「冒険者"杭打ち"を巡る悪質なデマの流布についてはソウマくん、君の予想通りに愚兄ことガルシア・メルルークの仕業だ。お詫びしようもない話だが、謝罪させてもらいたい。迷惑をかけてすまなかった」
「うちの子が本当に、ごめんなさい」
「申しわけない……」
着席して早々、メルルーク家の人達はそう言って謝罪してきた。開口一番に近い形で、しかも弁明の余地もないと自分達を断じている、完全に自分達にこそ非があるとするスタイルだねー。
喧嘩腰とまではいかないにせよ少しくらいは言いわけしてくるかなー? って思ってたからビックリだよ。隣で新世界旅団の面々も驚いているね。
でもそこでハイそうですか赦します、とは中々言える話でもない。団員に悪意を向けられた、責任者たる団長ならばなおのことだ。
シアンさんは凛とした目をモニカ教授に向けた。歳上で格上、正しく権威たるプロフェッサーを前に一歩も退かない姿勢をもって相対する。
「ひとまずは事情をお聞かせ願います。そちら様、メルルーク教授から我が新世界旅団の団員ソウマ・グンダリへの誹謗中傷があり、それを真に受けた一部の冒険者が迷宮内にて我々を襲撃してきたのです。問題なく撃退できたのは不幸中の幸いでしたが、場合によっては大惨事にも繋がりかねなかった」
「……迷宮内で仕掛けたのか。あの少女達、想像以上に小賢しく予想以上に浅はかで、そして想定以上に愚かだったようだね」
「どういった流れでそのようなことになったのか。ぜひともお聞かせ願いたい──この場にいもしない愚兄とやらにすべて押し付けて終わりにはできないものとお考えください」
「ふむ」
リンダ先輩達のことまで知ってるっぽい以上、間違いなくまったくの無関係ではない。仄めかす教授に、団長は鋭く問い掛けた。
放たれる威圧……エーデルライト家の貴族として、あるいは彼女自身の才覚として放たれる有無を言わさぬカリスマの空気に、教授の顔つきが少し変わった。
意外そうに目を見開いて、興味深くシアンさんを見ている。観察に近い、好奇心を強く秘めた視線だ。
隣で御両親が息を呑み、心配そうに娘を見ている。
それに構わず教授は、ことの仔細を語り始めた。
「説明させてもらうが、そもそも我が兄ガルシアはソウマくんに対して、嫉妬と嫌悪の感情を抱いている。ストレートに言えば嫌っているのだ。調査戦隊時代からずっとな」
「それはソウマくんから聞いていますが、だから今回のようなことを引き起こしたと?」
「端的に言えばね。しかし、実態はもう少し複雑だ。愚兄めは最近、ずいぶんと厄介な連中とつるむようになっていてね」
ふう、と疲れたように一息吐いて教授は手元の紅茶を飲んだ。この人、案外体力ないんだよねー。
根本的に不摂生な生活態度だから、ちょっと動くとすぐに息切れを起こすんだ。調査戦隊時代はフィールドワークもしてたからまあ人並には動けてたんだけど、解散してからは施設に篭って研究ばかりしてるからこうもなるか。
さておき、ガルシアさんの僕への感情は把握していたけれど、単にそれだけで今回の事件を引き起こしたわけでないみたいだ。
詳細を聞くと、教授は肩をすくめて皮肉げに続けた。
「エウリデの外から来て、国内のあちらこちらで反冒険者運動を展開している組織の者達と親しくしているようなのだよ。今回の件は、その組織の者から吹き込まれてやったことと言えようね」
「組織……? いえ、それより根拠はどこにあるのですか。それだけの説明では、ガルシア個人の暴走と解釈するのは容易ですが」
「そこは簡単だよ、エーデルライト殿。あの愚兄にね、ソウマくんと一人で敵対するような度胸はない」
鼻で笑う。ここにいる面々でない、ガルシアさんを嘲笑う仕草と言葉だ。
怖いよー……この人、ガルシアさんには特別辛辣なんだ。兄貴だからって気安さじゃない、本物の怒りと嫌悪があるんだよー。
ガルシアさんはガルシアさんで、よくできた妹に対して愛憎交じりの複雑な感情を持ってるみたいだし、なんだかドロドロ兄妹だねー。
そんな妹さんのほうが、ここにいない兄を小馬鹿にする台詞を続けて言った。
「断言するよ、あれは小物だ。身の程知らずにもレイアリーダー、もといレイアさんに一目惚れしたまではいいものの、彼女がソウマくんを溺愛していると気づくや否や彼のほうに嫌がらせしかしてこなかった臆病な男さ。そんな輩が今さら、新米冒険者にあらぬことを吹き込んでソウマくんに差し向ける? 天地がひっくり返ってもありはしないね、そんなこと」
「いやに辛辣にござるなあ。兄貴のことがそんなに嫌いでござるか?」
「まあね。私だってソウマくんとは親しくやっていきたいんだ、それを邪魔する身内など好きになれる理由がないさ」
「いえーい」
そう言ってウインクしてくる教授に、僕もピースサインして返す。。クールな美貌の割に茶目っ気があるから不思議なギャップがあるよー。
というかまあ、そういうことだね。僕も教授もお互い仲良しさんだから、やっぱり彼女自身が僕に嫌がらせする理由なんてないんだ。
