「準備が整い次第と言いますが、それはラウドプラウズ殿の」
「リューゼでいいぜ小娘ェ、ラウドプラウズだの殿だのむず痒くって堪らねェ」
「……リューゼのパーティー、戦慄の群狼本隊がこの町に到着するところまで含めてということですか?」
小娘と呼ばれて、無表情ながらシアンさんが少しだけ呼吸を詰めた。ちょっとピキッと来たのが分かるね。この期に及んで小娘呼ばわりされたらそりゃあね。
気安いリューゼの態度からして、向こうに悪気がないのも間違いない。そうそう、昔からあいつは誰に対してもそんなんだったんだよー。例外はそれこそ、レイアくらいなもんだよー。
それでも生まれただろうイラつきとかはぐっと堪えて、彼女はベルアニーさんに尋ねた。
シミラ卿処刑阻止に必要な準備が整い次第──ずいぶんと漠然とした表現だからね。何がどこまでどう整えば準備完了ってことなのか、もう二声くらいは詳細な説明がほしいところだ。
シアンさんが今聞いたように、リューゼのパーティーの本隊がこの町に着くのは条件の一つだろう。手数は多いほうが良いんだし、ここで彼らを無視してことを起こすとリューゼがキレて独自の行動を開始する。それは避けたいからね。
僕の思考を肯定するようにギルド長は頷いた。次いでリューゼを見つつ、話し始める。
「そうなるな。ラウドプラウズ、今本隊はどの辺にいる? お前が先んじてここにこうして来れる位置というのであれば、やはりトルア・クルアか」
「あァ、そうだぜ。大体2日かかるなァ、そっから拠点を構築して荷解きして、長旅の疲れを癒やして体調を整えて──駆け足でやってもまあ、一週間はかかるか」
「結構。となればやはりそのあたりで行動を開始することになるな。ここから王都までは少人数なら半日程度、だが一団率いての行進となればもう少しかかるか」
本隊はすでにトルア・クルアまで来ているみたいだし、それは何より。
今頃はまだ船に揺られて海の上だぜーとか言われたら、港に着き次第さっさと来させろって言わなきゃならないところだったよ。
ただ、やはり単純に移動する人や物資の数がとんでもないから最短でとはいかないみたいだ。話を聞くにパーティーの枠を超えた、傭兵団とかキャラバンめいた規模のようだしそこはしかたないね。
首尾よくトルア・クルアからこの町に来たとて、拠点の準備から書類手続きから、長旅の疲れを癒やすなりもある。そういうところをまとめて込み込みで計算して、やっぱり最速でも一週間後くらいがギリギリのラインっぽかった。
モニカ教授がふむふむ、と関心しきりにつぶやく。
「戦慄の群狼の動きはエウリデも注視しているでしょうし、場合によっては妨害が入るかも知れませんね」
「あるいは、四の五の言わずにさっさとシミラ卿を処刑するかでござろ……ぶっちゃけギルドが怪しい動きをしていると見ればそうするでござろうし、国としては」
今回、一番危惧しなくちゃいけないのは僕らの動きをエウリデに気取られることだ。
あいつら、僕らがシミラ卿奪還に向けて動いていると知ればどんな無茶をしでかさないとも限らない。それこそ処刑を大幅に早めた挙げ句、やって来た僕らに向けてしれっとした顔で彼女の生首を放り投げるくらいしかねないんだ。
そうした危機感は僕だけでなく、リューゼ含めてこの場の誰もが持ち合わせているものだ。
今一度その辺は大丈夫なのかとギルド長に視線が向く。特にリューゼのそれは険しく、そして容赦のない言葉も一緒だ。
「物理的な妨害ならオレ様達が責任もって血祭りにしたるがよォ、さすがに気取られてサクッと始末しましたってのは対応できねぇなぁ。おうジジイ、スパイとかいねぇだろうな、この町に」
「いるかそんなもの。いたとしてもとっくに殺している」
それに対してのベルアニーさんもこれまた、苛烈な返事だよー。スパイとかいないの? に対していたらもう殺してる、はなかなかに血腥いねー。
ま、これでこそのギルド長なんだけどさ。
反骨心の塊を率いる彼は伊達じゃないんだ。味方ならなんとしてでも護るけど、敵ならなんとしてでも潰す。極端なまでの身内主義だからこそ、特にこの町はエウリデ内でも独立主義的でかつ、冒険者の力が一際強いんだねー。
「反冒険者活動家程度なら見逃すが、国家スパイなど私の目の届く範囲には親類縁者一人とて生かしはせんさ」
「あー……もしかしてうちの愚兄、しっかりマークしてたりしました?」
「最低限にはな。グンダリに絡むくらいならば捨て置いたほうが面倒がないと思っていたが。実際、勝手に自滅したわけだからな」
モニカ教授が苦笑い混じりに尋ねると、あっけらかんとギルド長が白状した──ガルシアさんのこと分かってたんだねこの爺さん。
それでも放置してたのは、どうせそのうち僕相手に絡んで自滅するからと踏んでたからかー。
とんでもない腹黒だよー!
