大体半月ぶりくらいに入るギルド長室は、当たり前だけど特に代わり映えのない光景だ。
デスクにソファ、テーブル。棚がいくつかと、あと観葉植物の植木鉢が少し。それだけだね。
ただ、一見質素に見えるけどいずれの家具や植物も実は相当なお値打ちものらしいとは以前、リリーさんから聞かされている。
たとえば今、僕ら新世界旅団メンバーとリリーさんが座っているソファなんか、このギルド施設を建てるのよりもお金をかけてるらしいんだから驚きだよー。
現在のギルド長であるベルアニーさんの趣味というか性格に合わせた、シンプルな贅沢ってことなんだろうねー。
彼自身、パッと見普通の老人だけど実はまだまだ現役顔負けの動きができるということを考えると、この部屋こそがギルド長の本質を端的に示していると言えるのかもしれなかった。
「シミラ卿の件についてはこちらでも把握している。まったくエウリデめ、焦りすぎて最悪の一手を打ちおったよ」
そんなギルド長はデスクに座り、ため息混じりに机を指で突いていた。長い白髪をオールバックに流したダンディーな爺様だ。たしか今年で69歳とか言ってたかな。長生きー。
普段はまあまあ好々爺らしく笑みを浮かべている人だけど、今回ばかりは笑顔のかけらもありゃしない。難しげに顔をしかめて、シミラ卿の処刑についてギルドの掴んでいるところを教えてくれたよー。
「日取りは半月後、王都近郊の処刑場にて行われる。こちらもかなりのスピード裁決だな、よほどさっさとシミラ卿を殺したいと見える」
「それなら処刑なんて形式にせず暗殺とかでいいんじゃないのー? いや、時間をかけてもらうほうが僕らとしちゃありがたいけどー」
「単純に見せしめにしたいというのと、そこまでするとそれはそれで、諸外国やレジェンダリーセブンがつけ入る隙になるからだろう。罪無き元調査戦隊メンバーの騎士団長が暗殺されるなど、それこそ第三者からの干渉に対して大義名分を与えてしまうようなものだからな」
僕ら的には準備がはかどるわけなので、処刑なんてものはいくらでも遅らせてもらっても構わないのだけれど……エウリデ側も急いでいるはずなのに、即時即断で処刑に至らないのもなんだか不自然だ。
そう思って尋ねると、思っていたよりは難しい話が出てきたよー。
諸外国やレジェンダリーセブンによる介入を恐れて、無理筋な暗殺には移れなかった可能性がある。なーんて滅茶苦茶な話だよ。
藪をつついて蛇を出したら、それにつられて鬼までやってくるかもーみたいな。何も考えずに出る杭を叩けば良いとか思ってたのかなエウリデは。考えてたんだろうね、エウリデは。
少しの沈黙が流れた。迂闊極まるエウリデの上層部に対して、ギルド長も新世界旅団メンバーの面々も呆れた風に吐息を出していく。
そんな中、意を決したように強張った顔で、シアンさんが挙手してベルアニーさんへと告げた。
「すみませんが、我々新世界旅団はこうしたエウリデの動きに対し、ギルドと連携を取りつつ独自の行動を取りたく思います」
「先程、そちらのリリーくんから話のさわりは伺った。シミラ卿を奪還、解放した上でそちらのパーティーに属させる、か……元よりソウマの時点で特大の厄介であるものを、さらなる火種を抱え込むのかね」
「火種。まあ、火種と言えましょうか。今後レジェンダリーセブンという巨大な英傑達を誘い込むための、灯火になってもらいたいとは思っていますから」
しれっと厄介物扱いされちゃった。まあそうなるよねー。
僕が、冒険者"杭打ち"が所属しているって時点で新世界旅団はとんでもないトラブルの種なんだ。少なくともエウリデにおいては。
それを理解していてもなお受け入れてくれたシアンさんは、利害の一致とか過去の恩とかを抜きにしても相当な器になる可能性を秘めていると思うよー。
僕を利用してレジェンダリーセブンを集結させ、パーティーに勧誘しようって案を示した時にはリリーさんがそれに慌てて声を上げた。
「レジェンダリーセブンをも誘うつもり!? ソウマくんがいるなら乗らなくもないだろうけど、シアンさんあなた、まさか調査戦隊を復活させるつもりなの!?」
「まさか! 我々は新世界旅団、調査戦隊などではありません。我が団のメンバーたるソウマくんを訪ねてやってくる冒険者達を、その機会に勧誘するというだけの話です。そもそも私達の目的は迷宮のみならず、この世に遍くすべての未知を踏破することなのですから」
僕らがモニカ教授に向けたのとまったく同じ疑念、懸念。
やっぱりレジェンダリーセブンはじめ元調査戦隊メンバーを囲うってなったらまず、事実上の調査戦隊復活を想起しちゃうんだろうねー。
でもシアンさんは毅然として答えた。そもそも調査戦隊はこの辺の迷宮を攻略するためだけのもの。迷宮に限らないありとあらゆる未知をターゲットにしている新世界旅団は、スケールが違うんだってね。
うちの団長の考えたプロジェクト"ニューワールド・ブリゲイド"はすごいんだ! と、僕は彼女の隣でちょっぴりドヤ顔なんか浮かべちゃったりしていた。
