シミラ卿はそもそも優秀な人だったけど、騎士団長になるにはどう考えても時期尚早な人ではあった。
真面目さこそが彼女の売り、長所ではあったんだけどー……どうしようもない貴族のボンボン達を率いるには適当さが致命的なまでに足りなかったんだよね。
マルチナ卿みたいないい加減さが良くも悪くもなくて、すべてのことに全力投球だったんだ。
少なくとも3年前はそうだったし、最近の様子を見るにその辺の性格や性質はあんまり変わらなかったんだろう。だからあんなにくたびれきって、可哀想に挫折しきっちゃったんだねー。
その辺、こないだの様子も含めてリューゼに教えると、彼女は額に青筋を立てて怒りを堪え、けれどそれをなんらかの形で発散することなく呑み込み、一つ大きな息を吐いた。
そしてやるせなさそうに、力なく呻く。
「上にゃ玉座のゴミと取り巻きのウジ。下にゃボンボンのカスとその親族のクズども。挟まれちまって疲れねえわけねぇんだよ、あいつクソ真面目なんだから。マルチナくらいやる気ねぇやつじゃねーとあんな立ち位置、やってらんねーに決まってらァな。気の毒によぉ、シミラ……」
「最後のほうはなんかもう、見てて辛かったよ。自分の命さえ投げ捨てる勢いで、それでも信念や正義を貫こうとしていて……結果として今、処刑騒動になんてなっちゃってるところはあるよ、間違いなくね」
「古代文明から来たからって実験用の玩具にするなんざ、たとえ上の指示であっても逆らって当然だ。あいつは悪くねぇんだよ。それをエウリデのクソッタレども、舐めた真似をしやがって……!!」
拳を握りしめてシミラ卿の無念を推し量る。
マルチナ卿が逃げたことでいきなり抜擢された役職だけど、それでも理想を実現するんだと燃えてたんだろう彼女が終いには疲れ果て、死んだ瞳で処刑になっても構わない、とでも言いたげだった姿は僕にとっても到底、許容しがたいものだ。
人を人として扱い、護り、助けることがそんなに悪いのか? そんなに赦せないことなのか? エウリデは、そこまでして古代文明を追いたいのか?
僕だって冒険者だ、古代文明には一ファンってこともあり飽くなき探求心がある自覚は持ってるよ。でもこれは違う、絶対に違う。
罪なき者を踏みにじってまで追い求めた先に、本当に価値のあるものなんてありやしない。絶対に、何があってもだ。
それを忘れているのか無視しているのか、エウリデの王族貴族は……金に肥え、飽食に飽き、華美に腐り果てて何が値打ちのあるものなのか分からなくなったのか?
だったら思い出させてやる。生命の大切さ、尊厳の価値を。
内心で沸々と湧き上がる闘志。同じくリューゼもまた、あからさまなまでに闘気を抑えながらも言った。
「ちょうどいい機会だ、エウリデのふんぞり返ってるゴミどもこそオレ様が処刑したらァ。カミナソールみてぇにしてやる、更地だあんな城」
「……案の定、だな」
「案の定だねー」
「案の定でしたね……」
エウリデへの怒りはそれはそれとして、リューゼはリューゼで予想されていた通りの極論に走ったよー。
笑っちゃうくらい想定通りのことを言ったね、エウリデ上層部皆殺しって。
相変わらず短絡的で何よりって感じだけど、ここからこいつを止めなきゃいけないから骨だねー。
さすがにエウリデを亡国にするのはやりすぎだって、僕らの説得で理解してくれれば良いんだけど。
ベルアニーさんが一息置いて、リューゼリアに話しかけた。
「それを止めてほしくて我々はお前を、というかお前との交渉を可能にするミシェルくんを探していたのだ。軽挙妄動からエウリデをかき乱すような真似はしないでほしいと、頼み込むためにな」
「そりゃ予想してたがよォ……一応言っとくがオメェら、何を日和ってんだよ。シミラが殺されようってんだぜ、殺さなきゃ駄目だろ」
「もはや蛮族の思考だよー……」
殺されそうだから止めるってのは僕らの方針でもあるから否定しようがないけど、だから殺すねとはなかなかいかないよー?
