「さて、それでは拙者から名乗らせていただこうかでござる。杭打ち殿とそちらのパーティーの方々が知り合いというのであれば、それすなわち拙者にとっても友誼を結ぶに足る存在ということゆえ」

 僕に促されて名乗りをあげるサクラさん。ヒノモト式の、前傾に頭を軽く下げての会釈に近い体勢だ。
 ワカバ姉も名乗る時はこんな感じだった記憶があるねー。そしてそのまま彼女達は、長口上つきで自らの身元を明かすのだ。

「お初にお目にかかる。生まれ育ちはヒノモト、なれど広き世界を夢見てはるかな大陸に漕ぎ出し早6年。今では一廉の冒険者として、Sランクにも登録されているでござる──サクラ・ジンダイ。日頃杭打ち殿が世話になっているご様子。以後、よろしくお願い申し仕る」
「……あ、こ、これはこれはご丁寧にどうも! まだまだ半年目の新米冒険者、レオン・アルステラ・マルキゴス。よろしくお願いします!」

 冒険者の中でもトップ層であるSランクが直々に挨拶してきたんだから、新人さんのレオンくん達はそりゃあ、焦るよね。
 この町で活動してる冒険者は実力のアベレージこそ高くて、Aランクもそれなりの数がいたりするんだけれど、Sランクに関しては今や一人もいない有様なのだ。

 大体のSランクが調査戦隊メンバーだったし、解散に合わせて各地に散り散りになったからねー。だからサクラさんの存在は割とこの町にとっては貴重で、冒険者ギルドも下に置かない扱いをしてるんだよー。
 
「初めましてジンダイさん、ご高名はかねがねお伺いしております。ノノ・ノーデンと申します、よろしくお願いします」
「ま、まままマナ・レゾナンスですぅ……よろしくお願いしますぅ……」
「レオン殿に、ノノ殿にマナ殿でござるな。よろしくでござる」

 慌てて名乗り返す彼と仲間達。なんかこう、ドタバタしつつも仲の良さが伺えて見てて和むよー。
 まずはレオンくんを筆頭に、ノノさん、マナちゃんと続いて挨拶していく。ノノさんは勝気な性格をしているからかしっかりしてるんだけど、マナちゃんは臆病めな性格もあってかなりビビっちゃってるねー。

 その後に古代文明から来た双子、ヤミくんとヒカリちゃんのご挨拶だ。未だ抱きついているヤミくんとそれに寄り添うヒカリちゃんの背中を擦って促せば、二人ともおずおずとサクラさんの前に立った。
 さっきまではちょっと甘えん坊さんだったけど、普段は双子の兄らしく大人びた姿を見せるヤミくんが先んじて名乗った。 

「ええと、ヤミです。そちらのパーティーにいるレリエさんとは同じ時代に生き、同じ場所からやってきた同胞です。こちらは双子の妹、ヒカリ」
「ヒカリです。ヤミともどもレオンさん達と杭打ちさんに助けてもらって、今はレオンさんのパーティー"煌めけよ光"に属してます」
「この時代にはまだまだ疎く、何か失礼があればすみません。よろしくお願いします、サクラさん」

 礼儀正しくしっかりした挨拶。現代にやって来てまだ1ヶ月くらいかな? だっていうのにすごく立派な態度だね、二人とも。
 眠りから覚めて早々にエウリデの下衆共に狙われたりして大変な目に遭ってきた子達だけれど、今では頼れる保護者達や優しい大人に囲まれて過ごしているみたいだ。暗いものを感じさせない明るい姿に、思わずホッとするよー。

 サクラさんも素敵な双子の姿に、すっかり目を細めて優しい顔つきになっている。ヒノモト人の目にも涙ってところかな。
 まあ次の瞬間に殺意を孕んだ睨みつけをしかねないから、あの国のサムライって戦士連中はおっかないんだけど。とはいえ今回はただただ気に入って可愛がりたいみたいで、双子の頭に手を乗せてわしゃわしゃと撫で回していた。
 
「それだけしっかり挨拶できるなら失礼や粗相なんてなんのことでもないでござるよ。こちらこそよろしくでござるヤミ殿、ヒカリ殿」
「は、はい!」
「あ、ありがとうございます」
「んー、かわいい盛りでござるなあ。拙者この子らくらいの年にはもう毎日朝から晩まで修行でござったから、なんだかひどく懐かしく、羨ましくも感じるでござるなー」
「しれっとすごいこと言うなあ、このSランク……」
 
 なんでもないことのように、大変おかしな育成を受けていたことを話すサクラさん。聞いていた周囲のレオンくん達がドン引きしてるよー。

 ヒノモト人は戦闘職を志すとホント、小さな子供相手でも容赦なく鍛え上げるって聞くからね。地元の姫君だったワカバ姉でさえ、6歳の頃には薙刀を持つ訓練してたって言うし。
 ほとんど国ぐるみでヤバい人達だよー。怖いよー。
 
「ま、よろしく頼むでござるよ二人とも。拙者も杭打ち殿の仲間でござる、信頼してくれていいでござるよ」
「……サクラさんは新世界旅団の副団長だ。Sランクとしても評判がいいから、悪辣さとは無縁と思っていいよ」
 
 恐ろしいヒノモト人の顔をひた隠しにしつつ、僕の仲間であることを強調するサクラさん。
 僕も僕で彼女の立ち位置を明言しつつ、お互いに連携が取れるように信頼できる人アピールをするのだった。