僕にとっては割といつものお肉、でもレリエさんにとっては初めて味わうタイプの高級お肉。感動に震えつつ食べる彼女の姿に見とれつつ、僕も僕でバクバク食べていくよー。
 んー、やっぱり火の通ったお肉っておいしいなー! 元々レアっていうか生肉を食べて育ってきたからか、余計に火が通った温かい料理、特にお肉が好みな僕だよ。

「お野菜もよーく焼いて、食べてーと」
「野菜も、なんて新鮮で美味しいの……! 食用プラとはまるで違う! ああ、毎食感動するけど今回はひとしおよ。これが、過ちを犯す前の世界の食事だったのね……!!」
「…………」
 
 えぇ……? 感動してるのはいいんだけどレリエさん、すごい意味深なこと言ってる……
 過ちを犯す前の食事って、古代文明でもレリエさんのいた時代は過ちを犯してたってこと、だよねー? そしてそのせいで、お肉もお野菜も本物が食べられなくて、人工の代用品に頼ってたってことー?
 
 何それー超怖いよー! 代用品に依存しなきゃいけないくらいの過ちって何? 恐ろしいよー!
 レリエさんの今日までの反応で薄々思ってたけど、数万年前の超古代文明って何かおぞましいことに手を付けて結果、滅亡したんじゃないかって予感がひしひしとするよー。

 地下に埋まってる迷宮から古代文明の遺跡とか、出土品が出てくるから考古学者さん達は自然災害で滅んだんじゃ? って言ってるけど……もしかしたら学説が覆るかもしれないんだねー。

「…………うーん」
「? どうしたのソウマくん」
「あ、いえー」

 思わず悩んでしまって、美味しそうにお肉を頬張るレリエさんの邪魔をしちゃった。でも本当に悩ましいとこだよこれはー。
 っていうのも、貴族に引き渡すのは論外だけど新世界旅団立ち会いのもと、学者さん達を交えて当時のことを聞き出す必要はあるのかもしれないのかなーってことだ。

 迷宮そのものについてさえ未だに謎しかない現状、明らかに関わりがあるだろう古代文明について聞き取りを行うのは、冒険者界隈のみならず世界的に意義の大きいことではあると思うんだよねー。
 もちろんレリエさんやヤミくんヒカリちゃん、マーテルさんに一切危害が及ばないようにしないといけないし、ましてや欲の皮が突っ張ってる貴族やマッドな頭でっかちの学者どもになんて絶対に近づけさせないけどー……

 ただただ純粋に迷宮の謎、古代文明を追い求める僕ら冒険者や学者の人達には、必要なことなんじゃないかって思ったりしちゃうんだよねー。
 それがどんなに古代文明から来たこの人達にとってつらいことなのか分かってる上で、それでも考えてしまうんだ。
 正直に彼女に白状した上で、僕は頭を下げた。
 
「……ごめんなさい、レリエさん。なんだかんだ僕も利用することを考えちゃってる。本当にごめんなさい」
「え。いえその……そんなに気にする話じゃないわよ。少なくとも私はどこかのタイミングで、誰かしら信頼できる伝手を頼って私の持つすべてのことを打ち明けるつもりでいたんだもの」
「え……」
「ただ滅亡から免れるだけじゃないのよ、私達が時を超えたことの理由や意味って。あの時何が起きたのか、同じことを繰り返させないために何ができるか……少なくとも私はそれを伝える義務を負ってると自覚しているわ。だから、ソウマくんの提案は渡りに船なのよ」

 最低なことを考えていたのに、彼女はあっけらかんと笑い、許してくれる。あまつさえ自分自身、いずれそうするつもりだったって言ってくれるほどだ。
 古代文明からのメッセンジャー、少なくともレリエさんは自身をそう位置づけてるってことなんだね。かつて何かが起きて滅んだ世界から来た人として、彼女は自身の責任を果たすつもりでいるんだ。

 強い人だね……本当に強いよー。
 起きたら数万年前経ってて誰も頼るものがないのに、この人はそれでも自分にできることをちゃんと考えているんだ。
 それは紛れもない強さだと思う。戦闘力とかじゃなくて、この人は心が本当に強いんだ。尊敬するよー。

 僕の、敬意がこもった視線にレリエさんは照れたように笑った。
 次いで僕を見て、信頼の籠もった眼差しで言ってくる。

「っていうか、今まで本当に本腰入れて聞き取るつもりがなかったんだ……真剣に私達のことだけを考えてくれてるのね、ソウマくんは」
「それはそうだよ。古代文明人ってだけで貴族や国から追われかねない身寄りのない人達を、その上冒険者まで利用するなんてそんな惨いことってないし……考えつきはしても、実行に移す人なんてまずいないよ、冒険者ならさ」
「それが、自分達の目的に必要なことだとしても?」
「必要だとしても。そのために犠牲を生み出すやり方はしない」

 断言する。僕個人の意見じゃない、これは冒険者なら誰もが抱く思想だよ。
 誰かを犠牲にして、そんなことをして目的を果たして何が冒険なの? 危険を冒してでも辿り着きたいから冒険者になったのに、なんで他人を危険に晒したり陥れたりするの?

 そんなのは冒険者とは言わない。絶対に。
 レイアの言葉を引用して、僕はレリエさんを見て言った。

「僕らは冷たい風の中、それでもまっすぐ歩いて生きたいんだ。急ぐことはできなくても、一歩一歩踏みしめた足取りを誇りに抱いて進んで生きたいから。だから無理矢理情報を聞き出したりはしないよ」
「…………そう。本当に素敵な職業なのね、冒険者って」
「うん! 一生かけて取り組めるお仕事だよー!」
 
 ニッコリ笑う。応じて彼女も笑ってくれた。
 また一つお互いのことを知れた、素敵な時間だよー。