僕の、僕なりの新世界旅団への想い、シアンさんへの期待。
 もちろん過度に押し付けるようなことはしたくないしするつもりもないけれど、できるならば……と、抱いている本音の思いはこんなところだねー。

 シアンさんも真摯な顔で、僕の言葉に耳を傾けて頷いてくれる。努めて誠実たらんとして、ソファに座りながらも深く頭を下げて応えてくれたのだ。

「ソウマくん……ありがとうございます。あなたがそこまで期待してくれていること、一人の人間として真摯に受け止めます」
「"灯火の英雄"とはこれまたハードル爆上がりでござるなー。そんじょそこらのSランクでも難しい領域でござるよ、シアン」
「そうね、でも……血が滾るものを今、感じています。偉大なる先人の功績を、私なら、私達ならさらなる未来へ繋げていけると他ならぬ先人だった彼が期待してくれている。冒険者として、これに応えない手はないでしょう!」
 
 サクラさんのからかいめいた言葉にも、熱意を燃やして熱く語る。シアン団長、僕の言葉でさらに奮起してくれてるみたいだよー。
 でも無理はしないでほしいよね、マイペースマイペース。まあ、彼女が無理をしそうならそれを支えて助けるのが新世界旅団メンバーである僕らの役割だ。
 
 ギルド長ベルアニーさんがくつくつと喉を鳴らして笑った。面白がりつつもどこか、眩しそうに目を細めてシアンさんを見ている。
 かつてはレイアにも向けていた目だ。加えて優しい微笑みとともに言ってくる。

「シアン・フォン・エーデルライト。君も大変だな? 癖しかない連中が今後、君の周りをうろついて離れなくなる」
「上等です。私が求める未知に相応しい、素敵な仲間たちでしょう? これが新世界旅団……私の最高の仲間達です!」
「ふっ……ふふ、ふふふふ! エーデルライトは代々腕利きを輩出してきたが今回は別格だ! まさか神話をも超える冒険譚を担う者とはな!!」

 力強く仲間を誇る団長に、いよいよ堪えきれぬとベルアニーさんが笑った。ひどく楽しげな、嬉しそうな声。
 長いこと生きて長いこと冒険者やってる彼は、シアンさん以前のエーデルライト家の冒険者だって当然知ってるんだろう。歴代の者達と比べて、それでもなおシアンさんの特異性を認めていた。

 目尻に涙さえ浮かべながらも彼は笑う。
 そしてしばらくしてから、ギルド長として僕ら新世界旅団の面々へと、高らかに告げるのだった。
 
「良いだろう、君らは君らで好きにやりたまえ! 冒険者ギルドはそちらの都合に合わせて動こうではないか。まあ、こちらも正直な話、連中との正面衝突など損しかないからどうしたものかと考えあぐねていたところなのだ。渡りに船だな、これは」
「あれ? ベルアニーさんあんまり乗り気じゃないんだ? こういう騒ぎになると誰より気が短い人だと思ってたけどー」
「人を見境なくキレる老人みたいに言ってくれるな、小僧……」

 なんか意外だ、なんなら率先して武器を持って殴り込みに行きそうくらいまで思ってたんだけどー。
 というかいつものベルアニーさんなら確実にそうしてるのに、どうしたんだろ? 高齢からいよいよ身体の調子でも崩したかな。無理のきく歳でもないからねー。

 若干心配気味に見ていると、彼は露骨に機嫌を悪くしてふん、と鼻を鳴らした。
 年寄り扱いするなとつぶやいて、ひどくつまらなさそうに語る。
 
「私とて憤っていないわけでもないがな。エウリデは勝手に虎の尾を踏んだのだから、どちらかと言えば殴りに行きたいが巻き添えを食うのが怖い、という思いのほうが強い」
「虎の尾? え、誰かなんかしようとしてるー?」
「ああ。リューゼリア・ラウドプラウズ──そして彼女の率いるパーティー、"戦慄の群狼"がな」

 憂鬱そうに告げられたその名前に、なるほどさしものギルド長でも関わり合いになるのを躊躇するよねって僕は瞬間的に思った。
 たぶんサクラさんにモニカ教授も同じ思いだろう。ああ……みたいな顔をして、ちょっと面倒そうに顔をしかめていた。

 "戦慄の冒険令嬢"リューゼリア。元調査戦隊メンバーであり、レジェンダリーセブンの一員として今もガッツリ活躍中のSランク冒険者だ。
 僕の新世界旅団入りを聞いて何やら動き出したってのは聞いていたけど、シミラ卿とも仲が良かった彼女だからこの件にも関わろうとするよね、そりゃあ。

 ベルアニーさんが机の引き出しから一枚、手紙を取り出した。
 リューゼリア直筆のサインが記されている。嘆息とともにそれをひらひらと手で揺らす彼は、疲れを覗かせつつもさらに続けて言った。

「豪快で豪胆でしかし、おそるべき野性と本能からくる知略を併せ持つレジェンダリーセブンの一角はすでにシミラ卿処刑のニュースを聞きつけている。ご丁寧に配下の者に手紙を持たせてきたよ、さっそくな」
「早っ! え、早すぎないー?」
「エウリデ内の我々でさえ昨日今日に知ったことを、なぜカミナソールにいる"戦慄の冒険令嬢"がもっと以前から知ってたんでござる……?」
 
 リューゼがこの町に来たがっていること、またそのためにミシェルさんを先んじて来訪させていることも知っている僕達だけど、にしたって耳が早すぎるよー。
 どういう情報網を持っているんだろう? 予想以上に動きの早いレジェンダリーセブンの一角に、僕らは驚きを隠せないでいた。