デスクにソファ、テーブル。棚がいくつかと、あと観葉植物の植木鉢が少し。それだけだね。
ただ、一見質素に見えるけどいずれの家具や植物も実は相当なお値打ちものらしいとは以前、リリーさんから聞かされている。
たとえば今、僕ら新世界旅団メンバーとリリーさんが座っているソファなんか、このギルド施設を建てるのよりもお金をかけてるらしいんだから驚きだよー。
現在のギルド長であるベルアニーさんの趣味というか性格に合わせた、シンプルな贅沢ってことなんだろうねー。
彼自身、パッと見普通の老人だけど実はまだまだ現役顔負けの動きができるということを考えると、この部屋こそがギルド長の本質を端的に示していると言えるのかもしれなかった。
「シミラ卿の件についてはこちらでも把握している。まったくエウリデめ、焦りすぎて最悪の一手を打ちおったよ」
そんなギルド長はデスクに座り、ため息混じりに机を指で突いていた。長い白髪をオールバックに流したダンディーな爺様だ。たしか今年で69歳とか言ってたかな。長生きー。
普段はまあまあ好々爺らしく笑みを浮かべている人だけど、今回ばかりは笑顔のかけらもありゃしない。難しげに顔をしかめて、シミラ卿の処刑についてギルドの掴んでいるところを教えてくれたよー。
「日取りは半月後、王都近郊の処刑場にて行われる。こちらもかなりのスピード裁決だな、よほどさっさとシミラ卿を殺したいと見える」
「それなら処刑なんて形式にせず暗殺とかでいいんじゃないのー? いや、時間をかけてもらうほうが僕らとしちゃありがたいけどー」
「単純に見せしめにしたいというのと、そこまでするとそれはそれで、諸外国やレジェンダリーセブンがつけ入る隙になるからだろう。罪無き元調査戦隊メンバーの騎士団長が暗殺されるなど、それこそ第三者からの干渉に対して大義名分を与えてしまうようなものだからな」
僕ら的には準備がはかどるわけなので、処刑なんてものはいくらでも遅らせてもらっても構わないのだけれど……エウリデ側も急いでいるはずなのに、即時即断で処刑に至らないのもなんだか不自然だ。
そう思って尋ねると、思っていたよりは難しい話が出てきたよー。
諸外国やレジェンダリーセブンによる介入を恐れて、無理筋な暗殺には移れなかった可能性がある。なーんて滅茶苦茶な話だよ。
藪をつついて蛇を出したら、それにつられて鬼までやってくるかもーみたいな。何も考えずに出る杭を叩けば良いとか思ってたのかなエウリデは。考えてたんだろうね、エウリデは。
少しの沈黙が流れた。迂闊極まるエウリデの上層部に対して、ギルド長も新世界旅団メンバーの面々も呆れた風に吐息を出していく。
そんな中、意を決したように強張った顔で、シアンさんが挙手してベルアニーさんへと告げた。
「すみませんが、我々新世界旅団はこうしたエウリデの動きに対し、ギルドと連携を取りつつ独自の行動を取りたく思います」
「先程、そちらのリリーくんから話のさわりは伺った。シミラ卿を奪還、解放した上でそちらのパーティーに属させる、か……元よりソウマの時点で特大の厄介であるものを、さらなる火種を抱え込むのかね」
「火種。まあ、火種と言えましょうか。今後レジェンダリーセブンという巨大な英傑達を誘い込むための、灯火になってもらいたいとは思っていますから」
しれっと厄介物扱いされちゃった。まあそうなるよねー。
僕が、冒険者"杭打ち"が所属しているって時点で新世界旅団はとんでもないトラブルの種なんだ。少なくともエウリデにおいては。
それを理解していてもなお受け入れてくれたシアンさんは、利害の一致とか過去の恩とかを抜きにしても相当な器になる可能性を秘めていると思うよー。
僕を利用してレジェンダリーセブンを集結させ、パーティーに勧誘しようって案を示した時にはリリーさんがそれに慌てて声を上げた。
「レジェンダリーセブンをも誘うつもり!? ソウマくんがいるなら乗らなくもないだろうけど、シアンさんあなた、まさか調査戦隊を復活させるつもりなの!?」
「まさか! 我々は新世界旅団、調査戦隊などではありません。我が団のメンバーたるソウマくんを訪ねてやってくる冒険者達を、その機会に勧誘するというだけの話です。そもそも私達の目的は迷宮のみならず、この世に遍くすべての未知を踏破することなのですから」
僕らがモニカ教授に向けたのとまったく同じ疑念、懸念。
やっぱりレジェンダリーセブンはじめ元調査戦隊メンバーを囲うってなったらまず、事実上の調査戦隊復活を想起しちゃうんだろうねー。
でもシアンさんは毅然として答えた。そもそも調査戦隊はこの辺の迷宮を攻略するためだけのもの。迷宮に限らないありとあらゆる未知をターゲットにしている新世界旅団は、スケールが違うんだってね。
うちの団長の考えたプロジェクト"ニューワールド・ブリゲイド"はすごいんだ! と、僕は彼女の隣でちょっぴりドヤ顔なんか浮かべちゃったりしていた。