「つまり……で、ござるよ? ソウマ殿は8歳頃まで迷宮の地下深くにて生まれ育ち、たった一人モンスターの血肉を喰らい啜って生き延びてきた」
「うん」
「そうしながらも地上を目指し、そうして辿り着いた外界にて孤児院に拾われ……2年間人としての教育を受け、大迷宮深層調査戦隊にスカウトされて冒険者"杭打ち"になったと。そういうことでござるね?」
「そーだよー」
丁寧に念押しをするサクラさんに軽い調子で頷く。話を前もって聞いていたレリエさんはともかく、彼女もシアンさんも深刻な顔をして僕の生い立ちについての説明を聞いていた。
新世界旅団メンバーとして深く関わっていく以上、さっさと話しておかないといけない類の話だったことは間違いない。渋くってカッコいい"杭打ち"ことソウマ・グンダリが、実は化物さながらな生まれ育ちをしていたってのを忌み嫌う人達だって、そりゃいるだろうしねー。
なんなら貴族のシアンさんとか、これ聞いたら僕との関係を見直すんじゃないかって正直不安だったけど……
新世界旅団の構築に現状、僕という存在は必要不可欠だから早々切り捨てたりはできないはずだ。そういう打算ももちろん込みで、でもやっぱり不安と恐怖をないまぜにした胸中のまま、すべてを明るみにしたわけだ。
気になる二人の反応は、それぞれ特徴的なものだった。
「…………私にはもはや、想像もつかないほどの境遇ですね。なんと言えば良いのかさえ分かりませんが、その、大変だったのですね、ソウマくん」
「下手すると生まれた時からモンスター相手に戦って勝って生き延びてきたんでござろー? そりゃ拙者やシミラ卿が束になっても敵わねーはずでござるよー! 戦闘歴15年、拙者どころかヒノモトのベテランさえ超えてるとかそんなの詐欺でござる、詐欺でござる!!」
「ひどいよー!?」
同情を示してくれるシアンさんは、やっぱり優しくて素敵な人だよー。好きー。
でもサクラさん、詐欺呼ばわりはやめてほしいよー。勝手にそっちが子供だって侮ってただけじゃないかー! プンスカしてるヒノモト美人のおねーさんに、僕だって若干プンスカだ。
ていうか、二人ともそんなに悪い印象は抱いてないんだね……レリエさんと同じく、どちらかというと僕に寄り添うような感じでいてくれている。
そのことが嬉しいながらも意外で、僕はついつい、問いかける。
「あ、あの……気持ち悪いとか思わないんだ? モンスターを食べて迷宮で育った、この僕のこと」
「馬鹿にしないでください。わざわざ進んでモンスターを喰らいに行くような偏食家ならともかく、あなたはどう考えてもそうせざるを得ないからそうしたのではないですか。他にどうしようもなかったあなたを、誰がなんの権限でどんな理由で非難できましょうか。非難する者こそ、私にとっては悍ましい生き物です」
ムッとしたようにシアンさんが反論してくる。僕に疑われているっぽいのを察して、心外だとばかりに言い放つ。
そこには嘘偽りない本音がありありと表に出ている。そうだよ、この人はそもそもスラム出身者に対しても分け隔てなく接してくれる女神様なんだ……僕の生まれ育ちにしたって、そんなことで今の僕を否定なんてするはずなかったんだ。
エーデルライト家の教育だろうか、こんなに尊敬できる貴族なんて初めてだよー。
感動して思わず目が潤む。そんな僕に、続けてサクラさんも言葉をかけてくれた。
「拙者的にはむしろ、尊敬の念すら湧くでござるなー。ヒノモトも生まれた時から戦士たれって気風でござるが、マジで生まれた時から戦士な環境なんてありえねーでござるしねー。ソウマ殿の強さの秘密というか、天才っぷりを再確認したってくらいでござるよ」
「実際はともかく、そんな気風のヒノモトも大概だと思うよー……」
生まれた時から戦士たれ、なんて恐ろしい気風もあったもんだよー。僕の場合はそうしないと死ぬからってだけなのに、国家の理念レベルで理性的にそういう思想を掲げてるヒノモトはやっぱり恐ろしいねー。
でも、サクラさんが僕を慰めてくれているのは十分に伝わるよ。ヒノモトの理念を結果的に体現したことへの敬意とかは微妙な反応をせざるを得ないけど、純粋な気遣いに対してはやはり、感動と感謝しか抱かない。
「ありがとうございます……本当にありがとう。僕を、人間だって言ってくれて」
「当たり前のことに感謝なんてしないでください。あなたは言うまでもなく人間で、冒険者で、そして私達のかけがえのない仲間です」
「人間、生まれて生きてりゃ死ぬまで何かしら抱えるもんでござる。拙者だってそれなりにいろいろ背負ってるんでござるから、つまりはお互い様でござるよ」
「ソウマくん……私にあなた達がいてくれるように、あなたにも私達がいるのよ。私達は新世界旅団、もうファミリーみたいなものだと思うわ」
心の底からありがとうを告げる僕を、仲間達が次々抱きしめたり撫でたりしてくれる。
調査戦隊解散後はもう二度と、手に入らないと思っていた温もりだ……本当にありがたいよー。
