おじさんとおばさんがまさかの土下座謝罪してくるのを、シアンさんがうまいこと執り成してくれてひとまず落ち着きを取り戻したメルルーク邸、リビング。
 一連のやり取りを黙って見ていたモニカ教授が、感心しきりに声を上げていた。
 
「なるほど、なるほど。シアン・フォン・エーデルライト嬢……新世界旅団の団長として、見事な立ち居振る舞いをされているね」
「……お褒めに預かり恐縮ですが、突然に何を?」
「そう怪訝そうにしないでくれたまえ、本心から褒めているのだから。さすがはソウマくんを引き入れることに成功しただけのことはある。見事なカリスマの発露だったよ」

 にやりと笑う教授は、心底から面白そうにしているよー。興味を持った対象によく見せている、ちょっと怪しい笑顔だねー。
 台詞と視線から見るにシアンさんを試す……というよりは見定めていたところはありそうだねー。僕が加入したパーティーのリーダーってことで、もしかしたらどんな人物なのか見たがっていたのかもしれない。

 一旦、席から離れていた僕やおじさんおばさん、シアンさんが再度着席する。それを見計らって肩をすくめた教授が、やれやれと言わんばかりに両手を振って解説し始めた。
 
「実を言うとね。愚兄の件は完全に想定外だったものの、いずれは新世界旅団の面々と面会するつもりではあったんだ」
「え。そうなんだ教授、なんか意外だねー」
「当然だろう? 調査戦隊解散以降、完全にソロで活動していた君が3年の沈黙を経て今、パーティーに再び加入したんだからな。君の武器を開発している私としても、当然気にはしていたともさ」

 僕が新世界旅団に入団したことは、少なくともすでにエウリデ中の冒険者達が知るところだ。
 元調査戦隊メンバーで解散の引き金を弾いて、以後ひたすらあんまり目立たずに3年間活動してきた。そんな冒険者"杭打ち"が何故か今頃になって新たなパーティーに所属するというのだ。

 ただでさえなんの関係もない冒険者達にとってセンセーショナルなそんな珍事件を、教授も当然耳に入れていたみたいだ。
 そして新世界旅団がどんなパーティーなのか、気になっていたってわけみたいだねー。
 
「調べてみれば新世界旅団はまだ、ギルドに登録さえしていない。エーデルライト家の御令嬢がリーダーと聞き、率直に言えば怪しく思ったところもある。ソウマくんが少し年上の先輩の色香に惑ったのではないか、とかね」
「ひ、ひどいよー!?」
「お言葉ですがソウマくんはそのようなものに引っかかる人ではありませんよ、教授」
「それは私も思うけど。ただここ最近の彼はどうにも美人に弱くなってきているからね。万一がないとも言い切れなかった」
「えぇ……?」
 
 流れ弾で最近の僕の素行に言及がきちゃったよー、シアンさんが庇ってくれたけどガッツリ女好きみたいに言われちゃった!
 たしかに解散後、何がきっかけだったか忘れたけど恋とかしてみたいなーって思ったのが始まりで、教授とかにもずいぶん青春したいーって溢しまくってた覚えはある。

 最初は唖然としつつも優しい目をしてくれた教授だったけど、あんまり毎度恋だ青春だ言うからだんだん、雑というかハイハイ分かった分かったって感じの反応になっていったのは忘れるに忘れられないよー。
 苦笑いして教授はさらに続けて言う。
 
「ソウマくんに人間性が発露することは大変喜ばしいことだが、その結果として騙されるようになったりするのでは、私としても面白くない話だからね。だから新世界旅団、とりわけリーダーたる君のことについては調べたいと思っていたわけさ」
「そう、でしたか。それでどうですか、教授? 私はお眼鏡に適いましたか?」
「結論から言えばね。最低ラインは余裕で超えていると判断しているよ」

 シアンさんを見て微笑む。教授に認められるってすごいよ、中々ないんだよこういうこと。
 そもそも評価しようとか見定めようだなんて、めったに言い出す人じゃないし。見定めるって時点である程度認められてるようなものだよー。
 
「カリスマがあり、また判断力もある。冷静だが情もあるようだし、かと言って甘くなりすぎない部分もあるように見える。エーデルライトの教育が良かったのかな」
「ありがとうございます。そう言っていただけるとありがたいです」
「とはいえそこで満足しないでほしいね。ソウマくんを手中に収めた以上、君の比較対象はあの"絆の英雄"レイア・アールバドだ。彼女に比べれば君はまだまだ素人同然なのだと、そこは自覚してほしい」

 いや別に、僕がいるからってなんでもレイアと比べる必要ないんじゃないかなーって思うんだけど。教授もなんだかんだレイアさんに懐いていたんだし、ついつい比べちゃうのかもしれないねー。
 でもそんなのは比べられるほうからすれば堪ったもんじゃない。特に新人冒険者のシアンさんにとっては無理難題もいいとこなんだ。

「ええ……とはいえ、いずれは勝つつもりでいますが。偉大な英雄の後塵を拝するだけの私に、ソウマくんもサクラもレリエもついてはきません」

 だってのに彼女はそんなことを言って、燃える瞳でカリスマを発動するんだからすごいよー!
 強気すぎて格好良くすら見えるシアンさんに、僕は感嘆の吐息を漏らすばかりだった。