翌日の朝、休みということで僕は冒険者としての活動を行うことにした。戦闘用の装束に身を包み、相棒の武器を携えて学校近くに借りてる宿を出たのだ。
真っ黒な上下の服を着て、その上に真っ黒な外套を目元まで隠すように纏う。おまけに真っ黒な帽子を目深に被って両手まで厚手のグローブで覆えば、あっという間に冒険者ソウマ・グンダリの完成だ。
そこに僕の背丈より大きな鋼鉄の塊、対モンスター用にカスタマイズした杭打機こと通称"杭打ちくん3号"を背負えばDランク冒険者"杭打ち"が出来上がりってわけだね。つまりは杭打機こそが僕の象徴ってことだ。
言うまでもないけど不審者の見た目をしているため、目立つことこの上ない。毎度ながら道行く人々の好奇の視線を独り占めな僕だ。
「おい……見ろよ、杭打ちだ」
「よくあんなデカい鉄の塊、軽々持ってるな……」
まあ、僕ってか僕の背中の鉄の塊こそが興味の対象なんだけどね。さすがにこんなもん武器にして振り回す変態は僕しかいないから、必然こうなるよ。
スラムにいた頃、たまたま土木工事用の杭を見つけたのがきっかけでなんやかんやあり、知り合いの技術者さんに兵器としての杭打機を開発してもらったわけなんだけど……冒険者としてずーっと使い続けているから、今さら普通の剣だの槍だの弓だのを使う気にもなれないってのが本音だ。
大体もう二つ名までつけられてるし、もはや僕のトレードマークそのものだからね。
杭打機こそが冒険者ソウマ・グンダリそのものなんだと思うことにして、半ば心中する心地でいる僕だった。
「……っと、着いたー」
歩くことしばらくして、冒険者ギルドに到着。冒険者としてのお仕事を、依頼という形で受け付けてくれる便利なところだ。
迷宮への冒険や特定モンスターの部位の調達、だけでなく近隣のモンスターの駆除とか、町に迷い込むモンスターの討伐とか。あと町中の清掃とかまでいろいろ依頼があるから結構楽しいんだ。
もっぱら僕は、モンスター退治の専門だけどねー。受付のカウンターまで行って、スタッフの人に話しかける。
「こんにちはー。迷宮関係の依頼、ありますかー?」
「おはよ、ソウマくん。今日もまあまああるわよ、いろいろね」
受付嬢のリリーさん。5年前に冒険者デビューを果たした頃からお世話になっている、半ば専属に近い感じになってくれてるスタッフさんだ。
桃色の髪がかわいらしい美人のお姉さんで、結構仲良くさせてもらっている。
ぶっちゃけ惚れてた時期もあったし今でもチャンスがあるなら全然いきたいとこだけど、さすがに僕ももう15歳だ。
お世話になっているスタッフさんとの関係性をぶち壊しかねない軽挙妄動は慎まざるを得ないんだよねー。そもそもこんな美人さんに、彼氏がいないはずもないんだし。
うん……
「ああああ僕が先に好きだったのにいいいい」
「何よ唐突に、またフラれたの? ちょっと、あなた学校に入ってこれで何回目?」
「10回目ですぅ……」
リリーさんにパートナーがいるかもってことで脳が破壊されかけていると、つい声に出てしまっていた。
僕のこの数ヶ月に亘る悲劇の数々を、仲が良いから当然知っている彼女が呆れたようにため息を漏らして僕を見る。いやたしかにフラれましたけど、今回のこれはまだ見ぬあなたのパートナーへのアレコレなんですー。
「なんだかソウマくん、思春期に入ってものすごく惚れっぽくなったのねえ。まあ、恋することが悪いこととは言わないけれど……あんまりあちこち女の子に目移りしてると、ちゃらんぽらんで軽薄な男の子だって思われちゃうわよ? 例のオーランドくんみたいに」
「実際に手を出してる彼と、そもそもチャンスすらない僕を一緒くたにしてほしくないですぅ……」
「まあ、実害がない分それはそうだけど……というか、チャンスなんて作るものよソウマくん? 待ってるだけで女の子が寄ってくるなんて、なかなかないわよそんなこと」
「知ってますぅ……」
正論が刺さるー……この手の話になると基本、僕には勝ち目なんてないから困るよー。
何もせず彼女ができるなんてあり得ない、それはよく分かる話だ。でも僕だって何か行動を起こそうと思うんだけど、その矢先に概ねオーランドくんが手を出してるシーンに出くわしてしまうのだ。なんだよこの間の悪さ!
