向かい合うシアンさんとリューゼリア。
 新世界旅団と戦慄の群狼──そのトップが初めて顔を合わせ、そして言葉をかわす瞬間だ。僕はそれを、少しばかりの緊張とともに眺めている。

 シアンさんは無表情を貫いているけど、内心の緊張はどうしても雰囲気に出ている。片やリューゼリアのほうは余裕の笑みを浮かべて、物理的な高みから団長を見下ろしている──まさしく子供と大人ってくらいの身長差。
 見た目の差がありすぎるくらいある二人。けれど気迫だけは負けないと言わんばかりに、シアンさんは口を開いた。
 名乗りを上げる時だ。

「初めましてレジェンダリーセブン、"戦慄の冒険令嬢"リューゼリア・ラウドプラウズ。私は新世界旅団団長、シアン・フォン・エーデルライトと申します」
「早速会えたなァ小娘。いかにもオレがリューゼ様よ……モニカも久しぶりだな、元気してたか」
「まぁね、身内の恥が物理的に退場してくれてすこぶるいい調子だ。これも我らが団長のおかげと言えるかもしれないね?」
「…………!」

 わお。いきなりシアンさんを飛び越して旧知のモニカ教授に行ったね、リューゼ。
 つまるところそれは、彼女は面と向かって相手をするに値しないと言っているも同然な、露骨な見下しだ。お前なんかどうでもいいから教授と話させろ、なんて厭味ったらしいのが露骨だよー、ムカつくー。

 教授は当然意図を理解していて、最低限のフォローとばかりに団長を持ち上げる。苦笑いしているあたり、リューゼの挑発的言動に思うところはあるみたいだ。
 一方でシアンさん、無表情に亀裂が走った。ここまで面と向かって素気なくされたのは中々ない経験だろうし、貴族としてはありえない対応だからね。さすがに顔色だって変わるよー。

 ……初顔合わせのタイミングじゃなければ、もうこの時点で僕とサクラさんは暴れてる。リューゼリアを叩きのめして地面に這いつくばらせ、土下座させてごめんなさいを100回くらい連呼させてやっている。
 僕が見込んだ団長に何してくれてんだ、コイツ。彼女への侮辱は新世界旅団への侮辱、それすなわちは僕への侮辱だ。サクラさんも同様だろう、微笑みの中に殺気が見え隠れしていて、隣のミシェルさんに冷や汗をかかせているね。

 一触即発。あからさまにこちらを舐め腐ってくるリューゼに、シアンさんはしかし、毅然とした表情を向ける。
 そう、そうだよシアンさん。この局面はリーダー同士のマウントの取り合い、ある種の戦いなんだ。僕らはどうあれあなたの味方だけれど……部外者にも分かりやすくどちらが上でどちらが下かを示すには、やはりあなたが踏ん張るしかない。

 これもリーダーの、団長の戦いなんだ。だから頑張って、シアンさん!
 祈るように彼女を見ていると、リューゼがそんな団長を見、ふんと鼻を鳴らした。
 
「フン……目は良いな、そこは認めるぜ。レイアの姉御にも似た、尽きることのねぇ野心の光だ。何度も見てきた、気持ちのいい目だ」
「畏れ入ります」
「……だがそれだけじゃいけねーってのは分かってるよなァ、おい。仮にもソウマを引き入れたんだ、当然、テメェにもなんかあるんだよなァ、えぇ?」
「っ!!」
 
 にわかにシアンさんの瞳、眼差しを褒め──僕と同じに、レイアのソレと同じものを見出したみたいだよー──直後、放たれる威圧。
 レジェンダリーセブン、世界屈指のSランク冒険者としての実力をいかんなく発揮した、本物の、本気の威圧だ。全力じゃないだろうけど、新人の娘さんを気絶させるくらいはわけないほどの、慈悲のない威力をリューゼリアは放つ。

 威圧自体は何度か経験しているだろうけど、さすがにこのレベルは初めてのはずだ。体験するには時期が早すぎるのもある、そもそもそこまで鍛えきれてもいない!
 それでもにわかにたじろぎ、数歩下がっただけで済んだシアンさんをこの場合、褒め称えるべきなんだ……厳然たる事実として、この時点で上下の格付けがついてしまったも同然だとしても。

「くっ……!?」
「どしたィ小娘、反抗できねぇのかァ? ちょいとした威圧程度で音を上げてちゃあ、ソウマが従う理由はねえやなァ」
「…………何、を」
「やっぱソウマ、お前こっちくるか」

 蔑むように見下し、たじろぐシアンさんを一瞥してからの、僕への勧誘。
 そこに揶揄や冗談、皮肉や嫌味の色はない。完全に、心底に本心から、リューゼは僕を誘っていた。
 ──戦慄の群狼の鞍替えしないかと、このタイミングで言ってのけたのだ。
 
「嫌だよバカバカしい。なんでお前の下につかなきゃいけないんだ」
「そりゃオメー、こいつが弱っちいからさ。弱いやつに従うなんざ無駄だ、何もかも。特にお前さんみてぇな、強いやつはな」
「……!!」
 
 打って変わって親しげな笑み。シアンさんをまったく見るべきもののない小物とした瞳で、僕を評価してくる。
 それでいてシアンさんを当て擦るような物言いをして、彼女はなおも続けて言った。