つまりはガルシアさんが、誰かの後ろ盾を得て行為に及んだって線が濃いわけだね。
「うちの子が本当に、ごめんなさい」
「申しわけない……」
着席して早々、メルルーク家の人達はそう言って謝罪してきた。開口一番に近い形で、しかも弁明の余地もないと自分達を断じている、完全に自分達にこそ非があるとするスタイルだねー。
喧嘩腰とまではいかないにせよ少しくらいは言いわけしてくるかなー? って思ってたからビックリだよ。隣で新世界旅団の面々も驚いているね。
でもそこでハイそうですか赦します、とは中々言える話でもない。団員に悪意を向けられた、責任者たる団長ならばなおのことだ。
シアンさんは凛とした目をモニカ教授に向けた。歳上で格上、正しく権威たるプロフェッサーを前に一歩も退かない姿勢をもって相対する。
「ひとまずは事情をお聞かせ願います。そちら様、メルルーク教授から我が新世界旅団の団員ソウマ・グンダリへの誹謗中傷があり、それを真に受けた一部の冒険者が迷宮内にて我々を襲撃してきたのです。問題なく撃退できたのは不幸中の幸いでしたが、場合によっては大惨事にも繋がりかねなかった」
「……迷宮内で仕掛けたのか。あの少女達、想像以上に小賢しく予想以上に浅はかで、そして想定以上に愚かだったようだね」
「どういった流れでそのようなことになったのか。ぜひともお聞かせ願いたい──この場にいもしない愚兄とやらにすべて押し付けて終わりにはできないものとお考えください」
「ふむ」
リンダ先輩達のことまで知ってるっぽい以上、間違いなくまったくの無関係ではない。仄めかす教授に、団長は鋭く問い掛けた。
放たれる威圧……エーデルライト家の貴族として、あるいは彼女自身の才覚として放たれる有無を言わさぬカリスマの空気に、教授の顔つきが少し変わった。
意外そうに目を見開いて、興味深くシアンさんを見ている。観察に近い、好奇心を強く秘めた視線だ。
隣で御両親が息を呑み、心配そうに娘を見ている。
それに構わず教授は、ことの仔細を語り始めた。
「説明させてもらうが、そもそも我が兄ガルシアはソウマくんに対して、嫉妬と嫌悪の感情を抱いている。ストレートに言えば嫌っているのだ。調査戦隊時代からずっとな」
「それはソウマくんから聞いていますが、だから今回のようなことを引き起こしたと?」
「端的に言えばね。しかし、実態はもう少し複雑だ。愚兄めは最近、ずいぶんと厄介な連中とつるむようになっていてね」
ふう、と疲れたように一息吐いて教授は手元の紅茶を飲んだ。この人、案外体力ないんだよねー。
根本的に不摂生な生活態度だから、ちょっと動くとすぐに息切れを起こすんだ。調査戦隊時代はフィールドワークもしてたからまあ人並には動けてたんだけど、解散してからは施設に篭って研究ばかりしてるからこうもなるか。
さておき、ガルシアさんの僕への感情は把握していたけれど、単にそれだけで今回の事件を引き起こしたわけでないみたいだ。
詳細を聞くと、教授は肩をすくめて皮肉げに続けた。
「エウリデの外から来て、国内のあちらこちらで反冒険者運動を展開している組織の者達と親しくしているようなのだよ。今回の件は、その組織の者から吹き込まれてやったことと言えようね」
「組織……? いえ、それより根拠はどこにあるのですか。それだけの説明では、ガルシア個人の暴走と解釈するのは容易ですが」
「そこは簡単だよ、エーデルライト殿。あの愚兄にね、ソウマくんと一人で敵対するような度胸はない」
鼻で笑う。ここにいる面々でない、ガルシアさんを嘲笑う仕草と言葉だ。
怖いよー……この人、ガルシアさんには特別辛辣なんだ。兄貴だからって気安さじゃない、本物の怒りと嫌悪があるんだよー。
ガルシアさんはガルシアさんで、よくできた妹に対して愛憎交じりの複雑な感情を持ってるみたいだし、なんだかドロドロ兄妹だねー。
そんな妹さんのほうが、ここにいない兄を小馬鹿にする台詞を続けて言った。
「断言するよ、あれは小物だ。身の程知らずにもレイアリーダー、もといレイアさんに一目惚れしたまではいいものの、彼女がソウマくんを溺愛していると気づくや否や彼のほうに嫌がらせしかしてこなかった臆病な男さ。そんな輩が今さら、新米冒険者にあらぬことを吹き込んでソウマくんに差し向ける? 天地がひっくり返ってもありはしないね、そんなこと」
「いやに辛辣にござるなあ。兄貴のことがそんなに嫌いでござるか?」
「まあね。私だってソウマくんとは親しくやっていきたいんだ、それを邪魔する身内など好きになれる理由がないさ」
「いえーい」
そう言ってウインクしてくる教授に、僕もピースサインして返す。。クールな美貌の割に茶目っ気があるから不思議なギャップがあるよー。
というかまあ、そういうことだね。僕も教授もお互い仲良しさんだから、やっぱり彼女自身が僕に嫌がらせする理由なんてないんだ。
つまりはガルシアさんが、誰かの後ろ盾を得て行為に及んだって線が濃いわけだね。