はぁ、いらないことを口走っちゃったせいで朝から気分も下降気味だ。マントと帽子のお陰で表情は見えてないだろうから良かったけど、ぶっちゃけ半べそかいてるもん僕。
でも長い付き合いのリリーさんには雰囲気で気づかれちゃって、なんだか気まずそうにフォローを入れられてしまった。
「あー、ごめんねいろいろ言っちゃって。でも、言わせてもらえばもったいないことしてるなって思うのよ?」
「ぅ……もったいない、ですか?」
「ぶっちゃけ、冒険者"杭打ち"としてのソウマくんをもっと前面に押し出せば、あっという間にモテモテになれると私は思うのよ。ねえ、マントはともかく帽子は別に、被る必要ないんじゃない?」
思わぬ提案。帽子を外せばモテモテに? 呪われてるんだろうかこの帽子。
僕がこうして、顔すら他人に悟られないほど着込んでいるのはそれ相応の理由があってのことなんだけど、今の話を聞くとなんだか迷いが出てきた。帽子、少なくとも町中では外したほうがいいのかな? モテルのかな、そしたら。
「ソウマくん、幼気な顔立ちですごく可愛らしいし。でも杭打機なんてわけの分からないものを自在に操って暴れ倒すってギャップがあるんだから、そこに惹かれる子は多いわよ、きっと」
「ああああまさかのギャップ萌え狙いいいいい」
モテるっていうか意外と暴れるマスコットくん的なやつじゃないですかそれー!
もっとこう、真っ当にイケメン扱いされたい僕なのに!
真っ黒な上下の服を着て、その上に真っ黒な外套を目元まで隠すように纏う。おまけに真っ黒な帽子を目深に被って両手まで厚手のグローブで覆えば、あっという間に冒険者ソウマ・グンダリの完成だ。
そこに僕の背丈より大きな鋼鉄の塊、対モンスター用にカスタマイズした杭打機こと通称"杭打ちくん3号"を背負えばDランク冒険者"杭打ち"が出来上がりってわけだね。つまりは杭打機こそが僕の象徴ってことだ。
言うまでもないけど不審者の見た目をしているため、目立つことこの上ない。毎度ながら道行く人々の好奇の視線を独り占めな僕だ。
「おい……見ろよ、杭打ちだ」
「よくあんなデカい鉄の塊、軽々持ってるな……」
まあ、僕ってか僕の背中の鉄の塊こそが興味の対象なんだけどね。さすがにこんなもん武器にして振り回す変態は僕しかいないから、必然こうなるよ。
スラムにいた頃、たまたま土木工事用の杭を見つけたのがきっかけでなんやかんやあり、知り合いの技術者さんに兵器としての杭打機を開発してもらったわけなんだけど……冒険者としてずーっと使い続けているから、今さら普通の剣だの槍だの弓だのを使う気にもなれないってのが本音だ。
大体もう二つ名までつけられてるし、もはや僕のトレードマークそのものだからね。
杭打機こそが冒険者ソウマ・グンダリそのものなんだと思うことにして、半ば心中する心地でいる僕だった。
「……っと、着いたー」
歩くことしばらくして、冒険者ギルドに到着。冒険者としてのお仕事を、依頼という形で受け付けてくれる便利なところだ。
迷宮への冒険や特定モンスターの部位の調達、だけでなく近隣のモンスターの駆除とか、町に迷い込むモンスターの討伐とか。あと町中の清掃とかまでいろいろ依頼があるから結構楽しいんだ。
もっぱら僕は、モンスター退治の専門だけどねー。受付のカウンターまで行って、スタッフの人に話しかける。
「こんにちはー。迷宮関係の依頼、ありますかー?」
「おはよ、ソウマくん。今日もまあまああるわよ、いろいろね」
