世界中に知れ渡ってたこないだの茶番と僕の新世界旅団加入の件。
 それを受けてわざわざはるか海の向こうのカミナソールから、リューゼがパーティーを率いてやってくるそうな。なんともはやご苦労様なことだねー。

 みんなソファに座ってミシェルさんのお話を聞く。リューゼについてはレリエさんはもちろん、ミホコさんも面識はないんだけれどかつて僕が在籍していた調査戦隊絡みのことだからねー。
 そうでなくとも冒険者なら調査戦隊の話は、たとえ関係なくても聞いて損はないって思う人が多いし。僕と関係のあるお二人からしたら、余計に好奇心を掻き立てられるのかもしれなかった。
 
「私の任務は杭打ちさん、および新世界旅団の様子を確認、観察と、リューゼリア様率いる"戦慄の群狼"本隊に報告することです。よもやこのような形で接触するとは思いませんでした……スラムの孤児院出身とは聞いておりましたので、不思議とは思いませんが」
「大分いろいろ喋ってくれてるねー、リューゼ……」
「飲みの席では特に、あなたのことを中心に話していますよ。自分と唯一同等以上に渡り合う化物で、なのにまるで少女のように可憐な見た目をしている方だ、と」
「……………………」

 笑顔で話すミシェルさんには悪いけど、リューゼのやつが今ここにいたら殴りかかってると思う。あいつ何を言ってくれてるんだよー!
 まず第一に、あいつと同等以上に渡り合えるのは僕だけじゃなかった。レイアは明確に格上だったし、少なくともミストルティンは互角だった。条件が整えばワカバ姉も十分戦えたと思う。

 だのになんで僕だけ指して化物呼ばわりするのさ! しかも少女みたいな見た目なのにって! 僕は男だよー!
 ……当時は今より幼かっただろうから、黙ってたら万一くらいにはそう見えたかもしれないけれど。それはそれとしてこれには抗議するよー!

「り、リューゼに報告する時についでに抗議しといてもらっていいですかー?」
「えっ……え、わ、私からですか!?」
「"相変わらず羽毛より軽い口だけどそんなんでよくパーティーリーダーとかできるね。勝てないからって人のこと化け物呼ばわりするのダサいと思うんだけどどう思う? っていうか戦慄の冒険令嬢ってそれ何、いつからお嬢様になったのウケるー"……って伝えておいてくださいー」
「無理ですよ!? リューゼリア様はその手の悪口、たとえジョークや軽口でも本気で受け取るんですから!!」
「知ってますー」
 
 口が軽いくせに軽口に本気でキレるんだからちょっとどうかしてるよねー。しかも3年経って直ってないとか、今もう20歳くらいでしょうに何をしてるんだかー。
 とはいえあんまりミシェルさんを困らせるのも本意じゃないし、僕はからから笑って言い繕う。
 
「まあまあ冗談ですよミシェルさん。どうせ来るなら直接会って文句つけますよー、リューゼがどのくらい強くなったかも気になりますしねー」
「あのリューゼリア様に、そこまで対等以上に言えるのもあなたくらいのものでしょうね、杭打ちさん……さすがは世界に3人しかいないとされる、迷宮攻略法タイトルホルダーに数えられるだけはあります」
「3人……一人増えたんですね。僕とレイア以外に誰が?」
 
 タイトルホルダー、すなわち迷宮攻略法をすべて習得した人が僕とレイアの他にもう一人生まれていたことに驚きつつ尋ねる。
 世界中に伝播して3年にもなるんだ、すべて習得してる人がいてもおかしくはないのかな。僕もレイアも2年未満でコンプリートしてるしね。
 レジェンダリーセブンの誰か、それこそリューゼだったりするのかなーって思ってたら、ミシェルさんはまるで全然知らない人の名前を挙げてきた。

「デルフト・ドットというSランク冒険者ですね。調査戦隊にこそ加入しませんでしたが、地元ラズグリーズ王国の迷宮を軒並み踏破したとされるトップクラスです」
「へえ……意外って言ったらそちらの方に失礼だけど、正直リューゼかミストルティン、そうでなくともレジェンダリーセブンの誰かが3人目になると思ってました」
「少なくともリューゼリア様は悔しがっていましたね。余所者に先を越されたと……以前にお会いした、レジェンダリーセブンの"鉄拳"こと、ガルドサキス・エルドナートさんも同様でした。御方は実際にデルフトさんに会って、実力伯仲の様相を呈したとか」
「ガルドサキスが? それはまた……」
 
 聞いたこともない名前の人だけど、レジェンダリーセブン随一の肉弾戦特化のガルドサキスと同等ってあたり相当な使い手だね、そのデルフトさんって方は。
 ただ、すべての迷宮攻略法を使いこなせてるってわけでもないみたいだ。僕やレイアよりかは幾分、習熟できてないと見るよ。

 本当にすべてを使いこなせているなら、たぶんタイトルホルダー同士じゃないと勝負にならないはずだしねー。
 習得したっていうのと実際に戦闘で活かせるかってのはまた、別問題だし。すべての攻略法に精通はしてるけど、それらを使いこなせてるわけでもないって段階なのかな。