翌々日、週が明けての登校日。
 時節は夏でもうすぐ長期休暇が訪れる、そんな時期。教室にて僕は、クラスメートでもある悪友二人と休み期間中の予定について話をしていた。
 
「夏休みといえばやっぱり海! あばんちゅーる! だよねー! ああ、出会いの季節が到来!」
「出会いはしてもそこから先は望めないだろソウマくん」
「振られすぎたショックで砂浜で体育座りしてそうだなソウマくん」
「何をー!?」
 
 開口一番とんでもない罵詈雑言を投げかけてくる我が親友達、ケルヴィンくんとセルシスくん。いつも通りの辛辣さだけど、夏休みというビッグチャンスを前にした僕はまだまだへっちゃらだ。
 今に見てろよ、この夏で僕は可愛い彼女を作って、秋には生まれ変わったソウマ・グンダリをお見せしてやるからなー!
 
「振られまくって生まれ変わったみたいにダウナーになってるソウマくんなら見られそうだ」
「まあ元気だせよ秋頃のソウマくん、夏が駄目でもチャンスなあるって」
「未来の僕を励まさないで!?」
 
 二人揃ってまるっきり、僕の夏休みを虚無扱いしてくるよー!? 抗議する僕に、悪友達はそっぽを向いて口笛を吹いた。わーひどーい。
 こんな感じでいつも通りの馬鹿話だけど、やっぱり休み前か僕のテンションは否が応でも高くなってる。教室内を見渡せばみんなウキウキ気分でソワソワしてるよ、あっジュリアちゃんだかわいー!
 
「あージュリアちゃん、オーランドくんと別れたりとかしないかなー」
「仮にそうなったとして君に振り向く確率はまあまあゼロだぞソウマくん」
「まず他人の破局を願うそのスタンスからして夏休み中も絶望的なのがわかってしまうなソウマくん」
「うっ……失言でしたー」
 
 さすがにジュリアちゃんの不幸を願ったり、喜んだりするのは良くないよね、はい……反省しますー。
 頭を掻いて机に突っ伏す。そんな僕を元気づけるつもりでか、ケルヴィンくんは背中を軽く叩いて明るめの声色で話題を変えてくれる。
 
「そう言えばソウマくん、知ってるか? 夏休みも目前にしてこの学校、特別講師を迎えたらしいぞ」
「ん……特別講師ー?」
「ああ。なんでも元は迷宮都市外の冒険者らしい。誰ぞか新米冒険者を指導しに来たんだがその新米が気に入らなかったらしく、代わりにうちの学校に赴任したんだと」
「……なんで? 話繋がってなくないケルヴィンくん?」
「意味がわからないぞケルヴィンくん」
 
 指導する予定だった新米くんと仲違いしたからって、代わりに学校の特別講師になるなんてことないでしょ。いくらなんでもガセだよそれ、ケルヴィンくん。セルシスくんも怪訝な面持ちで話の信憑性を疑ってるし。
 ガセでしょ普通に。そもそも今この時期って。訝しむ僕とセルシスくんに、ケルヴィンくんは肩をすくめてどこか、皮肉げに笑った。
 
「詳しいことは俺も知らないけど、知り合いの冒険者からの話だ、たしかな筋だよ……どこぞの"杭打ち"さんも噛んでるって聞いたんだけど、どうなんだろうな?」
「え……え。あ、え?」
「うん? おやおや?」
 
 急に出てきた僕の……冒険者"杭打ち"の名前。えっ、何?
 なんかしたっけ僕、別に指導者っぽい人とか学校の先生みたいな人と最近、会った覚えなんて────
 
「あ、もしかして」
「おう生徒諸君、ホームルーム始めるぞ」
 
 たった一つだけ心当たりといえば心当たりと言える、そんな人に思い至った矢先。先生がやってきて僕らは話を中断して全員が席に着いた。
 うちのクラスの担任は国語教師のハルワン・ナルタケ先生だ。そこそこ年嵩の男性教諭なんだけど、スラム出身な僕にも分け隔てなく接してくれる素敵な先生だ。
 
 そんな先生だけど、今回はもう一人、女性を連れてやってきていた。教壇に立つナルタケ先生の斜め前に立つその姿に、僕のみならずクラスの生徒みんなが目を奪われる。
 ヒノモトの民族衣装、和服というらしいそれに身を包みカタナを提げた、艶やかな黒髪を長く垂らして美しくも色っぽい美女。なんなら胸元がやたら開いていて、男子諸君はガッツリ目を奪われている。
 あー! 女子の視線が冷たいー!
 
「あー、唐突な美女の登場に気持ちはわかるが盛るな男子。女子の目を気にしろ、そんなだからモテないんだぞ」
『ヴッ』
 
 クリティカルヒット! 先生の容赦ない言葉に男子全員ダメージを受けて視線を逸らす! ああっ、僕もなんだか心が痛いよー!
 初対面の時に僕もガッツリ見ちゃってたもんなー! こんなだからモテないのか、そっかー! 泣きそう。
 
 そう、突如現れた美女を僕は知っている。ほんの少しだけだが先日、喋った仲だ。
 オーランドくんハーレムパーティーと同行しつつも、彼らの僕への言動に怒ってくださった女の人だねー。こんなところで何してるんだろう? ナルタケ先生が続けて話すのを聞く。
 
「あー、夏休み前のこの時期になんだが剣術授業の特別講師としてお越しになった、サクラ・ジンダイ先生だ。紹介がてら今日は一日、各教室に挨拶して回る。先生、自己紹介をどうぞ」
「かたじけない──初めましてでござる、諸君。今しがたご紹介に預かった、Sランク冒険者のサクラ・ジンダイでござる。夏明けから剣術科目を担当するでござるから、よろしくでござるねー」
 
 促されて名乗るその人、サクラ・ジンダイ先生。
 実力者とは思ってたけどまさかのSランク冒険者だよ。僕はついビックリして、彼女をじっと凝視してしまった。
 あっ! 目が合った!