──そして一週間後。
僕はいよいよ差し迫った対エウリデ、対シミラ卿処刑のために集結した冒険者の一団の中にいた。
町を離れて外の平原、総勢300名もの冒険者達が集まり、隊列を成している。
普段であればこんな軍隊みたいな規律の良さ、死んでも協調しないアウトローたちばかりだけど今回だけは話が別だ。同胞が殺されるかもしれず、それを助けるためと言うなら何だってして見せる冒険者達の身内意識の強さが、異例の集団行動を実現させていたよー。
「よし……冒険者ギルド側は問題ない。新世界旅団、そちらはどうだ?」
冒険者達を率いるギルドの長、ベルアニーさんが一団を眺めつつ隣に並ぶシアン団長に尋ねた。
本来ならシアンさんだってあの一団に入って並んでいてもおかしくない立場なんだけどそこはそれ、率先してギルドと対等の存在として交渉をしてみせたがゆえにパーティーごと、ある種の特異な立ち位置に据わることができていた。
まあ、そもそも僕にサクラさんがいる時点で言い方は悪いかもだけど他所とは格が違うからねー。
いつもの帽子に外套、"杭打ち"スタイルのまま二人を見、集団を見る。あっ、煌めけよ光のみんなだ。ヤミくんが小さく手を振ってるよ、かわいー。僕も手を振っちゃおーっと。
呑気に手を振りあう僕に構わず、シアンさんが緊張を隠せない様子でギルド長に答えた。
「新世界旅団も問題はありません。いつでも行けます。あとは戦慄の群狼と、元調査戦隊メンバー達ですが……」
「バルディエートに加えてアールバドにバーゼンハイム。そしてやつらが率いているだろうパーティーの連中か」
ため息まじり、いかにも厄介者ばかりを想うように吐息をつくベルアニーさん。気持ちは分からなくもないよ、実際この局面においては厄介な要素でしかないからねー、3人とも。
こないだうちに来て、まさかまさかとレイアやウェルドナーさんの来訪を告げていたカインさんは結局、その日は伝えたいことだけ伝えて普通に帰っていった。
"いずれ近いうちにまた、会うことになる"とは彼の言だけどー……おそらくそのタイミングは間違いなく今日、エウリデ王城はシミラ卿を助け出す前後のタイミングなんだろうなって気はしてるよー。向こうが介入してくるとしたら間違いなく、その辺だろうしねー。
ただ、それはそれとしてどうやらギルドにもまったく連絡を入れてないみたいなのは気にかかるよー。
足並みを揃えようって気がないのは、何かしら思惑あってのことだろうけど一体なんなんだろう?
ベルアニーさんも首を傾げつつ、カインさんから直接話を聞いている僕に尋ねてきた。
「やつらは未だこちらに連絡の一つも寄越してきていないが……グンダリ、本当に3人はエウリデにいるんだな?」
「間違いないよー。ていうかカインさん本人が知らせに来てくれたんだ、信じないわけにもいかないよー」
「…………ではなぜ、こちらには連絡の一つも寄越さないのか」
苛立たしげに頭をかく。数日前にもレイア達については伝えてるんだけど、その時には平成を装いつつも喜色満面だったからたぶん、相当アテにしてたんだろうね彼女達のこと。
気持ちは分かるけど、いくら英雄ったってレイアも結局のところ冒険者なんだからねー。あんまり都合よく動いてくれると信じてるとこのとおり、予想が外れる羽目になるから注意すべきだってのはこの人も分かっているだろうに。
レイア・アールバド──大迷宮深層調査戦隊リーダー。絆の英雄。そんな肩書に夢を抱いているのは、たとえ百戦錬磨のギルド長であっても同じってことかー。
まあまあ、と彼を宥めつつ僕も考える。
こっちにカインさんまで派遣しておいて、それでも基本的にはコソコソ動いているその理由。
レイアの動機、それってなんだろう?