僕もそっと、感謝とともに彼女達を抱きしめ返した。
「うん」
「そうしながらも地上を目指し、そうして辿り着いた外界にて孤児院に拾われ……2年間人としての教育を受け、大迷宮深層調査戦隊にスカウトされて冒険者"杭打ち"になったと。そういうことでござるね?」
「そーだよー」
丁寧に念押しをするサクラさんに軽い調子で頷く。話を前もって聞いていたレリエさんはともかく、彼女もシアンさんも深刻な顔をして僕の生い立ちについての説明を聞いていた。
新世界旅団メンバーとして深く関わっていく以上、さっさと話しておかないといけない類の話だったことは間違いない。渋くってカッコいい"杭打ち"ことソウマ・グンダリが、実は化物さながらな生まれ育ちをしていたってのを忌み嫌う人達だって、そりゃいるだろうしねー。
なんなら貴族のシアンさんとか、これ聞いたら僕との関係を見直すんじゃないかって正直不安だったけど……
新世界旅団の構築に現状、僕という存在は必要不可欠だから早々切り捨てたりはできないはずだ。そういう打算ももちろん込みで、でもやっぱり不安と恐怖をないまぜにした胸中のまま、すべてを明るみにしたわけだ。
気になる二人の反応は、それぞれ特徴的なものだった。
「…………私にはもはや、想像もつかないほどの境遇ですね。なんと言えば良いのかさえ分かりませんが、その、大変だったのですね、ソウマくん」
「下手すると生まれた時からモンスター相手に戦って勝って生き延びてきたんでござろー? そりゃ拙者やシミラ卿が束になっても敵わねーはずでござるよー! 戦闘歴15年、拙者どころかヒノモトのベテランさえ超えてるとかそんなの詐欺でござる、詐欺でござる!!」
「ひどいよー!?」
同情を示してくれるシアンさんは、やっぱり優しくて素敵な人だよー。好きー。
でもサクラさん、詐欺呼ばわりはやめてほしいよー。勝手にそっちが子供だって侮ってただけじゃないかー! プンスカしてるヒノモト美人のおねーさんに、僕だって若干プンスカだ。
ていうか、二人ともそんなに悪い印象は抱いてないんだね……レリエさんと同じく、どちらかというと僕に寄り添うような感じでいてくれている。
そのことが嬉しいながらも意外で、僕はついつい、問いかける。
「あ、あの……気持ち悪いとか思わないんだ? モンスターを食べて迷宮で育った、この僕のこと」
「馬鹿にしないでください。わざわざ進んでモンスターを喰らいに行くような偏食家ならともかく、あなたはどう考えてもそうせざるを得ないからそうしたのではないですか。他にどうしようもなかったあなたを、誰がなんの権限でどんな理由で非難できましょうか。非難する者こそ、私にとっては悍ましい生き物です」
ムッとしたようにシアンさんが反論してくる。僕に疑われているっぽいのを察して、心外だとばかりに言い放つ。
そこには嘘偽りない本音がありありと表に出ている。そうだよ、この人はそもそもスラム出身者に対しても分け隔てなく接してくれる女神様なんだ……僕の生まれ育ちにしたって、そんなことで今の僕を否定なんてするはずなかったんだ。
エーデルライト家の教育だろうか、こんなに尊敬できる貴族なんて初めてだよー。
感動して思わず目が潤む。そんな僕に、続けてサクラさんも言葉をかけてくれた。
「拙者的にはむしろ、尊敬の念すら湧くでござるなー。ヒノモトも生まれた時から戦士たれって気風でござるが、マジで生まれた時から戦士な環境なんてありえねーでござるしねー。ソウマ殿の強さの秘密というか、天才っぷりを再確認したってくらいでござるよ」
「実際はともかく、そんな気風のヒノモトも大概だと思うよー……」
生まれた時から戦士たれ、なんて恐ろしい気風もあったもんだよー。僕の場合はそうしないと死ぬからってだけなのに、国家の理念レベルで理性的にそういう思想を掲げてるヒノモトはやっぱり恐ろしいねー。
でも、サクラさんが僕を慰めてくれているのは十分に伝わるよ。ヒノモトの理念を結果的に体現したことへの敬意とかは微妙な反応をせざるを得ないけど、純粋な気遣いに対してはやはり、感動と感謝しか抱かない。
「ありがとうございます……本当にありがとう。僕を、人間だって言ってくれて」
「当たり前のことに感謝なんてしないでください。あなたは言うまでもなく人間で、冒険者で、そして私達のかけがえのない仲間です」
「人間、生まれて生きてりゃ死ぬまで何かしら抱えるもんでござる。拙者だってそれなりにいろいろ背負ってるんでござるから、つまりはお互い様でござるよ」
「ソウマくん……私にあなた達がいてくれるように、あなたにも私達がいるのよ。私達は新世界旅団、もうファミリーみたいなものだと思うわ」
心の底からありがとうを告げる僕を、仲間達が次々抱きしめたり撫でたりしてくれる。
調査戦隊解散後はもう二度と、手に入らないと思っていた温もりだ……本当にありがたいよー。
僕もそっと、感謝とともに彼女達を抱きしめ返した。