「反冒険者運動ってのが各地で本格的に広まったのはちょうど、調査戦隊が解散するかどうかってあたりでしたかねえ……迷宮攻略法が伝播し始めた時期に、火をつけたようにそうした運動も各地で盛んになっていきました」
「調査戦隊そのものより、迷宮攻略法のほうが直接的なトリガーだったとは私も聞いていますね」
襲撃者達、ひいてはガルシアさんのバックについているらしい連中。反冒険者活動団体っていうのかな、とにかく面倒というかややこしい連中みたいだ。
冒険者活動を妨害するのを生き甲斐にしているらしいへんてこなその人達が勢いづいたのは、今しがたのおじさん警部とシアンさんの会話から察するに調査戦隊が解散したのが切欠みたいだ。
あれをトリガーに調査戦隊が構築した、人類史に残る輝ける功績・迷宮攻略法が各地に伝播した。
そして冒険者ブームが始まり、平民でもスラム民でも冒険者として力をつけていけば、やがては超人的な能力を獲得できる時代が到来したんだ。
それを快く思えなかったのが、件の活動家連中というわけみたいだった。
「つまるところ人間がついにたどり着いた、超人へと至る具体的な技術体型の存在に反発したのが彼らであるという主張は、学者連中も研究の末に発表しています。今のところ反冒険者界隈こそ否定してますが公然の秘密扱いですよ」
「小難しいこと言うでござるなあ……よーするに嫉妬でござろ? あと危機感」
「危機感……?」
「冒険者っても大半が平民、あるいはスラム民もまあまあいるわけでござる。そんなのが既存の人間を超えた新たな力を手にする事態、貴族どもは断じて認めるわけにはいかんでござろ? 冒険者以外の平民を扇動して叩くくらいはするでござろうよ」
やれやれ、と両手を振ってサクラさんが語る。ことの本質はつまるところ、嫉妬と危機感……すなわち自分達を凌駕し、既得権益層を破壊しかねない迷宮攻略法の広まりへの恐怖。
反冒険者運動界隈、さらにはそれを裏から支援していると思しき貴族連中の本音はそこにあるんだと、彼女はそう推測してるみたいだ。
他ならぬ貴族への指摘に、自身もエーデルライト家の娘という立場であるシアンさんが俯き、無念そうに吐息を零す。
「人類が新たなステージに上がる機会を得たと言うならば、それを喜ぶべきがノブリス・オブリージュ。嫉妬だの危機感だの抱くなど、全く持って恥ずべき話です」
「ま、推測でござるがねー。もしかしたら全然別の理由から、冒険者に対して妨害工作を多数仕掛けているのやもしれぬでござるしー?」
慰めるようにシアンさんの背中を擦り、軽い調子で嘯くサクラさん。
冒険者でありつつも貴族としての矜持をも持ち合わせるシアンさんにとって、同類たる貴族の大半がくだらないコンプレックスからロマンへの挑戦を妨害して邪魔しにかかる、なんて到底許せないことなんだろうねー。
そしてそれを察してサクラさんも、あくまで推測だからとお茶を濁している。団長と副団長、やっぱり相性は良いコンビみたいだ。
お互いを支え合う関係って感じだし、何よりサクラさんがシアンさんを立てる気満々だ。ここって意外と大事で、ナンバー2がトップを立てない組織なんて割とすぐ瓦解するからねー。
新世界旅団はなかなか、長続きしそうだよー。
「ありがとう、サクラ……けれどおそらくは嫉妬や危機感といった感情が由来で正解ね。私もずいぶん、多くの貴族がそうした感情を冒険者達へ抱いているのを見聞きしてきたもの。間違いないわね、残念ながら」
「ま、シアンやエーデルライト家は当然違うでござろうけどねー」
「それはもちろん。ましてや貴族が、護るべき民を扇動して凶行に走らせているなどと論外よ。冒険者の性質上、何であれ誰であれ売られた喧嘩は買わずにはいられないというのはもはや周知のことでしょうに裏から手を引いて、まったく!」
「完全に活動家連中を走狗扱いにしてるのでござろうなあ。そして用済みになったら消す、と」
民衆を利用して冒険者への攻撃を行っている貴族がいることに憤慨するシアンさんへ、サクラさんは苦笑いを浮かべながらも結構えげつない予想を立てる。
まあ僕もそんなところだろうなーとは思うよー。貴族のみんながみんなってわけじゃないけど、ほとんどは民なんて家畜くらいにしか思っていないんだ。
扇動するだけ扇動して、そこそこのところで梯子を外して殺すくらいはするだろう。いわゆる蜥蜴の尻尾切りってやつだねー。
同じ発想に至ったのか、警部さんはどこか慄くように僕を見、言ってきたよー。
「いやはや、恐ろしいもんですなお貴族様ってのは。真正面から来ずに裏であれこれやらかしてくるから始末に負えない……杭打ちさんも3年前、さぞかし苦しまれたんでしょうなあ」
「……そうですね。それなりにひどい目は見てきましたよ」
ちょっとだけ苦笑い。僕の場合は結局のところ、最後に選択したのが僕自身ってのがあるからねー。