あまりに乱暴かつ短絡的な主張をするリューゼリアに周囲も唖然、と言うかドン引きしている。
ただ、モニカ教授だけはいろいろ苦笑いしてるね、文通してたからこういうことを未だに言うやつだって知ってたんだろう、きっと。
コホン、と咳払いをして教授がやんわりと彼女を宥めた。
「殺して、殺し尽くしてそうしたらどうなる? エウリデの平和は瓦解し周辺国家などが早速攻めてくるだろうね。そんなことを引き起こさせるのは、それはそれで冒険者と言えないはずだよ、リューゼリア」
「関係あっかよ、こんな国よそにくれちまえ。オレ達調査戦隊を良いように扱き使った挙げ句勝手して解散させてくれやがった連中に、かけてやる慈悲なんざどこにもねえよ」
にべもない意見。なんていうか、根底にはやっぱりソレがあるんだよね。
すなわち怨恨。調査戦隊解散のきっかけを作ったエウリデって国に、こいつはずっと、ずーっと! 憎み怒り続けているんだよ。
真面目さこそが彼女の売り、長所ではあったんだけどー……どうしようもない貴族のボンボン達を率いるには適当さが致命的なまでに足りなかったんだよね。
マルチナ卿みたいないい加減さが良くも悪くもなくて、すべてのことに全力投球だったんだ。
少なくとも3年前はそうだったし、最近の様子を見るにその辺の性格や性質はあんまり変わらなかったんだろう。だからあんなにくたびれきって、可哀想に挫折しきっちゃったんだねー。
その辺、こないだの様子も含めてリューゼに教えると、彼女は額に青筋を立てて怒りを堪え、けれどそれをなんらかの形で発散することなく呑み込み、一つ大きな息を吐いた。
そしてやるせなさそうに、力なく呻く。
「上にゃ玉座のゴミと取り巻きのウジ。下にゃボンボンのカスとその親族のクズども。挟まれちまって疲れねえわけねぇんだよ、あいつクソ真面目なんだから。マルチナくらいやる気ねぇやつじゃねーとあんな立ち位置、やってらんねーに決まってらァな。気の毒によぉ、シミラ……」
「最後のほうはなんかもう、見てて辛かったよ。自分の命さえ投げ捨てる勢いで、それでも信念や正義を貫こうとしていて……結果として今、処刑騒動になんてなっちゃってるところはあるよ、間違いなくね」
「古代文明から来たからって実験用の玩具にするなんざ、たとえ上の指示であっても逆らって当然だ。あいつは悪くねぇんだよ。それをエウリデのクソッタレども、舐めた真似をしやがって……!!」
拳を握りしめてシミラ卿の無念を推し量る。
マルチナ卿が逃げたことでいきなり抜擢された役職だけど、それでも理想を実現するんだと燃えてたんだろう彼女が終いには疲れ果て、死んだ瞳で処刑になっても構わない、とでも言いたげだった姿は僕にとっても到底、許容しがたいものだ。
人を人として扱い、護り、助けることがそんなに悪いのか? そんなに赦せないことなのか? エウリデは、そこまでして古代文明を追いたいのか?
僕だって冒険者だ、古代文明には一ファンってこともあり飽くなき探求心がある自覚は持ってるよ。でもこれは違う、絶対に違う。
罪なき者を踏みにじってまで追い求めた先に、本当に価値のあるものなんてありやしない。絶対に、何があってもだ。
それを忘れているのか無視しているのか、エウリデの王族貴族は……金に肥え、飽食に飽き、華美に腐り果てて何が値打ちのあるものなのか分からなくなったのか?
だったら思い出させてやる。生命の大切さ、尊厳の価値を。
内心で沸々と湧き上がる闘志。同じくリューゼもまた、あからさまなまでに闘気を抑えながらも言った。
「ちょうどいい機会だ、エウリデのふんぞり返ってるゴミどもこそオレ様が処刑したらァ。カミナソールみてぇにしてやる、更地だあんな城」
「……案の定、だな」
「案の定だねー」
「案の定でしたね……」
エウリデへの怒りはそれはそれとして、リューゼはリューゼで予想されていた通りの極論に走ったよー。
笑っちゃうくらい想定通りのことを言ったね、エウリデ上層部皆殺しって。
相変わらず短絡的で何よりって感じだけど、ここからこいつを止めなきゃいけないから骨だねー。
さすがにエウリデを亡国にするのはやりすぎだって、僕らの説得で理解してくれれば良いんだけど。
ベルアニーさんが一息置いて、リューゼリアに話しかけた。
「それを止めてほしくて我々はお前を、というかお前との交渉を可能にするミシェルくんを探していたのだ。軽挙妄動からエウリデをかき乱すような真似はしないでほしいと、頼み込むためにな」
「そりゃ予想してたがよォ……一応言っとくがオメェら、何を日和ってんだよ。シミラが殺されようってんだぜ、殺さなきゃ駄目だろ」
「もはや蛮族の思考だよー……」
殺されそうだから止めるってのは僕らの方針でもあるから否定しようがないけど、だから殺すねとはなかなかいかないよー?
あまりに乱暴かつ短絡的な主張をするリューゼリアに周囲も唖然、と言うかドン引きしている。
ただ、モニカ教授だけはいろいろ苦笑いしてるね、文通してたからこういうことを未だに言うやつだって知ってたんだろう、きっと。
コホン、と咳払いをして教授がやんわりと彼女を宥めた。
「殺して、殺し尽くしてそうしたらどうなる? エウリデの平和は瓦解し周辺国家などが早速攻めてくるだろうね。そんなことを引き起こさせるのは、それはそれで冒険者と言えないはずだよ、リューゼリア」
「関係あっかよ、こんな国よそにくれちまえ。オレ達調査戦隊を良いように扱き使った挙げ句勝手して解散させてくれやがった連中に、かけてやる慈悲なんざどこにもねえよ」
にべもない意見。なんていうか、根底にはやっぱりソレがあるんだよね。
すなわち怨恨。調査戦隊解散のきっかけを作ったエウリデって国に、こいつはずっと、ずーっと! 憎み怒り続けているんだよ。