「たぶんだけど……そもそもそこまでガッツリ関わるつもりはしてないんじゃないかなぁ、あっちは」
「……なんだと? シミラ卿が処刑されるかもしれないというのにか」
「元々、別な目的のためにエウリデに来てるみたいだし。それってのが何かはいまいち分からないけど、ここまで戦力が集結してる僕らに追加で加わるよりはそっちを優先してもおかしくはないかも」
カインさんは言っていた。元々自分達は別の目的があってエウリデに戻ってきたのだけど、その矢先にシミラ卿の騒ぎが起きて泡を食ったって。
そこから考えるに、シミラ卿に興味がないわけではないとは思うけど……といって、冒険者ギルド+新世界旅団、おまけに戦慄の群狼まで足並みをそろえているこの状況にさらに追加で加わるのはさすがに戦力過剰だと僕から見ても思うわけだよー。
レイアもそう考えているとしたら、ひとまずことの趨勢を見守る形で待機する程度にしときたいんじゃないかなあ。
そして特に問題がなさそうなら自分達は、元々の目的のために動く、と。どうもそこに僕が絡んでそうなのは気になるところだけどねー。
「まったく無関係を決め込む気もないだろうけど。レイアはどこかのタイミングで、僕と接触したがってるみたいだし。たぶんエウリデ王城にまでは来ると思うよ」
推測、だけどレイアの性格が3年前と変わらないならそうなる 可能性は割と高いかもしれない。
僕の考えにベルアニーさんは難しげな顔をして少しだけ黙り込んで、それからやれやれとだけつぶやいて号令を発した。
エウリデ王城へと、進撃開始だ。
僕はいよいよ差し迫った対エウリデ、対シミラ卿処刑のために集結した冒険者の一団の中にいた。
町を離れて外の平原、総勢300名もの冒険者達が集まり、隊列を成している。
普段であればこんな軍隊みたいな規律の良さ、死んでも協調しないアウトローたちばかりだけど今回だけは話が別だ。同胞が殺されるかもしれず、それを助けるためと言うなら何だってして見せる冒険者達の身内意識の強さが、異例の集団行動を実現させていたよー。
「よし……冒険者ギルド側は問題ない。新世界旅団、そちらはどうだ?」
冒険者達を率いるギルドの長、ベルアニーさんが一団を眺めつつ隣に並ぶシアン団長に尋ねた。
本来ならシアンさんだってあの一団に入って並んでいてもおかしくない立場なんだけどそこはそれ、率先してギルドと対等の存在として交渉をしてみせたがゆえにパーティーごと、ある種の特異な立ち位置に据わることができていた。
まあ、そもそも僕にサクラさんがいる時点で言い方は悪いかもだけど他所とは格が違うからねー。
いつもの帽子に外套、"杭打ち"スタイルのまま二人を見、集団を見る。あっ、煌めけよ光のみんなだ。ヤミくんが小さく手を振ってるよ、かわいー。僕も手を振っちゃおーっと。
呑気に手を振りあう僕に構わず、シアンさんが緊張を隠せない様子でギルド長に答えた。
「新世界旅団も問題はありません。いつでも行けます。あとは戦慄の群狼と、元調査戦隊メンバー達ですが……」
「バルディエートに加えてアールバドにバーゼンハイム。そしてやつらが率いているだろうパーティーの連中か」
ため息まじり、いかにも厄介者ばかりを想うように吐息をつくベルアニーさん。気持ちは分からなくもないよ、実際この局面においては厄介な要素でしかないからねー、3人とも。
こないだうちに来て、まさかまさかとレイアやウェルドナーさんの来訪を告げていたカインさんは結局、その日は伝えたいことだけ伝えて普通に帰っていった。
"いずれ近いうちにまた、会うことになる"とは彼の言だけどー……おそらくそのタイミングは間違いなく今日、エウリデ王城はシミラ卿を助け出す前後のタイミングなんだろうなって気はしてるよー。向こうが介入してくるとしたら間違いなく、その辺だろうしねー。
ただ、それはそれとしてどうやらギルドにもまったく連絡を入れてないみたいなのは気にかかるよー。
足並みを揃えようって気がないのは、何かしら思惑あってのことだろうけど一体なんなんだろう?
ベルアニーさんも首を傾げつつ、カインさんから直接話を聞いている僕に尋ねてきた。
「やつらは未だこちらに連絡の一つも寄越してきていないが……グンダリ、本当に3人はエウリデにいるんだな?」
「間違いないよー。ていうかカインさん本人が知らせに来てくれたんだ、信じないわけにもいかないよー」
「…………ではなぜ、こちらには連絡の一つも寄越さないのか」
苛立たしげに頭をかく。数日前にもレイア達については伝えてるんだけど、その時には平成を装いつつも喜色満面だったからたぶん、相当アテにしてたんだろうね彼女達のこと。
気持ちは分かるけど、いくら英雄ったってレイアも結局のところ冒険者なんだからねー。あんまり都合よく動いてくれると信じてるとこのとおり、予想が外れる羽目になるから注意すべきだってのはこの人も分かっているだろうに。
レイア・アールバド──大迷宮深層調査戦隊リーダー。絆の英雄。そんな肩書に夢を抱いているのは、たとえ百戦錬磨のギルド長であっても同じってことかー。
まあまあ、と彼を宥めつつ僕も考える。
こっちにカインさんまで派遣しておいて、それでも基本的にはコソコソ動いているその理由。
レイアの動機、それってなんだろう?
「たぶんだけど……そもそもそこまでガッツリ関わるつもりはしてないんじゃないかなぁ、あっちは」
「……なんだと? シミラ卿が処刑されるかもしれないというのにか」
「元々、別な目的のためにエウリデに来てるみたいだし。それってのが何かはいまいち分からないけど、ここまで戦力が集結してる僕らに追加で加わるよりはそっちを優先してもおかしくはないかも」
カインさんは言っていた。元々自分達は別の目的があってエウリデに戻ってきたのだけど、その矢先にシミラ卿の騒ぎが起きて泡を食ったって。
そこから考えるに、シミラ卿に興味がないわけではないとは思うけど……といって、冒険者ギルド+新世界旅団、おまけに戦慄の群狼まで足並みをそろえているこの状況にさらに追加で加わるのはさすがに戦力過剰だと僕から見ても思うわけだよー。
レイアもそう考えているとしたら、ひとまずことの趨勢を見守る形で待機する程度にしときたいんじゃないかなあ。
そして特に問題がなさそうなら自分達は、元々の目的のために動く、と。どうもそこに僕が絡んでそうなのは気になるところだけどねー。
「まったく無関係を決め込む気もないだろうけど。レイアはどこかのタイミングで、僕と接触したがってるみたいだし。たぶんエウリデ王城にまでは来ると思うよ」
推測、だけどレイアの性格が3年前と変わらないならそうなる 可能性は割と高いかもしれない。
僕の考えにベルアニーさんは難しげな顔をして少しだけ黙り込んで、それからやれやれとだけつぶやいて号令を発した。
エウリデ王城へと、進撃開始だ。