史家次第なんだろうけど……今ここにいる僕に言えそうなことはたった一つ。

 今日、この場、この時において。
 エウリデ連合王国が決定的な転機を迎えたのだろうということだけだよー。