受付嬢のリリーさん。5年前に冒険者デビューを果たした頃からお世話になっている、半ば専属に近い感じになってくれてるスタッフさんだ。
桃色の髪がかわいらしい美人のお姉さんで、結構仲良くさせてもらっている。
ぶっちゃけ惚れてた時期もあったし今でもチャンスがあるなら全然いきたいとこだけど、さすがに僕ももう15歳だ。
お世話になっているスタッフさんとの関係性をぶち壊しかねない軽挙妄動は慎まざるを得ないんだよねー。そもそもこんな美人さんに、彼氏がいないはずもないんだし。
うん……
「ああああ僕が先に好きだったのにいいいい」
「何よ唐突に、またフラれたの? ちょっと、あなた学校に入ってこれで何回目?」
「10回目ですぅ……」
リリーさんにパートナーがいるかもってことで脳が破壊されかけていると、つい声に出てしまっていた。
僕のこの数ヶ月に亘る悲劇の数々を、仲が良いから当然知っている彼女が呆れたようにため息を漏らして僕を見る。いやたしかにフラれましたけど、今回のこれはまだ見ぬあなたのパートナーへのアレコレなんですー。
「なんだかソウマくん、思春期に入ってものすごく惚れっぽくなったのねえ。まあ、恋することが悪いこととは言わないけれど……あんまりあちこち女の子に目移りしてると、ちゃらんぽらんで軽薄な男の子だって思われちゃうわよ? 例のオーランドくんみたいに」
「実際に手を出してる彼と、そもそもチャンスすらない僕を一緒くたにしてほしくないですぅ……」
「まあ、実害がない分それはそうだけど……というか、チャンスなんて作るものよソウマくん? 待ってるだけで女の子が寄ってくるなんて、なかなかないわよそんなこと」
「知ってますぅ……」
正論が刺さるー……この手の話になると基本、僕には勝ち目なんてないから困るよー。
何もせず彼女ができるなんてあり得ない、それはよく分かる話だ。でも僕だって何か行動を起こそうと思うんだけど、その矢先に概ねオーランドくんが手を出してるシーンに出くわしてしまうのだ。なんだよこの間の悪さ!
はぁ、いらないことを口走っちゃったせいで朝から気分も下降気味だ。マントと帽子のお陰で表情は見えてないだろうから良かったけど、ぶっちゃけ半べそかいてるもん僕。
でも長い付き合いのリリーさんには雰囲気で気づかれちゃって、なんだか気まずそうにフォローを入れられてしまった。
「あー、ごめんねいろいろ言っちゃって。でも、言わせてもらえばもったいないことしてるなって思うのよ?」
「ぅ……もったいない、ですか?」
「ぶっちゃけ、冒険者"杭打ち"としてのソウマくんをもっと前面に押し出せば、あっという間にモテモテになれると私は思うのよ。ねえ、マントはともかく帽子は別に、被る必要ないんじゃない?」
思わぬ提案。帽子を外せばモテモテに? 呪われてるんだろうかこの帽子。
僕がこうして、顔すら他人に悟られないほど着込んでいるのはそれ相応の理由があってのことなんだけど、今の話を聞くとなんだか迷いが出てきた。帽子、少なくとも町中では外したほうがいいのかな? モテルのかな、そしたら。
「ソウマくん、幼気な顔立ちですごく可愛らしいし。でも杭打機なんてわけの分からないものを自在に操って暴れ倒すってギャップがあるんだから、そこに惹かれる子は多いわよ、きっと」
「ああああまさかのギャップ萌え狙いいいいい」
モテるっていうか意外と暴れるマスコットくん的なやつじゃないですかそれー!
もっとこう、真っ当にイケメン扱いされたい僕なのに!