僕とレリエさんに続いての来訪者。それも15年前にこの孤児院を巣立ったという、いうなれば僕の大先輩さんとのこと。
 ミホコさんとほぼ同じくらいの年代だろうねー、どんな人だろ、気になるー。なんとなしワクワクしながら職員さんとミホコさんのやり取りに耳を傾ける。
 
「ミシェル・レファルと名乗る女性の方です。冒険者証を確認しましたがB級で、はるばるカミナソールからお越しのようで」
「ミシェル……ミシェル! 聞いた名前ね、たしかに私の友達だったわ。というかカミナソールって、ずいぶん遠くから来たのねえ」
「なんでもパーティーの都合で単身エウリデに来られて、そのついでに当院に寄ったとのことです」
 
 なるほど、どうやら嘘や騙りの可能性も低いみたいだ。本当にこの孤児院を出た方のようだね、しかも院長と同学年。
 とはいえカミナソールか、本当に遠くから来たねー……はるか海を越えた先にある大陸の西端、内陸にある大国じゃないか。
 
 距離の関係上エウリデそのものとはトルア・クルアを通しての貿易をそこそこやってるに留まっている、あまり馴染みのないお国だったと記憶してるよー。
 そんなところでB級になるまで冒険者をして、それでパーティーの任務か何かでこっちに寄ったってわけかー。
 
「そういうわけなら応接間に案内してもらえる? 私もすぐに行くから」
「分かりました、そうしますね」
「にしてもミシェル、Bランクかー……頑張ったのね、あの子も」
 
 そうとなればと一も二もなく応対する旨を告げるミホコさんが、懐かしげに遠い目をしてつぶやく。
 15年前の旧友かあ、そりゃ懐かしいよねー。しかもBランクってなかなかだよ、少なくとも相当な努力がないと到達できない地点ではあるし。
 
 僕もちょっと、気になってきたなあ。新世界旅団のメンバーとして、カミナソールの現状とかも聞いてみたいし。
 もしよければ僕も面談に相席させてもらえないかな、厚かましいかなー? レリエさんをチラ見すると、彼女も知的好奇心を刺激されたのかちょっとワクワクしてるねー。
 こうなったらダメ元で相談してみよっか!
 
「ね、ミホコさん。その人に僕らも会ってみたいんだけど、面会に同席させてもらえたりしないかなー?」
「ソウマくんとレリエさんが? ええと、どうしたの?」
「いやー、カミナソールのこととか気になるし。それにBランクの冒険者さんだから、レリエさんにも見てもらいたいしー」
「お恥ずかしながら登録したてのFランなもので。一人でも多くの先輩から学ばせてほしいんですよ」

 息もピッタリに二人で頼み込む。せっかくの機会だ、逃す手はないよねー。
 キョトンとしているミホコさんだけど、特にレリエさんのためというところで得心したみたいだ。事情を知れば右も左も分からない新米冒険者の古代人だもの、少しでもためになりそうな機会があるなら経験させてあげたいって思うのが人の情ってやつだよねー。
 
「そういうことなら構わないわよ。ただ、向こう方が席を外してほしいと言うなら退席してもらわないとだけれど」
「そこはもちろん従うよ」
「私達もそこまで厚かましくありませんからね。ありがとうございます院長先生」
「いえいえ。それじゃあ行きましょうか、もうミシェルさんも面会室にいるでしょうし」
 
 快く受け入れていただいてみんなで部屋の外に出る。入れ違いに別の職員さんに子供達をおまかせするんだけど、みんな僕らがいなくなるのを寂しがっていたのが印象的だ。
 一人ずつ軽く頭を撫でて慰めながらも、後ろ髪を引かれる思いを振り切って面談室へ向かう。階段を降りて一階、真っ直ぐ伸びる通路の中央部の部屋だねー。
 歩きがてら、軽くレリエさんに説明する。
 
「Bランクってことは、世界各地の迷宮にもそこそこ潜れるだけの実力があるってことになるね。たぶん、迷宮攻略法も一つくらいは習得してるんじゃないかな」
「迷宮攻略法……迷宮を攻略するために体系化された戦闘技術の総称、よね。大迷宮深層調査戦隊が編纂したっていう」
「そだねー。初めて会った時にもいくつか見せたと思うよ、身体強化とか重力制御とか、あと威圧とかね。あーゆーの」
「人間業じゃないと思うんだけど、あれ普通に身につけられる技術なんだ……」
 
 冒険者のランクって実力とか依頼達成状況、人間性や社会性なんかを総合的に見て決められるものなんだけど、最近だと特に重要なのが迷宮攻略法の習得状況だったりする。
 一つでも身に付けてたら大きく査定にプラスされるからねー。Bランクともなれば当然何かしらは持っていてもおかしくないとされだしている今日このごろ、ミシェルさんって方もたぶん威圧なり身体強化なりくらいは持ってるんだろうね。

 すでに僕が使うのをいくつか見てるレリエさんはなるほどと頷きつつ、それじゃあと尋ねてきた。
 
「迷宮攻略法って全部でいくつあるの? ちなみにソウマくんはそのうちどれを使えるのかしら」
「今のところ7つだねー。僕はどれが使えるっていうか、全部使えるよー」
「……………………え? そ、それってめちゃくちゃすごいんじゃ」
「少なくとも3年前の時点では、僕とレイアしか迷宮攻略法をコンプリートした、通称"タイトルホルダー"はいなかったねー。今はどうか知らないけどー」
 
 調査戦隊でも別枠扱いだった僕と、リーダーとして誰よりも精進し続けていたレイア。この二人だけが当時、7つ編み出されて体系化された技能群をすべて習得できていたんだ。
 他のレジェンダリーセブンはそれぞれ得意な方面の技術に特化してたし、複数習得してたリューゼやミストルティンとかでも3つが限度ではあったしねー。

 3年経過した今ならもしかしたらタイトルホルダーも増えてるかもしれない。その辺も聞きたくてミシェルさんにエウリデの外のお話を聞きたいところもあるわけだね。