脅されていたとはいえ、最後の一線は自分の意志で超えたんだ。だから調査戦隊絡みについては、一方的な被害者ってわけでもないから反応しづらいよー。
「調査戦隊そのものより、迷宮攻略法のほうが直接的なトリガーだったとは私も聞いていますね」
襲撃者達、ひいてはガルシアさんのバックについているらしい連中。反冒険者活動団体っていうのかな、とにかく面倒というかややこしい連中みたいだ。
冒険者活動を妨害するのを生き甲斐にしているらしいへんてこなその人達が勢いづいたのは、今しがたのおじさん警部とシアンさんの会話から察するに調査戦隊が解散したのが切欠みたいだ。
あれをトリガーに調査戦隊が構築した、人類史に残る輝ける功績・迷宮攻略法が各地に伝播した。
そして冒険者ブームが始まり、平民でもスラム民でも冒険者として力をつけていけば、やがては超人的な能力を獲得できる時代が到来したんだ。
それを快く思えなかったのが、件の活動家連中というわけみたいだった。
「つまるところ人間がついにたどり着いた、超人へと至る具体的な技術体型の存在に反発したのが彼らであるという主張は、学者連中も研究の末に発表しています。今のところ反冒険者界隈こそ否定してますが公然の秘密扱いですよ」
「小難しいこと言うでござるなあ……よーするに嫉妬でござろ? あと危機感」
「危機感……?」
「冒険者っても大半が平民、あるいはスラム民もまあまあいるわけでござる。そんなのが既存の人間を超えた新たな力を手にする事態、貴族どもは断じて認めるわけにはいかんでござろ? 冒険者以外の平民を扇動して叩くくらいはするでござろうよ」
やれやれ、と両手を振ってサクラさんが語る。ことの本質はつまるところ、嫉妬と危機感……すなわち自分達を凌駕し、既得権益層を破壊しかねない迷宮攻略法の広まりへの恐怖。
反冒険者運動界隈、さらにはそれを裏から支援していると思しき貴族連中の本音はそこにあるんだと、彼女はそう推測してるみたいだ。
他ならぬ貴族への指摘に、自身もエーデルライト家の娘という立場であるシアンさんが俯き、無念そうに吐息を零す。
「人類が新たなステージに上がる機会を得たと言うならば、それを喜ぶべきがノブリス・オブリージュ。嫉妬だの危機感だの抱くなど、全く持って恥ずべき話です」
「ま、推測でござるがねー。もしかしたら全然別の理由から、冒険者に対して妨害工作を多数仕掛けているのやもしれぬでござるしー?」
慰めるようにシアンさんの背中を擦り、軽い調子で嘯くサクラさん。
冒険者でありつつも貴族としての矜持をも持ち合わせるシアンさんにとって、同類たる貴族の大半がくだらないコンプレックスからロマンへの挑戦を妨害して邪魔しにかかる、なんて到底許せないことなんだろうねー。
そしてそれを察してサクラさんも、あくまで推測だからとお茶を濁している。団長と副団長、やっぱり相性は良いコンビみたいだ。
お互いを支え合う関係って感じだし、何よりサクラさんがシアンさんを立てる気満々だ。ここって意外と大事で、ナンバー2がトップを立てない組織なんて割とすぐ瓦解するからねー。
新世界旅団はなかなか、長続きしそうだよー。
「ありがとう、サクラ……けれどおそらくは嫉妬や危機感といった感情が由来で正解ね。私もずいぶん、多くの貴族がそうした感情を冒険者達へ抱いているのを見聞きしてきたもの。間違いないわね、残念ながら」
「ま、シアンやエーデルライト家は当然違うでござろうけどねー」
「それはもちろん。ましてや貴族が、護るべき民を扇動して凶行に走らせているなどと論外よ。冒険者の性質上、何であれ誰であれ売られた喧嘩は買わずにはいられないというのはもはや周知のことでしょうに裏から手を引いて、まったく!」
「完全に活動家連中を走狗扱いにしてるのでござろうなあ。そして用済みになったら消す、と」
民衆を利用して冒険者への攻撃を行っている貴族がいることに憤慨するシアンさんへ、サクラさんは苦笑いを浮かべながらも結構えげつない予想を立てる。
まあ僕もそんなところだろうなーとは思うよー。貴族のみんながみんなってわけじゃないけど、ほとんどは民なんて家畜くらいにしか思っていないんだ。
扇動するだけ扇動して、そこそこのところで梯子を外して殺すくらいはするだろう。いわゆる蜥蜴の尻尾切りってやつだねー。
同じ発想に至ったのか、警部さんはどこか慄くように僕を見、言ってきたよー。
「いやはや、恐ろしいもんですなお貴族様ってのは。真正面から来ずに裏であれこれやらかしてくるから始末に負えない……杭打ちさんも3年前、さぞかし苦しまれたんでしょうなあ」
「……そうですね。それなりにひどい目は見てきましたよ」
ちょっとだけ苦笑い。僕の場合は結局のところ、最後に選択したのが僕自身ってのがあるからねー。
脅されていたとはいえ、最後の一線は自分の意志で超えたんだ。だから調査戦隊絡みについては、一方的な被害者ってわけでもないから反応しづらいよー。