僕とシアンさん、あるいは新世界旅団内の人間関係に対してのスタンスについてはともかく。
 リューゼリアはひと通り話を受けて納得したのか、軽く鼻で笑ってから傲岸不遜に、不敵な笑みを浮かべて僕らの提案を呑んだ。
 冒険者ギルドと新世界旅団の連携に対して、足並みを揃えるか否かの交渉の場に立つことを宣言したのだ。

「フン……まぁ良い、再会記念だ、別に話し合いに応じてやってもいいぜ」
「へぇー素直ー。3年前ならとりあえず逆上してたよね、リューゼ」
「それじゃなんの解決にもなりゃしねえってな、自分で一団率いるようになってようやっと気づいたのさ」

 からかい半分、もう半分はやはり驚き。3年前に比べてずいぶん物分りの良くなったと、リューゼをまじまじと見てしまう。
 そんな僕の視線が気に入らないのか、半目で睨んできて彼女は言うのだった。

「さっきテメェはオレを革命家気取りみてぇに言いやがったが、そんな御大層なもんでもなかった。巻き込まれに巻き込まれた末、退っ引きならねぇ政治劇に巻き込まれちまったってのが正味な話だ」
「カミナソール……そんなに陰謀渦巻いてたでござるか?」

 サクラさんが尋ねる。リューゼ率いるパーティー・戦慄の群狼がつい最近まで滞在し、あまつさえ革命の手伝いまでしていた地、カミナソールについてだ。
 革命活動なんて完全に冒険者の領分を超えているし、ましてややったのがあのリューゼなんだ。正直驚くしかないし、なんなら誰ぞか政治屋の陰謀にでも巻き込まれたのかなーって思ってさえいるよー。

 実際、彼女の言うにはそのとおりで、本当は戦慄の群狼もカミナソールの革命騒ぎなんて関わりたくなかったみたい。
 でも、やっぱり元調査戦隊にして現レジェンダリーセブンの肩書は他所の国でも魅力的なんだろうね。渦巻く野望と陰謀に巻き込まれ、パーティーは望んでもいない革命活動に参加せざるを得なくなったみたいだった。

 苦虫を噛み潰したような表情で、リューゼが語る。巻き込まれた末に彼女達は、カミナソールの騒乱の中で権威側が行ってしまった蛮行を目撃したようだった。

「……ああ、もうめちゃくちゃだぜ。貴族や王族のゴミクズどもだけでやってりゃいいものを、やつら平民や貧民をも巻き込んで好き放題さ。さっさと逃げたかったのがオレの本音だが、同時にどうにか革命の手伝いをしてやりてぇって団員も大勢いた。目の前で年端も行かねえ女子供や赤子が、狂った貴族どもに襲われ、殺されるところなんざ見ちまったら、オレだってなァ……」
「そんなことが……」

 カミナソールの貴族ども、相当無茶苦茶だったみたいだね。護るべき民を、しかも赤子や女子供を虐殺して回っていたなんて。
 憂鬱そうに語るリューゼの、傍らでミシェルさんも俯いている。相当ショッキングなものを見たみたいで、思い返しているだけなのに血の気が引いちゃってるよ。

 戦慄の群狼もさっさと国から離れる選択肢はあったんだろう。でも目の前で惨劇を見てしまって、団員の中からも革命賛成派が出たらしい。
 そして賛否両論の中、リューゼは決断したんだ。カミナソールに介入し、革命の手助けに入ることを。
 選択の是非を未だに悩んでいるのか、難しい顔をして彼女は語る。

「パーティーのことを考えるならあんなもん、無視して離脱が一番だった。少なからずそんな声もあったが……見て見ぬふりは寝覚めが悪い、冒険者でなく人間として貴族どもを許せねえって声もたくさんあった。悩んだよ、人生で一番ってくれぇな」
「それで、革命への手助けを選択した……」
「身内の揉め事も山程起きて、その末にな。姉御の苦労をそん時、初めて思い知ったぜ。あの人はずーっとこんなもん背負ってたのかってな……愕然としたし、最後のほうの姿を思い返して、アレはこういうことだったのかと理解して後悔もした」
「…………レイアの、苦労」

 パーティーを率いたことのない僕には決して分からない苦労、苦悩。それを初めて体験して、リューゼもまた思い知ったらしかった。
 すなわちかつての僕らのリーダー、"絆の英雄"レイア・アールバドの裏側。真実の、等身大の彼女の悩みや苦しみを。

 リューゼが天井を仰ぎ見た。その目に映るのはたぶん、土塊じゃなくて昔日。
 崩壊していく調査戦隊を、必死で繋ぎ止めようとしていた頃の……レイアの姿なんだな、きっと。

「テメェが追放された後が特にな。ミストルティンの野郎が勝手抜かして消えやがって、そっからズタボロだ。姉御も奔走していたけどよ、見てられなかったぜ……」
「……そっ、か。僕は……僕が、僕が」
「テメェの事情も分かってらァ、オレからはとやかく言わねえ。だが一つ言うなら、姉御は俺が抜けるってなったその時までずーっとよ、テメェのことだって心配してたんだぜ? そこは知っといてくれや、ソウマ」
「…………うん。それに近く、会うことになるかもしれないからね」
 
 力なく、僕はそう言うしかなかった。
 調査戦隊をそんな風にしたのは、レイアをそこまで追い込んだのは……どんな理由があったにせよ、僕なんだから。
 たとえ憎まれてなくても嫌われてなくても、未だ想われていても。そこだけは変わらない、事実なんだから。