冒険者ギルドに戦慄の群狼をも交えての話し合いもひとまずは一段落ついた。
 何はともあれ、まずはリューゼリアのパーティーがエウリデ入りしないことには話も進まないということで、ひとまずは彼女達の進捗次第ということになったのだ。

 その間、ギルドや新世界旅団は英気を養う形になる……来たるエウリデ王城襲撃に向け、心身を整えるわけだねー。
 概ね一週間もあればそれなりに備えもできるだろうし、最高のコンディションで臨めるとは思うよー。

「っし、そんじゃァ俺達ゃさっさと動くぜ……ミシェール!」
「あ、はい!」

 冒険者ギルドを出てすぐ、リューゼはミシェルさんを伴い一路、町の外へと向かうみたい。このまま本隊のいるトルア・クルアにまで行く気なんだろうか?
 今もう夕方で強行軍しても着くのは夜中か明け方かって話なんだけど、まあやるんだろうねこいつのことだから。
 
 何年経ってもこの破天荒さは変わらなさそうだよー。
 呆れ半分感心半分で新世界旅団一同、戦慄の冒険令嬢を眺める。彼女はやはり強気で不敵な笑みを浮かべて、僕やシアンさんに力強く笑いかけてきた。

「久しぶりだがいろいろ衰えてなさそうでひとまず安心ってところだぜ、杭打ち! シアンの小娘もまぁまぁって感じで、良いんじゃねぇのか? 新世界旅団もよォ!!」
「判断が遅いねー、ていうか今も団長を舐めてかかってる時点でダメダメだよ、そっちはー」
「舐められたくなけりゃもちっと実力をつけるこったなァ!」

 バカ笑いしながらもなお、シアンさんを侮るスタンスは崩さない。精々が生意気なルーキーってくらいの扱いになっただけでも御の字かもだけど、なかなか難しいやつだね。
 力こそ正義、力こそすべてな価値観の持ち主だから仕方ないんだけど、結局最後まで新世界旅団とは折り合いが悪そうだよー。

 なんならサクラさんとも若干気が合ってなさそうな雰囲気あるし、一応でも足並み揃えなきゃいけないってのが今から不安だねー。
 まあ、あんまり足を引っ張るなら今度こそ腹に風穴空けてやるけどね。そこまでやればさすがに数時間は動けなくなるだろうしさ。
 内心で密やかに闇討ちする算段をつけている僕には気づかず、リューゼはシアンさんを高みから見下ろして言う。
 
「テメェ分かってるだろォな、小娘ェ。ソウマにジンダイ、モニカ、あとレリエつったか。そこな古代文明人」
「え。わ、私も?」
「──これだけの連中を現時点でもすでに手札に入れといて、そこで満足して終わるようだったら今すぐくたばっちまえって話なんだよ。そしてそいつらオレ様の戦慄の群狼に寄越せや、小娘の身の丈に合ってねえ野望よりもっと実用的に便利遣いしてやらァ」
「誰がお前なんかに顎で使われるかよー。仮にシアンさんが中途で折れても、お前んとこの野良犬どもとは死んでもつるまないよー」
「ンだとコラァ!?」

 ……シアンさんそのものでなく、シアンさんを慕い集った僕ら団員にこそ価値を見出すか。パーティーのリーダーとしての目は養っているみたいで何よりだけど、やっぱり物言いが激しすぎるねー。
 たとえシアンさんが夢半ばで倒れ、新世界旅団もプロジェクト"ニューワールド・ブリゲイド"も頓挫したとしても。こんなやつの下で冒険者やるくらいなら僕はまたソロに戻るかなー。

 苦笑いしているモニカ教授やあわあわしててかわいいレリエさんはまだしも、目が笑ってないサクラさんなんかはそれこそシアンさんと運命をともにしそうでこれはこれで怖いよー。
 ヒノモト戦士って忠義とか結構ヤバい人もいるって聞くからねー。ワカバ姉はどっちかと言うと忠義を受け取る側だったみたいだからそんな素振りはなかったけど、サクラさんはシアンさんへの義理をしっかり持ってそうだしねー。

 さておき、リューゼのありがたくもなんともないお言葉を受けてシアンさんは軽く苦笑いを浮かべた。
 けれどほんの一瞬だけだ。さっき獲得し、すでに自在に引き出せるようになっているカリスマによる威圧をフルに放ちつつ、果敢にもリューゼをまっすぐ見据えて彼女は言った。
 
「…………ありがたい叱咤激励と受け取ります。リューゼリア・ラウドプラウズ」
「あん?」
「そして誓いましょう。私シアン・フォン・エーデルライトは、私を信じて集いし仲間達を決して裏切らない。裏切るくらいなら信念とともに、前のめりになって力尽き果てましょう。なんの力もなければ野望、野心だけが一人前なこの身を、それでも信じてくれた彼らにできる唯一にして最大の、それが返礼と心得ています」

 新世界旅団団長としての、それは団員達への宣誓だ。決して裏切らない、裏切る時は死ぬ時だ。そして死ぬ時とてなお、裏切らないまま死んで見せよう、と──
 名も無ければ力も持たない自分を信じてくれたことへの、それが唯一の返礼だと。そう言ってみせたんだね。

 団員一同、これには笑顔で顔を見合わせて頷く。そう、その心意気がある限り僕らだって彼女を裏切ることはない。
 心だけ、野望だけ。上等だよ、彼女こそはまさしく冒険者なんだ。それらかあるなら他は後からついてくるんだ、僕らはそれを信じて支えていけば良い。
 それだけでいいんだ。

「───ハッ、期待はしねぇでおくぜ。精々気張るこったな、団長サンよ」
 
 どこか優しい眼差しでシアンさんを見て、最後にそう告げて去っていくリューゼリア。
 最後の最後に後輩とだけは認めたかのような、どこか吹っ切れた顔だったよー。