ガルシアさんが何やらよからぬ組織のバックアップを受け、勢いづいてリンダ先輩を扇動したと主張するモニカ教授。
 僕と普通に仲が良いのは今しがたご覧に入れた通りで、教授の御両親もうんうんと頷いていらっしゃる。彼女が腹に一物抱えてるとかでなければ、まぁまぁ信頼できる程度には調査戦隊からのつきあいというのは重みがあると思うんだよねー。
 
「というわけで、ここはもうガルシアさん当人にお聞きしてみるほうが早いと思うんだけどー」
「そういう話の流れになるとは思ったよ。愚兄ならもうじき来るはずだ。例のお仲間達と昨日ずいぶん、飲み屋街に繰り出してははしゃいでいたみたいだからねえ……帰ってきたのは明け方だよ」
「あれま。ガルシアさんって僕が来る時大体どこかに出払ってるけど、もしかしてその人達と遊んでたりするのかなー」
「一応、私の助手としてフィールドワークをしている時もあるけれど、そればかりしているわけでも当然ないからね。女遊びこそしていないようだが酒と博打に精が出ているみたいだよ」

 心底から嘲笑って教授が暴露する。ガルシアさん、偶に出くわすとお酒臭かったからまあ呑んだくれてるんだろうなって思ってはいたけど、そんな裏があったのかー。
 調査戦隊にいた頃はそんな感じでもなかったけど、解散が引き金でそうなっちゃったのなら、間接的には僕が原因でそうなっちゃったとも言えるね。彼が僕を恨む理由の一つになってそうだよー。

「ガルシア……ソウマくんを嫌っているのは知っていたけれど、なんて馬鹿な真似を……」
「とてもいい年した大人のやることとも思えん! 本当に申しわけないソウマくん、新世界旅団のみなさん! 愚息に代わりこの通り、お詫びしたい!」
「へ──あわわわわ!? ちょ、ちょっと二人とも何を!?」

 と、メルルークのおじさんとおばさんが突然床に膝をつき、土下座をし始めた! 苦渋に満ちた表情で、僕らの前で小さく背中を縮こまらせている!
 何をしてるんだよー!? 一気に顔から血の気が引く。

 正直、ガルシアさんの件についてはちょっぴりだけ謝罪とかして欲しい気持ちはあったけど、それはさっき言葉で示してもらったし僕としてはもう、それで良しって感じだったんだ。
 だのにこんな、土下座だなんてやりすぎだよー! 慌てて僕は二人に駆け寄り、その肩を抱きしめて制止すべく声を張った。

「や、やめてくださいよー! ガルシアさんのことはガルシアさんの話であって、おじさんとおばさんは関係ないじゃないですか!」
「アレをああなったのは、ひとえに我々の教育が悪かったからだ! 他人の悪評を流して貶め、あまつさえ刺客を立てるなど許されることではない! ましてや年端もいかないソウマくんに……! すまない、本当にすまない!」
「ごめんねソウマくん、みなさん……! 本当に、本当に……!」
「お、おじさん、おばさん……!」
 
 悲痛な姿。息子の悪事に心を痛めた初老の夫婦の弱々しい謝罪に、僕のほうこそ申しわけなくて言葉が出ない。
 この人達は何も関係ないんだ。ガルシアさんだって少なくとも、調査戦隊にいた頃は僕が絡まなければまともな人だったんだから。
 モニカ教授を育て上げたことといい、おじさんとおばさんには親としてなんの責任もありはしないんだと僕は強く思う。
 
 そんな人達に、こんな風に思いつめさせて。何してるんだよガルシアさん。
 どうしたらいいか分からなくて慌てる。そんな僕に、シアンさんが後ろから肩を抱きしめてきた。同時にメルルーク夫妻に、ひどく穏やかな声色で話しかける。
 
「メルルークご夫妻様、どうかお顔をお上げください……お二人のそのお姿こそがすべてを物語っています」
「シアンさん……?」
「此度の件につきましてはガルシア・メルルークの仕業でありますが、逆に言えばそれだけです。モニカ教授もあなた方も普段よりソウマくんに良くしていただいているということ、門外漢たる私の目からもたしかなものと断言できます」
「うむ、でござるね。保身のためならず、心底からソウマ殿への申しわけなさゆえに謝罪なされたそのお姿……たしかな情義を感じる所作でござるよ」

 シアンさんもサクラさんも、土下座までしてみせたおじさんとおばさんに対して、何か咎める気なんてないみたいだった。
 というか元々からしてガルシアさん、あるいはモニカ教授だけが今回の件の重要人物なんだからこの二人には最初から何か文句をつけるつもりもなかったと思うんだ。もう成人していい年した大人のやること、親を引き合いに出すのもおかしいからね。

 カリスマを発揮してシアンさんが、メルルークご夫妻を暖かく見据える。
 威厳とさえ言える人間的な魅力を纏う彼女は、この場にいる全員によく聞こえるように声を上げた。新世界旅団団長として高らかに、宣言したのだ。
 
「本件に関して、我々がメルルークご夫妻を咎めることは決してないと明言いたします。それで良いですね、ソウマくん?」
「もちろんだよー! これはガルシアさんと僕の間の話だし、おじさんにもおばさんにもなんの罪だってありやしないよー!」
「ソウマくん……!」
「どうか気に病まないで……おじさん、おばさん。僕にとって二人は、すごく素敵で立派な人達だよ」
 
 凛とした宣告に、おじさんとおばさんが顔をあげて涙を零している。
 僕はそんな二人の両手を握って、気にしてないよーって気持ちが伝わるように優しく笑いかけた。
 はー、焦ったけどどうにかシアンさんが納めてくれて助かったよー!