「ここが王城でござるか。無駄にでかいでござるなー」

 馬車が走ること30分くらい。
 どんどんと大きくなってくる王城を、馬車の窓から眺めてサクラさんはつぶやいた。感心している風だけど、声色は割と嗤っているというか、呆れている感じだよー。

 美しく巨大で荘厳な城。遠目に見ても壁から柱から何から何までに複雑で精巧な装飾が施されているのは、僕の目からしても見事なもんだと思う。
 思うんだけど……そこに居座ってるのが身も心も無駄に肥えた貴族共じゃあ、ねえ。豚に真珠、猫に小判。もったいないにもほどがあるよねー。

 まさしく贅沢の極みみたいな王城の門をくぐって馬車はすぐに止まった。中に広がるのはこれまた広くて大きな庭園とその奥に控える城本体。
 とりもなおさず馬車を降りる僕らを、すぐさま城の兵士達が緩やかに囲んで警戒していく。

 騎士じゃない、平民上がりの連中だねー。貴族のボンボンよりずっと世間を知ってるからか、僕らを見て震え上がってる人も結構いるよー。
 冒険者相手に、仕事でも戦わなきゃいけないかもしれないなんてとんでもない話だもんね。それでも仕事だからやらなきゃいけない時はやるしかないのが大変だねって感じだよー。

 ま、僕らも弱いものいじめをする気は毛頭ないんだ。いざぶつかるかという時にはちゃんと威圧で意識を刈り取るに留めるよー。
 僕らの敵は王であり大臣であり貴族であり騎士だ。もちろんまともなのは除くよ……と、考えているところで大臣が馬車から降り、相変わらず馬鹿にしきった態度で僕らへと指示してくる。
 
「これより謁見の間へ向かう……武装は王城に入る前に置いていけ、下等生物共」
「ま、当然だよねー」
「拙者らに暴れられたら困るでござろうしなー」
「……ふん。スラムのゴミに野蛮のサルが」

 吐き捨てる大臣は後で泣かすにしても、武器を置いていけってのは当然の話だねー。

 貴人──こいつらをそう呼ぶこと自体がこの言葉に対して失礼なんだけど──を前に武器を持ったまま、なんて普通に考えて赦されるわけないしねー。
 冒険者の身としてはそんな普通知らないよ、がたがた言ってると殺すよーって感じだけど、今回は一応でも使者として来てるからね、ある程度は弁えなきゃ。

 言われたとおりすんなりと武装を解除する。僕は杭打ちくん、サクラさんはカタナ、シアンさんはロングソード。
 後者二人の得物は普通に受け取った兵士達だけど、僕の杭打ちくんについてはとてもじゃないけど持てないみたいだ。地面においたそれを、兵士が10人がかりで踏ん張ってもびくともしてないよー。
 
「うおっ、重……!?」
「こ、これが例の"杭打ち"の! こんなもん人間が持てるわけが……」
「やはり化物……っ」

 兵士達が散々にぼやきつつ頑張るけど、もうあと20人はほしいかもー。
 ま、置いて行けって言ったのは大臣だし、僕は言われたとおりに置いていくわけだし。そこから先、この兵士さん達がどうしようと僕は知らないね。

 それに、ここからいよいよお山の大将の面を拝みに行くわけだしねー。
 近衛騎士を引き連れ、大臣が僕らを見下しながらも言う。
 
「ついてこい下民共。ありがたくも陛下が直接謁見してくださるのだ。無謀な反逆など考えずただ、偉大なる貴種の威風の前にひれ伏すが良い」
「へーへー、どーもどーもでござござ」
「おお怖。ははっ」
「…………野蛮なゴミどもめ!」

  何が偉大なる貴種だよ。所詮僕らもお前らも人の股ぐらからオギャーっと泣いてこぼれ落ちてきた、単なる人間に過ぎないだろうに。
 自分達を神か何かかと勘違いしている物言いは三年前も今も変わらず愚かで滑稽だ。サクラさんともども適当に笑い流せば、大臣はひどく不愉快げに僕らを中傷する。

 まったく。これが交渉っていう名目じゃなきゃとっくにこんな城、床と言わず壁と言わず何から何までぶち抜いてるよ。
 現在進行系で命拾いしているエウリデ王城──ただしそれももってあと一時間くらいじゃないかな──を歩く。庭園から城本体の内部へと。内装も贅沢に金だの銀だの使って煌めく城内は、兵士達ばかりだけでなく召使いだの貴族の連中だの、特権階級とその従者達が結構な数、いるねー。


 歩くことしばらくして、一際大きな扉が見えてきた。三年前にも何度か見たことがある、謁見の間の扉だねー。
 この中にこの国で一等、偉そうなやつがふんぞり返って僕らを待ち構えているんだ。ははは、どうなるかなー楽しみ。

 先に近衛騎士が入室する。"大臣閣下が冒険者どもをお連れしましたうんぬんかんぬんー"って聞こえてくるから、まあ形式張った報告でもしてるんだろう。
 宮仕えってのは大変だねー? さっさと入れば良いのにって馬鹿馬鹿しさを覚えながらも待っていると、ややしてから閉まっている扉の向こうから、男の声が聞こえてきた。
 
『────入るが良い』
「ははーっ!!」
「ははーだって。ハハッ」
「アホ丸出しでござるなあ」
「二人とも、さすがに少し静かにしていてちょうだい」
 
 それなりにカリスマを感じさせる、威圧的な声だ。それを受けて大臣が恭しく返事をするのが滑稽すぎてつい笑ったけど、さすがにこの場はまずいと団長からストップが入ってしまった。
 残念残念、と頭をかきつつ苦笑いしていると扉が開いた。近衛騎士達が開けたんだね。

 いよいよご対面ってわけか。大した期待も持てないまま、僕ら3人は大臣に連れられて謁見の間に入室した。