「リューゼでいいぜ小娘ェ、ラウドプラウズだの殿だのむず痒くって堪らねェ」
「……リューゼのパーティー、戦慄の群狼本隊がこの町に到着するところまで含めてということですか?」
小娘と呼ばれて、無表情ながらシアンさんが少しだけ呼吸を詰めた。ちょっとピキッと来たのが分かるね。この期に及んで小娘呼ばわりされたらそりゃあね。
気安いリューゼの態度からして、向こうに悪気がないのも間違いない。そうそう、昔からあいつは誰に対してもそんなんだったんだよー。例外はそれこそ、レイアくらいなもんだよー。
それでも生まれただろうイラつきとかはぐっと堪えて、彼女はベルアニーさんに尋ねた。
シミラ卿処刑阻止に必要な準備が整い次第──ずいぶんと漠然とした表現だからね。何がどこまでどう整えば準備完了ってことなのか、もう二声くらいは詳細な説明がほしいところだ。
シアンさんが今聞いたように、リューゼのパーティーの本隊がこの町に着くのは条件の一つだろう。手数は多いほうが良いんだし、ここで彼らを無視してことを起こすとリューゼがキレて独自の行動を開始する。それは避けたいからね。
僕の思考を肯定するようにギルド長は頷いた。次いでリューゼを見つつ、話し始める。
「そうなるな。ラウドプラウズ、今本隊はどの辺にいる? お前が先んじてここにこうして来れる位置というのであれば、やはりトルア・クルアか」
「あァ、そうだぜ。大体2日かかるなァ、そっから拠点を構築して荷解きして、長旅の疲れを癒やして体調を整えて──駆け足でやってもまあ、一週間はかかるか」
「結構。となればやはりそのあたりで行動を開始することになるな。ここから王都までは少人数なら半日程度、だが一団率いての行進となればもう少しかかるか」
本隊はすでにトルア・クルアまで来ているみたいだし、それは何より。
今頃はまだ船に揺られて海の上だぜーとか言われたら、港に着き次第さっさと来させろって言わなきゃならないところだったよ。
ただ、やはり単純に移動する人や物資の数がとんでもないから最短でとはいかないみたいだ。話を聞くにパーティーの枠を超えた、傭兵団とかキャラバンめいた規模のようだしそこはしかたないね。
首尾よくトルア・クルアからこの町に来たとて、拠点の準備から書類手続きから、長旅の疲れを癒やすなりもある。そういうところをまとめて込み込みで計算して、やっぱり最速でも一週間後くらいがギリギリのラインっぽかった。
モニカ教授がふむふむ、と関心しきりにつぶやく。
「戦慄の群狼の動きはエウリデも注視しているでしょうし、場合によっては妨害が入るかも知れませんね」
「あるいは、四の五の言わずにさっさとシミラ卿を処刑するかでござろ……ぶっちゃけギルドが怪しい動きをしていると見ればそうするでござろうし、国としては」
今回、一番危惧しなくちゃいけないのは僕らの動きをエウリデに気取られることだ。
あいつら、僕らがシミラ卿奪還に向けて動いていると知ればどんな無茶をしでかさないとも限らない。それこそ処刑を大幅に早めた挙げ句、やって来た僕らに向けてしれっとした顔で彼女の生首を放り投げるくらいしかねないんだ。
そうした危機感は僕だけでなく、リューゼ含めてこの場の誰もが持ち合わせているものだ。
今一度その辺は大丈夫なのかとギルド長に視線が向く。特にリューゼのそれは険しく、そして容赦のない言葉も一緒だ。
「物理的な妨害ならオレ様達が責任もって血祭りにしたるがよォ、さすがに気取られてサクッと始末しましたってのは対応できねぇなぁ。おうジジイ、スパイとかいねぇだろうな、この町に」
「いるかそんなもの。いたとしてもとっくに殺している」
それに対してのベルアニーさんもこれまた、苛烈な返事だよー。スパイとかいないの? に対していたらもう殺してる、はなかなかに血腥いねー。
ま、これでこそのギルド長なんだけどさ。
反骨心の塊を率いる彼は伊達じゃないんだ。味方ならなんとしてでも護るけど、敵ならなんとしてでも潰す。極端なまでの身内主義だからこそ、特にこの町はエウリデ内でも独立主義的でかつ、冒険者の力が一際強いんだねー。
「反冒険者活動家程度なら見逃すが、国家スパイなど私の目の届く範囲には親類縁者一人とて生かしはせんさ」
「あー……もしかしてうちの愚兄、しっかりマークしてたりしました?」
「最低限にはな。グンダリに絡むくらいならば捨て置いたほうが面倒がないと思っていたが。実際、勝手に自滅したわけだからな」
モニカ教授が苦笑い混じりに尋ねると、あっけらかんとギルド長が白状した──ガルシアさんのこと分かってたんだねこの爺さん。
それでも放置してたのは、どうせそのうち僕相手に絡んで自滅するからと踏んでたからかー。
とんでもない腹黒だよー!